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記者の視点
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救急医療体制の整備は国民の意識改革とともに
大都市圏の救急搬送の再構築が急務
2008.3.19
日本の勤務医不足は、小児科や産科に続き、救急医療現場でも深刻化している。
救急医療の患者数は、中等症および重症以上の患者で増加傾向にある。もっとも、首都圏・近畿圏などの大都市では、重症以上の救急車搬送率が低いにもかかわらず、その受け入れ先の医療機関を探すための照会回数が多くなっている。つまり、重症以外の患者搬送が救急医療現場を疲弊させているわけだ。
自治体が所管する1次・2次救急医療の充実が、救急医療の再構築への重要な鍵となり、行政・医療機関・住民が一緒に取り組むことが期待される。
◎ 救急医療への国民の考えはさまざま
先の専門学会で久しぶりに再会した臨床医が、「私の母は80歳になる。最近のたらい回し報道を見て、自分が倒れても救急車を呼ばないでと言い出したんだよ」と、話していた。その臨床医は、最終的に「おかあさん、分かったよ」と答えたそうだ。
臨床医である自分がその場にいれば、救急処置ができるだろうという自信があり、またその場にいなかった場合でも、信頼できるかかりつけ医との連携で不測の事態に対応できると考えたからだという。その臨床医の話から、一連のたらい回し報道に心を痛め、自らの身の処し方を考える国民がいることを実感した。
その一方で、関東圏の民間病院に、年末年始の救急患者が例年の予測数を大幅に超えて来院する事態が発生。近隣の病院が救急医療から撤退したため、当該病院に救急患者が一極集中してしまったのだ。その時、患者・家族は病院職員に対して医療スタッフが休暇をとっていることを批判したという。
患者・家族の待たされるつらさもわかるが、それ以上に年末年始に職員を休ませると批判される病院側のつらさはもっと深刻だ。患者の権利は、担保されないといけないが、医療者のことを思いやる気持ちが欲しい。
◎ 現場の苦境に理解求める好機に
こうした中で、軽症患者の救急車の利用が後を絶たないのも事実だ。軽症患者の搬送を続ければ、救急現場のスタッフの疲労感は緩和されない。
ただ、軽症に見えても重篤な疾患をかかえていることもあり、医療者は気が抜けない。それだけに、救急医療の機能分化に合わせた患者の適切なアクセスを啓発し、理解してもらうことが必要だ。
地域の2次救急までを預かる都道府県が、各地域の救急医療の現状を踏まえ、救急医療確保に向けたPR作戦を展開する好機ともいえる。根気強く市民、県民に救急医療の厳しい現状を訴えてもらいたい。新聞、テレビなどを駆使して救急医療機関の医療スタッフの負担軽減を進めてもらいたい。
今回の診療報酬改定では、救急医を含めた勤務医の負担軽減策が盛り込まれた。ただ、救命救急センターに搬送される重症患者の7%が、現場滞在時間30分を超えている。これを考えると、新設のrt―PA療法の算定要件である脳梗塞発症後、3時間以内の治療開始は、難しそうだ。
今の救急医療現場の厳しさを国民に訴え、救急車搬送が必要な患者が利用できる救急医療体制にする広報戦略が、今こそ急務となっている。たらい回し報道も必要かもしれないが、照会回数をあげつらう前に、まず国民に救急医療の現状を知らせ、理解してもらう。
それが、今後の救急医療にとって必要なのではないだろうか。また、救急医療の問題に限らず医療機関は、これまで制度改定や診療報酬改定などで患者への説明責任を負わされてきた。その説明責任を国、自治体と機能分担すべき時期に来ているのではないか。
◎ たらい回しの定義など検討する時期に
特に、救急搬送におけるたらい回しの定義は、受け入れ医療機関の照会回数の多さを根拠に論じられることが多い。しかし、照会回数は都市部であればあるほど医療機関数が多いため、照会のチャンスも多く、必然的に増えていく側面を持つ。そのため照会回数は意味がないとの見方も根強い。せめて当該地域で時系列で比較するのであれば、一定の指標になるかもしれないといわれている。(伊藤 淑)
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