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この情報の最も新しい更新日は4月1日(火)です。

新型 迷彩コート(外套)を開発

光、熱を遮断

  車両にも応用可

防衛技術研究所が快挙

  2012年にも実用化

(AF通信 4月1日 電子版)

[概要]防衛装備品の研究・開発を行っている防衛技術研究所(防衛省所轄)は、1日、画期的な戦闘用迷彩コート(外套)の開発に成功したと発表した。これはノートパソコンなどの表示ディスプレーに使われる液晶画面を極限に薄くし、0,2ミリの厚さにもかかわらず、新開発の炭素材繊維でコーティングした結果、折り曲げたり、たたんで収納できるほか、雨天や雪といった自然環境(生活防水)に十分耐える品質になった。これを戦闘服の上に着用するコート(外套)に加工したり、車のシートカーバーとして使用することも可能だ。

 発色のシステムは付属の小型パソコン(ベルト着用)で調色して、43万5000色のカラーを組み合わせで発光させる仕組み。腰に付けたパソコンを自動調色にセットすると、センサーが周囲の色に感応して、最も環境に近い色彩を発光することが出来る。兵士が移動していくと、自動的に調色が行われ、常に最適の色環境に変色することができる。またこのコートには赤外線を遮断するので、夜間などに敵の赤外線センサーで体温を探知されることはない。

 さらに迷彩コート(カバー)が人や車両を覆うことで、膨らみや凹みの質感を、だまし絵よのように光線の強弱と陰影でなくすことができた。防衛技術研究所の開発担当官は、「これで兵士の全身を覆うころで、透明人間のような効果を得ることが出来、車両なども敵に察知されることなく移動が可能です」と誇らしそうに語った。一着のコストは1万着程度生産すれば100万円以下という試算もあり、これからの戦争を画期的に変化させるものとして期待されている。

 すでに米国防総省の最先端兵器研究所から問い合わせがきているが、日本は武器輸出禁止3原則のため、米国であっても軍事製品は輸出できない(技術提供のみ)として、この迷彩コートの情報提供を拒んでいる。そのため、この迷彩コートが新たな日米防衛摩擦に発展する可能性があると指摘する防衛省高官もいる。

[コメント]この戦闘用・迷彩コートは、はたして開発可能かという問題ではなく、いつ、誰が、どの様に実用化できるかという点に関心が集まっていた。それを最初に実用化のめどを付けたのが日本ということになった。ここは防衛技術研究所の快挙を率直に喜びたい。

 まさに兵士の透明人間化である。開発官に聞いた話しでは、演習場などの野外では数十メートルまで近づいても気がつく者はいないそうである。まさにRMA(軍事革命)についで兵士のステルス革命が始まった。日本はこの軍事技術を決して外国に公開せず、不必要な軍拡競争を起こさない配慮が必要である。

 しかしあくまで日本は防衛的に使うべきで、専守防衛に沿った活用に限り、いやしくも海外に侵攻戦争を有利に戦うために使用してはいけない。また、開発関係者がこの軍事技術を中国などに漏洩した場合、懲役10年以下の「特別防衛秘密」に秘密指定するように提案する。

※ AF通信とは、April Fool の略です。すなわち 「4月バカ」。すでに皆さんも気がついたと思いますが、この件で防衛省などに問い合わせなど、なさらぬようにお願いします。来年は写真(偽造)を準備して大作を仕掛けます。ゆめゆめご油断なさらないように。

マフディ軍掃討失敗

イラク政権 窮地

治安悪化

  責任論高まる

(読売 3月31日 朝刊)

[概要]イラク南部バスラで、イスラム教シーア派最強硬指導者ムクタダ・サドル師の民兵組織「マフディ軍」の掃討を目指し、治安部隊を指揮するマリキ首相が窮地に立たされている。マフディ軍の反撃が激しく、改善した治安を再び悪化させたとの責任論が高まっているからだ。

 サドル師派(30議席)は2年前、国民議会(275議席)でマリキ氏(ダアワ党 25議席)を首相候補に推してマリキ政権を樹立させた。だが、米国に押されてマフディ軍の掃討を進めると、サドル師派は昨年9月に与党を離脱し、マリキ政権にとって厄介者に変質した。

 代わってマリキ氏が頼ったのは、シーア派最大の36議席をもつ「イラク・イスラム最高評議会」(SIIC)で、指導者はサドル師と中南部の覇権をめぐって争う宿敵のアブドルアジズ・ハキム師。今回のマフディ軍掃討は10月に地方議会選を控えて、サドル派の弱体を進めたいハキム師の教唆があった可能性は十分に考えられる。

 しかしマリキ首相の進める掃討作戦で、マフディ軍が激しく反発して、死者者数は民間人も含めて300人以上(30日現在)に達した。イラク治安部隊が単独で行う作戦成功のもくろみが外れ、マリキ首相は米英軍に支援をあおいでいる。サドル師はマフディ軍に戦闘停止を呼びかけたが実効性は不明。作戦の出口が見えない中で、マリキ首相の立場が苦しくなるばかりだ。

[コメント]マリキ首相が始めた今回の掃討作戦は、マフディ軍の武装解除が最終目的(4月8日が期限)だった。しかしすでにサドル師の停戦呼びかけで、マフディ軍が治安部隊に武器を差し出す可能性はない。逆に、サドル師は「違法な摘発や逮捕の禁止」や治安部隊が拘束している「マフディ軍民兵の釈放(恩赦)」を要求している。(毎日新聞 3月31日付け 朝刊) すなわちマリキ首相のマフディ軍掃討作戦は明らかに失敗した。今回の掃討作戦では米軍がマリキ首相の要請で、バスラ近郊でマフディ軍の拠点に空爆を行っている。この点で、マリキ首相の評価(シーア派内)が一気に悪化する可能性が極めて高い。

 考えてみれば、イラク治安部隊にはシーア派のサドル師を支持する兵士や警官も多い。また米軍がイラクから撤退する日もそれほど遠くないことから、双方が本気で撃ち合っている者はいない可能性が高い。だから市民の側に犠牲者が多くなる。偽の戦闘に巻き込まれるためだ。

 ベトナム戦争(初期・前期))でもそのような見せかけの戦闘は珍しくなかった聞いた。後方から撃つ米軍の砲弾はベトコンの潜む村に着弾するのだが、最前線で撃ち合うベトコンと政府軍兵士との間に、奇妙な連携が生まれて互いに人がいない方向に撃つのである。その偽の戦闘の後には、戦闘に巻き込まれて死んだ農民の死体がベトコンとしてカウントされたという。

 ベトナムと違ってイラクでは、さらに複雑な民族や宗派の対立構造があり、白か黒かのアメリカ思考では問題解決をより困難にするだけである。

 今回、さらにイランはイラクでの影響力を強めたことになる。SIICのハキム師はイランと連携しており、イランはハキム師とサドル師を対立させ、競わせることによってイランに対して強力な勢力になることを防いでいる。江戸幕府が外様大名に多大な出費を強いて弱体化させる参勤交代のようなものである。

MRJきょう決定

三菱重工 

 国産ジェット機事業化

全日空25機購入決定

(読売 3月28日 朝刊)

[概要]三菱重工業は27日、官民で共同開発している国際ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」を事業化する方針を決めた。28日に取締役会を開いて正式に決め、2013年の就航を目指す。1973年に生産中止に追いこまれた小型プロペラ機「YS−11」以来、40年振りに国産の旅客機が復活することになる。

 MRJは最新型の低燃費エンジンと、炭素繊維材を使うことで、他社の小型ジェット機よりも燃費が約3割良くなるという。全日本空輸(ANA)が27日に25機(うち10機は仮注文)の購入を決め、他社の航空会社も購入に前向きな姿勢であることから事業化を決めた。

 新会社の資本金は約1000億円で、三菱重工が約600億円、トヨタ自動車、三菱商事が100億円ずつ、三井物産、住友商事が50億円ずつを出費する方向で調整している。新会社の社長には1月末まで三菱重工の航空宇宙事業本部長を務めた戸田信雄取締役が就任する見通し。

[コメント]空自の次期輸送機(CX)が機体強度の不足から、新たに改造(改善)が必要という報道で心配していた。同時に、今後は専門性の高い軍事技術よりも、付加価値の広い民間技術が最先端技術をけん引する時代が来ると思っていた。だから、このMRJには期待が大である。ぜひとも海外でも受注を伸ばして世界でトップの小型ジェット旅客機の座を獲得して欲しい。騒音(静粛性)、燃費、安全性(操縦性能)、乗り心地など、まさに世界のトップを狙える新型旅客機になれると信じている。残りはきめ細かいアフターサービスだが、こればかりは長年の実績の積み重ねが必要だ。

 もしMRJの新会社が株式を公開すれば、今ある”へそくり”の15万円(来年のホノルルマラソンの500円玉貯金箱は除く)を投資してもいい。これは儲けたいというよりか、MRJに期待しているという意味の投資だ。

 私は初めてYS−11に乗った時の感動を今も忘れていない。24歳の時に、東京から広島に帰るときに初めてYS−11に乗った。無論、私にとっては初めて飛行機搭乗であった。その日は、天気は快晴で、窓から見る瀬戸内海の小島がきれいだった。広島空港に着陸して、空港ターミナルに向かって歩く時に、何度も振り返ってYS−11を見た思い出がある。今、思い出しても楽しくなる。

 日本は兵器の輸出を禁じてきたことが、これからは民生品(航空機)の国際競争で長所に転換する時代をむかえた。日本の未来のためにも是非ともMRJには大成功して欲しい。

 昨日、JR電車の中吊り広告で、三菱重工の航空宇宙事業部が、キャリア社員募集の求人広告を出しているのを見たが、この新事業のための募集だったのか。こんな夢のある仕事で働ける人がうらやましい。これは、間違いなくプロジェクトXである。

「防衛秘密」 読売記者に漏洩

1等空佐を書類送検

 

「知る権利」制約も

秘密指定乱用の恐れ

(産経 3月27日 朝刊)

[概要]南シナ海で05年5月に、中国海軍のディーゼル潜水艦(明級)が航行中に火災とみられる事故を起こし、航行不能になった情報を読売新聞の記者に情報を漏らしたとして、防衛省情報本部の電波部電波第5課長だった一等空佐(50)が東京地検に書類送検された。

 01年に改正された自衛隊法・防衛秘密漏洩罪で、自衛官が立件されたのは初めて。同1佐は警務隊の調べで、記者への情報提供を認めている。読売新聞は同月31日付け朝刊で、潜水艦の艦番号などで「日米両国の防衛筋が確認した」と報じた。こうした情報は防衛相が「特に秘匿が必要」として指定する「防衛秘密」だった。

 情報漏洩罪だと1年以下の懲役または3万以下の罰金が適応されるが、01年の法改正で特に秘匿性が高い「防衛秘密」の漏洩には5年以下の懲役が新設され、隊員以外にも秘密に触れる他の国家公務員や民間業者まで対象を拡大した。今回、警務隊は記者の教唆罪は成立しないとみて、記者の事情聴取はせずに立件を見送った。読売新聞東京本社広報部は、「取材は適切で捜査の行方にかかわらず、いかなる場合も取材源を秘匿してことにかわりはない」とコメントを公表した。

 自衛官が取材記者に情報提供したとして、この自衛官が自衛隊法違反(防衛秘密漏洩)容疑で書類送検されたことは、取材先を萎縮(いしゅく)させる一方で、「秘」指定を理由に情報統制がまかり通る危険性をはらんでいる。国民の「知る権利」や「報道の自由」の制約に直結する問題である。

 安全保障や国防を担う防衛省・自衛隊の取材には、常に「知る権利」と「防衛秘密保全の必要性」がぶつかり合う。しかし今回の中国潜水艦事故は、付近を航行する一般船舶への注意喚起になり、報じる公益性はある。装甲車の防弾板の厚さなどの「秘」は、隊員の生死に関わり、それを報じることに公益性はないことと逆である。

 今回、問題になったのは、現場となった海域や潜水艦に付けられた艦番号などを「日米両国の防衛筋が確認した」という表現に、米軍当局が敏感に反応した。情報が主に米軍から得たものだったことが浮かび上がり、米側から強い不快感が示され、防衛省・警務隊が米側を意識して捜査を進めた格好だ。

 

[コメント]この漏洩事件が最初に報じられた時に書いたが、この「中国潜水艦・火災で浮上」情報は大して秘匿性が高いものではない。また日米の軍事関係を脅かすほどの秘密漏洩ではない。それは後から意図的に付け加えられた言い訳である。本当の問題は、この一空佐が防衛省内局(背広組)の怒りに触れたことである。内局幹部としては「たかが一空佐が、全国紙の一面トップにくるような情報を漏らした」ことに対する怒りである。この潜水艦情報の収集や分析に米軍が深く関与しているとはいい加減な話しなのである。

 ごくごく常識的に考えると、この経緯は、防衛省情報本部の電波部(九州方面の無線傍受施設)が、故障で浮上した潜水艦から発信された”救援電波”を受信した。その方位を測定して鹿児島の鹿屋基地から海自のP3C哨戒機が、東シナで特定された電波発信海域に向かった。そのP3C機が撮影した潜水艦の写真(赤外線撮影を含む)で、中国軍の明級であることや、艦番号が判明し、事故原因は火災(艦内の高温源に感応)と分析されたのである。アメリカ軍の関与(協力)がなくとも、この程度の情報収集能力を自衛隊は保有している。

 米軍がこの情報漏洩で文句を言ってくる筋合いはない。防衛省内局の幹部は1佐が記者に話したことを「制服の暴走」と怒り、警務隊に厳重な捜査と処罰を命じたと推測できる。私は守屋元事務次官(容疑者)あたりが内局の怒りの震源地と推測する。内局幹部の怒りは、この潜水艦情報を知り合いのベテラン記者にリークすることで、好意的な対応をしてもらう意図が潰されたからだ。

