元麻布春男の週刊PCホットライン

NEC Lavie J「LJ750/LH」に標準搭載されたワイヤレスUSBの実力




●“全部入り”がコンセプトのモバイルノート

2月末に発売された「NEC Lavie J」

 モバイルノートPCの正確な定義というのは良く分からないが、1つの基準となるのは重量1.5kg以下の携帯性に配慮したPCということになるだろう。この1.5kgという数字は、JEITAがパーソナルコンピュータ関連の統計等で用いている基準だと記憶している。

 その基準が何であれ、一般にモバイルノートPCと呼ばれるジャンルの製品では、大型のノートPCやデスクトップPCが持つもののうち、何かを犠牲にする必要があった。それは高性能で消費電力の大きなCPUかもしれないし、高解像度の液晶パネルかもしれない。あるいは、拡張用のカードスロットやUSBポートの数、対応する無線規格の種類かもしれない。削ればその分、重さが減るだけでなく、消費電力も減るから、バッテリも小型にできる。まさにいいことずくめだ。

 とにかく軽く、小さくするために、何かを削る。これはモバイルノートPCにとって宿命のようなものだ。ただ、単に削るだけでは貧相なPCに成りかねないので、そこにポリシーやコンセプトが登場する。ケーブル式のI/Oをバッサリと省略して「Air」を名乗る、なんていうのは、なかなか巧みなコンセプトだ。

 小型軽量化のために、何かを削る。削ったものを「犠牲」ではなく、「必然」とするためにコンセプトを構築する、これが従来のモバイルノートPCの多くが採用していた製品企画だったように思う。

 そうした「常識」からすると、新しく発売になったNECの新LaVie J、特にハイエンドモデルのLJ750/LHは、ちょっと変わっている。重量1.2kg前後の軽量でありながら、従来のモバイルノートPCで削られていた部分がほとんどない。何かを削ることを放棄して、「全部入り」を選んだかのようなPCだ。昔のPC雑誌によくあった機能が有る/無いという星取り表を作ると、ほぼすべてに○が付くような状態だ。


・デュアルコアCPU
・デュアルチャンネル対応のメモリ
・2.5インチHDD
・2層書き込み対応の光学ドライブ
・1,280×800ドット(WXGA)の液晶ディスプレイ
・PC CardとSD/SDHCのデュアルスロット
・GbE対応LAN
・IEEE 802.11a/b/g/n対応無線LAN
・内蔵Bluetooth
・指紋認証
・内蔵TPM
・Felicaポート
・スクラッチリペアによる傷つきにくい外装
・ワイヤレスUSBと対応Hub
・Intel Turboメモリー
・WWAN(FOMA HIGH-SPEED対応)

 以上の仕様のうち、最後の3つだけは同じminiCardスロットを利用する関係で排他利用(3つのうち1つを選んで搭載)となるが、これだけ充実した機能を持つモバイルPCはあまりなかった。

 ただし、現在これだけの機能をすべて必要とするユーザーがいるかというのは、まったく別の問題だ。一部の機能を削った方が重量やバッテリ駆動時間の面では有利と思われるし、もちろんコストも抑えられたハズだ。

 とはいえ、これだけフル装備なら、将来何かを追加せざるを得なくなる可能性も低い。とりあえず機能がついていた方が、ついていないより、将来にわたってツブシが効くのは間違いない。「全部入り」というのも、また1つのコンセプトではあるのだろう。

●Intel陣営のワイヤレスUSBを搭載

NEC Lavie J「LJ750/LH」。2機種あるうちの上位機種で、写真のワイヤレスUSB Hubが標準で付属する

 さて、上にあげた機能の中にはあまり馴染みのないものもある。その筆頭が“ワイヤレスUSB”だ。ワイヤレスUSBというのは、物理層にUWB技術を用いることで、ワイヤレス化を実現したUSBのこと。UWB(Ultra Wide-Band)は、微弱な出力で幅広い周波数帯域の電波を数ナノ秒という短時間出力することで、数百Mbpsのデータ転送帯域を得ようという無線技術だ。

 具体的には3.4GHz〜10GHz帯に、528MHzの幅を持つバンドを14個設け、その中のいずれか、あるいは複数を用いてデータの転送を行なう。1つのバンドで480Mbpsのデータレート(理論値)が得られ、複数用いることでデータ転送レートが引き上げられる(ただし現在市販されている第一世代の製品は、ほとんどが1バンドのみ利用可能なもののようだ)。

 当初はIEEEで標準化作業が行なわれていたが、2006年1月に標準化が取り下げられ、Intelが主導するWiMedia陣営(Wireless USB)と、モトローラ/Freescaleが中心となっているDS-UWB陣営(Cable-Free USB)、それぞれが独自にデファクトスタンダードを目指す展開になっている。LaVie Jが採用しているのは前者の規格である。

 LaVie JのワイヤレスUSBは、本体底面に用意されたminiCardスロットに搭載されたHWA(ホスト側アダプタ)と、ワイヤレスUSB対応の無線Hubで構成される。以前このコラムで、日本で初めて製品化されたUWB製品として、ワイ・イー・データ製のWireless USB対応のドングルとHubを取り上げたことがあるが、製品構成としてはこれに近い。違うのはLaVie JのワイヤレスUSBは、Certified Wireless USB(CWUSB)に準拠したシステムになっている、ということだ。

 ワイヤレスUSBも無線を用いたインターコネクトだけに、特定のHWAと特定のDWA(デバイス側アダプタ)が接続できるよう、ペアリング処理を行なう必要がある。これをCWUSBではアソシエーション(関連付け)と呼び、ケーブルを使った方式(ケーブルアソシエーション)と12ケタの数字を入力する方式(ニューメリックアソシエーション)の2つが定められている(将来的にはEdyのようなNFRのサポートも行なわれる予定)。ケーブルアソシエーションは、単にワイヤレスUSB機器として利用する前に、1度ケーブルでHWAとDWAを接続することで、関連付けを行なう方法だ。

