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【正論】高崎経済大学教授・八木秀次 教育基本法の理念反映せず

2008.3.19 02:22
このニュースのトピックス正論

 ■学習指導要領の改訂案に問題多し

 ≪文部省唱歌は増えたが≫

 文部科学省は先月、学習指導要領の改訂案を発表した。改訂は(1)教育再生会議が提言した「『ゆとり教育』の見直し」(2)教育基本法・学校教育法の改正による新たな「教育の目標」の具体化、という2つの要因によるが、何れも抜本的な改善には至っておらず、後退した個所さえある。

 授業時間数の1割増で「ゆとり教育」脱却と見る向きもあるが、「ゆとり教育」の根本理念である「『生きる力』をはぐくむ」は、「主体的に学習に取り組む態度を養う」との文言が加わり、むしろ強化されたとの印象を受ける。

 道徳教育も、現行の特設「道徳」を維持しており、教育再生会議の提言した「徳育の教科化」を否定した格好だ。「道徳教育推進教師」の導入など、道徳教育の強化を打ち出した点は評価できるが、抽象的な理念の羅列で、教材の例示がなく、実践段階での実効性は怪しい。

 教育基本法が打ち出した「伝統と文化の尊重」は、「伝統と文化を継承し、発展させ」との文言が新たに加わり、音楽で共通教材として現行より多くの文部省唱歌が取り上げられる点は評価できる。国語で古典学習を奨励したことも評価できるが、教材の例示がなく、具体性に欠ける。報道された「桃太郎」「因幡の白兎」などの例示はない。問題は社会科で、加わったのは小学校6年生の歴史の「狩猟・採集」という文言と「代表的な文化遺産を通して学習できるように配慮すること」という部分くらいだ。縄文時代を学んで「伝統と文化を尊重する態度」が育つとは思えない。

 ≪国家形成での主体性は≫

 わが国の伝統と文化を語る上で重要な天皇も、小学校6年生で「歴史に関する学習との関連も図りながら、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること」は現行の通りだが、中学校では社会科公民で「日本国および日本国民統合の象徴としての天皇の地位と天皇の国事に関する行為について理解させる」と記述するにとどまり、改善点はなく、天皇への敬愛の念についての言及もない。

 教基法が打ち出した「わが国を愛する態度を養う」には歴史学習の充実が必要だが、中学校社会科歴史は問題が多い。例えば、古代の部分で「東アジアの文明の影響を受けながらわが国で国家が形成されていったことを理解させる」と記述するが、国家形成におけるわが国の主体性が希薄だ。むしろわが国は中華文明とは異なる1つの独立した文明であることを理解させるべきだ。関連で言えば、改訂案は「『世界の古代文明』については、中国の文明を中心に諸文明の特色を取り扱い」とするが、なぜ、「中心に」とまで書く必要があるのか。現行は「中国の古代文明を例として取り上げ」にとどまっている。その他、多くの点で東アジアとの関係が強調され、中国への配慮が見え隠れする。わが国の対外的自立を宣言した聖徳太子が「内容」から注に当たる「内容の取り扱い」に格下げされたのも不可解だ。

 ≪領土でも改善みられず≫

 イデオロギー上の後退もある。「中世の日本」に関して現行は「『農村』については、徳政令、一揆について網羅的な取り扱いにならないようにするとともに、それらの内容に深入りしないようにすること」と記述し、階級闘争史観への歯止めとなっていたが、削除された。大日本帝国憲法の評価は「講座派」の歴史観が最も顕著に反映される部分だが、「『大日本帝国憲法の制定』については、これにより当時のアジアで唯一の立憲制の国家が成立し議会政治が始まったことの意義について気付かせるようにすること」という部分も消えた。「天皇制絶対主義」を強調した教科書記述の復活が懸念される。

 領土についても改善はない。小学校社会科の第5学年で「わが国の位置と領土」を取り上げるが、領土がどこからどこまでなのかの例示がない。中学校では地理で「北方領土がわが国の固有の領土であることなど、わが国の領域をめぐる問題にも着目させるようにすること」とするが、尖閣諸島、竹島への言及はない。

 防衛問題も、小学校社会科では言及がなく、中学校公民でも「わが国の安全と防衛の問題について考えさせる」との記述にとどまっている。「自衛隊」は言葉すら登場せず、裁判員制度という具体的な法制度に言及しているのと対照的だ。拉致問題への言及がないのも不自然だ。

 これらのどこに改正教育基本法の理念が具体化されているのだろうか。教基法が変わっても何も変わらなかったというのでは、笑えない笑い話ではないか。(やぎ ひでつぐ)

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