チベットに真の解放を

 チベットで暴動が起きている。中国の言論統制は過去よりマシなものの、実態を把握するためには十分と言いがたい。しかし、最近はテレビでチベットを紹介する機会も多く、また日本人観光客の人気もあって、昔のような閉鎖された世界ではなくなってきた。

 これからの中国当局の対応が注目されるが、極端な分け方をすれば、体制転覆をねらったとする天安門の時のように武力をもって制圧するか、香港返還のように交渉と知恵で平和裡に円滑な権限委譲の道をとるかの二つである。先行きはわからないが、日本にとっては境を接する隣国であり、あとを引かない形での安定が望まれるところである。

 中国では、清王朝という満州女真族の宮廷支配を打破した辛亥革命をもって、現代史の始まりとしている。それには、大陸浪人と称される日本の右翼もNGO?として協力していた。チベットにとっても漢民族同様、過去の中華王朝支配を脱するいい機会だったのだ。

 チベットのお釈迦様直伝に近い仏教は、中国経由の朝鮮・日本と違って全く独自に発展し継承されてきた。いわゆる中原から遠く離れた高地山岳地帯で、独自の文字、習慣、文化を持つ地帯である。そこを第2次大戦後の1950年、独立国として存在したチベットに中国人民解放軍が侵入し、占領下に置いた。

 古い因習や宗教の抑圧から、共産主義革命でチベット人民を解放する、という名目だっただろう。しかし、同時に「民族自決」というモットーもあったはずだ。広大な地域に、いくつかの少数民族をかかえ、少数民族の保護育成に努力している姿は現在なお続いている。

 しかし、チベットの人が「解放」されたとは思っていないことが、今回の事件で世界に発信されたのだ。毛沢東流にいえば「造反有理」である。中国人や現在の政府も、チベットが満州、台湾と違い、また天安門の騒動とも全く違う、ということも承知しているはずだ。

 幸か不幸か、チベットに関しては他国のバックや干渉がほとんどない。また中国政権が目の敵にしているダライ・ラマ十四世も、国境の変更や設定などを要求していない。より高度の自治権を民族として要求しているだけだ。それは、オリンピックを控えた中国としても僥倖なことではないか。

 冒頭に掲げた後者の方法で早急な解決を図らなければならない。そうしたからといって、中国の体制が崩壊するわけでも、威信が傷つくわけでもない。将来に向けてより安定した中国の体勢と度量を世界に示せることになるだろう。ただ残念なのは、日本がアメリカに対するのと同様、隣国に適切な助言・援助を与えられないことである。 
 

| | コメント (25) | トラックバック (0)

9条に新しい旗を

 3月7日、「動き出す改憲」と題して、「新憲法制定議員同盟」(中曽根康弘会長)が超党派メンバーの191人に増強、新たに民主党、国民新党幹部を役員に加えたことについて記事を書いた。その中で私は次のように言った。

    下記のような動きがある中で、いわゆる
        「護憲」を標榜する政党は、ポスターを作
       る程度で、9条改訂をどうやって阻止する
       のか、依然として具体的な対策が見あた
        らない。何度もいうが無為無策でいいの
        か。公明党はすでに内部で検討をはじめ
        ているという。

 このエントリーに対し、「護憲+」ブログのくぬぎ林さまから『「新憲法制定議員同盟」の動きに、どう対抗するか』の記事へトラックバックをいただき、いつかはこれに答えなければならないと感じていた。くぬぎ林さまは、こう訴える。

    これに対抗すべき具体案は私にもなか
        なか無いし、政治の現実の中では偽善
        的な美辞麗句(美しい国、国際貢献な
        ど)は有害であるが、ひどい現実、現憲
        法下で軍隊を持つなどということが大威
        張で存在している時、理想、理念を忘れ
        ないこと、日本が憲法で、戦争も軍備も
        拒否していることを忘れないことが大切
        だと思う。

        そして、この理念を現実に屈服させるの
        ではなく、現実を理念に近づけようと努
        力することが、人類の未来のためにも
        必要なのではないだろうか。この意味で
         も品川氏の言うように、このぼろぼろの
        旗竿を護り続けることが肝要なのではな
        いか。

 品川氏とは、経済同友会終身幹事・国際開発センター会長 品川正治氏のことだと思うが、もとより私にはその「ぼろぼろの旗竿」さえ掲げる力がない。わずかにできることは、戦争について考え、ブログで毎日反戦を訴える程度のことである。