 結局、警務隊が東京地検に書類送検しても、公開裁判では情報本部の電波情報収集やP3Cの監視パトロールや写真解析の説明はできないから、このまま不起訴になると思う。みすみす不起訴になるような捜査と処罰を命じた内局が、格好を着けるために、米軍が怒っているとか、あれは米軍からの情報だったと付け足しているだけである。(ただしこの記事を書いた読売新聞の記者が「日米両国の防衛筋が確認した」という過剰(ショッキング)な演出をしなかった場合である)

 米軍が本当に怒っているとはどうしても思えない。この情報の質があまりにも低すぎるからだ。むしろ米軍としては”中国潜水艦の火災事故”を公表して欲しいと思うだろう。中国海軍の潜水艦の技術水準(極めて低い)を明らかにできるチャンスである。昔、アメリカは、冷戦時代に旧ソ連軍の潜水艦事故を積極的に報じていた。カリブ海で火災事故を起こして浮上したソ連の潜水艦を、米海軍の艦船が取り囲み、頼まれもしないのに救助活動と称して、その潜水艦のえい航を見物して、ソ連海軍にとって恥ずかしい映像を世界中に報じていた。

 以上の様な事情(現状)を知って、この情報漏洩事件を考えないと、国民はとんでも無い情報操作で事実を隠されることになる。

連載特集  覇権漂流 A

きしむテロ戦線

アフガン支援に亀裂

アフガン南部・東部 治安悪化

タリバン復権

   米戦略狂い

(毎日 3月26日 朝刊)

[概要]アフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)が岐路に直面している。治安維持と復興支援が主任務だったものが、タリバンの復活攻勢で対テロ戦争の前面に立たされているためだ。開戦から5年目の米国には余力がなく、他国の部隊は増派などの見直しを拒否して、ISAFの主体であるNATO内の亀裂も広がっている。

 タリバンは最近、ネットで「今後、路上爆弾と自爆攻撃の2本柱で戦う」と宣言した。過去1ヶ月、アフガンでは路上爆弾でISAF兵士12名が死亡。カブールでは13日に米軍への自爆攻撃で市民8人が死亡した。自爆攻撃には細心の注意を払うISAFだが、パトロールする装甲車には路肩爆弾を無線操作で作動させるのを防ぐため、周囲に妨害電波を送る開発回避装置がある。また装甲車に近寄る車には威嚇発砲も許されている。

 ISAFの主任務は治安維持の他、軍や警察の訓練など人道支援で、カブールの学校や病院なども建設している。しかしカブールの治安は最近悪化し、タリバンとの戦いに直面している。ライス国務長官は2月、アフガン戦争を「これは反乱鎮圧の戦いだ」と訴えた。アフガンで失敗すれば、今後数十年は続く対テロ戦争の敗北になり、米国は安全保障上深刻な事態が生じることになる。

 カブールから100キロ南のロンガール州の州都プルイアラムでは人々がおびえていた。町は2年前から治安が悪化し、昨年はロケット弾の砲撃を受けた。「政府軍は夜は動かない。夜はタリバンが支配している。夜は怖くて出歩けない」と雑貨商(36)が語る。町に電気はなく、炊事はマキが頼りとだという。ロンガール州南部のタリバンの出身母体パシュトゥン人の材木商(34)は、「若者に失業が続けば、多くがタリバンにつく。米軍は空爆でアフガン人を殺している。このままでは銃を取る人間が増える」と話す。

 国連の調査では、昨年、アフガンでテロによる死者が8000人を超えた。調査ではアフガンで比較的安定している北部と、武装勢力が連携して攻撃を仕掛ける南部・東部に分かれるという。カブールから北100キロのパルワン州の州都チャリカでは、タリバン時代に抑圧されたタジク人が多く住む。そこで18人に聞くと、全員が「治安は全く問題ない。深夜も平気で外出できる」と話す。町では夜も電気店が開き、ベール姿の女性が新製品に見入る。

 アフガン北部に駐留するドイツは、米国などの要請にもかかわらず、危険な南部への派遣を拒んでいる。「ISAFには死を辞さない国と、それ以外の国がある。各国は負担を分担すべきだ」とゲーツ米国防長官が2月に発言した。これは明らかにドイツを批判した言葉だ。

 一方、アフガン南部に駐留する英、カナダ、オランダ各国はタリバンとの戦闘で兵士の死傷が続いている。「復興のために来たのに、任務はタリバンとの戦いばかりだった」と南部から帰還したオランダ軍兵士(28)が振り返る。カナダはNATO各国に南部への増派を求め、要請が認められない場合は撤退を示唆している。

 「ISAFには統一された戦略や行動基準がなく、今、やっと戦略を練っている。順序が逆だ」とブリュッセルのNATO本部で高官が内情を吐露した。その言葉通り、NATOは4月の首脳会議でアフガン戦略を練り直す。米国とはイラク戦争をめぐって亀裂が入ったNATO諸国だが、同盟関係を再構築できるのかは、情勢悪化が続くアフガンで対テロ戦争の真価がが問われている。

[コメント]最近、上記の”概要”で、記事の引用文量が多くなってきた。今までは出来るだけ記事を簡素に要約して、重要情報だけをまとめるようにしていた。しかし最近は記事を書いた記者の気持ちが伝わるように書き始めて文量が増えた。

 概要をまとめる時間がかかるし、読者の方が読むのも時間がかかるので、もっと短くしようとするが中々できない。もう十分に軍事問題を理解できる人にとっては、ちょっと丁寧すぎる文章になっているかもしれない。しかし軍事に関心を持ち始めた人には理解しやすい文章になっていると思う。

 さてこの記事だが、アフガンで自爆テロを仕掛けているのは、アルカイダなど外国人テロリストの勢力が主体になっている。そして路上爆弾(IED)を仕掛けているのは、イランの革命防衛隊から技術援助(IED爆弾改造や作動要領)を受けているタリバン系が主体になっている。すなわちアフガンではタリバン系とアルカイダ系の住み分け(任務分担)が出来ていると推測できる。

 この辺りの認識が4月のNATO首脳会談で最重要な課題になると思う。むろんNATOの首脳会談ではイランを名指しで非難できないが、だれの頭にもイランへの不信が高まっている。NATO関係者がイランへの制裁(核開発問題で)に熱心なのは、イラクやアフガン情勢を好転さすことができないイライラも強く関係している。

 さて4月のNATO首脳会談でどのようにアフガン戦略の見直しが行われるか。特にドイツとカナダがどの戦略変更を主張するのか、大いに関心がある。すでに政権が代わったイギリス軍とオーストラリア軍の増派はできない。日本は昨年の今頃には、安倍首相(当時)と麻生外相(当時)のコンビが、自衛隊をISAFに派遣することをほぼ決定いていたが、今の福田首相にはそのような強い”野心”はないようだ。また、今朝の新聞各紙が報じているが、福田首相の”自衛隊海外派遣恒久法案”の今国会提出など笑止である。これは”KY”の最たるものである。

 もうブッシュ大統領やライス国務長官やゲーツ国防長官がいくら恫喝しても、ドイツがISAF派遣部隊をアフガン南部に展開させることは考えられない。するとカナダが窮地に立たされる。カナダ国内からカナダ軍のアフガン撤退を求める声が高まることが考えられる。

 結局、4月のNATO首脳会談も年末の米大統領選の結果待ちということで終わりそうだ。いくら遅れたアフガンの戦略見直しでも動けないのだ。これはブッシュ政権の戦争がすでに敗北した証明でもある。

チベット騒乱 

五輪採火式妨害

 中国TV局、乱入、放映せず

聖火リレー「火種」に

通過先から懸念も

中国公安省 初の会見

 「騒乱は暴力犯罪」

(朝日 3月25日 朝刊)

[概要]北京オリンピックの聖火採火式が、24日、ギリシアの古代オリンピック遺跡で行われ、北京に向かう聖火リレーが始まった。しかし華々しいスタートになるはずの採火式は、中国のチベット政策に抗議する男性の乱入で一時騒然となった。チベット自治区での騒乱鎮圧に対し国際社会の中国批判が強まるなか、世界各地で中国への抗議活動を再燃させる「火種」になりそうだ。

 採火式の式典は、中国国内では中央テレビが十数秒遅れで中継した。しかし国際NGO「国境なき記者団」のメンバーが乱入した場面は放映せず、音声をカットして、映像は遺跡や列席した要人の様子に切り替えた。最初の聖火リレー走者である中国人が走る場面も、警備員が二重、三重に取り囲む様子を短時間流れただけだった。

 聖火は31日に北京に運ばれ、4月からは日本など19カ国を巡ったあとに中国に戻る。各国の通過都市ではすでにチベット騒乱への中国の対応を批判する抗議活動が広がり、中国の五輪関係者は「国外での妨害を抑えるのは難しい」と漏らす。

 AP通信によれば、ロンドンやニューデリーの中国大使館前では先週末、チベット人支援団体や学生らの抗議活動があった。バンコクでは聖火リレーの走者に決まっていた環境保護活動家が23日、辞退を発表した。米サンフランシスコのニューサム市長は20日、「チャイナタウンを通るルートは難しい」と発言。道路の狭さを理由としているが、不測の事態を避ける狙いがありそうだ。

 聖火のチベット通過に反対する動きに対し、チベット日報(電子版)は24日、「ダライ集団(ダライ・ラマ14世の支持勢力)の妨害を厳しく阻止する」と報道し、聖火のエベレスト登頂を含め準備は順調と強調した。蒋効愚・組織委員副会長は「どんな危険にも備えている。チベットでもウイグルでも準備は予定通りだ」と話し、中国国内のリレーは厳重な警備態勢下で行われそうだ。

 中国公安省は24日、チベット騒乱事件後、初の記者会見を開き、ラサ市で起きた騒乱で市内の衣料店とバイク店を放火したとして、20代のチベット族の男女5人を逮捕したと明らかにした。公安省が個別の事件で会見を開くのは異例。今回の騒乱事件で中国当局がとった厳しい鎮圧で、国際社会からの批判が高まったことで、今回は騒乱は平和な抗議活動ではなく、特に悪質性を強調することで厳しい鎮圧への批判を打ち消す狙いがあると見られる。

 会見の冒頭に、放火された2軒の店の焼け跡や被害者の証言を撮影した映像を公開。焼け跡から遺体を運び出したり、遺族が泣きながら被害を訴える映像が公開された。会見した単彗敏報道官は「今回の騒乱は平和的なデモや抗議活動ではなく、きわめて重大な暴力犯罪事件だ」と強調し、「ダライ集団が組織的かつ計画的に画策した、北京五輪を狙った暴力破壊活動であることは明白」と話した。

[コメント]ー(引用)ー聖火が中国内の約4万キロをリレーされるのは5月から五輪開催までの約3ヶ月間である。中国政府はチベット暴動などを巡り、「五輪の政治化」に反対しているが、国内での聖火リレーが極めて強い政治色を帯びるのは間違いない。(読売 25日付け朝刊)ー以上、引用ー

 またバンコクで聖火ランナーを辞退したのは、環境保護財団代表でタイ王室の家系である女性ナリサラー・ジャクラボンさん(51)である。辞退の理由は、@チベット統治問題で中国政府の強圧的な政策(特に人権問題)に対する嫌悪 Aラサ騒乱時に中国政府がとった厳しい鎮圧手段への抗議 などが報じられている。今までチベット問題を知らなかった人も、今回のラサでの騒乱を機会に中国政府のチベット政策に強い関心を示すだろう。

 今朝のNHKニュースによれば、フランスでは世論調査でサルコジ大統領が北京オリンピックの開会式に出席すべきではなという人が過半数を占めているという。しかし競技をボイコットすべきではないという人も55パーセントだと報じていた。今後、チベット騒乱時の新たな映像が出てきたり、中国国内で厳戒下の聖火リレーが報じられると、さらに国際世論で北京オリンピックに批判的な数字が増えることが推測される。これは中国が先進国入りを目指すなら、少数民族の人権問題など決して避けて通れぬ道であり、解決しなければ大きな損失を負うことを意味している。

 中国は一時的な情報の遮断(封鎖)や、世論(情報)操作で政治危機を切り抜けても、逆にそのことで傷を深くすることを覚悟しなくてはいけない。そのことを最もよく知っているのは、中国の隣国に住む日本ではないだろうか。世界地図で日本と中国の区別がつかない欧米人には、中国人の心理について日本人のように知ることは出来ないのだ。

 私は中国に関心ある皆さんに、さり気なく中国内の聖火リレーの警備状況を見学(研修)に行くことをお勧めする。特にチベット族が住む中国西域がお勧めである。中国の治安当局は、人海戦術で移動(リレー)する聖火を厳重に包囲して、不測の事態に備えた警備態勢を固める。特に都市などで聖火が通過する際は、交通を遮断して人々の動きを止めるとともに、ガソリンを積んだ危険なタンクロリーなどを車庫から出さない措置をとる。さらに道路の両脇は動員した友好市民で固め、その最前列を警官隊の列で阻止線を張るのである。ちょうど40年前頃の天皇の行幸警備(日本の警察)と同じ光景(中国の武装警察版)が見られるはずだ。

 普段はあまり中国の治安当局の警備実態を見ることができないが、今回、中国は好むと好まざるに関わらずそれを世界に露出させることになる。中国の軍事力がアメリカ型の外征型ではなく、”万里の長城”に似た城壁型の軍事力であることが理解できると思う。”城壁型”軍事力の整備は人もお金も必要とするが、外征軍としては意外なほど能力は低いが、城壁内の治安維持には万全の護りが得られるやり方だ。

 まあ、各国の報道機関もそのあたりの視線を意識すると思う。5月からの国内聖火リレーは中国の治安能力が試される3ヶ月になるだろう。

本日は日曜日・快晴

更新を休止します

午前中はランニング・クラブ

午後は自転車で40キロ走破

(3月23日 日曜日)

