Padox [Trend Maker] 新しい韓流がやってくる!K-POP日本上陸作戦!
 

─ 池内さんは、この半年にわたってCS110°のEP055で「K-POP Girl」という番組をプロデュースされてきましたね。

  ええ。「K-POP Girl」は韓国ポップスの中でも女性アーティストにスポットを当てて紹介する番組でした。この4月からは「韓流熱風」とタイトルも改め、女性歌手に加えて男性歌手も取り上げるほか、ドラマや映画なども紹介する総合芸能番組にしていこうと思っています。ただ、僕が今やろうとしているのは、K-POPを流行らせようということですので、やはり音楽が中心にはなりますが。


─ 今日は、K-POPがどうして日本で流行りそうなのか、それを池内さんに是非お聞きしたいのですが、手始めに池内さんがどのようにしてK-POPに関心を抱いたのか、お話しいただけますか。

  仕事柄、10年ほど前から台湾や韓国の音楽番組を時々取り寄せてチェックはしていたけれど、正直なところ、イマイチかなと思っていました。日本の歌番組のマネも露骨に目につきましたしね(笑)。
  3年ほど前、コンサルティングの仕事でたまたま韓国に行くことがありました。もともと音楽が好きなもので、どこへ行ってもCDを買いあさるんですよ。そのときは20枚ぐらいジャケット買いして、聴いてみるとビックリ。これはヤバイと。いつの間にか日本を完全に追い越しているんです。全然、J-POPよりもレベル高いんですよ。


─ 具体的にどんなところがすごいんでしょうか?


  もちろん歌手の実力の高さですが、それは以前からわかっていたんです。歌唱力に関しては、日本の歌手より韓国の歌手のほうが全体的にうまい。しかし、そのときのショックというのは、サウンドプロダクションに関してでした。


─つまり、バックの音の作り込み方ですね。編曲、演奏、ミックスなどのトータルな部分……。

  そう。もともとK-POPもJ-POPもアメリカを中心とする洋楽の影響を受けながら発展してきた。J-POPはマネがものすごくうまくて、ヘタをすると単なるパクリで終わってしまう。まあ、言葉は悪いですがね。ところが、K-POPはパクリのレベルが高いだけでなく、それで終わらない部分がある。特にR&Bなどには、韓国独特の情緒感がある。
  それがよく表れるのが女性歌手で、これがまたレベルが非常に高い。「かわいくて歌うまい」という言い方を、僕はよくするんですけどね(笑)。
  3年前は、今をときめくチャン・ナラ、Danaもデビューしたばかり。歌の実力はまだこれからという部分はありました。しかし、音のつくりでは手をまったく抜いていない。高価なスピーカー、たとえばスーパーウーファーで鳴らしてみると、ふつうのステレオでは聴こえてこないようなところまで、音が作り込まれていて驚きました。

─とてもおもしろいお話ですね。知らないうちに、韓国の音楽業界全体のレベルが高くなっていた。

  かたやJ-POPはというと、そのころから袋小路に入っていた。それなら、K-POPを日本で流行らせてやろう。そうしたら、J-POPも活性化するのではないかと思ったんですね。

  池内仁さんが手がける
  K-POPプロジェクトのホームページ
  http://www.asayan.com/k-pop

─K-POPは日本で本当に火がつくのでしょうか。難しい点があるとすると?


  実際にテレビ業界とか音楽業界を回ってみると、全員が決まって「流行らないよ」と否定的なことを言われました。正直なところ、日本の音楽界には在日の歌手のイメージがあり、その過去にとらわれているんですね。歌謡界に在日の方が多いのは事実ですが、過去には在日であることをなるべく言わないようにして、売ってきたわけです。そこには韓国のイメージが、決してプラスに働かないとい
う考えがあったわけです。


─しかし、すでにBoAの大成功がありますね。

  確かにBoAでその雲行きが変わったのは事実です。全員がダメと思っていたところに突破口を開き、橋頭堡を築いた。一部の人たちは、韓国の音楽は行けるのではと言い始めた。これはとても大きい。そのごろから各事務所が本気になって、韓国で人材を探し始めました。


─BoAの出現には、さまざまなレベルで日本の中に韓国のよいイメージが浸透する時期にもあたっていたこともありますね。

  相乗効果がありましたね。でも、韓国の大衆文化が本当に受け入れられ始めたのは、昨年になってからでしょう。雰囲気が変わってきたと思います。それまでもさまざまなステップがあって、特に映画『シュリ』のショックは大きかった。最初、映画関係者などは見向きもしなかったけど、映画は見ればわかる。力がある作品ですし、韓国、朝鮮半島でしか出し得ないメッセージで、それも普遍性が あった。作品に力があるということが大事なんです。これは音楽でもまったくそうなんですが。
そして、2002年ワールドカップ、昨年のドラマ『冬のソナタ』でしょう? それから、キムチ、チゲなど、韓国料理ブームもある。これらはすべて日常的なものですよね。環境は変わってきています。

─とすると、第二のBoAが出現するかどうかが問題だということでしょうか。

  実際、BoAは特殊例だという意見も根強い。確かに彼女は韓国人ですが、最初はどこの国の歌手かわからないような形で売り出された。しかも、売れた曲は日本人がつくっている。やはり曲は日本人がつくらないとね、という意見は多いんです。


