罰ゲームにより、【無敵悪魔カースペイン】を使ったデッキを組むことになりました。
が、色々思うところあって、これをきっかけに真面目に考えてみたい事があります。
■DM研究所出張版
使われないカード【カースペイン】に見る「世界にひとつだけの花」
○使われないカードはあっても、期待されない人は居ない。
カードゲームには、「使われないカード」があります。
大概の理由としては、「弱いから」。同じような能力を持っていて、より強いカードが他にあるから、という理由です。
これを人間に例え、
「能力が低いとみられ、誰からも期待されない人材」
に映しみてしまうことが、誰しも心の奥底にあるかも知れません。
だからこそ使ってみたい、だからこそ輝かせてみたい、という“人情”も働きます。
しかし・・・・これがとても難しい。
「個性を生かす」、言うのは簡単です。美しい言葉に、思わず思考停止してしまいそうです。
しかし、例えば弱いカードを生かすために、本来は強力なカードを、実力の発揮できない使い方に貶めるなんて、非効率的だし「正しい事」ではありません。
全てを生かしつつ、個を生かす・・・それは本当に可能なのでしょうか。
こんな事を言い出すと、「池っち店長は何でもカードに例えるなぁ」という方がいらっしゃるかもしれません。
でも、それは当然の事として捉えて頂きたい。 だって僕の仕事はカードゲームですから。
人は大体、世の理に、自分の仕事を通して気付く事が多いと思うんですよね。
僕がカードゲームを通して色々な事を語るのも、それが自分の生活に近しいところにある物だから。そして同じカードゲーム好きな方々には、通じやすいと思うからそうしているだけなのです。うむ。脱線した。
○“個性”があるから人間・・・だとしたら、カードはどこまで“個性”を持っているのか。
素に戻って考えてみると、カードゲームには、本当に膨大な種類のカードがあります。
これら全てに数字、能力による“個性”が振り分けられている事は、よくよく考えてみると本当に凄い事。
しかもカードゲームは、基本的に「どのカードも使えるように」デザインされています。
遊戯王の中には、
「明らかに数字も小さく、能力も種族的シナジーもほとんど無いけど、フレーバーテキストや絵が面白い」
という、「コレクション・カードとしての存在意義」のあるカードもあり、これはそういった「ゲームとは関係の無い価値」を生み出しているので、これはこれでアリでしょう。
しかし、キャラクター・カードゲームが、存在意義の無い性能や明らかに弱い数値をカードに与え、
「そこは“愛”で使ってくれ」
と言うのは、デザイナーの怠慢であると言えるかもしれません。
あまりにも多くの「上位互換カード」があるカードゲームは、完成度が低いとされています。すなわち、「存在価値の無いカードをデザインして水増ししている」のですから、それは当然と言えるでしょう。
かつての某幽霊キャラクターバトルのカードゲームのように、レアリティの高い物、ゲームソフトのオマケとして付いているもの等が、「ペナルティも無く単純に他のカードと比べて数字が大きく、強い」
といった、
「金を出せれば勝てる」といった商品デザインを極端に押し出したものは最近は少ないようですが(今はそういった客層は減ったと信じたいものです)、それでも大なり小なりカードパワーは、レア方向にずれるのが基本です。(そうしないと「レアを当てるという楽しさ」が無くなる)
しかし、その「ズレ」をバランスよく押さえ、カード資産の少ない初心者でも、努力すれば勝てる、しかしやはりレアカードは欲しい・・・といった程度に抑えるのが、
「ユーザーを増やしやすいカードゲーム」
であり、また更に、全てのカードに使用する意義があるように作られるのが、
「ユーザーに飽きられにくい長く遊べるカードゲーム」
であるといえるでしょう。
すなわち、基本的には全てのカードに“オンリーワンとしての存在価値”があるようにデザインされていると言えるでしょう。
もちろんこれは、時がたつと計算式そのものを修正する事もあるので、絶対ではありません。
また、クリーチャーやユニット以外のカード・・例えば使われなかった呪文カード等は、
「強過ぎた、あるい使われなかったという事は、この能力に対してこのコストでは正しくなかったという事」
ですから、ゲームバランス上すぐに禁止になって下位互換が出たり、完全上位互換が出ることもあります。
○上位互換と完全上位互換は違う言葉
ここで、「上位互換」と「完全上位互換」との違いについて説明しておきましょう。この二つは全く別の意味の言葉です。
上位互換は、様々な要因から、総合的に見て強いため、あるカードより優先して使われるカードの事を言います。
完全上位互換は、パラメーターの全てが、あるカードと比べて同じ以上の物の事を言います。
例を挙げましょう。
まず、上位互換カード。
【シビレアシダケ】と【幻緑の双月】。この二つのカードは、どちらも同じ能力を持っており、コストもパワーも同じですが、【幻緑の双月】の方が上位互換となります。