 しかし、理念と旗竿だけでタカ派の考える「新憲法制定」を阻止できるだろうか。それができるのは、改憲発議を阻止できる3分の1以上の国会議員だけである。私は、議員の3分の2以上で改憲発議されたら、もはや国民投票でひっくり返すことは絶望的だと考えている。

 それこそ3分の2による発議を錦の御旗に、怒濤のような情報操作・プロパガンダを仕掛けてくるだろう。そうなれば理念も 「ぼろぼろの旗竿」も、まちがいなく蟷螂の斧と化してしまう。その前に確固たる3分の1勢力をどうしても作り上げなければならないのだ。

 その勢力は、総選挙と政界再編だけが作り出す。「断固許すことはできません!」が口癖の政党に頼っているだけでは成し遂げられない。やはり「新しい旗」がないと民意を引きつけられない。その新しい旗を誰が作るのか。

  私はあえて名前は言わないが、議員の中に必ずいると信じている。私たちは、そのかくれた人材を励ますため、意見を交わし言論を高めるべきではないか。幸いにしてアメリカをはじめ、世界の潮流は「戦い」から「和平」に傾きつつある。これをチャンスとみて新しい旗のデザインをみんなで考えようではないか。その準備のために次の3項目を掲げておく。

 ① 日米安全保障条約を一時凍結、これまでの諸協定、ガイドライン、大綱などを根本的に見直す。――こういうことを言っているのは、石原東京都知事だけ。立場は水と油だがほかに誰もいないのが残念。アメリカ新大統領と交渉するには、今から準備を。

 ② 9条の拡張解釈を封じ、自衛隊の専守防衛、災害復旧任務、海外派遣等の「崇高な」任務を規定する憲法の部分改訂を検討する。――ただ「反対」するだけでなく、タカ派新憲法とくらべ、どっちがいいのかという対案が必要。「動き出す改憲」に最低限の私案もある。

 ③ 軍縮主導国家、アジア共同体構想等平和外交方針の確立と表明。――ノルウェーなど欧州各国なみのことができないはずがない。これが最高の安全保障体制であることを主張しよう。 

| | コメント (24) | トラックバック (3)

無惨

4日前のエントリー「鳥害」の続きです。写真からごらんください。

2008_0314 ツグミもこの畑のキャベツが大好きです。いつも集団でやってきます。そのうち一羽がネットに足をからませました。さわいでもはずれません。カラスが2羽やってきてつつきだしはじめました。

 ツグミも数羽上を飛んでいましたがすぐ退散しました。ツグミが動かなくなるとカラスも消えました。最初はカラスが助けにきたようにも見えました。しかし結果はこうです。

2008_03140009  虐殺――カラスを非難する資格が果たして人間にあるでしょうか。
ツグミは渡り鳥です。もうすぐ生まれ故郷のシベリアに帰るはずでした。故郷を再び見ることなく異境の野に散る無念やいかに。

 生態系保護という言葉のむなしさをつくずく感じるひと幕で した。南無 gawk

| | コメント (0) | トラックバック (1)

不穏言動調査

内務省警保局不穏言動調査(『近代庶民生活誌』④三一書房より一部抜粋)

★昭和18年9月より19年3月に至る間

○戦争は陛下が勝手にやつてゐるのである。やるなら市民大会でもやつてから始める可きである。勝手にやつたのだから債権を購入する事は出来ぬ(検挙)  (職工 栃木)

○近頃は酒どころじゃない、米もろくに食えぬ様になつたし鍋釜まで売つて戦争をせにやならん様じや日本も負けじや、大体政府のやり方が悪い、無能ばかりじや、天皇陛下は道を歩くにも一人歩きはせず、雨が降つても人に傘をさして貰ふ、こんなものこそ飯を食はんでも良い(検挙)  (労働者 大分)

○こんなに骨を折つて子供を育てゝも大きくなると天皇陛下の子だと言つて持つていかれて仕舞ふものだもの嫌になつて仕舞ふ、子供を育てゝも別に天皇陛下から金を貰ふ訳でないのに大きく育てゝから持つて行くなんてことをするのだもの天皇陛下にだつて罰が当たるよ(検挙)  (無職女 栃木)

