◆閉山の街
朝は、まだ氷点下の冷え込みだ。北海道のほぼ中央部にある赤平(あかびら)市。商店街はシャッターを下ろした空き店舗が目立つ。閉鎖された小学校や公民館は、雪に埋もれたまま。夕張市で閉鎖中の屋内プールの屋根が雪の重みで崩落したが、赤平市でも売却先や撤去のめどの立たない遊休施設の管理は悩みの種だ。
四つの炭鉱を抱え、かつては約6万人が暮らした。石炭を満載した貨車でにぎわった赤平駅は、貨物発送量日本一を誇ったこともあるという。だが94年に最後の炭鉱が閉山。今、人口は約1万3000人だ。65歳以上の高齢者が35%を占める。
自治体財政健全化法は、公立病院などの公営企業会計を市の普通会計と連結決算する「連結実質赤字比率」を、08年度から新たな指標として導入する。30%を超えれば、夕張市と同様に財政破綻(はたん)状態とみなされる。
病棟改築などで市立赤平総合病院が抱える不良債務24億円が加わると、赤平市の07年度の比率は77・6%の見込みだ。この4年で医師が18人から10人に減った病院。患者受け入れを制限せざるを得ず、収益も悪化している。
炭坑で働いていた小坂寛司さん(70)は、じん肺を患う。「近所は気心のしれた炭坑仲間ばかり。今さら都会に住む気はない。でもこの街で安心して暮らしていくため、病院だけは維持してもらわないと困る」と言う。市は病院存続のため、一般病床160床を120床に減らし、産婦人科と皮膚科を休止。職員の人件費を27%ほど削減する。
総務省も、赤平総合病院のような不良債務を償還期間7年程度の特例債に振り替えることを認め、その分を連結実質赤字比率から外す措置を決定。破綻基準30%も、当面40%に緩める。北海道も短期低利融資で病院経営を支援。しかし、それでも赤平市の08年度の比率は、基準ぎりぎりの39・2%の見通し。綱渡りの状態が続く。
赤平の炭鉱資料を収集保存している吉田勲さん(66)は訴える。「自治体に連結決算を押しつける前に、政府こそ、特別会計を連結にしてもっと透明にしろと言いたい。道路財源の使い方を見ると腹が立つ。廃れた地方の声に、政治家は耳を傾けてほしい」
赤平市は、財政破綻回避のため、軽自動車税や市営住宅家賃の引き上げなど市民の負担増を求めてきた。そしてさらなる歳出削減のため、職員給与の30%削減を打ち出した。
先月29日、高尾弘明市長(63)は市職員を前に呼びかけた。「乾いた雑巾(ぞうきん)をさらに絞ってもらいたい」【与那嶺松一郎】
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次の衆院選に向けた選択の手引。今回は、地方財政の危機を取り上げる。地方の悲鳴、新たな取り組みから見ていこう。
毎日新聞 2008年3月24日 東京朝刊