僕は一足先にシャワーからあがってすぐさま髪を乾かしはじめた。
帰ってきたばかりなのに、、出かける準備。
自分でも驚くほどに身体が勝手に動いてて。
あっという間に一通りの仕度が終わった。
不思議そうに僕を見つめるまーな。
「ちょっと出かけてくるっ!!」
僕はそう言ってすぐにおうちを飛び出した。
まさに衝動的な行動で。
計画性なんか全くなくって。
ただ、ただ、
時間が惜しかった。もったいなかった。
なにが?
直樹くんのこと。
このままじゃダメだって。
まーなときちんと向き合えないって。
まーなにきちんと報告できないって。
だから。
だから今すぐにでもハッキリさせようって急いでた。
半乾きの髪の毛をなびかせながら…すでに汗だくな僕。
彼との待ち合せ場所だったコンビニに向かいながら電話をかける。
コールはするもののなかなかでない。
そうこうしているうちに目的地に到着した。
はぁはぁって息切れしながら。
もう一度、彼に電話をしようとしたときだった。
♪♪♪ ♪♪
♪♪♪ ♪♪♪♪♪ ♪♪
着信。
彼からだった。
「もしもし!こんな早く電話くれてすんげぇ嬉しいよ!」
僕の状況を知るよしもなく、、
とにかく元気がいい電話口の彼。
「いきなりでごめんなさい!」
「あの…今から会えないかな!」
「今日のコンビニの前に今いるんだけど会えないかな!!」
僕はかなり必死な雰囲気をかもし出しながら彼に言った。
「マジ?!」
「めっちゃ嬉しい!!!!!」
「全然おっけ!まったく問題なし!!」
「そっこーで行くよ!!!」
「シャワー浴びちゃって思いっきり部屋着でラフな感じだけどね!」
かなりの早口。
テンション上昇中って雰囲気の彼。
電話を切ると僕は大きく深呼吸。
彼が来る。今から来る。
今日キスした相手が今から僕に会いに来る。
急に不安になりはじめた。
だけど…
その不安を払拭するほどのパワーをその時の僕は持ってた。
ついさっきまでのまーなとの時間。
十分すぎるほどに「頑張るぞ!」パワーを充電できてた。
少しずつ落ち着きを取り戻しながら…彼に何から話そうか考えてた。
『僕、、実は男♂なんだ!!!』
いきなりこの衝撃的なセリフでいこうか…
彼のペースに巻き込まれる前に、僕の伝えたい事を一方的に伝えよう…
そんな調子で意気揚々とたくましく考えてる僕の耳にクラクションの音。
彼が来た!
僕は急激に冷静になっていくのを感じながら彼の車に乗り込んだ。
さっきまでの勢いが嘘のように僕は落ち着いた状態だった。
「こんばんはっ!!」
笑顔いっぱい元気いっぱいの彼。
だけど、この時の僕は海のときの僕とは別人で。
「いきなりごめんね。」
「あのさ…いきなりついでに聞いてほしいことがあるの。」
「あたし…」
「て、ゆうか、僕だね。」
「うん…僕。意味わかる?」
きょとんとしてる彼。
それを無視するかのように僕は淡々と話を続けた。
「あのね、僕、、、男だから。」
「直樹くんとおんなじ。」
「男の子。」
「だから、貴方とは付き合えないし、恋愛対象じゃない。」
まったく意味を理解していない様子の彼。
「性転換ってわかる?」
「僕さ、男の子から女の子へ自分の性を変えちゃった人だから。」
急激に青ざめていく彼…
やっと状況をわかってくれたって思った。
でも…彼からの言葉は、
「そっか。そこまでか。」
だった。
今度は僕が理解できない。
彼の言葉の意味がまったくわからない。
「そんな嘘話をするほど相手が好きだって事だよね…」
「俺ってよほど魅力ねーんだな…」
僕はため息。
わかってない。
彼は僕の話をきちんとわかってなくて。
「嘘?」
「ぜんぜん嘘じゃないよ!本当だよ!」
僕は必死に彼に訴えた。
とっさにカバンの中に忍ばせてた写真に手をやった。
…
昔の自分を忘れないようにって密かにいつも持ち歩いてた性転換前の写真。
「これ。見てよ。昔の僕だから。」
彼に写真を手渡すと…
彼は軽く写真に目を通して…
「誰こいつ。」
「いくらなんでも無理があるでしょ。この写真。」
「男とか女とかそれ以前に人間として別人じゃん。ありえないし。」
かたくななまでに信じようとしない。
だけど僕はここで引き下がるわけにいかなくって。
「本当だって!!」
「信じてよ!僕、彼女の為に性転換したんだから!!!」
思わず口にしてしまった…彼女の為に性転換発言。
「は?」
更に冷めた目で僕を見る。
すると、突然なにかを決意したかのように彼の目に力がこもった。
それと同時に彼は、、僕の手を両手で力強く握ってきた。
そして、彼は僕のことを強引に自分へひきよせた。
「オマエのどこが男なの?」
「教えてよ…」
「この顔…この身体…どこか男なのか教えてよ…」
僕の耳元で彼がささやく…。
「オマエ…女じゃん。」
そうゆうと彼は僕の髪を撫ではじめて…
「好きだよ…」
「オマエがどんなに女が好きだろうと、俺はオマエが好きだから…」
「俺的にありえねーよ…レズとかさ…」
「女にはやっぱ男だろ…」
口説かれてる?!
僕はハッとした。
また、同じあやまちを繰り返すところだった。
今まで受けたことのない扱いを男性から受けてカラダが硬直して…
自分の意思とは関係なくされるがままの状態…
もうそんな言い訳はしたくない!逃げたくない!
そう心の中で僕は叫んでた。
「やめろ!!」
僕は彼からの抱擁を振りほどき思いきり睨んでた。
女の体に負けない男の心。
意味不明な例え方だけど、、そういう状態だった。
カラダがいくら女性化してたって…
ココロが流されてなければ抵抗できるはず。。
いや、、、きちんと抵抗できてた。
自分で自分の身を守る。
自分の意思表示をハッキリとする。
とにかくこの事だけを考えて彼に叫んだ。
「愛しているのは彼女たった一人だから!!!」
男らしかった。て、思う。
少なくとも海で黙ってキスされてしまう様な情けない僕じゃなかった。
この時…
何が自分にとって一番大切なのか。
が、ハッキリとわかってた。
だからこそ、、、
硬直してるカラダを解き放ち彼に対して毅然とした行動ができた。
だけど彼は…