○長男を昭和十二年十二月西安にて。次男を昭和十七年五月ソロモン方面にて失ひたる母親、次男戦死の公報に接するや「二児を失ひたるは天皇陛下の為なり」とて畏くも陛下の御肖像及び掛軸を取外し、之を足蹴にす、(検挙)  (戦死者母 秋田)

○詔勅の中に「万邦をして各々其の所を得しめ兆民をして其の堵に安ぜしむ」と天皇陛下は仰せられてゐるに拘らす、支那や米英と戦争する事は無意味であつて巧言麗色となりはせぬか、詔勅には美辞麗句を連ねてあるが世界は相手にしないではないか(検挙)  (会社々長 兵庫)

○道路上に於て新聞紙に謹写掲載しある天皇陛下の御写真を二つ折りとし、之を首に吊し遺骨帰還を模倣する悪戯を為す(検挙)  (国民学校児童 島根)

○名古屋市元新聞記者戦死の公報を受くるや親戚知己、戦死者の友人に宛
    拝啓御無沙汰致し候予て出征中の愚息小尾正事十二月十一日南支広東省沙頭方面に於て所謂名誉の戦死否犬死を致し申候ああ二十四歳の若桜人生の春にも逢す無理に散らされ申候、家庭共は経をあぐる代りに写真を前にして泣いてばかり居り候 今更戦争の大罪悪なることを心より痛感致し候あゝ

| | コメント (0) | トラックバック (1)

戦争嗜好政治家

 まず、6日にエントリーした「原理主義」の一部をお読みいただきたい。

    アメリカの石油メジャーズは、昔からサ
    ウジ、イラン、イラクをはじめとする産油
    地帯の国情、民族、宗教などについて
    の深い研究成果を持っていた。したが
    って、イラク進攻がこのような結果をも
    たらす可能性は、アメリカ内部で十分
    予測がついたはずだ。

    にもかかわらず、ブッシュが突っ走った
    のはなぜか。アメリカの支配層に隠然
    たる勢力を保つユダヤ人の存在、ロビ
    イストの活躍がささやかれる。一方、
    キリスト教原理主義、なかんずくプロテ
    スタント福音派で、ユダヤ復興・千年王
    国到来の預言を信ずる一派がブッシュ
    の支持層であり、ブレーンになっている
    という説もある。

    前者のユダヤ人の支持や票を失いたく
    ない、というのはわかるような気がする
    が、原理主義の方はどうであろうか。ブ
    ッシュのとりまきにそういった信者がい
    たにしても、ブッシュ自身が盲信者でな
    いかぎり、予言の解釈で外交をし、戦
    争を始めることなどあるだろうか。中に
    は、そうとでも考えないととても説明が
    つかない、という人もいる。

 次に、今日12日の毎日新聞に、元米国務省職員で03年3月、イラク戦争に抗議して国務省を退職したジョン・ブラウン氏のインタビュー記事が載った。この内容が真正で反論の余地がないものとは思わないが、公式な手続き経て取材に答えたものであるだけに、内部告発の証言資料として検討の価値は十分ある。以下、その一部を引用する。

    ――なぜ米国は戦争へ突き進んだのです
    か。

    ◆ブッシュ大統領自身、国際的なことにほ
    とんど興味を持たず、知識もなかった。ホ
    ワイトハウスの取り巻き連中の関心は常
    に国内問題だった。つまり、共和党政権
    をどうやって維持するかが最大の関心事
    だった。02年11月の中間選挙に勝つた
    めに、取り巻きたちは大統領を強い指導
    者に見せかける必要があった。そのため
    にイラク危機を利用したのだ。

    ――政治家や国民も反対できなかった
    のは?

   ◆米同時多発テロ(01年9月11日)後し
   ばらく、米国民は正常な思考ができなかっ
   た。「フセイン政権は大量破壊兵器を保有
   しており、テロリストに渡すかもしれない」
   と大統領が語ると、反対は難しかった。だ
   が、今では多くの国民が大量破壊兵器保
   有情報がイラク侵攻の口実に利用された
   ことを知っている。

   ――政権は侵攻後のイラク混乱を予想し
   ていなかったのですか。

   ◆政権幹部はこんな結果になるとは全く予
   測していなかったはずだ。簡単に考えてい
   たのだ。中東に関する無知ゆえだ。米元外
   交官のピーター・ガルブレイス氏は著書の
   中で、ブッシュ大統領がイラクにイスラム教
   のシーア派とスンニ派の2宗派があること
   を知らなかったと暴露している。ブッシュ政
   権には外交感覚のある人物は見当たらな
   い。父のブッシュ元大統領も国際感覚に疎
   かったが、ジェームズ・ベーカー元国務長
   官ら外交に強い人物を要所に配した。今の
   政権にはそうした人物もいない。