─そこのところですね。つまり、韓国の音楽、あるいはアーティストがそのまま日本で通用するのかどうか。つまり、日本人にとって、受け入れられやすい韓国と受け入れにくい韓国があるのかという問題です。

  一般論で言えば、韓国のニオイを残しつつ、日本でどうローカライズするかということですが、これはなかなか難しい。日本にないものだからおもしろいわけで、そこを無理に日本に合わせてしまうと、おもしろさが死んでしまう。もともと顔も姿も似ている日本人と韓国人ですし、似せようとすると、どこが違うのということになる。じゃあ、どうすればいいか。答えはもう、アーティストごとに
違うとしかいいようがない。
  K-POPを聴くと、アルパムのクオリティはとても高い。しかし、韓国にはシングル盤はなくて、アルバムの中からの活動曲という形でテレビやラジオで集中的にかかる曲がありますが、そうした曲を1曲だけ取り出して、日本の基準で考えてみると弱いんです。その点、BoAは日本の市場の中で、シングルをきっちりつくっているということも言える。


─確かに音楽だけでなく、トータルなイメージづくりということもありますね。

  ヘアメイクとか、フェイスメイクの技術は日本が格段に進んでいる。JeweryもSugarも日本で見るほうがナチュラルで圧倒的にかわいい(笑)。もちろん、それは日本人から見てですけどね。少なくともヴィジュアル面では日本でプロデュースし、音のほうでどう韓国らしさを残すかということでしょうね。


─もう一つ大きいのは韓国語の問題がありますね。

  日本でつくって日本語で歌えば売れるという、そんな甘いものではないでしょう。もちろん、日本語で歌って悪いというのではありませんが、僕がやりたいのは、韓国人アーティストを売るということよりも、まずK-POPを流行らせたいわけですから、韓国語は欠かせない。
  ローリング・ストーンズやレッド・ツェペリンが来日しても、誰も日本語歌えとは言わないでしょう? だったら、韓国語だけはだめということはないはずです。あちこちで言うたとえですが、ヘドバとタビデの「ナオミの夢」(1971年)なんて、ヘブライ語なのに日本で100万枚売ったんですよ(笑)。
  言語が違うと響きが違う。K-POPには妙に官能を刺激するところがありますが、これはやはり韓国語で歌わないとだめですね。

  Davi 『The Natural』
元Bijouのメンバーのソロプロジェクト。明るく伸びやかなボーカルが印象的
 

  イ・ヒョリ 『Stylish』
Fin.k.luのメンバー。このソロアルバムで大ブレーク。2003年は彼女の年だった

  MAYA 『Good Day and Good Bye』
ロック系歌手としてデビュー。テレビドラマで女優としても活躍する
  BOBO 『The Natural』
2003年発売のこのアルバムでバラード歌手としての地立を固めた

  ソヨン 『First Minor』
ポストBoAの最右 。17歳で作詞作曲もこなす。このデビューアルバムは東南アジアでも同時発売

  リネ 『22最』
日本の女性誌にもモデルとして登場。バラード歌手として2枚目のアルバム

─日本では音楽でも韓流が起きそうな気配ですし、一方、韓国では日本の音盤が解禁になって、静かなJ-POPブームが起きつつある。韓国内には、それを警戒する向きもある。日本も韓国も音楽業界はかなり深刻な不況ですね。

  売り方とか戦略面では日本が先に行っているかもしれませんが、音楽ですからね。やはり音楽に力がないといくら戦略を立ててもダメだと思います。いくら優秀なマーケティングでやってもね。
日本は飽和状態だと言われますが、そうではなく、むしろ市場は縮小している。MP3などの複製ソフトが普及しているからだという意見もありますが、実際に日本でPCでMP3を聴いているのは3%しかいないんです。今なぜ日本の音楽がだめかというと、単に飽きられているからということに尽きるんですよ。携帯にお金を使っているから、音楽にお金を使わないという説もありますが、冗談じゃない。飯代を削っても本当に欲しいレコードやCDは買うでしょう? 単純に他のものに出費を惜しんでも、欲しくなるような音楽をつくっていないということなんですよ。


─結局は、音楽の質ということですね。

  日本は癒しブームですが、癒されている場合じゃない。韓国の女性アーティストを見ると、挑発される感じがありますよね。癒されるより挑発されるほうがいい。
高きところから低きところへ水が流れるように、力を持った韓国の音楽は日本にも流れ込んできます。その落差の大きかった東南アジアではいち早く韓流が起きた。日本と韓国の落差はそこまで大きくはないですが、必ず流れは起きます。弱いところにどっと流れ込んでくる。


─池内さんはそこにK-POPの可能性を見ているわけですね

  トレンドのつくり手としては、やはり100%行けると思わないとね。可能性があるかどうかよりも、最後は流行らせるかどうかと思いますね。市場は間違いなく、あります。


─今日はどうもありがとうございました。

池内 仁(いけうち・じん)
メディアプロデューサーとしてさまざまな雑誌、テレビ番組の制作に関わる。テレビ東京「ASAYAN」ではコンセプトメーカーとして活躍。「K-POP Girl」につづいて、4月からは「韓流熱風」をプロデュース。マーケティングコンサルティングが専門。