掌とお吸い物

だれもいないばしょ
これはゆめかまぼろし
はるかやまを
はしったちからいっぱい
くりかえすゆめかまぼろし

さあおいかけて
さあおいかけて　

ふいにおおきなおとがした
きけど　またきけど
それはまるで　こえさ
おどれおどれ　たわむれに

かえるとおきてとりとねて
きのこのやまにのぼりうたい
とおくのさんみゃくをながめる

なくこともなくわらうこともなく
みなむひょうじょうに
そのめはしんださかなのよう

このよよさらば
ゆめを　みる
あおいよるにだかれて

べにばな　さきみだれる
そうごんな　みづうみのほとり
あさはにどとこない
さあ　　　おいかけて
　　　　　　　　

僕は寂しがり屋なのだけど
人と話すより自分で考えたことに
自分でクスクス笑っている瞬間のほうが好きなのだ

閉鎖空間で誰とも喋らず
ただ日がなのんびり過ごすだけにしておくと
人間は狂ってしまうらしいけど
僕も果たして狂うだろうか？

もう狂っているから大丈夫
なんて言う人もいるけど
僕は狂っているように見えて
これが正常なのだ

僕が狂ったとしたら
きっと大好きなチーズあられを罵倒しているだろうから

だにを！のみを！ありを！
いもりを！ねずみを！ねこを！
いぬを！さるを！ひとを！
わにを！かばを！いるかを！
しゃちを！ぞうを！くじらを！

にぎりつぶして
いちばんきたなかったのは
いがいとひとじゃなかったんだなあ

心臓が痛いよ　救心黒い粒
私を助けて　

口から胃の中へダイブ

ころころ　ころころ

ころころ　ころころ

ぶつぶつ

いこういこう森まで楽しいピクニック
古ぼけたサック背負って
誰にもいってきますは言わない
目指すのは奥深く誰も行ったことない場所

水筒もお弁当も方位磁針もいらない
必要なのは覚悟とお手紙
古ぼけたサックに詰めて
目指すのは奥深く誰も行ったことない場所

鳥が騒ぐ虫が騒ぐ
宙ぶらりんの先客も騒ぐ
また来たまた来たと騒いでいる
耳を塞ぎながら奥を目指す

最も奥深くに辿り着いて
見あげたら美しい夜空
今夜はここで眠ろう
今夜ここで眠ろう

淡くぼんやりと輪郭だけを
闇に慣れた目が捉える

どれだけ歩いてきたか
さっぱりわからないが
足はもう棒のようだ
座り込むことはできない

一本道夜道
他に誰もいない　泣きはしない
泣きはしないが　寂しかった

どこからか懐かしい匂いが
運ばれてくる鼻を擽る

それは来た道から
漂っていて
涙を流すけれど
戻れはしない

一本道夜道
他に誰もいない　笑えてきた
笑えて来たが　寂しかった

顔の無い馬が家に来たので
「今家の者はいません」と誤魔化した　真赤な嘘

見てもいない夢の為の　時間を徴収しにきたのだ

諦めて帰ったと見せて　ずっと見張っている
繰り返し鈴を鳴らす亡霊を寄越してくる
私は見てないふりでやり過ごす

亡霊が5人か6人部屋に溜まったのを
箒で掃きだして　見なかったふり


　

矩形人間は眠っている　眠っている間顔が無い
覗き込む私の顔がそのまま映り込む

矩形人間は眠っている　棒で無理やりたたき起こすまで
不機嫌そうに唸っては起きて、稲妻を食べながら喋る

指先で棒を叩くごとに　面白いように顔が変わるけれど
それに気をとられていると　私の命は削られていく

見詰め合ってしばらく　ふと気づいてみた鏡の中の
私はやつれて精彩を欠いていた

矩形人間との距離は一定に保たなければ駄目だと
母の忠告を守らなかった

気が付けば一日中　暗い部屋で見詰め合う
矩形人間の虜になってしまった