 これを見て驚かない者がいるだろうか。アメリカ国民や世界各国のことよりも、自らの政治権力維持が最優先で、それがイラク戦争の動機だという。ブッシュは親族が経営する石油会社に就職した経験がある。それでいて中東の事情、さらにはシーア派やスンニ派についての知識すらなかったのだろうか、いかにテキサスのインデペンデント石油会社であろうとも、この程度の勉強もしていなかったのかといぶかられる。

 私たちには、アメリカが世界に冠たる民主主義国家、自由主義国家であるという幻想がある。それがこういう指導者にゆだねられるというのが現実なのだろうか。私はしばらく前から非武装中立の考えを捨てた。それは、全く自衛手段のないおまかせスタイルでは、このような戦争嗜好政治家による格好な餌食にされかねない、ということである。

 それには、過去の朝鮮王朝の事大主義依存失敗といういい教訓がある。「力の空白」状態がパワーポリティックスにとって、格好なえさ場になることも歴史的な事実である。したがって憲法9条は死守するが、自衛隊は存在しなければならないのである。

 たしかに世界の戦争嗜好政治家はこのところ勢いを失っている。しかし油断してはならない。特に大統領といおうが、首相といおうが、将軍様といおうが、世襲2代目、3代目の宰相には、ゆめゆめ注意を怠ってはならないのだ。 
 

| | コメント (2) | トラックバック (5)

謀略と独断専行

 今年は、張作霖爆殺事件からちょうど80年目に当たる。時の総理は田中義一。昭和天皇誕生の直後から2年2カ月余り、張作霖事件処理の甘さから天皇の不興を買い辞職するという、珍しいケースを残した宰相だ。今や、911をはじめとする謀略論議かブログ上を行き交っているが、田中内閣当時はまさに謀略全盛時代といってよく、その後の暗い世相と戦争への道を予告するかのようである。

 張作霖や日本の関東軍(日露戦争以後、中国がロシアに与えていた租借地や鉄道利権を奪い、その防護を目的に派遣されていた)について語ると膨大なものになるので、陰謀の内容と関東軍の思惑のサワリだけ紹介しておくことにしたい。

 なお、文末に当ブロ区前身の「反戦老年委員会」で記事にした<「田中上奏文」の怪>を、謀略多発の例として再録する。また、その中で「張作霖謀殺はソ連諜報機関のしわざ、と主張する人」と書いた部分があるが、それは櫻井よしこ氏のことで、こういった主張は、秦郁彦氏などの反証のせいか最近ほとんど聞かなくなった。

 当時の中国は、国とは名ばかりでちょうどアフガニスタンが地域ごとに軍閥が実権支配しているのをもっとひどくしたような状態で、それぞれの実権者を日、米、英、仏、ソなどがひそかに支援したり買収したりしていた。そのため交戦や権力の移動が絶えず、裏切りも日常茶飯事のことだった。

 満州に地盤を持つ張作霖には日本のてこ入れがあり、一時は北京を支配する勢いを持っていた。しかし、国民東軍の北征の勢いに抗しきれず満州への撤退を覚悟する。その途次、列車爆破事件が起きたのだ。関東軍も張を支持するように見せかけておき、実は当時の市民の反日意識に配慮しはじめていた張を消して、満州を全くの傀儡政権か関東軍の直接支配に移そうとした。

 謀略はこのように進んだ。モルヒネ患者のならずもの2名と王某の3名を100~150円を与え、散髪と入浴をさせてサッパリした服に着替えさせた。移動の途中で王某は逃走した。残る2名に「爆弾を投げる役だ」と告げ、国民政府要人に対する密書を持たせた。現場に着くと両名は日本軍兵士に斬り殺され、かねて用意の爆弾を遺体とともに橋梁下にセットされた。爆薬は某大尉のスイッチで爆発し、張の乗る車両を粉砕した。

 関東軍はシラを切って遭難事実だけを発表したが、あまりにもあまりにも多くの物証を残している。また爆薬も人が投げるにしては大量すぎる。逃亡した王某の証言や実行前に寄った風呂屋の証言もある。そこらは、日頃傍若無人になれている軍人の浅知恵計画だったかも知れない。新聞は、軍に遠慮して「満州某重大事件」と報道したが、関東軍の謀略であることには気づいていた。

