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社説天声人語

天声人語

2008年04月02日(水曜日)付

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 米国で封切られたチャプリンの「殺人狂時代」(47年)は散々だった。宗教界や在郷軍人会が「倫理に反する」「共産党シンパだ」と映画館に圧力をかけたためだ。ほどなく赤狩りの嵐に覆われるこの国は、彼を「追放」する▼20年後、チャプリンは再び米国の地を踏んだ。アカデミー特別名誉賞の授賞式である。それは希代の映画人と、表現の自由を守れなかったハリウッドの謝罪にほかならない▼中国人監督のドキュメンタリー映画「靖国」を上映するはずだった五つの映画館が、中止を決めた。不測の事態を警戒しての結論だという。終戦記念日の参拝風景などを撮った作品は素材提供に近いが、国会議員向けの試写会が開かれ、政治色を帯びた▼右翼の抗議を怖がり、日教組の集会を拒んだホテルと同様、あるいはそれ以上に、メディアの一翼を担う映画館の萎縮(いしゅく)は深刻だ。あらゆる表現や言論、批判が出会うべき場が、近所迷惑になるからと自ら幕を下ろしては議論さえ始まらない▼面倒はいやだと縮こまる。ネットで匿名の中傷を浴びせる。そんな風潮を含めて、時代の空気は少しずつ危うくなっている。一人、また一人と嫌がらせに譲れば、筋を通す者に街宣車が群がるだろう。勇気ある者をどう支えるか。メディアの端くれとして、ここは踏ん張りどころと肝に銘じたい▼靖国の桜はきのうも満開だった。北風に花びらが舞うが、多くは揺れる枝にしがみついている。花見の名所の木々らしく、週末までは散るまいという意地なのか。風に負けてはならない時がある。

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