愛知県犬山市が今春も自治体でただ一つ、文部科学省の全国学力調査に不参加を貫く。市教委と市長の対立で、成り行きが注目されていた。教育現場で導かれた結論なら、尊重していきたい。
文科省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)への犬山市の不参加が昨年に続き確定した。一昨年十二月の選挙で学力テスト参加を訴え初当選した市長が、参加論の教育委員増員による市教委決定の逆転を断念したためだ。
戦前戦中の国による支配への反省から、自治体の教育委員会には限界はあるものの、国や首長らからの独立が保証されている。犬山市教委が「調査の目的も意図も不明確」「教育に市場原理を持ち込む発想の疑いが強い」などの理由で不参加を決めたことに、手続き上の問題はない。
同市の小中学校では市教委の権限を活用し、全国に先駆けた特色のある教育を進めてきた。市費採用の非常勤講師などによる少人数授業、教務主任らも学級を担任する少人数学級の実現、ユニークな副読本つくり(国語、算数、理科)、一学年二期制を採用して授業時間を増やす−などである。
同市は今年も全国でただ一つ不参加の自治体となったが、独自の立場で子どもの学力確保に努めてきた市教委として、必然的な結論だろう。前任者の任期満了で、市長の送り込んだ一委員が「義務教育の現場は国の指示に従うべきだ」と言うのは、国にも「ノー」と言える教委の制度上の独立を自ら否定するものだ。
一方、自治体の首長には教育委員の任命権があり、地域の教育のあり方に関与することは許されよう。学力テスト参加を公約に掲げることもかまわない。だがそのため性急に教育委員を増やし、教委の独立を尊重せず、力で結論をひっくり返すことには、とても賛同できない。
将来も学力テストに不参加か否かは、あくまで現場の議論に委ねるべきだ。結論を焦ってはならない。
「テストを受け、子どもがどの程度の学力か知りたい」と言う父母や子どもがいるのは事実だろうが、参加は学校や個人単位では決められない。全市参加となれば、参加したくない子どもも巻き込まれる。
テストで真の学力は測れるか。独自の学力づくりを進めてきた犬山市の子どもに役立つか。中学校区ごとに父母らと意見交換会もある。
市教委側もテストの意図、内容や手続き上の問題点、結果を公表した場合の影響について、どこまで検討して二年続けて不参加の結論を出したか、市民に説明を尽くすべきだ。
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