  最近、イージス艦事故やイラク開戦5年経過など、緊張することが多く重なりました。そのためホームページに書き着込んだり、調べ物をすることが多かったように思います。

 今日は最近の緊張をほぐして、午前中は日曜恒例のランニングクラブの練習に参加し、午後は荒川の河川敷を自転車で40キロ走破に挑戦します。ちょうど天気は快晴で風もなく、気温も19度ぐらいでサイクリング日和だと思います。小型のデジカメと三脚を持参し、いろいろな春を見つけて撮ってきます。

 また月曜日から、気分をリフレッシュして頑張ります。そろそろ新しいバージョン・アップを考えて、このホームページを進化させることを企んでいます。

イージス艦事故

回避命令 

  衝突数秒前

ほとんど減速できず

 

 

石破氏進退再燃も

防衛省処分

 野党、集中審議で攻勢へ

(毎日 3月22日 朝刊)

[概要]イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故で、あたごの当直士官だった水雷長が回避措置を命じたのは、事故の数秒前とみられることが防衛庁の調査でわかった。今まで防衛省は衝突約1分前に衝突回避を始めていたと発表していた。

 防衛省が21日に公表した中間報告によると、機関操舵室でモニターを監視していた当直員は、2月19日午前4時6分頃、清徳丸の灯火が右から画面に現れ、艦首方向に移動したのを確認したが、約5秒後に艦首の死角に入り見えなくなったと証言。さらに1〜2秒後、艦首左舷に一瞬光が見えたと思った直後、水雷長が両舷のプロペラの推進力を停止する両舷停止、自動操舵やめを命じ、その後、後進いっぱいの指示を出したと証言している。別の当直員によると、二つの指令の間隔は5〜10秒だったという。

 機関操縦室の当直員が証言する左舷の光は、衝突直前の清徳丸とみられ、指令は光が見えた直後とされることから清徳丸が横切る間に出されたとみられる。また両舷停止と後進いっぱいの指令の間は5〜10秒間あったとの証言から、後進いっぱいの指令は衝突後だった可能性もある。第3管区海上保安本部(横浜)は、業務上過失往来危険容疑で水雷長を書類送検する方針。

 防衛省はイージス艦あたごの衝突事故で、調査結果とそれに伴う処分を公表したことで、一連の不祥事に区切りを付けたいと考えていた。しかし野党側は「従来の説明が虚偽だった責任が大きい」として24日の参院予算委員会の集中審議で攻勢を強める方針だ。いったん沈静化した石破防衛相の辞任要求が再燃する可能性があり、政府は引き続き苦しい政権運営を強いられる。

 道路特定財源問題や日銀総裁人事など重要法案にからんで、石破氏の処遇が取りざたされる場面も出てきそうだ。

[コメント]昨日、在京の放送局からFAXで送られてきたこの「衝突事故(中間)報告書」(10ページ)を詳細に読んだ。しかし衝突事故の真相や原因を究明するとか、再発を防止するための情報開示という熱意はまったく感じなかった。ただ上から言われて報告書をだし、海幕長の更迭(退職)を機会に、すべての問題を抱えて辞めてもらうという姿勢しか感じなかった。こんないい加減なもので済ませれば、また同じような事故が起きることを予感した。

 まずこの報告書では、今まで「12分前に灯火を確認」とか、「2分前に緑の灯(青灯)を確認」とか、「1分前に赤灯を確認して回避行動をとった」という防衛省側の説明が、すべて消えたことだ。新しい事実はこの記事が報じるように、清徳丸を視認したのは衝突前の100メートルほどの距離(位置)だったという点である。それなら12分前、2分前、1分前はすべて根拠がないことを公表したことになる。この点の説明が報告にはまったくない。

 私は事故当時からあたごが清徳丸を視認したのは衝突直前か、衝突時だと指摘してきた。自動操舵の解除や警笛を鳴らすなどの回避行動が致命的に遅れている(あるいはナシ)からである。衝突5秒前(約100メートルの間隔で)に右からイージス艦の進行方向に向かって航行する清徳丸を発見しても、回避措置は間に合わない。

 この報告書によってあたごの大きなミスが明らかになった。それは清徳丸との衝突直後にあたごが「後進いっぱい」の指令を出した点である。この場合、あたごは衝突後直ちに両舷停止を指令し、プロペラ(スクリュー)を数十秒間は止めるころが絶対に必要である。そして衝突海域を完全に離れた場所で、「後進いっぱい」を指令するのが、海難救助の基本中の基本(常識)である。それは衝突で海面に投げ出された者が、プロペラの回転によって起きる海水の吸い込みに巻き込まれないためである。

 この報告書では衝突直前か、衝突直後に、あたごの当直士官は「後進いっぱい」を指令している。これでは海面に浮かんだ二人はプロペラの猛烈な吸い込みから逃れることはできない。かつて横須賀港沖で、潜水艦「なだしお」が釣り船と衝突した際、海面に浮かんだ釣り船の乗客を救助しなく、だまって「なだしお」の乗員が見ていたと非難されたことがあった。海自側は、「もし潜水艦がスクリューを回せば、ものすごい海水の吸い込みが起こり、海面に浮いた乗客を吸い込むので潜水艦は動けなかった」と説明した。今回はそれとは逆の行動をとったことになる。

 ともあれ、今回の衝突事故の最終報告書では、事故が発止した原因究明と、再発防止への熱意が感じることができるものを期待したい。責任と反省。だれにどのような責任があって、そのことがどのような理由で行われなかったのか。それを明確にして欲しい。政治家や官僚の姑息な幕引き劇など、海自をさらに危険な組織に追いこむだけである。

イラク開戦5年

「出口」描けぬ

   米政権

イラクへイラン浸透

「革命の防波堤」決壊

 米の意図と逆に

(読売 3月21日 朝刊)

[概要]イラク開戦から5年。ブッシュ政権は米軍の長期駐留から「出口戦略」を描くことが出来ない。ブッシュ大統領は19日(日本時間は20日)、国防総省で演説し、「テロとの戦い」の継続を宣言した。大統領の「徹底戦闘」方針の背景には、07年1月に決定した米軍増派戦略とスンニ派との共闘で、アルカイダを追いこみ、治安改善を「死守」するという強い意志がある。

 イラクの治安改善といっても、米軍が武器・資金を与えている反アルカイダ系スンニ派武装組織連合体「覚醒(かくせい)評議会」の存在や、シーア派反米指導者ムクタダ・サドル師が傘下の民兵組織「マフディ軍」が昨夏から活動を停止させていることが大きくな理由。米軍がイラクから撤退すれば、覚醒評議会とシーア派が衝突する懸念がある。これにイラク治安部隊を米軍の肩代わりをさせて、衝突を回避させる能力はない。

 早期撤退を主張する米民主党も、オバマ候補は「16ヶ月以内の戦闘部隊撤退完了」、ヒラリー候補は「政権発足か60日以内の撤退開始」と目標を掲げている。しかし両候補共に、治安維持ができるかどうかは現地司令官の判断を尊重することを認めている。ブッシュ政権のイラク政策継承を訴えるマケイン候補は、「米軍の100年間駐留」とまで発言している。イラクの長期安定という「出口」が見えないまま、米軍の長期駐留が既定事実となりつつある。

 新生イラクの首脳は、今月2日、初めてイラクを訪問したイランのアフマディネジャド大統領をまるで主(ぬし)のように迎えた。これは今までに米国がイランにとってきた、シーア派大国イランの封じ込め戦略「革命の防波堤」をイラクに担わす防波堤が決壊し、破たんしたように見える。

 イラク中部のシーア派聖地、カルバラやナジャフには今、1日平均3000人のイラン人巡礼者が訪れている。シーア派が多数の中南部ではペルシャ語で書かれたポスターが目立ち、英語に替えてペルシャ語を学ぶ若者が急増しているという。

 旧フセイン政権ではスンニ派が政府や党の要職を握っていたが、現政権のマリキ政権の中核を担うのは、フセイン政権時代にイランの庇護下にあった「イラク・イスラム最高評議会」(SIIC)など、シーア派政党だ。イラク軍や警察などは、同評議会傘下の民兵組織が中核になっているといわれ、そのためイランの治安・情報機関がイラク国内での活動を容易にしている。

 イラクでは国民融和を進めるために、旧バース党員に公職復帰の道を開く、「正義・審査法」が今年2月に成立したが、シーア派支配の治安組織とイランに対する不信から、スンニ派の警戒心が強くて復帰への動きは進んでいない。

 ブッシュ政権が「中東の民主化」を掲げて始めたイラク戦争は、米国の望まぬ方向に中東を動かしている。レバノンのシーア派組織ヒズボラの戦力増強、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが放つロケット砲の改良もイランが促していると言われている。

[コメント]この機会にもう一度、ブッシュ政権でイラク開戦を主導したネオコンの中東戦略について説明しておこう。これはイラク開戦直後から私が一貫して分析(主張)していることでもある。

 まずネオコンの最終目標はイランの軍事制圧にあった。その作戦はインド洋の米空母機動部隊からパキスタンを経てアフガンを占領する。アフガンのタリバンを崩壊させることは米軍にとって大きな問題ではなかった。さらに中央アジアにも米軍基地を作ってイラン攻撃の拠点を設ける。

 ペルシャ湾にも米空母機動部隊を入れて、イランを南から攻撃できる体制を築く。その上で、レバノンからシリア軍を撤退させ、シリア政府にも圧力をかけて親米化させる。こうして地中海の米空母艦隊からレバノン、シリアを通ってイラクに至る米軍の戦略道路が貫通する。

 イラクの駐留米軍、アフガンの駐留米軍、ペルシャ湾の米軍部隊が、イランを包囲して対イラン戦争を開始するのである。すなわち地中海からインド洋までのベルト地帯をアメリカが支配するという壮大な軍事作戦であった。アレキサンダー大王が果たせなかった夢をネオコンはアメリカの軍事力で再現させたかったのだ。

 このネオコンの野望に対峙したのはイランの革命防衛隊である。パレスチナのハマスを革命防衛隊が支援してイスラエルをロケット砲で挑発し、レバノンのヒズボラはイスラエル軍の軍事侵攻をレバノン南部で撃退させた。イラン革命防衛隊はアフガンのタリバンが麻薬で資金を得ることを黙認し、密かに武器を与えて再建に協力した。革命防衛隊が最も重要な作戦として位置づけたのは「イラクの治安悪化」である。イラクが不安定化すればアメリカはイランを攻撃することはできない。そこで革命防衛隊はイラクの宗派間闘争を仕掛けたのである。アルカイダなどイラン革命防衛隊の比ではない。イラン革命防衛隊の強みは祖国をアメリカの全面軍事攻撃(侵略)から防衛するという一点である。

 これがブッシュ政権がイラク戦争で破れた経緯と原因だ。まさに「戦略の失敗を戦術で補うことは出来ない」の通りである。ネオコンはアメリカが同時多発テロを起こしたアルカイダと戦う目的を、大量破壊兵器の拡散やアルカイダとの関与を偽主張し、イラクやイランを軍事制圧するアメリカの中東戦争にすり替えた。

 ブッシュ政権のネオコンは追放されたが、イラク問題を終結させる知恵者はブッシュ政権内に現れていない。やはりホワイトハウスの次の住人に期待するしかないのだろうか。

77歳男「秘密の暴露」

警察庁長官銃撃

  を供述

凶行の全容 詳細に

(産経 3月20日 朝刊)

[概要]平成7年3月30日に国松孝次警察庁長官(当時)が荒川区の自宅マンションを出た所で狙撃され、4発中3発が腹などに命中、重症を負った事件が発生した。別の強盗殺人事未遂事件で実刑を受け上告中の中村泰(ひろし)被告(77)が警視庁に対し、犯行を示唆する供述をしていることが19日、分かった。この事件はオウム真理教による組織的な犯行と見られていたが、新たに中村被告の供述を得たことで、その信ぴょう性について慎重な調査を進めている。

 中村被告は、@犯行に使った自転車を現場から南西600メートル離れた喫茶店の前に乗り捨てた。A犯行後、JR山手線に乗り、拳銃を西新宿の貸金庫に預けた。と供述。これらは警察の確認捜査で裏付けが取れている。また犯行当日の2日前に、銃撃しようと長官の住むマンションに向かったが、スーツを着た警察官2名が長官を迎えたことから、この日の襲撃を断念したという。事実、2人の警察官が長官宅を訪れていたことは警察内部でもほとんど知られていない。警視庁では、こうした供述が「秘密の暴露」(神浦・・・・犯人しか知らない事実)にあたる可能性があるとみている。

 使用された米国コルト社製の38口径回転式拳銃と、殺傷力が高い特殊なホロポイント型のマグナム弾は、中村被告が1980年に偽名を使って米カリフォルニアのガンショップで購入したと供述。警視庁の捜査官を米国に派遣して調べた結果、中村被告の供述を裏付ける記録が見つかった。狙撃に使用した拳銃は事件の翌月、伊豆大島へ向かうフェリーから海に投げ捨てたとしており、警視庁はこの時の乗客名簿を入手している。

 この供述は昨年11月、中村被告から警視庁担当の産経新聞記者宛に届いた手紙で便せん10枚に綴られていた。

 中村被告が独白した内容に基づく犯行グループは少なくとも2人。「支援車両」の運転手だ。長官狙撃後は自転車で西に逃亡し、支援車両の待つNTT営業所前に向かった。自転車をNTT前の喫茶店の窓側に無施錠でに放置し、支援車両に乗り換え、千住街道を西に向かい、明治通りを経て西日暮里の駅前で下車し、拳銃を所持したまま同駅から新宿駅に向かい、西口の貸金庫に銃器類をおさめて身軽になったと書かれている。