 田中首相が天皇に責任者の厳罰を約束していたのにもかかわらず、関東軍の反発をさけ、首謀者の関東軍高級参謀河本大作大佐を退役処分にしただけのあいまいな処分しかできなかった。潔癖な天皇に、「やめたらどうだ」といわれた所以である。そういった軍部の独走はその後も続くが、どこから始まるのだろう。島田俊彦『関東軍』(講談社学術文庫)から引用する。

      元来陸軍には、明治三十三年(一九〇〇
    年)の義和団事件鎮圧を目的とする中国
    出兵のときから、国外出兵の場合は閣議
    での経費支出の承認と、奉勅命令の伝宣
    を必要とするという慣例があった。だが一
    方『陣中要務令』では、日本陸軍は上、軍
    司令官より、下、一兵にいたるまで、独断
    専行、機宜に応ずるための修養訓練が極
    度に要求され、いたずらに命令がくだるの
    を待って機を失するようなものは天皇の統
    率する軍隊の列に加えることができない、
    と教えている。

再録】 
「田中上奏文」の怪

 昭和のはじめ、中国は幾多の軍閥、政治勢力が覇を競い合い、恒常的な内戦状態にあったといっていい。曰く蒋介石、汪兆銘、張作霖、毛沢東、張学良などなど、そしてそれぞれの勢力は時には手を結びあるいは反発しあい、諸外国に援助を求めたりまたは特権の放棄を要求するなど、文字通り「麻のように乱れていた」といえる状態だった。

 その中で、日本は遼東半島と満鉄などを足ががりに「満蒙は日本の生命線」と称してじわじわと勢力範囲を拡張し、居留民保護などの名目で山東省への出兵を3回も繰り返した。当然、中国人民の激しい抵抗や反発を受け、衝突による死傷者の増大は避けることができなかった。

 鉄道爆破による張作霖爆殺事件が起きたのはこういった時期のことである(1928年・昭和3)。また、これが関東軍の謀略であるということも時を経ずしてわかった。時の田中義一首相といえば、この事件の責任追及を完遂できなかったため天皇の不興を買い、内閣総辞職するはめになったことで有名である。

 今回のテーマ「田中上奏文」はこれと関係ない。最近1史料をもとに、張作霖謀殺はソ連諜報機関のしわざ、と主張する人がでてきた。あとで1史料が出てきたからといって、歴史が書き換えられるわけではない。史料の普遍性や幾多の傍証に支えられるものでなければ、創作か怪文書扱いである。

 怪文書とは、ある目的をもって偽造、捏造された文書のことを言う。最近は文書に限らず映像までこれに加わった。怪文書はあくまでも怪文書であり、「歴史」とは無関係である。9.11の爆破自作自演説なるものもあるらしいが、通常ならこれは歴史になり得ない。しかし、世界各国の多くの人がこれを真実と信じるようであれば、その現象の背景にあるものを探索する意味はある。

 「田中上奏文」も、これと似た位置に置かれている。日本では戦前すでにこれが偽作であるということで決着しており、東京裁判でも「にせもの」という判断が下されている。歴史書でも全然触れないか触れてもわずかでしかない。そこでまずその概略を説明しておこう。

 昭和2年4月田中内閣が成立し、6月に外務・陸海軍当局者で構成する東方会議を開催して、対中国強硬策を決めた。その内容を天皇に上奏するためと称する厖大な文書がそれある。これには宮内大臣宛の代奏要請書簡がついているが、元来その任務は内大臣の担当であり、これが偽書説の有力な理由となっている。

 文書の内容は、満蒙政策を中心に21項目2万6千字にわたるもので、もし本物なら異例のボリュームと内容になる。そして問題になったのは、「支那を征服せんと欲せば、先ず満蒙を征せざるべからず。世界を征服せんと欲すれば、必ず先ず支那を征服せざるべからず」という文言があり、その後の日本の行動がほぼその線に沿って進んだことである。

 このような露骨な征服野心丸出しの方針が、天皇を含めて昭和のはじめからあったとすれば、「追い込まれたためやむをえず戦争にまきこまれた」などという口実などスッ飛んでしまう。そして間もなく中国語、英語、ロシア語に訳されたものが出回りはじめ、各国の新聞にも掲載されだした。