 CWUSBに準拠したホストであるLaVie Jは、ケーブルアソシエーションとニューメリックアソシエーションの両方をサポートしている。また、添付のワイヤレスUSB Hubはケーブルアソシエーションに対応しており、USB機器を接続するUSBポート×4に加え、アソシエーション専用のポート(USBミニBソケット)を備える。このポートとLaVie JのUSBポートを1度ケーブルで接続することで、ペアリングされるというわけだ。


「ケーブルアソシエーション」認証画面

「ニューメリックアソシエーション」認証画面

ワイヤレスUSBマネージャ画面。ワイヤレスHubが見えている

●USBケーブル接続時の1/4〜1/5の転送速度

 LaVie JのワイヤレスUSBを利用するにあたっては、次の2点に気をつける必要がある。1つはワイヤレスUSBを利用する際、ワイヤレスUSB Hubだけでなく、LaVie J本体もACアダプタに接続されていなければならない、ということだ。この理由については特に説明はないが、単にワイヤレスUSBの消費電力が大きいということだけでなく、ワイヤレスUSBが屋外で利用できない無線技術であることが影響しているのかもしれない。いずれにしても、ACアダプタを抜くと、ワイヤレスUSBの接続が切断されることは確認できた。

 もう1つの注意点は、USBのデータ転送モードのうち、アイソクロナスモードが未サポートである、ということだ。このため、ワイヤレスUSB Hubにモデムやオーディオ/ビデオ関連製品(スピーカー、Webカメラ、最近取り上げたUSB対応アナログプレイヤーなど)を接続することはできない。ケーブルに比べてエラーが起こりやすいワイヤレス接続では、アイソクロナスモードのサポートには、適切なバッファリングなど工夫が必要になるため、第1世代の製品では未対応になっているものが多い。ワイヤレスUSBも、そういう現状であることを示している。

 すでに述べたように、ワイヤレスUSBの理論上のデータ転送レートは、USB 2.0と同じ480Mbpsだ。しかし、無線LANのデータレートがそうであるように、ワイヤレスUSBの480Mbpsもあくまでも理論上のもの。実行値はこれを下回る。では、どの程度の速度が期待できるのか、どれくらい離れていても利用できるのか、簡単なテストを行なってみた。

 まず、バッファローの外付けUSB 2.0対応HDDであるHD-H250U2を、LaVie JのUSBポートにケーブルで直結した場合、本体から30cmの距離に設置したワイヤレスUSB HubにHD-H250U2を接続した場合、本体をワイヤレスUSB Hubから5mの距離まで遠ざけた場合の3つのケースについて、簡単なベンチマークテストを行なっている。

表1:FDBench 1.01結果(単位:KB/sec)
項目USB直結Wireless USB (30cm)Wireless USB (5m)
ReadWrite1621533223305
Read2573539093895
Write1682838203805
Random Read1378736103519
Random Write851219482001
Copy41319751003
2K552424
32K782195205
256K483411471188
Variable1085425352597

表2:831MB(871,774,212bytes)のファイル転送結果
送り側受け側所要時間
LaVie J直結51秒
LaVie JWireless USB (30cm)3分51秒
LaVie JWireless USB (5m)3分40秒
直結LaVie J35秒
Wireless USB (30cm)LaVie J3分35秒
Wireless USB (5m)LaVie J3分41秒
※直結、Wireless USBとも、USB接続のHDD「バッファロー HD-H250U2」を用いた

 その結果は表に示した通り。データ転送レートは直結時に比べ4分の1から5分の1といったところ。かなり転送レートは落ちる。ただし、この状態でもMPEG-2動画ファイルの再生等は十分可能であり、実用性がないわけではない。おもしろいのは、本体とワイヤレスUSB Hubの距離が30cmであろうと5mであろうと、転送レートがあまり変わらないことだ。ただ5mまで離すと、本体とHubの間のドアを閉めたり、人が通ったりといったことで接続が不安定になりやすく、接続が切れてしまう例も多々見られた。

 こうした特性や、接続時には本体とHubの両方にACアダプタが不可欠なこと、などを考えると、ワイヤレスUSBの最も有効な利用法は、物理的な接続が要らないワイヤレスのポートリプリケーター/ドッキングステーションとして利用することだろう。

 メディアファイルを入れたUSB接続のHDDや、プリンタ、キーボード等をあらかじめ接続しておき、帰宅してLaVie Jを机の上で開き、ACアダプタを接続すると、周辺機器がすべて利用可能になる、というイメージだ。できれば、ここにワンセグチューナーも加えたいところだが、前述のように現状では利用できない。

 現時点では、ワイヤレスUSBの用途は限られており、規格化の分裂騒動や、Bluetoothとの棲み分けなどの問題も抱えている。ただし、現状で市場にあるほぼ唯一の製品だけに、ようやく登場した新技術に関心のあるユーザーにとっては、興味深い製品と言えるだろう。

□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□製品情報
http://121ware.com/lavie/j/
□関連記事
【3月10日】【Hothot!】NEC 「LaVie J LJ750/LH」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0310/hotrev352.htm
【2007年11月12日】【元麻布】Bluetoothが目指す場所
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1112/hot514.htm
【2007年1月25日】【元麻布】国内初のUWB対応製品 Y-E DATA「YD-300」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0125/hot465.htm
【2006年1月30日】【元麻布】期待の無線通信規格UWBの迷走
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0130/hot406.htm

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(2008年3月24日)

[Reported by 元麻布春男]


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