 ある警察幹部は、「これまでオウム関係者の捜査を中心に行ってきたが、今後は中村被告の捜査も同時並行的に進めることになる」と話した。

[コメント]国松長官への狙撃は中村被告が実行犯とほぼ間違いないと思うが、気になるのは協力者のことと、長官を狙撃した動機でである。狙撃現場には北朝鮮の金正日バッジが落とされていた。そのことを中村被告はどの様に供述しているのか。

 あの事件現場には何度も行った。犯人が撃った場所で拳銃(モデルガン)を構えて、精密射撃できる距離感を測った。目撃者の証言から地元の道路(裏通り)を何度も歩いて検証をした。それでも犯人の特徴と動機は解明できなかった。しかし当時はオウムが犯人と断定すれば、目撃された長身は平田(逃亡中)で、エアーピストルの国体参加者という経歴が気になった。

 おそらく国松長官を狙撃したのは中村被告に間違いないと思うが、それにしてもあまりにも多くの可能性を探ったので、さらなる「秘密の暴露」がでるか期待したい。

イージ衝突1か月 防衛省

防衛省再編案で摩擦

背広・制服組 溝深く

(読売 3月19日 朝刊)

 

 

 

永田町・フィールドノート

「自由と繁栄の孤」

  の盛衰

麻生元外相構想が消滅

(読売 3月19日 朝刊)

[概要]19日で海自のイージス艦と漁船が衝突事故を起こして1ヶ月になる。この間に石破防衛相は自らが提唱する背広組と制服組を再編する防衛省再編案を推し進めようと懸命だが、「急進的な案」(同省幹部)に省内外から反発の声は強く、あつれきが広がっている。

 石破氏の構想は、背広組と制服組を一体化し、「防衛力整備」「部隊運用」「国会対策・広報」の3機能に再編し、新たに防衛相を支える仕組みを作るというのが主眼だ。石破氏は自衛隊の文民統制を現在の背広組だけではなく、再編した防衛省全体に広げて、政治家や大臣が使いやすい組織とする見直案を掲げている。

 防衛省内で反発する背広組は、「『軍事の素人である背広は黙れ』と、制服に指導権を握られることは間違いない」と危機感を抱く。制服組も「陸海空それぞれの独自性が損なわれる。『使う側』だけではなく、『使われる側』のことも考えるべきだ」と再編案を批判する。与党内でも「石破案は大胆すぎる」と慎重論が少なくない。首相官邸に作られた「防衛省改革会議」でも、「組織を変えたら確実にうまくいくというわけではない」との慎重論があり、石破再編案がすんなり受け入れられるか不透明だ。

[コメント]特急列車の運転手が赤信号を見落とし、踏みきりで立ち往生している乗用車と衝突事故を起こしたとする。すると国土交通省の「鉄男(鉄道オタク)」大臣が持論である「貨物」と「旅客」部門を統合し、新たなJR組織を作るべきと主張しているようなものである。貨物も旅客も同じ線路を使っているので、統合した方が輸送コストを低く抑えることができるという持論を持っている。しかし現場は「人と物を運ぶのは認識(取り組み)が違い過ぎる」と反対しているようなものだ。

 背広と制服をガラガラ・ポンにして、ごちゃ混ぜにすれば、都合のいい”粘土”から都合のいい”人形”ができると提案するようなものである。石破案には軍事行政という防衛省の特殊な特徴が無視されている。もし石破案が実現すれば、今よりはさらに露骨な防衛利権行政が進行することになる。政治家の暴走(利権欲しさ)を止めることが不可能になるからだ。

 しかし守屋前事務次官問題のように、背広組に制服組への絶対支配権を与えるのは改善すべきと思う。今の防衛参事官(内局の局長級)に各幕僚長と統幕長を加えるべきで、制服組にも国会で答弁させる機会を与えるべきだ。ミサイル防衛(MD)などの軍事・技術論は、専門知識ある制服組から責任ある答弁を聞きたい。軍事を知らない背広組に国会対応を任すので、防衛利権だけの兵器システムが堂々と採用される。その点では防衛利権に群がる政治家も同罪である。

 それに石破案が正論と思うなら、こんなイージス艦の騒動に合わせたバタバタ時に提案するよりも、新テロ法が審議されている時などに、持論を示して世に再編案を問うべきである。イージス艦事故の虚偽答弁で引責辞任が確実と言われた時に、自己防衛のために姿を隠す”煙幕”だと思いたくはないが、”石破氏の以前からの持論”と言われても今までに聞いたことはなかった。

 

[概要]外務省は18日、「2008年版外交清書」をまとめたが、麻生元外相が大々的に打ち上げた「自由と繁栄の孤」構想に関する記述がほとんど姿を消した。麻生氏の構想は安倍政権の外相を務めていた06年11月に発表した。

 これは北欧から中央アジア、インドを経由して東南アジアに至る地域で民主的制度の定着や経済発展を重視する外交政策。07年版の外交青書では「日本外交の新機軸」とトップで大扱いし、麻生氏の顔写真付きで「孤の形成に向け新たな外交努力を傾注」と強調していた。

 しかし、この構想は「中国包囲網」との見方があり、中国に強い姿勢を貫こうとした「安倍・麻生外交」から、中国など近隣諸国と強調を重視する「福田・高村外交」に移行して、継承されることなく片隅に追いやられた。わずか1年の外交構想の盛衰は、政界の盛衰と無縁ではなさそうだ。

[コメント]なんとも日本外交の無力さを痛感させる記事である。ブッシュ政権が掲げた東アジアから東南アジアを経て、南アジアから中東にのびる「自由の孤」に似せて作ったものだろうが、本家のブッシュ版「自由の孤」も、イラクを中心にした中東地域でほころび出している。

 すでにペルシャ湾の湾岸諸国ではイランを封じ込むのではなく、地域の湾岸国際会議(GCC)に参加させて集団的に関与させる戦略に転換している。(毎日新聞 「戦争のつめ後」 3月19日付け 朝刊) 

 最近の日本の外交政策を見ると、時の政権の思いつきや、アメリカの模倣版が多く、主体的に長期的な視点で提案したものは皆無だ。日本の伝統的な外交だった”ばらまき外交”も経済政策の失策でお金不足がたたっている。とにかく今は日本人が元気を取り戻す政策転換が必要だ。週刊誌に脳死状態と書かれ始めた福田政権の後に麻生政権待望論が出るのだろうか。ブッシュ大統領が消えたあとで、麻生氏は「自由の孤」構想を再度打ち出してくる度胸はあるか。ないな。まあ、トラの威を借る狐(きつね)構想か。

社説 イラク戦争5年

大失敗を

  どう克服するか

イラクの死者 15万人

米兵死者 4000人

(朝日 3月18日 朝刊)

[概要]イラク戦争が始まって5年がたとうとしている。昨年以降、約3万人の米兵が増派されて、イラク国内でのテロ事件が減少していると米政府が説明した。だが、それをもってこの戦争が好転したとか、米国のイラク戦争は誤りではなかっというのは無理がある。米兵の死者は約4000人、イラク市民の死者は昨年6月までに15万人に達したと世界保健機構(WHO)が推測結果を発表した。今、それが何人に増えているだろうか。

 命からがらイラクを後にした難民は200万人を超える。国内避難民がさらに200万人いる。ブッシュ大統領は1月の一般教書演説で、「大規模テロは減った。イラクにはまだ多くの課題があるが、和解が始まっている。イラクの未来は彼ら自身の手中にある」と述べた。しかしイラクの人々にとって、まるで違う惑星の出来事に聞こえたのではないか。

 米軍は治安回復のために危険なかけに出た。反米的な地域のスンニ派に武器と資金を与え、アルカイダ系と戦わせる方式を編み出した。それで米軍の犠牲を少なくし、土地勘のある住民を使って戦闘効率を上げるためである。これは一時的に治安が回復しても、その武器は将来の宗教対立に使われ、犠牲者を生んでいくと現地の事情に詳しい専門家は指摘する。

 ブット元首相が暗殺され混迷を増すパキスタン情勢。イラク北部のクルド人地域をトルコ軍が越境攻撃した。イランの議会選挙では反米保守強硬派のアフマディネジャド大統領系が圧勝した。もともと危機の種が多い地域であったが、米軍のイラク攻撃以来の5年間で、今や手におえないのが実情だ。反米感情は中東全域で勢いを増している。イラク戦争を始めたブッシュ大統領の人気はさんざんだ。イラクに部隊を派遣した国々でも、総選挙や支持率の低下で政権を追われた首脳は少なくない。

 イラク戦争がここまで傷口を広げてしまった最大の理由は、アメリカが「敵」を間違えたことではなかったか。本来ならアラブ・イスラム世界の支持を得つつ、国際テロ組織アルカイダを孤立させ、追い詰めなければならなかった。しかしアルカイダと関係のない旧フセイン体制と戦争を起こしたことで、国際社会を分裂させ、穏健なイスラム教徒までアメリカの敵にまわしてしまった。

 ブッシュ流の戦争に米国との同盟重視でさまざまな形でイラク戦争に参画した国は少なくない。そのため戦線は際限なく広がり、国連は力を発揮できなかった。日本にもブッシュ大統領の戦争を支持したことで責任の一端がある。この混迷を脱するには特効薬はない。米軍がイラクから撤退するすればイラク内戦の引き金になりかねない。しかし駐留を続ければ反米テロが収まることはない。まさに深刻なジレンマである。

 その間にも米国自身が消耗していく。世界の経済や外交、ソフトパワーを含めて、アメリカの指導力が失われていく。北朝鮮の核問題に直面する日本にとって、唯一の同盟国である米国の衰えは好ましくない。米国が立ち直り、抜け出す機会があるなら、今秋の大統領選挙の論戦であることを期待したい。そのためにはテロとの戦争を見直すことから始めるべきだ。国際社会も国際テロを封じ込めるために各国が協調できる仕組みを再構築しなければならない。日本がそのために何の貢献が出来るか、真剣に考えたい。

[コメント]これは朝日新聞の社説であるが、もはや日本の政界やメディアでもこれに異論を唱えるものはないと思う。アメリカ国民が今秋の大統領選に向け、民主党の指名獲得競争に熱くなるのは、行き詰まったイラク戦争を新大統領に根本的な解決策を期待するのが一因と思う。

 そこで私が次期米大統領と期待しているオバマ候補だが、彼はアメリカの対テロ戦争にどのような構想を描いているご存じだろうか。私はそのテーマ「オバマ大統領候補とテロ戦争」を、まもなく発売される「Jウィング」誌(軍事・航空専門誌)の5月号(21日発売)にコラムを寄せた。

 私はそれを知る手がかりは、昨年の8月2日にワシントンDCのシンクタンクでオバマ氏が行った演説にあると思う。オバマ氏はイラク戦争を早期に終結させるために、米軍の主力をイラクからアフガン東部に移すと語っている。アフガン東部の山岳地帯にはアルカイダの中枢幹部が隠れ住んでいる。オバマ候補はその掃討作戦に主軸を移すと語っているのだ。もし必要ならば、パキスタン政府の許可を得なくともパキスタン領の北西辺境州に越境することも辞さないと語った。これがオバマ候補の考える対テロ作戦である。国際テロ組織のアルカイダを包囲して孤立させ、住民と分断し、その中枢を空爆などで攻撃する作戦である。

 そのことを見据えたように、パキスタンの北西辺境州ではアルカイダメンバーの外国人テロリストが、部族の長老で構成する自治組織「ジルガ」を狙って自爆テロを激化させている。ジルガに強い恐怖心を与え、米軍やパキスタン政府の言いなりになったり、アルカイダに敵対しないように自爆テロで工作(心理戦)を始めている。

 またアフガンでは首都カブールから東部に向けた戦略道路の建設が、アフガン難民の帰還に向けた就労対策として行われている。しかしあくまでアフガン北部に潜むアルカイダを攻撃する戦略道路の位置づけは最重視されている。

 もし日本がアフガンの復興支援に自衛隊(国際貢献)を送ると考えるなら、そのあたりの軍事情勢を考えた上で検討することをお勧めする。タリバンのいないアフガン東部なら安全という”その場しのぎの思いつき”や、アメリカとの”同盟関係強化のため”という理由では通用しない。

 日本はブッシュ大統領(政権)のように軍事同盟国のアメリカが間違った戦争を始めたとき、単純にその戦争に追随しない方法を検討する時がきたと思う。安倍政権のように追随どころか集団的自衛権の解釈を変更して、積極的にアメリカの間違った戦争に参加させないためである。

チベット騒乱

ネット統制強化

 巧みに世論操作

「You Tube」アクセス禁止

(産経 3月17日 朝刊)

[概要]中国チベット自治区ラサの騒乱で、2億1000万人のネットユーザーをかかえる中国ではネット統制に拍車がかかった。国際的な動画投稿サイト「You Tube」はアクセス禁止。メールの検閲も厳格化され、掲示板、チャットも監視がきつくなっている。

 チベット自治区では07年のネット人口が32万人と極めて少ない。今回の動乱でチベットのネットユーザーの管理が強化され、産経新聞の記者宛のラサからのメールは届かないものが多く、ネット上のチャットルームは開くだけで画面にサイバーポリスのアイコンが浮かび、牽制をかけてくる。当局のチベット騒乱での情報統制はほぼ成功しているといえる。

 中国のネットでは、ミャンマーの民主化要求デモ発生時など、国内世論に影響を与えそうな国際事件が発生すると、You Tubu やBBCなど海外のメディアサイトが軒並みアクセス禁止になる。海外のチベット独立派や人権団体のサイトはもともとアクセス禁止のため、海外の視点での報道は中国国内ではほぼ得られない。

 中国の国内公式報道は、抜き身の刀を下げているチベット人や僧侶が商店の破壊に参加する映像とともに、「ダライ・ラマ独立派の策動」などといった内容だけを伝えている。このためネットの掲示板も当局の鎮圧行動を支持する意見が多く、世論操作に成功しているようだ。

[コメント]すでにチベット自治区内や周辺のチベット人居住区には、中国の武装警官隊が大量に投入され、中国の統治に批判的なチベット仏教の寺院を封鎖し、一般民衆の分断・統治を行っている。またラサ動乱参加者への自首や密告を奨励し、チベット人に心理的に強い圧力を加えている。さらに中国当局は情報を統制強化して、不都合な報道を遮断し、騒乱側に不利な情報を流し続けている。これは明らかに中国当局の対応がチベット・ラサでの騒乱鎮圧から、世論を操る情報・心理戦の段階に移行したことを示している。

 そのような一時的な現象を分析すれば、今は中国治安当局がチベットの騒乱封じに成功したことになる。しかしそれでは済まないのが民族騒(反乱)を鎮圧する難しさだ。鎮圧(弾圧)に抗議して燃え上がった火種は決して消えていない。むしろ火種はより高温でくすぶり続けている。それが夏の北京オリンピックでどのように再び燃え上がるか。中国政府は今回の騒乱鎮圧でより危険な火種を抱え込んだことになる。

 今回、中国政府がチベット問題でいかにネット情報を管理したかは、ネット社会と国家権力の関係を考える上で貴重な研究テーマになった。またチベット人がそのような中国の情報統制にどのような対抗をしていくか。中国人のハッカー問題よりもはるかに興味があるテーマである。注目!

