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質疑応答 山中教授講演全文(6)

2008年03月24日16時21分

 司会(高橋真理子朝日新聞科学エディター) 先生、どうもありがとうございました。再生医学とiPS細胞のこれまでとこれからについて、大変わかりやすくお話いただいたと思います。わかりやすくお話いただいただけでなくて、お言葉の端々から先生のお人柄が感じられて、皆さん、その部分も堪能していただけたのではないかと思います。

 入口のところでご質問ある方に記入していただきました。たくさん集まっておりまして、時間が限られておりますので、どれだけご質問できるかわかりませんけれども、せっかくの機会ですので、なるべくたくさん先生にお答えいただきたいと思います。

 まずは病気の家族を持っていらっしゃる方からのご質問が幾つか来ていまして、代表的なものをちょっと紹介します。「息子21歳で、スポーツで頸椎損傷して四肢麻痺で呼吸器を装着しております。親の願いは自発呼吸ができるようになることです。先生のご研究で自発呼吸が可能になるのでしょうか」。もう一つ続けてですが、「網膜色素変性症の患者を妻に持つ者です。現在、治療法が見当たらず見えなくなるのを待つのみの状態です。進行防止に役立つ方法があればと願っています」。まずこの二つについて先生、ちょっとお答えいただけますか。

 山中 はい、病気、再生医療のほうですね。最後にもお話しましたが、いますぐにというわけにはいきません。まだいろんな問題があります。その問題点は非常に私たち認識しておりまして、それを1日でも早く解決するように一生懸命研究しているところです。

 私たちはiPS細胞を作るほうが得意でありまして、実際の治療という面では、脊髄損傷の場合は慶応の岡野先生、今の網膜疾患の場合は理研の高橋政代先生などと最大限の協力をしながら、1日でも早く治療に使えるようにということを目指しています。研究だけではなくて、厚労省のいろんな指針とかそういうのも非常に大事です。ちょっとそれしかお答えできません。

 司会 では、続けまして。「日本ではさまざまな発見がされたことは取り上げられますが、その先がなかなか進まず、実際に医療に使われているという話はあまり聞きません。これは日本の法律に問題があると聞いたのですが、そうなのでしょうか」というご質問です。

 山中 (iPS細胞については)医療という点ではどこの国でもまだ使われていませんので、特に日本のシステムに問題があるかどうかというのは、それはあんまり言えないと思います。まず医療に使われるとすると、再生医療の前に、先ほど言いましたように創薬であるとか副作用の毒性、そういったほうにES細胞とかiPS細胞は使われていくと思います。それについては比較的再生医療よりは早く応用実現すると考えています。

 司会 法科大学院生の方から「法律家を目指しております。先生の研究のなかで法的に問題になっていること、また今後問題になりそうなことは何かありますでしょうか」というご質問も来ているんですが。

 山中 「法律」と言っていいのかわかりませんが、一つは、やはり実際、治療に使う場合は厚生労働省の指針、認可というものがキーポイントになりますので、研究だけではなくそちらの体制、それを広い意味で「法的な体制」と言えるのかもしれませんが、両方が大事です。そういう意味では、研究者だけでは絶対だめで、そちらを支えていただく文系の方も非常に大事な人材になると考えています。

 司会 そのスタッフが足りないという理解でよろしいでしょうか。

 山中 そうですね、医学や科学のこともわかる、法律やいろいろな指針のこともわかる、その両方わかる人というのは、日本はやはりアメリカなんかに比べると少ないと感じています。

 司会 先生ご自身のことについての質問が来ています。「山中先生は整形外科医を手先の不器用さを自覚されていまの研究に進まれたとお聞きしました。全く素晴らしいご決断でございました。私は『向いていないことだなあ、別の方向に進みたいなあ』と思いながらもなかなか決断できません。先生はどのように決断されたのでしょうか、お聞かせ願えますか」。

 山中 それはちょっと難しいんですが(笑)。いや、不器用かどうかはちょっとわからないんですけれども、手術になると緊張してなかなかうまいこといかないということで。まあ、昔から諦めが早いし、新しいことにチャレンジするもの好きなので。ちょっと答えにならないですけれども。

 司会 では、最後の質問にいたします。やはり学生さんからです。「今後、研究者を目指す学生に向けて、励んでもらいたいこと、それから必要となる分野の方向性について聞かせていただけますか」ということです。

 山中 日本という国はちっちゃくて天然資源もないのは事実ですから、日本を支える資源、財産の一つは知的財産だと思うんですね。知的財産を作るのはやはり科学者であり技術者であります。他にもたくさん大事な仕事はありますが、科学者、技術者は日本を支えるきわめて大事な仕事ですから若い人もぜひ興味をもって来ていただきたいなと思っています。

 司会 はい、ありがとうございます。まだ質問できていないものもございますけれども、時間がまいりましたので、きょうの講演会はこれで締めさせていただきたいと思います。先生にいま一度拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

     ◇     ◇

 山中伸弥さんのプロフィール

 1962年大阪府生まれ。中学では体が細く、鍛えるために柔道部に。骨折やけがの度に治療を受けたことで医師をめざす。87年に神戸大医学部卒業後、整形外科医として診療に携わる。大阪市立大大学院修了後、米グラッドストーン研究所の研究員。大阪市立大助手、奈良先端科学技術大学院大学教授を経て、04年から京都大再生医科学研究所教授。06年度の日本学術振興会賞、07年度朝日賞を受賞。08年1月から京都大iPS細胞研究センター長に就任。医師の妻と高校生の娘2人と暮らす。昨年11月末の論文発表後にテレビ出演などが増えた。柔道2段。フルマラソン4回完走。

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