 無論、日本の外務省はその存在を否定し、米国などでは偽作であることが次第に理解され始めたが、中国、ロシアでは本物とする向きが多く、仮にそうでないにしても、日本のしかるべきところで作成された指針には違いないという解釈が根強く残っている。

 この文書の作成者や流出ルートなど、いろいろ研究されているが、これにもソ連の諜報機関関与説や中国人商人の暗躍など、怪文書にふさわしいいろいろな情報が交錯している。日本でも、その文脈から、日本人の手になる部分があることを否定しきれないと考えられている。

 張作霖爆殺後、期待?に反して後継者の張学良などが冷静で、反日騒動などの動きに出なかったことを陸軍の中枢が残念がった、という話があるぐらいなので、あるいは軍部の過激派が中国を挑発するために偽作したという線もなきにしもあらずである。陸軍出身の田中でさえ陸軍を抑えきれないという現象は、この時期に始まる。

 いずれにしても、日中両国の研究者にとってこの文書の持つ意味は大きく、今後、両国関係史を検討する中で単なる怪文書として捨てきれないものになると想像される。(参照文献『国境を越える歴史認識』ほか)

| | コメント (0) | トラックバック (1)

鳥害

  権兵衛が 種まきゃあ2008_03100007
  カラスが  ほじくる

 これは昔の話である。家庭菜園でも、枝豆やとうもろこしを直播すると鳥にほじくられたが、葉物の新芽を荒らすのが最近のはやりである。プロは広大な農地でも、ネットなどを張って防護せざるを得ない。

 それでも、このように網の上から体重を利用して堂々と食いまくる。最近は、カラスの生ゴミ荒らしがなくなったが、まさか、中国産食品の毒物混入を新聞で知り、安全な国産農作物に切り替えたのでは?。家庭菜園でも収穫ゼロの危機にさらされている。

 はげ鷹ファンドの農作物先物投資による相場の高騰にしろ、カラスにしろ、このところ鳥類の貧乏人に対する攻撃が目に余るようになってきた。

2008_03100006

| | コメント (0) | トラックバック (1)

法華経と原理主義

 さきにあげたエントリー「原理主義」で、原理主義(Funtamentalism)の厳密な意味からすると、これをイスラムと結びつけるのは誤りであるとした。同様の理由で、仏教→法華経→日蓮主義と原理主義は、全く縁がない。しかし、戦前の日本において、それらの積極的な解釈で、超国家主義的な右翼思想を生み、またその影響が軍部に及んだ点で類似性がないとはいえない。

 仏教には、キリスト教、イスラム教とは比較にならないほど(約6000といわれる)の教典がある。コーランが、アラビア語の一種類であるのにくらべ、サンスクリット原典、パリー語原典のほかチベット語訳経典、漢訳経典があり、日本は、原始仏教とは異なる中国のオリジナリティーを持った漢訳仏教を、さらに鎌倉時代に日本土着の仏教としてアレンジし、完成させた。

 諸経典のうち、法華経の成立は遅く、それだけ完成度の高いものとされている。日蓮がそこに注目・集中して「南無妙法蓮華経」という、経典への鑚仰を題目とし、信仰の対象とした。その純粋性を高めるためにとった道は、激しい対決主義であり、「不受不施」(他宗の信者から供養を受けない他宗の僧侶の供養はしない)とか「折伏」(しゃくぶく=強い説得)という行動原理を生んだ。

 日蓮主義を特徴づけるのは、彼が書いた「立正安国論」である。この正法を護持しない限り国が滅びるという持論を、元寇を前にした鎌倉幕府に迫って迫害をこうむったことはよく知られている。日蓮に関係する諸宗派が、国または国政にかかわろうとすることは、この故であろうか。

 現在でも、その最右翼をなす信者団体・国柱会から、平和団体と行動を共にする出家団体・日本山妙法寺まで、その理念・行動は対極にあるといっていいほどの幅がある。また、公明党を支持する創価学会の存在もあるがそれには触れず、冒頭に書いたさきの戦争までのかかわりを、国を動かした日蓮信者の中から見ていきたい。

 田中智学(1861-1939)は、「国体宣揚」を第一義に考えた。日清戦争では、天照大神をもって久遠釈尊、つまり釈迦と見なし、邪法の国・清をうち破るべしとした。また、日露戦争から第一次世界大戦にかけても、「王仏一体」を説き、尊皇護国・世界統戒壇の建立を目指すものとして兵士を激励した。また、国柱会の創始者でもある。