チベット自治区

ラサで大規模暴動

商店放火、死者も

(読売 3月15日 朝刊)

[概要]中国チベット自治区の区都ラサの中心部で14日、大規模な民衆暴動が発生、放火や暴行などで多数の市民が負傷した模様。米政府系放送局「ラジオ自由アジア」は、警官の発砲で少なくとも2人が死亡したと報じた。(朝日新聞は本日付の朝刊で、在京チベット関係者によると少なくとも14人が死亡、100人以上が負傷と報じている)

 中国当局が厳しく反政府行動を取り締まっているラサでの大規模暴動は1989年以来の出来事。今回の暴動は8月の北京オリンピック開催にむけて民族融和をアピールしている中国政府に大きな打撃となった。

 中国国営新華社通信が報じた目撃証言によると、14日午後2時頃から放火が始まり、ラサを代表するチベット仏教の名刹(めいさつ)ジョカン寺(大昭寺)前の広場から多数の人が出ていったという。商店が焼かれ、車も放火されたという。ラサ市内のホテル従業員は、「火の手はあちことで上がった。街には警察、武装警察隊が出ている」という。ロイター通信によると、市内で住民や僧侶ら300人〜400人がデモを行い、10人以上の僧侶が逮捕された。在北京の米国大使館のホームページでは、ラサに滞在する米国人が、「銃声を聞いた」との情報が寄せられたことを明らかにした。

 ラサでは、3月10日に僧侶ら数百人規模の半政府デモがあり、当局に制圧されていた。米政府系放送局によれば、僧侶2名が手首を切って重体になったほか、僧侶がハンガーストライキを始めたという。

ロイター通信によれば、10日のデモは僧侶約500人が参加し、当局が催涙弾を使って制圧したとの情報もある。信仰心にがあついチベット民族にとって、僧侶への手荒な扱いは民族感情を刺激する暴挙に映る。ラサの寺院関係者は14日、読売新聞の記者に対し、放火多発地帯にあるジョカン寺、さらにセラ寺、デプン寺が封鎖されたという。

 ダライ・ラマは10日に、本拠地のインド北部のダラムサラで演説し、中国政府の「人権弾圧」を非難、国際社会に対して、北京五輪を機に中国に改善を求めるように呼びかけた。10日はダライ・ラマが中国共産党に抵抗して、亡命につながった1959年の「チベット動乱」から49年目に当たる日だった。

 ラサに戒厳令が敷かれた89年当時、チベット自治区の共産党委員会書記長だった胡錦涛党総書記は、今年の全人代で「チベットの安定は全国の安定にかかわる。全力でチベットを守れ」と指示した。北京五輪成功のためにチベットの混乱を放置する選択肢は中国政府にない。

[コメント]春になるのを待ち構えたように、夏のオリンピック開催に時期を合わせてチベットでの大規模騒乱が起こった。

 これより推測・・・・・僧侶のデモ隊に催涙弾を撃ち込んで寺院に押し戻そうとする警官隊。デモを取り巻く群衆の一部はラサ中心街にある漢族の経営する商店に火をつけ、駆けつけた警察車両を横転させ放火した。さらに寺院に押し戻された僧侶たちは、封鎖に抗議して、手首を切り(自殺未遂)や餓死を覚悟してハンガーストライキをする。暴動化した市民の中には、蛮刀(ばんとう)などで武装した者も見受けられる。暴徒鎮圧に慣れない武装警官の中には、極度の不安から銃を暴徒に向け発射して死者が出た。・・・・・以上、推測

 中国当局の治安部隊は徹底的にラサ市街を封鎖し、僧侶や市民が外部と接触するのを断ち、暴動が拡大するのを防ぐ治安作戦になる。しかし夏のオリンピック開催を考えれば、チベットに戒厳令を敷くのは難しい。それでも戒厳令を敷くのか。まさにチベット情勢は一気に心理戦の様相である。

 中国政府はチベット人と漢族との結婚を推奨し、結婚適齢期の若者を集団移住(他地区に集団就職)させてでも、チベット併呑政策を進める徹底振りだった。しかしそれを拒んだのはチベット仏教である。チベット族とはまさにチベット仏教が民族の根幹を支えていた。今回の暴動はそのチベット仏教の僧侶や寺院が最後の抵抗を始めたという位置づけになる。

台湾海峡有事

周辺事態適用

 に言及

防衛省局長、中国を警戒

(産経 3月14日 朝刊)

[概要]防衛省の高見沢防衛政策局長は13日の自民党安全保障調査会で、台湾海峡で有事が起きた場合の対応で、「仮に中台で何かが起きれば、我が国にとって大変なことになる。日米安保の問題ではなく、日本の安全保障の問題だ」と述べ、周辺事態に当たらない場合でも警戒監視を強化する必要があるとの考えを示した。この発言は軍拡を続ける中国へ防衛当局が強い警戒感を示したもの。

 この調査会で高見沢局長は、「中国から『周辺事態(認定)はどうするのか』と聞かれれば『日本は当然する』(と答える)」といも発言している。ただし、台湾有事での周辺事態適応を言及したことについて、同日夜の記者会見で、「周辺事態認定について言ったのではなく、警戒監視を強化するとという意味で言った。誤解が生じれば申し訳なかった」と釈明した。

 高見沢局長は中国の国防費が20年連続で2ケタの伸びを続けていることについて、「台湾独立をあきらめさせる意図がある」と指摘した。また「中国が台湾を攻撃した場合、近くの与那国島などが影響を受けるし、日本の主権が侵されない形で戦闘が起きる場合がある」と語った。

 今回の発言は、中国の軍事力がすでに日本の安全保障にとって座視できない水準まで増強されたことを物語っている。自衛隊の元将官は、台湾防衛で日本が米軍の後方支援に動いた場合、中国軍は南西諸島を占領し、日本を攻撃対象にする可能性があると指摘している。

[コメント]何とも腰が据わらない発言である。もし台湾有事で在日米軍が台湾支援に動けば、日本は周辺事態を認定して、日本の主権が侵害されない場合でも米軍の支援に自衛隊を動かすのかという点が明らかになっていない。高見沢氏は昼の自民党安全保障調査会では、「当然、周辺事態を認定する」と発言しているが、夜には、「周辺事態の認定について述べたものでない」と訂正している。

 もっとはっきりと質問するなら、「中国が台湾を攻撃して武力統一に動けば、日本は米軍を支援して中台戦争に参戦するのか」ということになる。日本が周辺事態を認定するとか、しないとかの問題はこの1点に集約できる。参戦するなら認定、参戦しないなら不認定。たとえ米軍の後方支援だけであっても参戦することにかわりはない。

 軍事問題の研究には、国民に危機感を煽って軍事力を強化させようとする勢力の意図を防ぐ目的もある。わざと軍事危機説を演出し、さらに軍事力を強化すれば、さらなる軍事危機を高めることになるからだ。

 そのような軍事危機扇動のモデルケースは、仮説に仮説を重ねる危機説が一般的である。@ 仮に、中国が台湾を武力攻撃する。A 仮に、米軍が台湾支援で中国と直接戦闘を開始する。B 仮に、日本は周辺事態を認定して、米軍の後方支援に当たる。C 仮に、中国軍が南西諸島を武力占領(直接侵略)する。D 仮に、中国と日本が全面戦争に突入する。・・・・・・・・   仮を重ねれば、何とも単純な構造になってしまう。

 かつての北方脅威論と大差ない。ソ連軍が北海道に武力侵攻してくるとした仮説脅威論である。ソ連軍がなぜ北海道を占領するのかの疑問が欠落している。日本が米国と安全保障条約を結んでいるのに、ソ連軍が米軍と直接戦闘を覚悟してまで、北海道を欲しがる理由がわからない。世界中のソ連軍の研究者が、一人でも極東ソ連軍が北海道侵攻を研究した軍事資料を見つけた訳でもない。また日本やアメリカに亡命したソ連軍人が、秘密の北海道侵攻計画を明かしたこともなかった。要は、防衛庁(当時)が防衛予算を取りやすいために危機説を作っただけの話である。・・・・・ 今のミサイル防衛(MD)計画と大差ない。

 もう北朝鮮の脅威説が使えそうにないから、中台戦争の危機説が生まれようとしているだけだ。健全な軍事知識が国民に普及していれば、だれも騙されない詐欺同然の危機説である。 

米軍司令官が明かす

太平洋を折半?

中国軍が「冗談」

(朝日 3月13日 朝刊)

[概要]米太平洋軍のキーティング司令官は11日の上院軍事委員会で、中国軍幹部から「空母を開発するから、太平洋のハワイから東部を米国がとり、西部を中国がとるというのはどうか」と提案があったことを明らかにした。キーティング司令官は「冗談とはいえ、中国軍の戦略的な考えを示している」と証言した。

 米中は軍事交流に取り組んでいるが、「中国軍幹部に電話番号を聞いても教えてくれず、ビールをちょっと1杯という感じではない」と語り、日本や韓国のような密接な協力関係にほど遠いという。

 中台衝突の可能性について「非常に低い」とする一方、「中国は65隻の潜水艦を保有し、米軍が太平洋に展開する潜水艦の2,5倍近い」と中国の軍事力強化に懸念を表明。米太平洋軍にとって「対潜水艦作戦能力の向上が最優先」と話した。また米中の軍事ホット・ラインが2ヶ月以内に開設されるとの見通しを示した。

[コメント]キーティング司令官が中国を初訪問したのは、太平洋軍司令官に就任して間もない昨年5月である。その時には中国海軍の呉勝利司令官と会談している。(産経新聞 3月13日 朝刊) だから、この話しは呉司令官から出てきた提案と推測できる。まあ中国人の気質を考えると、6割本気で、4割は冗談(あるいは大ホラ)ではないか。しかし今回、この話が世界で報じられて、中国政府の幹部(あるいは国民)たちは拍手喝采して喜んでいると思う。そこに中国の別のジョークを感じてしまう。

 しかしキーティング司令官も軍事委員会で負けずに冗談を言っている。それは中国軍が米軍と比較して2,5倍の潜水艦を持っていると懸念するジョークである。中国海軍の潜水艦の大部分(明級19隻 ロメオ級20隻)はあまりにも旧式な性能で米軍の潜水艦と比較はできない。国産の最新艦といわれる宋級(通常型)も問題続出で、今は9隻が配備されているが評価は低い。

 米軍には日本の海自や韓国軍の潜水艦が加わり、韓国軍は浅い海の黄海で中国の潜水艦(北海艦隊)を阻止する体制を築いている。また日本は東シナ海から南西諸島を抜けて太平洋に進出する中国軍の潜水艦(東海艦隊)を阻止する体制を強化している。

 台湾海軍も米側が了解すれば、通常型攻撃潜水艦をドイツなどから購入し、台湾近海で潜水艦作戦を強化できる準備を整えている。しかし台湾の場合は、まだそれほどの脅威を感じていなく、アメリカは台湾の潜水艦強化で中国を刺激することを避けている。

 残った南シナ海の潜水艦(南海艦隊)を米軍が担当しても、米海軍の潜水艦戦力は中国軍の戦力をはるかに凌駕(りょうが)している。米海軍が中国軍とのパワーバランス(潜水艦戦力)に危機を感じることはまったくない。

 また日米で共同して浅海用の低周波ソナーなど、すでに多くの潜水艦戦争の技術分野で新しい対抗策を研究・開発中であることは中国も痛いほど知っている。そこが冗談4割の理由である。

 しかし気になるのは、6割が本気とした部分である。そこで気をつけなくてはいけないのは、単純にアメリカと中国の隻数の比較だけではなく、米中の戦略の違いも重要な問題になる点だ。私は先日の「中国国防費6兆円超」(What New 3月5日)に書いたが、中国の軍事力はアメリカ型の外征軍(外国で戦う軍隊)ではなく、古代の都市が築いた城壁のような軍事力を目指していると推測している。簡単に言えば現代版の”万里の長城”である。自分たちの生活圏、経済圏、交通圏、文化圏に、価値観の違う他民族が侵入してくることを拒否する”城壁”である。だから軍事費にばく大な資金を必要とするが、外征軍としては戦力が大きい訳ではない。