ビーストフォークである【幻緑の双月】の方が、進化先に強力な物が多く、たとえ進化する予定が無くても、相手が「進化するかも」と警戒してくれる分、有利な面があるからです。
ペトローパ等で強化しやすい種族である点も優位です。
しかしながら、「バルーン・マッシュルームである事を生かしたデッキ」を組む場合にのみ、【幻緑の双月】より先に【シビレアシダケ】を投入する「理由」が成り立ちます。
種族が違う、この一点においてのみ、【シビレアシダケ】はオンリーワンとしての存在意義を持っています。(実際には【シビレ】は「5枚目の【幻緑の双月】」として使われるので、弱いカードではありません。)
続いて、完全上位互換。
【エレガント・ランプ】と【グレープ・ジェリー】。これは、間違いなく【グレープ・ジェリー】が完全上位互換となります。
どちらも2マナ1000、種族も同じサイバー・ウィルス。
追加能力の無い【エレガント・ランプ】に対し、【グレープ・ジェリー】は
「場に出た時相手の手札を見る」
という、わりとどうでも良いレベルですが「おまけ」がついています。
対して、【エレガント】が【グレープ】を上回る要因は一切ありません。
ドロー能力の付いた【バブル・ランプ】【デプス・ノーブル】も、【エレガント・ランプ】の上位互換と言えるでしょう。
こういった、「違うところと言えば、完全に負けている事だけ」のカードが“完全下位互換”、勝っている方が“完全上位互換”となります。
○個性を生かす、とは・・・
“完全下位互換カード”のカードを生かす事は、可能ではありますが論理的には無意味です。
そのカードには“オンリーワンの個性”すらなく、同じ個性を持つ完全に上位のカードを「使わない理由が無い」ためです。
しかし、“下位互換カード”や、
「直接的に比べる物は無いけれど、総合的にみて弱い、使われないカード」
を使用する事は可能です。そのカードには、「そのカードならでは」のオンリーワンがあるのですから。
その、たった一つの花を咲かせるために、デッキを組む。
計算式でカードが作られた、完成度の高いカードゲームでなら、それは可能です。
世界にひとつだけの花・超高速ドルバロム
4×幻緑の双月
3×青銅の鎧
4×母なる大地
2×解体人形ジェニー
4×死劇人形ピエール
4×魔刻の斬将オルゼキア
4×ドルバロム
4×邪魂転生
3×邪魂創世
3×ロスト・ソウル
3×無敵悪魔カースペイン
2×トリプルマウス
(デッキを作ったのが二月だったので、新殿堂は考慮に入っていません)
無敵悪魔カースペイン
0000+ 4 闇/自然 デーモン・コマンド/ジャイアント
■マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーのパワーは、自分の墓地にあるクリーチャー1体につき+2000される。
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
○テーマデッキ作りの考え方・カースペインの個性
デーモンコマンド、ジャイアントである事。
かてて加えて、マナの重い種族である2種族の中でも、4マナというトップレベルに軽いカードである事。
そして、パワーが大きく上がる点が魅力的ではあるが、プレイヤーにアタックできないため、アタッカーとしては期待できないという事。(相手をタップして・・・と考えるなら、同じデーモンコマンドである【アウゼス】が入ったほうが強い事になり、練りこむほどに【カースペイン】の存在意義が無くなる)
よって、「軽い」「アタッカーとして信頼できない」事から、「進化元として意義がある」という事になり、ジャイアントの進化が無い事から必然的に、「デーモンコマンドの進化元」として使用する事となります。
次に、他の進化元を使わず、「【カースペイン】である必然性」をどうやって高めるかを、考えなければなりません。
軽さで言えば、【ザハク】とマナコストは同じですが、自分の墓地にクリーチャーが居ないと場に出しても破壊されてしまうため、条件がある分、【ザハク】より「重い」と考えるべきでしょう。
よって、この「重さ」を緩和し、ペナルティにならないようにして、加えて【ザハク】よりこちらが正しい理由を作ってやらなければなりません。
「重さ」に関しては、
「あくまでドルバロムの進化元として出すのであれば、それほど序盤に出せなくても良い」
という理由付けが成り立ちますが、「早いに越した事は無い」(速攻に対する殴り返し等にも使える)ので、やはり何とかしたいところです。
そこで、積極的に【邪魂創世】【邪魂転生】を使う、墓地にクリーチャーを送りやすい構成にしてみました。
実は、このデッキを作る以前に、【邪魂創世】によってDMというゲームが大きく変わった事を確かめる、「スピード・システム」という構築理論を研究しています。(スピード・システムによるデッキ構築は、完成したら発表します。一種の“ばかナ”です。)
この「スピード・システム」と【カースペイン】はまずまずの親和性を持っています。
闇・自然であるため【ザハク】よりは闇・自然デッキに入る理由があって、しかも墓地が増えるのでパワーアップも容易です。
○デッキの動かし方
