コンビニ受診控えませんか
母親らが運動、小児科守る
夜間、休日の急患減少
  休日や夜間に、軽症でも病院の救急外来に飛び込む「コンビニ受診」を控えましょう―。こう呼び掛けた兵庫県丹波市の母親たちの運動が、崩壊寸前の地域医療を救った。行政や医師任せでなく、住民が参加した活動は、医療再生の手掛かりになると医療関係者の注目を集めている。
 
▽存続の危機
 丹波市の県立柏原病院小児科は昨年春、危機を迎えていた。新臨床研修制度の影響で医師が減少していたところへ、近くの病院が産科から撤退したあおりで新生児の患者が急増。4月には小児科医2人のうち2人が院長になり、外来診療を制限せざるを得なくなった。
 「展望が持てない」。2人で小児科を受け持つ和久祥三医師(41)は、辞めようと決意していた。
 病院の窮状を知った同市の母親たちが「地域医療が崩壊してからでは遅い」と、4月に結成したのが「県立柏原病院の小児科を守る会」だ。
 守る会は、安易な時間外受診が一因と分析し「コンビニ感覚での病院受診を控えるようにしませんか」「こどもを守ろう、お医者さんを守ろう」と呼び掛けるビラを配布。医師増員を県に求める署名も、1カ月で約5万5000人分集めた。
 守る会の代表で、3児の母である丹生裕子さん(37)は「県の対応は期待外れだったが、市民に丹波の医療の現状を知ってもらえた。自分はどう行動すればいいか、考えてもらうきっかけになったのではないでしょうか」と言う。
 
▽不安解消に
 署名活動を通じ、育児に不慣れな母親には、どこまで子どもの様子を見ればいいのか、どの時点で救急外来に連れて行けば大丈夫か、などの知識が不足していることも痛感。病院に行く前に読んでもらおうとパンフレットを作った。
 「熱が出た」「吐いた」などのチェック項目をまとめ、「大至急救急車を呼ぶ」「かかりつけの医院を受診」「様子をみる」といった対応を示した。乳児健診や保育園などで配布し、新米ママの評判は上々という。
 活動の効果もあって、柏原病院小児科の救急外来受診者数は、昨年4―12月は410人と、前年同期の937人より大幅に減少。10月には神戸大などから医師の応援も受けられるようになり、激務は緩和された。
 今年4月からは会の活動に感銘を受けた医師2人が常勤に加わることになり、小児科存続のめどはついた。
 
▽広がる活動
 柏原病院は1月、会の活動に感謝し「日本全国の医療崩壊被害拡大を防ぐ可能性もある」と評価するメッセージをホームページに掲載。住民参加での医療再生の試みは、同様の問題を抱える地域の医療関係者や住民にも広がる。
 隣接する西脇市では1月に、市立病院の小児科を守る会が発足。医師の増員を求める署名活動を始め、小児科医を招いて受診の心得を学ぶなど活動を広げている。
 丹生さんは3月、病院再編が問題となっている千葉県東金市でのシンポジウムに招かれ、「医師と住民は、安心して暮らせる地域づくりのために協力していくパートナー」と訴えた。
 柏原病院小児科を守る会の活動をメールで医療関係者ら約3000人に知らせた東京大医科学研究所の上昌宏客員准教授は「こうした地道な活動が、地域医療の崩壊を食い止める参考になる。私の回りに、自分がへき地に行くと言い出す医師も出てきた。おのおのの持ち場で、できることをすればいい」と強調する。(共同通信 田中貴子) (2008/04/01)

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