 中国がいつも空母、空母、空母といっても、過去に中国は空母を運用した経験はなく、むしろ空母を城壁(長城)のシンボルとして位置づけているのではないか。中国の空母は中国の沿海だけを航行し、陸上基地の航空部隊に守られ、公式行事(親善訪問)だけを行いに外洋に出かける空母である。まるで子どもが新しいおもちゃを欲しがるように、中国は日米の思考とは違った空母の姿を思い浮かべている気がする。

特集 開戦5年に聞く

 「混迷イラク」  −2−

反米感情

高める結果に

米、政権維持に戦争利用

ジョン・ブラウン元国務省職員

 (59才)が証言

(毎日 3月12日 朝刊)

[概要]証言・・・・・ブッシュ政権がイラク攻撃を始めた時、米国務省にはこの戦争が素晴らしいという同僚は一人もいなかった。私が戦争に抗議して辞表を出したとき、同僚から数百通の支持の電子メールが送られてきた。ブッシュ大統領自身、国際的なことにほとんど関心を持たず、どうして共和党政権を維持するかという国内問題が最大の関心事だった。だが02年11月の中間選挙に勝つために、大統領を強い指導者に見せかける必要があり、そのためにイラク戦争を利用した。

 米同時多発テロ後しばらく、米国民は正常な思考が出来なかった。「フセイン政権が大量破壊兵器を保有し、それをテロリストに渡すかもしれない」と大統領が語ると、誰も反対は難しかった。今では多くの国民が大量破壊兵器の保有偽情報はイラク侵攻の口実にされたことを知っている。

 ブッシュ政権幹部は今の状況をまったく予測していなかった。中東に関する無知のためである。ブッシュ大統領もイラクにシーア派とスンニ派の2派があることを知らなかった。ブッシュ政権内に外交感覚のある人物は見当たらない。イラク戦争のために世界中で反米感情を高めてしまった。イラクのアブグレイド刑務所での収容者虐待や拷問が影響している。

 イラク戦争を遂行するため、米政府はウズベキスタンやパキスタンなど独裁政権と手を結んだ。経済やエネルギー分野での近視眼的な利益追求をするから独裁政権を支援することになる。米国はもっと長期的な広い視野で外交をする必要がある。イラクはこれをアメリカに教えてくれた。

 ジョン・ブラウン元国務省職員は、米ボストン生まれ、プリンストン大学院で博士号(ロシア史)を取得。03年3月10日、イラク戦争に抗議して国務省を退職。辞職文に「なぜ、多大の犠牲を払ってイラクに侵攻する必要があるかのか」を書いた。現在ジョージ・タウン大学外交研究所上級研究員。

[コメント]この特集の第1回目の昨日(11日)、ジョン・ボルトン元米国連大使がインタビューに応じている。その中でボルトン氏は、「フセイン政権の崩壊でアルカイダのようなテロ組織がイラクに集中することになった。しかし世界のどこかでテロリストと戦わなければならないなら、米国や西欧で戦うよりイラクで戦う方がいいことは明らかだ。今、イラクでテロリストと戦うチャンスを得ているということだ」と話している。なんとも身勝手な見解に唖然とした。この程度の感覚しかない側近がブッシュ大統領を操ってイラク戦争を始めた。その罪の重さを反省するより、勝手な言い訳でイラク戦争を正当化している。これではブッシュ大統領が国民の支持を失い、イラク戦争に反対してきたオバマ候補が支持される理由がわかる。

 前にも書いたことがあるが、ベトナム戦争が終わって7年目に、日本のテレビ局の仕事で「アメリカのベトナム戦争の指導者たち」にインタビューしたことがある。その時に思った感想は、アメリカという国はこんなにも単純な理由で、自国民だけでも5万5千人の兵士が戦死するような戦争を始める愚かな国なのか、という点であった。まさに戦争が何でも正義の国のアメリカと、戦争が何でも罪悪な日本との価値観の違いだろう。

 アルカイダの様なテロリストにとってアメリカに出かけて行く必要がなく、イスラム教の世界(イラク)に武力侵攻してきた異教徒(米英軍)を打ち倒すチャンスを与えてくれたボルトン氏は恩人である。イラクの実戦で育て鍛えられたテロリストたちは、これから世界に出てイスラム原理主義の過激派として戦いを挑むだろう。どうしてアメリカがテロリストの主戦場になると想定しないのか。明らかにテロ戦争に対する知識が不足している。

サイバー攻撃を想定

官民合同で

 防御訓練

米が実施へ

  対処能力を検証

英国、オーストラリア、

カナダの各政府が参加

(毎日 3月11日 朝刊)

[概要]米政府は3月中旬、官民合同でサイバー攻撃への対処能力をを検証する大規模訓練「サイバー・ストーム2」を実施する。この訓練は国土安全保障省が主導する。ワシントン・ポスト紙によると、CIAなど18の連邦機関、40社以上の情報通信企業、さらに英国、オーストラリア、カナダの各政府も参加する。総費用は約620万ドル(約6億3000万円)。

 この種の訓練は06年の「サイバー・ストーム」に続き2度目。訓練はコンピューターシステムや通信網、パイプラインや公共輸送網を標的にした模擬サイバー攻撃を実施、防御システムの被害からの復旧体制などをチェックする。「サイバー攻撃対処能力をぎりぎりまで試すのが目的」(専門家)という。

 訓練に参加する国防総省は、中国の軍事力に関する08年年次報告書で、中国からのサイバー攻撃の警戒感を表明、07年には中国発とみられるサイバー攻撃にさらされたことを明らかにした。

※神浦・・・・今月3月8日のWhat New を参照してください。関連情報が掲載されています。

[コメント]この記事で詳しくふれていないが、なぜ英国、オーストラリア、カナダの各政府が参加しているのか。それは単純に英語圏という意味である。さらに詳しくいえば、この3国と米国、ニュージーランドを加えた英語圏の5カ国が、世界最大の盗聴機関・NSA(国家安全保障庁)が運営する「エシュロン」の構成国で、地球規模で通信を傍受し、通話内容を記録している。日本がこの訓練に参加を拒まれる理由もそこにある。

 かつてのエシュロンは軍事関連の無線通信や、電話(FAXを含む)回線の中継に使われる地上パラボラ・アンテナから漏れるマイクロ波通信、海底に設置された電話通信線などを盗聴していた。具体的には宇宙の通信傍受衛星や高空を飛行する通信傍受機で盗聴をおこなっていた。

 しかし最近は都市部の大使館に傍受アンテナを建て、携帯電話の通信を傍受している。またインターネットでおこなわれるメール通信にも傍受範囲を拡大し、高性能コンピューターを駆使して間口を広げた重要通信の傍受をおこなっている。

 それだけにサイバー攻撃を受けやすい体質を持っていると指摘できる。ハッカーはエシュロンに傍受されることを前提にして、エシュロンの通信システムを破壊する活動に挑戦するからだ。

 無論、ハッカーにとってはエシュロン以外にも、政府が管理するネット網や、公共企業などのコンピューターも標的になる。サイバー攻撃で交通・電気・ガスなど都市インフラを破壊(混乱)させれば、相手にばく大な損害を与えことが可能になり、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の面からも大きな成果を得られるからだ。

 米国がこれだけの大規模で恒常的にサイバー攻撃への対処訓練を始めたことで、今までの情報の保全や保守といった防御的な範囲(任務)から、国家戦略としてアクティブなサイバー攻撃を位置づける狙いがある可能性が高い。

米軍・次期空中給油機

 に欧州機を発注

米議会反発

「安全保障損なう」

契約総額 10年間

 約4兆1500億円

(読売 3月10日 朝刊)

[概要]米空軍は欧州の航空宇宙企業大手EADSに、次期空中給油機を計179機、総額約400億ドル(約4兆1500億円)を発注したと発表した。しかし米議会などは「外国機の導入は我が国の安全保障を損なう」と猛反発している。受注競争に敗れた米ボーイング社も7日、米政府の異議申し立てを、「真剣に検討する」と表明、国防族と組んで巻き返えす構えを見せている。

 次期空中給油機は現行の米ボーイングKC135などの後継機で、EADSと米ノースロップ・グラマンの企業連合のKC45Aと、ボーイングのKC767が受注を争っていた。当初はKC767が有利と見られていたが、米空軍は2月29日、EADS連合を選定した。米軍が主要装備で外国機種を採用するのは極めて異例。

 米空軍高官は5日、上院軍事委員会で証言し、KC45Aは仏エアバス社の大型旅客機A330を改造ししたもので、燃料搭載量や価格面で優れていると証言した。しかし議会では、民主、共和の議員に関係なく、反対意見が噴出している。ボーイング社の地元議員は、「雇用喪失につながる」として予算通過を阻止する構えを見せている。また共和党保守議員からは、「テロとの戦いに非難的な欧州諸国を利するだけ」という批判がある。

 ニューヨーク・タイムズ紙は7日、「米国製にこだわって高価格で性能が劣る機種を導入するのは納税者の利益に反し、国益も損なう」と指摘し、議会の動きを「保護主義的」と牽制する声も出ている。

[コメント]日本でも近い将来、必ずこのような議論が起こるだろう。いや、すでに起きているのだ。陸自の90式戦車を開発する際に120ミリ滑空砲を国産にするか、輸入にするか議論が起きた。結局、高価で性能が劣る国産を避けて、ドイツから性能が信頼できるラインメタル社製の120ミリ砲を輸入することを決定した。(製造は日本鋼管所がライセンス生産)※ 

 しかしその選定に激怒したのは、自衛隊を定年で辞め、この機械メーカーに顧問として再就職(天下り)した者たちである。彼らは陸幕に乗りこみ、兵器選定の後輩を怒鳴り、地元選出の国防族を使って国産砲採用の巻き返しを図った。しかし結果は、メーカー側の露骨な介入が関係者の批判を高め、120ミリ砲を輸入する声が強くなった。

 ここはニューヨーク・タイムズ紙が指摘するように、「国産にこだわって高価で性能の劣る兵器を買うことは、国民の信頼や国益に反する」ということなのである。国の安全保障の根幹である主要兵器の調達は、自国製に心がけ外国に依存すべきではない」という時代ではない。昔の戦争のように、何年間も国家総力戦が続くことは考えられない。例えば有事に日本人船員を確保して、日本の海運の安定化を図ることも無理なのである。

 外国製でも安価で高性能なら、短期間に大量に導入し、戦争を抑止できる戦力を築くことも大事である。とちあえず、89式小銃の生産を中止し、米軍が配備しているM4自動小銃のライセンス生産か輸入を考えてみるといい。また陸自が配備する軽装甲機動車だがPRGの直撃は無理でも、せめてAK47自動小銃への対弾性があるのか、試しに撃ってみてはどうだろうか。

※私が防衛利権や在日米軍再編利権、在沖米軍基地利権などに厳しく反対するのは、そのような体質を許しておくと、軍事費に寄生する者や企業が、どん欲にさらなる利益を追求して、やがて戦争さえも期待する風潮が生まれるからである。防衛に関する利権などの犯罪で、収賄事件や水増し請求事件、それに談合事件は、通常の商取引とはまったく異質な犯罪なのである。国民の生命・財産、兵士の命、民族の滅亡までも強く関与しているのだ。

※赤字の部分は読者の方からのご指摘(メール)で、3月13日に加筆して訂正しました。そのメールについては3月13日付けの「メールにお返事」を参照してください。

サドル師派の民兵組織

マフディ軍が分裂

イラク治安に懸念

総勢5万人の武装勢力

(朝日 3月9日 朝刊)

[概要]AFP通信によれば、7日、イラクのシーア派指導者で反米強硬派のムクタダ・サドル師が、自らが率いる総勢約5万人の民兵組織マフディ軍が内部分裂したことを認める声明を出したと報じた。自分自身もこれまでの活動から当面離れることを明らかにした。

 マフディ軍は昨年8月に市民多数を巻き込む抗争事件を起こし、サドル師の指示で戦闘停止が命じられた。今年2月には戦闘停止期間がさらに半年延長されると、米軍やスンニ派などに攻撃再開を求める好戦的な勢力が不満を募らせて分裂した。この武装勢力が動き出すと、再びイラクの治安が悪化する恐れがある。

 サドル師は声明で、「仲間の多くが指導者の指示に従わず、政治闘争に身を投じている。多くの者が世俗的な理由から分裂した」と語った。

[コメント]これはサドル師が仕掛ける偽装分裂の情報操作ではないか。すでにサドル師にはイラン側から駐留米軍やスンニ派武装勢力を攻撃することを禁じられている。しかしこの間、イラク駐留米軍はスンニ派勢力と協調してイラクの治安回復に動き出している。このままマフディ軍がイラク国内で動きを封じられたままでは、シーア派武装勢力が米軍とスンニ派に押し返されるとみて、分裂を装って反米軍・反スンニ派攻撃を再開した様な気がしてならない。

 無論、イラクで暗躍するイラン革命防衛隊も了承した”分裂劇”だと思う。いくらマフディ軍の好戦的な勢力であっても、イラン革命防衛隊の支持と援助がなければ米軍との戦闘はできない。表向きは、イラン政府の停戦要求にサドル師が従いつつ、背後ではサドル師から分派したとする好戦的な部隊に武装攻撃を再開させる作戦ではないか。

 今月2日、バグダッドをイランのアフマディネジャド大統領が歴史的な訪問をおこなっている。歴史的というのは、イラン大統領がイラクを訪問したのは1979年のイラン革命(ホメイニ革命)以来初めてという意味である。その間の1980年から8年間、両国はイラン・イラク戦争を戦った仇敵だった。

 そのアフマディネジャド大統領を迎えたイラクのタラバニ大統領とマリキ首相は、共同の記者会見を開き、「証拠もないのに他人を責めるのは、問題の解決にならない」と、イラクの治安悪化にイランが干渉しているというブッシュ政権の主張を明確に非難した。これはイランにとってブッシュ大統領が始めた中東戦争(イラン潰し)に勝利した瞬間だ。同時にイラクの主がアメリカからイランに代わる兆しが明確になった瞬間でもあった。