2ターン目の【幻緑の双月】から3ターン目の【解体人形ジェニー】、または【幻緑の双月】を破壊しての【邪魂創世】によるドローがスタート。
またまた【幻緑の双月】か、【青銅の鎧】、または【トリプルマウス】、それらを破壊しての【邪魂転生】による、マナ加速&ドローを続けます。
5ターン目には、マナは7マナ、その上で手札はそれなりにキープできている事でしょう。
【ロスト・ソウル】を叩き込むか、相手がクリーチャーを出しているなら【オルゼキア】。
手札に無くても、マナゾーンにあれば【母なる大地】で出すことも可能です。
むしろ【母なる大地】でなら、4ターン目に、
5マナあるうちの3マナで【青銅】
↓
マナ増えて6マナ、【母なる】でさっきの【青銅】をマナに置いて【オルゼキア】
という、超高速プレイも可能です。
あとは、【ドルバロム】へとつなぐだけ、です。
○このデッキをつくって・・・
罰ゲームでもなければ、この【カースペイン】を使うことは無かったでしょう。
そして、「そのおかげで良いデッキが出来たよ!」となるとハッピーエンドなのですが、やはり世の中そう甘くはありません。
お読みいただいた通り、僕は【カースペイン】という個性を生かすため全力を尽くしてデッキを組み、ロジックの限りを尽くしたつもりです。
正しい答えとなっているかどうかは、皆様にご判断いただくとして、やはりそれでも完成したのは、
「たいして強くないデッキ」
です。
個性的なマナ加速で面白い!と感じてくださる方も居るかもしれませんが、実はそれは「スピードシステム」が面白いのであって、【カースペイン】のデッキが面白いわけではありません。
それではいよいよ、今回の記事で最も伝えたかった事を書いてみたいと思います。
○世界にひとつだけの花・・・その言葉に甘えは無いか
世界にひとつだけの花・・・有名な歌です。美しい歌詞です。
しかし、この歌の伝えようとする本当のメッセージは何でしょうか。
本当の所は作者に聞かなければわかりません。しかし数年前、ある新聞の読者欄を読んで、違和感を覚えたことがあるのを憶えています。
それは、小学校の体育祭で、ビリを走っている自分の息子に対し、声援を送っている時にこの歌が流れてきて強く感動した、という物でした。
「1位になんかならなくていい、勝負になんか勝たなくていい、自分らしくあればいい、そう言ってくれているような気がした」
との文に。
何も、全ての事柄において1位になる必要は無いでしょう。何もかも「勝負」と考えて、他人との優越を競わなくても良いでしょう。
しかし、世界にひとつだけの花、その花を咲かせる為に一生懸命になれば良いというメッセージは・・・・
「その花を咲かせろ」
という意味なのではないでしょうか。
闘わなくて良い、競わなくて良いと甘い事を言っているのではなく、「花は咲かさなければ意味が無い」という、叱咤のメッセージなのかも知れません。
更に言うと、「咲かせて意味のある花であれ」という意味も。
弱いカードを生かすために、本来強いカードが実力を発揮できない構成など、何かが間違っています。人に例えるともっと大変な事態です。
咲く花は、咲かせてくれた者達の為に、「咲かせて良かった」と思ってもらえるような大輪の花でなければならないでしょうし、加えてその花だけが主役になってはいけないのだと思います。
カードと違い、人間はもっと奥深いものです。
しかし、カードゲームに親しみながら、わかりやすい「たとえ」として、物事を考えてみるのは無駄ではないと思います。
今回のカースペインのデッキは、ギリギリ何とか、「存在意義のあるデッキ」にはなったかも知れません。【ドルバロム】に繋ぐ、という意味では、なかなかに理屈の通ったデッキではあります。
しかし、【カースペイン】が、そこまでする「努力する意義のあるカード」であったかと言うと、少し違うと思います。また、結局、「墓地のカードが増えるとサイズが大きくなる」という「個性」を生かしきれていません。
(アレを個性と捉えず、「墓地に最低1体はクリーチャーが必要である」というペナルティとして考えると、「ペナルティを解決したデッキ構成」とは言えるので、一応「生かしている・解決している」とは言えます。難しいなぁ。)
努力して、咲かせる価値があった花なのかどうか、そう考えると人間に置き換えても、「個性さえあれば良い」というのも薄っぺらい考え方のように思えてきます。
大切なのは、周りと協調しつつ、お互いを生かす個性を作り上げていく事なのではないかな?と思います。
人として、どんなカードになりたいでしょう?
誰からも頼られる縁の下の力持ち、【青銅の鎧】?
絶対的には必要でもないにも関わらず、皆から憧れられるスター、【ボルメテウス・ホワイトドラゴン】?
暴虐な破壊力を持つが故に、味方からは崇拝され、敵からは非難される【超竜バジュラ】?
【ボルバルザーク】のような、世界を自分色に染めてしまう独裁者ともなれば、世界から抹殺されるのも当然かもしれません。
どう生きるか、何になりたいか。カードゲームのカードでなら、「他の人(カード)との係わり合い、成すべき、期待されている仕事の内容」まで含めて、わかりやすい見本にできるかもしれません。