「いずれは日本でも上映を」。井上さん(右から5人目)、村沢さん(同2人目)とエンダンさんの家族
映画の題名はインドネシア人青年の敬称を冠した「マス・エンダン」。
エンダンさんは西ジャワ州チレボン出身で、漁業研修生として2006年4月に来日し、日向市漁協所属のマグロはえ縄漁船で働いていた。
水難事故は昨年8月11日、同市の伊勢ケ浜海水浴場で起きた。エンダンさんは研修生仲間と休暇で訪れていて、潮に流されて助けを求める女子中学生を発見。海に飛び込み、救助に向かったが、自分も流されて水死した。中学生はほかの人に救われた。
井上さんはインドネシアの邦字新聞で事故を知り「この事実を広く伝えたい」と映画制作を決意。同国の大学で映像を学ぶ村沢崇宏さん(25)とともに同年秋から制作を開始し、エンダンさんの故郷チレボンで家族や恋人に、同12月には日向市にも足を運んで漁業関係者や救助隊員らにインタビューした。
映画は、収録した48時間分のフィルムを70分に編集。2月にチレボンやバンドンで計3日間上映したところ、約1000人が見たという。
井上さんは「国籍は違っても人を思いやる気持ちは同じ。日本でも上映したい」と話している。
■エンダンさんの遺族に対し補償 県警
人命救助中に亡くなったエンダン・アリピンさんについて、県警は「自らの危難を顧みず、人命救助に当たった」として「警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律」に基づき、エンダンさんの遺族に対し補償を行うことを決めた。県によると、4月以降に約900万円が支払われる。
26日には、補償にかかわる文書の翻訳に協力したとして、県インドネシア友好協会の道休誠一郎事務局長(54)と会員の曽我ヤニさん(55)に感謝状を贈った。道休さんは「泳ぎが得意ではないのに、おぼれる人を助けようとしたエンダンさんの行為に心を打たれた」と話した。
=2008/03/29付 西日本新聞朝刊=