 そのような最新の政治状況を考えれば、今後、イラクのスンニ派がシーア派に攻勢を仕掛け、巻き返しに動くことは必至である。それをサドル師から分裂したというマフディ軍が応戦し、アメリカのホワイト・ハウスの主が代わる今年いっぱい持ちこたえれば、数年間の内にイラクの駐留米軍は潮が引く如く撤退するだろう。

 近い将来、イランはイラクのシーア派と組んで、中東に巨大なシーア派勢力圏を築きあげることが確実になる。これでブッシュ政権を操って中東戦争を始めたネオコンが敗北したことが証明される。 

ロシア軍需産業

墜落寸前

低品質、納期遅れ・・・

 相次ぐ破棄・返却

(産経 3月7日 朝刊)

[概要]ロシアが得意としてきた兵器製造などの軍需産業分野で異常な事態が起きている。ロシア側が契約を守らず、製品の質が悪いことから、契約破棄や製品の突き返しが相次いでいる。

 アルジェリアは2月末にビーテフリカ大統領が訪露した際、1昨年契約したミグ29戦闘機15機を、ロシアに返品することで合意した。この契約は47億ドル(約4858億円)で、支払いはアルジェの対露債務帳消しなどの引き換えで、ロシアに有利な内容だった。

 ロシアの武器輸出の4分の1を占めるインドとの間では、ロシアが05年に受注したディーゼル潜水艦の近代化改修が問題になった。搭載された対艦ミサイルが6発の試射で1度も命中せず、インドは1月までに製品の受領を拒否した。

 ロシアが納期や受注額を守らないケースも続出している。インドが04年に発注した中古空母の改修では、ロシアが契約額の7億5000万ドル(約775億円)を完工までに使い切り、追加の支払いと納期の2年延長を要求して交渉が難航している。

 また発展途上国向けの武器市場では、フランスがアルジェにラファール戦闘機の購入を打診し、アメリカはインドに中古キティ・ホーク空母の供与をもちかけ、ロシア兵器離れを加速させている。

 ロシアの武器輸出の4割を占める中国との間でもすきま風が強まった。05年に契約したイリューシン76輸送機34機と、同78空中給油機4機の売却は、ロシアの製造能力不足からつぶれた。

  露コンサルテング大手の「フィンエクスペルチザ」のミカエリャン社長は、「ロシアの軍需産業は最も閉ざされた分野で、ソ連時代の商法を引きずり、物価上昇の可能性など考慮せずに破格価格で受注してきた。労働生産制の低さも考えれば、ロシアの製造業に価格の優位さはない」と指摘する。

 露紙の独立新聞は、軍需産業での技術者不足と設備老朽化、製造能力を超えた受注といった問題に加え、「もはや第三世界でも単純な武器ではなく、(高度な)偵察・攻撃複合武器が求められる」とロシアとの認識のズレを指摘する。またライセンス供与を通じて武器製造能力を高めてきた中国には、露軍部内から警戒心が高まっている。また中国は最新武器を売却しないロシアに不満を募らせている。同紙は「欧州連合(EU)の対中武器禁輸が解除された場合は最重要市場を失いかねない」と危機感をあらわにしている。

 ロシアは武器製造以外でも、ノルウェーの大手船舶会社「Odfjell」が先月末に化学タンカー12隻の建造契約を破棄した。ロシアが追加費用を要請したうえ、昨年の納期を守らなかったためだ。中国もロシアが建設する江蘇省田湾原発について品質に不満を表明、露原子力庁も問題が多岐にわたる大規模なものと認めている。

 プーチン政権は航空機製造と造船分野で統合国策企業を創設、原子力分野でも同様な戦略を固めている。しかし大号令と裏腹に現実は厳しいようだ。

[コメント]この記事は凄いと思った。記事の内容も新しい発見があったが、私が要約して短くしたくとも出来なかった。どこも重要で要約できる部分がなかったからだ。まさに私自身の無力さを感じる凄い記事だと思った。

 そうか、そうだっのか。ロシアの兵器産業がいよいよ斜陽し始めたのか。もはやロシア製の兵器を第3世界まで必要としなくなったのか。また中国がロシアの兵器ビジネスに不信感を高めているのか。

 冷戦終結後にロシアの外貨獲得を支えてきた軍事産業が、老朽化でマヒし始めた。技術者の不足で支えることが難しくなった。この現実は世界の軍事状況に大きな変化を与える要因になる。

 本日の読売新聞(7日付け 朝刊)では、ロシアが軍事大国として復活した特集を掲載している。しかしロシア軍で強化されたのは対米用の戦略核兵器が中心で、発展途上国向けの通常型兵器輸出のことには触れていない。あくまでアメリカへの核兵器による殺生与奪権を確保することで、世界の軍事大国としての地位を維持したいのだろう。

米、「中国の軍事力」報告書

米中、

サイバー戦争の

既に前哨戦の段階

(産経 3月8日 朝刊)

[概要]米国防総省が3日に公表した「中国の軍事力」報告書では、米政府を含む世界のコンピューターネットワーク(CN)が、過去1年間、不正侵入にさらされていた事実が暴露された。報告書では「発信源は中国とみられる」と明記し、中国側からサイバー戦争を仕掛けられている懸念をあらわにした。

 正面装備の近代化で米軍から大きく後れをとる中国軍は、その近代化こそが米軍の弱点と看破し、CNへの侵入で米軍兵器の「脳、目、耳」を無力化する「非対称・混乱戦」に引き込もうと、米CN内の偵察を激化させている。戦争の定義にもよるが、米中戦争はすでに前哨戦の段階という見方も出来る。

 中国のCN偵察は軍事関係だけではなく交通、通信、金融、電気、ガス、水道など重要インフラにも向けられている。「敵をかく乱、欺瞞、陽動して主導権を確保、敵に虚を作らせ、一挙にその虚を突く」と説く「孫子の兵法」そのものだ。

 過去の実例を挙げれば03年9月、「チタン レイン」なるハッカーが米軍需企業のCNに侵入。数ヶ月後には同じハッカーが米国内の軍や核施設、宇宙関係の施設から機密情報を盗んでいる。米側は、中国広東省在住の3人を犯人と断定、中国軍との関わりを確実視している。中国軍はおびただしい数の専門家からなるサイバー戦部隊を編制し、その能力は多くの先進国をしのいでいる。中国ではサイバー部隊を情報の管理・保全部門ではなく、戦略として位置づけ、専門の教育機関まで併設されている。

 04年7月に韓国の情報機関・国家情報院は、国会や政府10機関や民間企業・報道機関のCNがハッキングされたと発表したが、発信源は中国軍所属の外国語学院だった。また在韓米軍司令部まで中国にハッキングされ、韓国語で書き込みまでされた。

 米国は外国からのサイバー攻撃に対し、クリントン政権時代に防衛シミュレーションを実施している。06年2月には、国土安全保障省が対サイバー攻撃部門を主催し、サイバー攻撃を想定した「サイバーストーム演習」を行った。この演習には米国防総省、CIA,FBI,NSC(国家安全保障会議),NSA(国家安全保障局)、国務・財務・エネルギー・司法の各省や、民間のIT企業30社を含む官民115組織が参加して対応を学んだ。

 今後、サイバー戦争が本格的に発展した場合は、日本は「集団的自衛権は行使できない」として、協力を拒むことはできない。日本は中国から米国同様に仮想敵に位置づけられえており、直接狙われる可能性も大きい。

[コメント]米国側からみれば中国のハッカー能力の高さがこの様な脅威になるのだろう。しかし中国側からみれば、これから中国軍が近代化で指揮・情報・通信など、軍組織のCNとの結合でハイテク化を高めれば、欧米などからサイバー攻撃されて大混乱する危険に陥る危機に悩まされる。そのために軍の近代化を進めながら、中国軍内にサイバー戦専門の研究機関や教育機関を作って対応策を研究することになる。そのサイバー戦の能力が高くなれば、アメリカに対する攻撃性も高まってくる。

 すなわち攻撃と防御は表裏一体のことなのである。サイバー戦争では敵からの防御能力を高めることが、同時に敵への攻撃能力を高めることになる。そのためにはアメリカ軍もサイバー戦争を戦略の位置に高めて、専門部隊の育成や研究を行って、対中国軍ハッカー部隊との実戦能力を高めるしか方法がない。相手が強いからと嘆いてもぼやきにしか聞こえない。今は中国とアメリカのサイバー戦争の優劣を比較すれば、アメリカ側がはるかに優位な位置を占めている。

 日本の場合、自衛隊は専用のCN回線を構築し、外部からの侵入(接続)を拒否する戦略をとっている。(海自や空自の戦術データ・リンクは除く)それこそ日本版CNの専守防衛で、企業や研究機関など多くのCNと繋がった米軍のCNとは別の考え方をしている。しかし有事に中国軍のスパイが自衛隊員として侵入すれば、日本の防衛回線は大きなダメージを受けることになる。

 ならば国連などの国際機関でサイバー攻撃を禁止する条約を批准しても、ボーダレス時代にCNが個人で繋がったネット空間をコントロールすることは難しい。

 日本はミサイル防衛(MD)を通じた海自や空自の米軍との共有通信システムや、陸自の新型戦車やAH64攻撃ヘリ・ロングボーの採用で、一気に戦場ネットワーク化(RMA)が進む。いよいよ日本にも自衛隊に本格的なサイバー戦争を想定した防御部隊を創隊する時がきたようだ。すなわち防御部隊でありながら高い攻撃性を持ったハイテク部隊である。”攻撃は最大の防御なり”か。

中国・全人代報告

国防費は6兆円

近代軍へ

   脱皮目指し

「隠し予算」指摘も

(毎日 3月5日 朝刊)

[概要]5日から開催される全国人民代表大会(全人代)の冒頭、温家宝首相が行う政府活動演説の内容が判明した。08年の経済成長率の目標は前年同様に「8パーセント前後」とする。一方、全人代の姜恩柱報道官は4日、08年度の国防予算案が前年実績比17,6パーセント増の4177億6900万元(6兆600億円)が計上されると述べた。中国の国防予算は1989年以降から20年間連続で2ケタの伸びを記録することになった。姜報道官は増額の理由を、@軍人の待遇改善 A物価の上昇 B訓練需用 C装備のハイテク化 を上げた。

 中国の軍事力は国境防衛を主眼とした陸軍中心の途上国型軍隊から、周辺地域を含めた作戦能力を持つ近代軍への脱皮を目指す中国軍を印象づけている。中国海軍は近年、空母建造構想を具体化させ、遠洋型海軍への脱皮を図っている。空軍も本土から南シナ海の南沙諸島を作戦半径に収める空中給油機を導入した。

 中国の軍事費は公表された国防予算だけではなく、米議会からは「実質的な国防費は予算額の2〜3倍」と指摘され、「隠し予算」の投入が疑われている。すでに昨年には日本の防衛予算を上回っているなど、中国の軍事費は周辺諸国と比べて突出している。

 だが中国の国防予算は90年代以降、政府予算の占める割合は8パーセント前後で推移してきたのも事実である。国防費は総額では大きく伸びているが、中国共産党の統制下で「枠」が守られていたことで、軍の正規化が進んでいる現れである。

 姜報道官は予算増額のひとつの理由として、「訓練需用」を挙げた。近代的な装備の購入や訓練の費用は、これまで中央の国防予算だけではなく、科学技振興予算や地方政府予算に割り振られているといわれていたが、予算増に伴って見直しが進められている模様だ。

 しかし20年間連続で国防費が2ケタの伸びを示したことから、中国の軍備増強への警戒感が強まりそうだ。

 台湾国防部は4日、22日の総統選を控えて、中国軍の最新軍事動向を公表した。台湾向けには大きな変化はなく、同部は「異常な動員などはみられない」としている。

[コメント]そろそろ中国政府も軍事費(予算)の2重構造では、自らも正確な軍事力を評価しにくくなっていると感じ始めたようである。外国から購入する兵器を軍事費に入れず、科学技術振興予算に入れて誤魔化すと、科学技術振興費が混乱して、両方で正確なバランスシートが出来なくなる。また演習や訓練の費用を地方政府の予算に組めば、地方政府からは予算を軍に奪われるという非難を生むことになる。また軍事組織も将来の計画や抗戦能力などを推計する基礎資料に、2重構造で隠された軍事予算の統計では正確な計画書はできない。もはや中国軍はワンマン経営者が好き勝手にする中小企業ではないのである。

 しかし中国は巨大な軍事力を築けば、その重みで自壊する国家組織であるように思う。かつて軍事大国であり得なかった国が、新たに軍事大国を目指しても、過去と同じ理由で挫折する運命にあると思うのだ。かつて日清戦争で破れたのと同じ理由である。

 そのことは中国も理解していて、中国がかつてのソ連軍のような軍事力を築くことと、米中の新しい冷戦構造は避けると理解している。そのような軍拡(軍備競争)は意味がないし、それでは中国が繁栄を続けることはできない。

 中国が求めている軍事力は、古代の砂漠の都市が築いたような城壁ではないだろうか。アメリカ型の外征軍ではなく、国家の安全を象徴する城壁のような気がする。それによって城壁都市の住民を安心させ、城壁の外からの商人を招いて交易し、城壁内の繁栄を図るための軍事力である。

 ただしアメリカ本土を核攻撃できるICBM(大陸間核弾道弾)やSLBM(潜水艦発射核弾道弾)だけはいつでも発射できる状態を維持している。もしアメリカが中国の城壁を壊せば、米本土に核ミサイルを撃ち込むためである。そのような軍事力の使い方もある。

パキスタンのテロ

”仲介役”の

 部族長も狙う

武装勢力 標的選ばず

(産経 3月4日 朝刊)

