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指導要領告示 ルール無視の修正だ

3月29日(土)

 文部科学省はいかにも姑息(こそく)である。

 愛国心教育を強調する幾つかの修正を、国民の目のとどかないと

ころで土壇場になって強行し、新しい学習指導要領を告示した。

 「愛国心」という個人的な価値観を押しつける教育には反対意見が根強い。2006年の教育基本法改定時にも議論が分かれた。

 2月に公表された改定案にはなかった踏み込んだ内容だ。改定案は、政令に基づく公式の機関である中央教育審議会で時間をかけて話し合い、まとめ上げたものだということを忘れてはならない。

 「特に重要な修正部分はない」という文科省の言い分は、説得力がない。

 今回の修正は行政手続きとしても不透明である。道徳教育をことさら重視したがる役所なのに、ルールを軽視し、国民を欺くかのようなやり方は道徳的ではない。不信感が募るばかりだ。

 改定案からどう変わったか。主な修正点を示す。

 全教科に共通する「総則」は、「伝統と文化を継承し、発展させ…」という表現だったのが、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し…」となった。

 小学校の国語では読み聞かせなどの素材として「神話・伝承」を加え、音楽では君が代を「歌えるよう指導する」と特記した。愛国心教育を、より強調し、復古的な色合いを濃くしている。

 文科省は「強制の意図はない」という。だが、同省のこれまでの説明では、学習指導要領には法的拘束力があることになっている。言うことがちぐはぐだ。

 新指導要領は小学校で3年後、中学校では4年後に完全実施となる。もともと、ゆとり教育を見直す今回の指導要領によって、詰め込み教育にならないか心配されている。そこへ新たな問題が持ち込まれることになる。「歌う」ことを強制するとなれば、教育現場は混乱するだろう。

 修正に至った経過が見えないことも問題だ。文科省は修正した理由の真っ先に一般からの意見公募を挙げている。だが、それで今回のように踏み込んだ修正になるか。意見採否の基準がはっきりせず、不自然だ。官僚の恣意(しい)的判断や政治の介入があったと疑われても仕方ない。

 「愛国心」が強化されれば、教育現場は今以上に息苦しさが増すことになる。文科省は、修正に至った経緯も含めて説明し、責任を明らかにすべきだ。