舛添厚労相、「ギルドが阻害要因」

 「それぞれの職能団体の要望事項をまとめるのはいいが、割を食らうのは患者だ」――。看護師らの裁量権拡大を求める看護教授に対し、舛添要一厚生労働相は厳しい口調で切り返した。チーム医療を進める上で欠かせないスキルミックス(多職種協働)と、その前提となる裁量権拡大を強調する姿勢を崩さない看護教授に対し、舛添厚労相は「何が(スキルミックスを)阻害しているのか。私は“ギルド”が阻害要因になっているような気がする」と述べた。(新井裕充)

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 厚労省は3月19日、「安心と希望の医療確保ビジョン」会議を開き、看護師や助産師らが現場で抱えている問題点について意見を聴いた。

 この会議は、長期的な視点に立って日本の医療の問題点を考えようと、舛添厚労相が中心となって1月7日に設置された。

 5回目を迎える今回のテーマは「医師以外の医療者の意見」で、看護師の立場から坂本すが氏(東京医療保健大教授)、助産師の立場から堀内成子氏(聖路加看護大教授)らが意見を述べた。

 坂本氏は昨春までNTT東日本関東病院で看護部長を務めた経験から、平均在院日数の短縮や軽症の救急患者の増加などで多忙を極める急性期病院の現状を語った。
 坂本氏は、病院の役割を分化させるだけでなく病院の中でも機能分化が必要であることを強調。「医師がすべての指示を出さなくてはいけない体制には限界がある」と述べ、看護師の業務範囲の見直しや裁量権の拡大を求めた。
 看護師は単に医師と患者との間をつなぐ「仲介者」ではなく、多職種協働のチーム医療をマネジメントする「間隙手(かんげきしゅ)」であり、その役割を強化することで医師、看護師、患者の関係が「WIN-WIN」になると主張した。

 次いで、堀内成子氏(聖路加看護大教授)は助産師の業務範囲の明確化や、医師と助産師との連携の重要性を訴えた。
 堀内氏は助産師業務の国際比較を示し、先進諸国では助産師が単独で担える業務でも日本では医師の指示下にあると指摘。「鎮痛剤の処方など、それだけのために医師を呼ぶが、正常な妊娠・分娩・産褥(じょく)経過にある母子の健康管理は単独で行える」と述べ、すべて医師が立ち会う形態の固定化が産科医の労働条件を悪化させていると主張した。

 これに対し、委員から「責任を取れるのか」という質問が相次いだ。坂本氏は「責任を取らないと自律はあり得ない」、堀内氏は「業務拡大するなら責任を取る覚悟が必要だ」と答えた。

■ 「ギルドが阻害要因」
 
裁量権の拡大を求める主張に対し、舛添厚労相は「厚労省の政策ではないことを前提に言う」と前置きした上で、次のように述べた。
 「何が(スキルミックスを)阻害しているのか。要するに、みなさんはそれぞれ団体を持っている。ギルドだ。このギルドとの関係をどうするのか。私はギルドが阻害要因になっているような気がする。看護師さんの集まりのトップと議論すると、『敵は開業医だ。医者がいるから私たちは駄目なんだ』という話になってしまう。そうすると医師会というのは何なのか、歯科医師会とは何なのか。それぞれの職能団体の要望事項をまとめるのはいいが、患者の視点で見たら医師会と看護師(の)会が対立している。その割を食らうのは患者だ。WIN-WINの関係を阻害しているのがギルドならば、その在り方も考える必要がある。参議院にたった1人の代表者を送れるかどうかというほど、1つのアソシエーションの機能が落ちている時、それが阻害要因となってスキルミックス(多職種協働)ができないのは不幸だ」

 舛添厚労相はこのように述べて、医師や看護師を代表する団体の対立が院内に持ち込まれていることを問題視した。その上で、次のように問題提起した。
 「医療技術が向上し、国民の期待水準が高くなっている。『一流の病院でなければ、何かあったら』という意識がある。介護にしてもそうだ。『グループホームは良いですよ』と言うが、病気になったらどうするのか。次との連携は取れているのか。すべての問題が、そのようなネットワークや連係プレーが欠けていることにかかわっている。今後、地域医療をどういう形で組み立てていくのか。私は医療制度の改革は本当の意味での地方自治という感じがしている」

■ 専門看護師から裁量権を拡大すべきか
 
舛添厚労相は「あの病院は医師も看護師もしっかりしているからできた。しかし、(他の病院では)医師の指示の下でなければできないというのはいけない。そこで、行政が何らかの制度を変えることで(スキルミックスが)できるのだろうか。あるいは診療報酬か。何かアイデアはあるだろうか」と尋ねた。

 坂本氏は、日本看護協会が認定した専門能力のある看護師が医師と協働している関係を挙げた。
 「認定看護師や専門看護師は医師から貴重にされており、医師は(その能力を)認めている。患者にも頼られている。がんを宣告されて頭が真っ白になっても、がん認定看護師の話を聴いて理解した患者もいる。そういう看護師の役割は病院を変える」
 そして、坂本氏は次のように述べて裁量権の拡大を強く求めた。
 「このような(能力のある)看護師が、すべて医師の指示を仰がなければいけない。もう少し権限を与えてもいいのではないか。例えば、いつも同じ患者さんの褥創をケアしている看護師が薬を処方する時に医師を探す。すると、医師は『あー、そうかそうか』と言って出す。この仕組みは疲労している。どこまで権限を与えるかという問題は議論しなくてはいけないが、卓越した人からでもいいから裁量権を与えてほしい」

 一方、堀内氏は助産師の業務範囲を定める「保健師助産師看護師法」(保助看法)に触れ、次のように述べた。
 「保助看法を変えるのが難しいのであれば、通達で認めてほしい。例えば、がん認定看護師ならば一定の鎮痛剤の処方ができるとか、緊急時には『これとこれはできる』という権限を通達で明らかにして、『違法ではない』ということを保証してほしい。限られた範囲でも権限を与えることが表明されれば、現場はもっと進む」

■ 1級上の「臨床看護師」の育成
 
専門的な看護師の裁量権拡大について、舛添厚労相は一定の理解を示した。
 「アメリカのように医師と看護師の中間みたいな人がいて、場合によっては医師に転換するようなキャリアアップシステムがある。しかし、その場合に権限をどうするか、これが一番難しい。厚生労働行政の中で審議して決める必要があるが、やるならそこまで必要だ」

 これに対し、国立病院機構理事長の矢崎義雄氏も「名前のある看護師を育成していくべきだ。(日本看護協会の)認定看護師や専門看護師はその方向だが、もっと効率良く、臨床看護力の高度な能力を持った看護師を早急に育成する必要がある」と述べ、専門的な能力を持った看護師の養成に前向きな姿勢を見せた。

 その上で、矢崎氏は高度な能力を持った看護師育成のモデル事業について次のように述べた。
 「独自の権限や裁量を持った看護師を育成しようと、国立病院機構で考えている。できれば学校法人をつくりたい。専門職大学院で教育を受けた1級上の看護師、そのキャリアパスをつくる取り組みをしており、医政局長にもお願いしている。『あの病院だからできる』ということがないよう、どこかでモデル事業をやらないと全国一斉は難しい」

 矢崎氏の提案に対し、舛添厚労相は「やる方向で検討してください」と笑顔で答えた。しかし、これでまた1つ、縄張り争いの火種が増えたのかもしれない。


更新:2008/03/21 17:24     キャリアブレイン

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08/01/25配信

高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子

医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。