[概要]パキスタンの北西辺境州でテロ攻撃が激化している。2日に同州内の部族地域で発生した自爆テロでは、従来の過激派と折り合いをつけつことができる”最後のとりで”の部族長老会「ジルガ」が狙われ、100人以上が死傷した。このテロは部族の長老を含む約1000人が集まり、部族地域からの軍・治安部隊の撤退の申し入れなどの討議を終えたところで起きた。

 イスラマバードの消息筋は「すでに武装勢力は標的を選ばない。軍や治安部隊の士気の低下や新たな政府への揺さぶりを狙い、深刻なテロが頻発している」と指摘する。

 北西辺境州の部族地域は他の地域と異なり、歴史的に中央政府が直轄地域としてきた。しかし、実際は中央政府の力が行き届かず、部族の長老らの指導による”自治区”の色合いが強い。そのためタリバンなど武装勢力との交渉窓口の役割を担っていた。しかし昨年3月以来、目に余るテロ攻撃にアルカイダの外人部隊と緊張が高まったため、テロに対する歯止めをかける姿勢を鮮明にしていた。

 先の消息筋は、「今はテロ阻止の対策がない。今回のテロで最も動揺したのは、大規模なジルで狙われることはないと思っていた部族の長老だろう」としている。テロ対策の一環として部族指導者は対話をあげてきたが、今回のテロ攻撃でそのような効果を不透明にした。

[コメント]アメリカで大統領選を戦うオバマ候補(民主党)は、アメリカの対テロ戦争の戦略をイラクからアフガンとパキスタンの国境に主軸(主戦場)を移すとの見解を示している。アフガンの北部とパキスタンの北西部の国境地帯には、アルカイダなどの武装集団の拠点があるといわれ、ビンラディンら指導部の一派が隠れ住み、パキスタン政府も力が及ばない辺境と言われている。そのテロ勢力が支配する辺境地域に、オバマ候補はパキスタン政府の了解が得られなくとも、アフガンのアメリカ軍を越境攻撃させると宣言したのだ。

 そのオバマ候補が大統領選で勝利するのがほぼ確実な勢いになってきた。同時にそれは、パキスタンの北西辺境州がアメリカのテロ戦争の戦場になることを示している。その戦いを前にして、アルカイダやタリバンなど反米武装勢力は、アメリカ側につくような長老を自爆テロ始末し、強い恐怖心を与えることを狙っている。

 すなわちパキスタン辺境州の治安悪化は、アメリカの対テロ戦争が始まることの前震なのである。

 しかしアメリカがパキスタン北西部とアフガン国境に主戦場を移しても、今のようなイラク米軍の大兵力をこの辺境地域に投入することはしない。むしろ徹底的な新しいハイテク戦争が行われことは間違いない。24時間・全天候性の性能を持つ、無人偵察機、地上に設置された監視センサー、宇宙からの衛星監視、偵察ヘリのパトロールなどが、人や車の移動や火(熱源)の使用を探知する。そこに精密誘導砲弾やGPS誘導のミサイルが発射される戦争である。辺境州周囲には米軍の包囲網が築かれ、中から出てくる者たちを厳しく監視する。

 これはベトナム戦争で始まった戦場無人化計画の超ハイテクの現代版となる。オバマ候補に対テロ戦争の新戦略をアドバイスしけた者たちには、このような新しい戦場計画への野心があるのだ。

イラン大統領訪問

イラクへの

  影響力誇示

孤立化狙う米けん制

(読売 3月3日 朝刊)

[概要]イランのアフマディネジャド大統領の歴史的なイラク訪問は、イランの核開発を理由にイラン孤立化政策を進め、欧米諸国が対イラン制裁へと動く最中に行われた。アフマディネジャド大統領はブッシュ大統領が最大の懸念であるイラク情勢への影響力を誇示し、イランを排除した米国が目指す中東の民主化・安定はないことを世界に訴えた。

 イラク政府高官によると、2日夜、アフマディネジャド大統領はバグダッダ中心部にあるタラバニ大統領公邸に宿泊するという。公邸は米軍が厳重に警戒するグリーンゾーンの外にあり、イランのシーア派を嫌うイラクのスンニ派過激派に狙われる可能性があっても、米軍の保護を受けない意思表明を行ったと言える。

 今のイラク中央政府で核になっている「イラク・イスラム最高評議会」などシーア派政党の幹部は、フセイン政権時にはイランに拠点を置いていた。シーア派の反米強硬派指導者ムクタダ・サドル師が配下の民兵組織マファディ軍に戦闘停止を命じているのもイランの意向という。イラク情勢を好転させるか流動化するのはイラン次第という側面がある。

 アフマディネジャド大統領は2日、タラバニ大統領の会談後の記者会見で、「過去にイラクは周辺国に敵対行動をとったことがあるが、今は、あらゆる点で我々(イラン人)と同じ見解を共有している」と両国の関係を強調した。タラバニ大統領はイランの要求に従い、反体制イラン人組織「ムジャヒディン・ハルク」をイラン領内から追放することを明らかにした。このように仇敵同士の和解は米国への苦いメッセージなったに違いない。

[コメント]これはイランのアフマディネジャド大統領の勝利宣言である。すでにイランが核兵器開発を放棄したことは米国の情報機関が公式な報告書(昨年)で証明している。アフガンでタリバンが攻勢を強めているのも、過去に宿敵だったイランの革命防衛隊の支援があるからという。またイラク国内でも高性能仕掛け爆弾(IED)は革命防衛隊が指導している証拠が見つかっている。イランを挟んで両側で米軍と戦闘する勢力に革命防衛隊は支援をしている。

 これは対アメリカというよりも、かつてブッシュ政権で権勢をふるったネオコン勢力が、イランの革命防衛隊との非正規戦に敗れたのである。その対ネオコン勝利宣言を今回、アフマディネジャド大統領はバグダッドで行った。

 すでにアメリカではイラク戦争に反対したオバマ大統領候補の優勢が決定的になっている。米国民に不人気なブッシュ大統領のイラク政策が批判されていることは確実だ。今年末の米大統領選挙後にオバマ当選を受けて、イラクの米軍勢力は大幅に削減されることはいうまでもない。

 しかしイランとイラクのシーア派が政治・軍事的に結びつけば、中東全体に強いインパクトを与えることも間違いない。そのことによって中東全体が安定することも考えられるが、これからはイランがロシアとさらに結びついて発言力が増すことも間違いない。親米といわれるサウジやヨルダンなどは震え上がることになる。

 またイスラエルが危機感を強めると中東情勢が一気に悪化する要因となる。すなわちこれは、現在、イスラエル軍がパレスチナ自治区のガザにイスラエル軍が大規模な攻撃して開始したことと無関係ではないという意味である。パレスチナ問題の解決は当事者間の問題ではなく、さらに中東全体の状況を色濃く反映する状況に進んだということになる。

本日、駅伝参加

更新を休止

昭和記念公園・駅伝大会

(3月2日 日曜日)

  本日は、立川市(東京都)の昭和記念公園で開催される駅伝大会に参加するため、ホームページの更新を休止します。本日の駅伝には私のランニングクラブから4チーム参加します。A,Bチームはもの凄い速い人たちのチームで、Cチームはそれなりに速い人です。私はDチームで初参加やちょっと遅い人が集まっています。

※ メールにKC767空中給油機に関する情報だ届いていますので、掲載だけしていきます。お返事を書く時間がないのです。午前7時半に最寄りのJR駅に集合です。あと20分しかありません。勝手を言ってすいません。

石破防衛相・答弁

飲酒ないと信じる

衆院予算委 防衛省問題

(毎日 3月1日 朝刊)

[概要]29日に行われた衆院予算委員会のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故に関する集中審議で、あたごの飲酒に関する質問と答弁があった。

前原氏(民主党) 「(あたご)艦内で飲酒していたとの報道がある」

防衛相 「艦長の答申書では 『2月4日のパールハーバー停泊中の米海軍関係者との艦上レセプションを除き、酒類を使用させたことは一切ない』と言っている。そういうことはないと信じている」

前原氏 「漁船とぶつかるのは信じられない。自爆テロ船に対して脆弱だ」

防衛相 「テロ船をきちんと把握できる体制で動かしているが、今回、なぜ考えられないことが起きたのか、検証する必要がある」

 という質問と答弁の審議が行われた。(質疑応答の新聞記事は概要)。

[コメント]すでに私は石破氏が軍事知識に疎いと書いた。同時に民主党の前原氏も同様な指摘ができる。ともに与野党で軍事問題の専門家と称しているのが共通している。なぜ両氏が軍事に疎いかはこの問答で十分に証明できるのだ。私はこの国会質疑を外出中のラジオで聞いた。

 まず前原氏の「飲酒疑惑」の質問だが、ただ「報道がある」とだけ情報源を指摘している。これで思い出すのは偽メール事件を起こした永田元議員(民主党)のことである。インチキな週刊誌記者に偽情報を告げられ、さも真実であるように国会で取り上げたのが偽メール事件の始まりである。今回のあたご乗員の飲酒情報も、偽メールと同じ様な質の悪い情報と疑うべきである。多少でも軍事を知れば、艦内で飲酒することがどれだけ乗員の士気を下げるか気がつく。航海中に酒臭いだけでも処罰や内部告発の対象になる。航行中の艦内では酒の臭いから隠れ酒はできない。

 マスコミにはそのようなインチキな情報をでっち上げて売り歩く輩がいる。昨日は、ある活字メディアから、「あたごの乗員が事故時に右舷見張りをしていた海士が携帯電話をしていたというが本当か」と問い合わせを受けた。あたごが日本の沿海に近づいたので、見張り員が携帯電話に夢中になり、清徳丸の接近を見逃したという情報を掴んだという。このような情報が質の悪い情報なのである。あたごは事故時に陸地から40キロほど離れていた。この距離では携帯電話の電波は届かない。圏外。これは携帯電話では常識中の常識なのに、海を知らない者が想像するとこのような怪しげな情報が生まれる。とりあえず携帯電話会社に確認を取るようにアドバイスした。

 つぎに自衛艦が自爆テロ船に襲われる話しだが、いまだかつて航行中の軍艦がテロ船に襲われた事

例はない。イエメンで起きた米海軍の駆逐艦コールへの自爆テロは停泊中に起きたもので、航行中ではない。先日、ホルムズ海峡を航行中の米海軍・艦船がイラン革命防衛隊の高速艇から威嚇されたという事件も、威嚇の根拠になった無線による脅迫は、イラン革命防衛隊の高速艇と特定できなく、米海軍がイタズラ説の可能性を公表して威嚇説は霧消した。

 海自が漁船のテロに備えた行動をとったのは、同時多発テロの直後に、横須賀から出港した米空母キティー・ホークに対して、漁船や貨物船に偽装した自爆テロを警戒して、海自の護衛艦が見送りと称して伊豆・大島付近まで付き添って警護しただけだ。

 もちろん石破氏が言うより逆で、海自は通常から自爆テロに備えた体制はとっていないし、取りたくてもとれないのである。それが対テロ戦の本質で、テロとの戦いの難しさである。考えれば、自衛艦ですべての漁船が自爆テロの可能性があると認識すれば、東京湾はもちろんだが豊後水道、瀬戸内海など、漁船が山ほどいる海域は通行できなくなる。母港に停泊中も自爆テロの警戒を怯えることになる。そのような対応は無理なのである。これは決して怠慢ではない。そもそも今回の漁船衝突事件を、自爆テロ船と同列に考えることに幼稚さを感じる。

 これが私の感じた両氏の疎さを示す証明である。それでもまだ両氏は軍事知識に精通した者という評価を与えますか。石破氏、前原氏の両氏が、与野党で軍事の大家と称されるうちは防衛省は絶対によくならないと思う。

※ 私は政治家や企業人を含め、個人の性格や素質など、このHPやメディアで批判や悪口を言わないと決めてきました。その自らの決まりを今回の衝突事件で破りました。やはり冷静に考えますと、一方的な批判や悪口は避けるべきと考えます。しかし今回だけは特例として掲載し、明日からは自らの決まりに従いたいと考えました。

自衛隊に初の空中給油機

小牧基地に配備

1機223億円

(朝日 3月1日 朝刊)

[概要]航空自衛隊では初の空中給油・輸送機KC767(ボーイング社製)が小牧基地(愛知県)に配備された。空中給油機の導入をめぐっては「専守防衛の枠を超える」と議論を呼んできた。空自では2年後の本格運用を目指している。

 KC767はボーイング社の旅客機B767を改造し、飛行中の戦闘機に給油したり、貨物や人員の輸送機として活用する。価格は1機223億円。

[コメント]このKC767機を輸送機して使う場合は、胴体内にあるゴムで出来た燃料タンク(給油用)を取りだして、床や椅子を取り付けて容易に改装できる。現有のC−130輸送機と比較しても、C−767輸送機として、航続距離や搭載量が飛躍的に大きくなる。また戦闘機に空中給油することで、戦闘機の滞空時間が増えたり、航続力が飛躍的に伸びることになる。KC767機の運用は空自の作戦対応能力が拡大し、基礎的な航空戦力を大幅にアップすることになる。

 小牧基地にKC767機を配備するのは、この基地が日本の中心部にあり、全国の空自部隊を後方支援するのに適しているからである。

 今までは自衛隊に北朝鮮を攻撃できる能力はないとしてきたが、KC767空中給油機の配備で北朝鮮を攻撃できる能力を得たことになる。

胴体内にあるゴムでできた燃料タンク(給油用)については誤った表現というご指摘のメールが届いています。「メールにお返事」のコーナーを参照してください。このメールで指摘されたように、KC767は胴体下部に給油用の燃料を搭載したまま、胴体上部に兵員や貨物の輸送が可能な輸送機です。空中給油と貨物(兵員)輸送の同時運用が可能な機体です。皆様に誤解を与える記述をお詫びします。

 


※これ以前のデータはJ−rcomFilesにあります。