NIKKEI プラス1
日経ネットへ
「NIKKEIプラスワン」は土曜の朝刊とともにお届けしている
生活情報週間紙です。
ホームへ
何でもランキング
買物百科
仕事常識
家庭常識
楽住快居
流行発見
旅見探賢
彩食健美
元気悠々
生活物語
電脳生活
一人楽区
生活組曲
C G
 元気悠々

新緑の季節間近 森林浴に科学の裏付け

 森に入るとほっとするという人は多いだろう。山が緑に覆われるこれからの季節は、森林浴にうってつけ。近年は科学的見地からの解明が進み、そのリラックス効果などが明らかになりつつある。免疫力向上など森林の効果に着目した「森林セラピー」を体験できる環境も整い始めた。

 「森林浴」という言葉が生まれたのは1982年。林野庁の森林浴構想が始まりとされる。「森林セラピー」という1段階先に進んだのはここ数年だ。「森に入ると気持ちが安らぐ」といった現象を科学的に解明する技術が開発され、2004年度から本格的な調査研究が始まった。

 その一つが、独立行政法人森林総合研究所(茨城県つくば市)と千葉大学が中心となり、05―06年度に全国24カ所で行った実験だ。森林で座って景色を眺めた後(座観後)は、代表的なストレスホルモンである唾液(だえき)中のコルチゾール濃度が、都市にいる場合と比べ、13%低かった。

 実験を行った千葉大学環境健康フィールド科学センターの宮崎良文教授によると、自律神経活動や脳前頭前野活動の計測などでも、森林浴のリラックス効果は明らか。「ストレス状態から、本来あるべき状態に近づける」(宮崎教授)ことが分かったという。

◇ ◇ ◇

 さらに日本医科大学の李卿講師らは2泊3日の森林浴が体を守る力である「免疫能」を高め、持続効果があるとの共同研究を今年3月にまとめ、学会発表した。女性看護師13人を対象に、長野県の森林で初日に2時間、2日目に4時間散策してもらったところ、免疫能を示すナチュラル・キラー細胞(NK)活性が38%向上し、1カ月後も10%の向上を確認した。

 森林浴がNK細胞数や細胞内の抗がんタンパク質を増やし、NK活性を向上させたもので、李講師は「森林浴のリラックス効果や植物の発するにおい物質のフィトンチッドが活性化に寄与したと考えられる。森林浴のがんの予防効果が期待される」と話す。これらを踏まえ、千葉大の宮崎教授は「森林浴により体がリラックスし、結果として免疫能が向上し、病気になりにくい体ができる」と説明する。

 解明が進む森林の力だが、もともと「森のもたらす効果は、総合的なもの」と森林総合研究所の香川隆英環境計画研究室長。景色や香り、音、手触りなど五感を通じ、健康の維持増進を図るのが森林セラピーだ。どうすればよりよく効果を得られるだろう。

 一つのカギは適度な運動にある。ある実験では、歩行前よりも歩行後に脳がよりリラックスした。ただし、道が急過ぎないことが大事で、無理せず森を楽しみながら歩くようにしたい。地面に横たわる、ストレッチする、なども効果を高めるという。

 子どもや社会人を対象に「森林カウンセリング」を実践しているカウンセラーで東京農業大学准教授の上原巌さんは「お気に入りの木を見つける」ことをすすめる。自分の木に触れリラックスすることで、日常生活に戻ってからも「またあの木に会いに行こう」と“居場所”が心の中にできる。それにより、森林で得た効果を持続できるという。

◇ ◇ ◇

 本格的に楽しみたい向きには、全国で整備が進む「森林セラピー基地・セラピーロード」がある。現在35カ所(4月認定予定含む)あり、100カ所をめどに整備が進む。情報サイト「森林セラピーポータル」(http://www.forest-therapy.jp/)を運営する国土緑化推進機構(東京・千代田)の木俣知大さんは「医療機関と連携した森林セラピー基地もある」と話す。

 森林セラピー基地は、ドイツの保養地を一つの参考にした。専門のセラピストに森を案内してもらうほか、宿泊して土地の健康食や温泉、文化を楽しむ。日常生活を離れる「転地効果」も見込めるといい「年に1回、こうした基地を訪れては」と木俣さん。

 忙しい身でも「日常的に森林セラピーはできる」(森林総合研究所の香川室長)。都市の騒音が聞こえず、ビルが目に入らない程度の広さがある都市公園や寺社林などだ。樹齢を重ねた木があればなお良い。週1―2回、ベンチに座ったり散歩したりする機会を持つことで、限定的とはいえ日常のストレスを和らげる効果が得られる。

 一口に森林といっても様々。どんな森や木が心地よいか、日ごろから積極的に探す姿勢が大事といえそうだ。



ページ冒頭へ
このホームページに対するご意見・ご感想はこちらまでお願いします。
Copyright 2008 Nikkei Inc. / Nikkei Digital Media, Inc. All rights reserved.