 北一機(1883-1937)は、幼少のころから日蓮主義に傾倒していたが、苦学の末明治39年に『国体論及び純正社会主義』を自費出版して高い評価を得た。それは、資本主義、個人主義を否定し、国家を強調するための武力革命も肯定するものであった。

 しかし、天皇より国を上に置くもので(日蓮の国より法を上に置いたのと似ている)すぐ発禁処分となる。その後中国革命に身を捧げたが、日本の中国侵略指向で苦境に立たされ、日本の改造こそ必要であるとの信念のもと『日本改造法案大綱』を起草した。

 これは、アジア連盟・世界連邦を日本が盟主となって実現させる、そのためには日本の強力な国家体制が必要とするもので、その中心に天皇と軍隊をもってきた。それに右翼闘士・青年将校が乗り、ついには二・二六事件連座したとして銃殺刑になる。

 井上日召(1886-1967)は田中智学からの影響や刺激を受けて、右翼革命を推進した。結盟団の盟主となり、日召の感化を受けた青年将校たちが五・一五(昭和7年)事件で犬養毅首相を暗殺、また同年、前蔵相の井上準之助と三井財閥首脳の団琢磨暗殺の黒幕であった。日召のモットーは一人一殺であった。暴力肯定のファシズムは、もう引き返せないところまで来てしまっている。

 石原莞爾は、前年の満州事変で関東軍参謀として立て役者になったが、陸軍大学卒業後田中智学の国柱会に入会していた。かれもまた日蓮の言を通して世界最終戦の到来を予想し、それに備えることに専念した。またその後の世界統一を夢見たことなど、原理主義と一脈通じるものがここにもある。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

動き出す「改憲」

 安倍退陣、福田登場で改憲の動きが遠のいたように見えていたが、啓蟄を過ぎて急に蠢動が始まった。昨年の参院選直後に「護憲派の敗北」というエントリー(当ブログの前身「反戦老年委員会」・本ブログカテゴリ「既著」に再録)を書いたが両院議員数の上では、9条の帰趨が楽観できない状況であることに変化はない。

 下記のような動きがある中で、いわゆる「護憲」を標榜する政党は、ポスターを作る程度で、9条改訂をどうやって阻止するのか、依然として具体的な対策が見あたらない。何度もいうが無為無策でいいのか。公明党はすでに内部で検討をはじめているという。

 これも繰り返しになるがるが、最初に当塾の改憲案を掲げておく。これがあれば「恒久法」制定も自衛隊法改正も、解釈改憲でなく、筋が通せるようになる。以下の記事はカテゴリ「データ・年表」に入れ、随時変更を加えることにする。

●反戦塾憲法改正案
☆日本国憲法 第2章 戦争放棄 第9条に追加
 
③公務員は、法律に定めがある場合をのぞき、武器を携行し、または利用して外国または日本国領土以外の地域で行動してはならない。

●新憲法制定議員同盟
☆2008年3月4日、超党派の国会議員らで作る「新憲法制定議員同盟」は新役員体制を決定した。

☆自民、民主、公明、国民新の各党などから議員191人が参加。

☆昨年11月に4人だった民主党議員は、14人に増えた。

☆【会長】中曽根康弘(元)
 【会長代理】中山太郎(自民・衆院)
 【顧問】衆院=海部俊樹、中川秀直、丹羽雄哉、中川昭一、瓦力、山崎拓、*安倍晋三、*伊吹文明、*谷垣禎一(以上自民)、*鳩山由紀夫(民主)、綿貫民輔、*亀井静香(以上国民新)、参院=青木幹雄(自民)、元職=塩川正十郎、奥野誠亮、森下元晴、上田稔、倉田寛之、関谷勝嗣、片山虎之助、*粟屋敏信、*葉梨信行、谷川和穂
 【副会長】衆院=津島雄二、古賀誠、野田毅、島村宜伸、深谷隆司、与謝野馨、高村正彦、二階俊博、町村信孝、額賀福志郎、大野功統、斉藤斗志二、杉浦正健、森山眞弓、堀内光雄、*臼井日出男、*石原伸晃(以上自民)、*前原誠司(民主)、平沼赳夫、*玉沢徳一郎(以上無所属)、参院=*藤井孝男、*尾辻秀久(以上自民)、*田名部匡省、*渡辺秀央(以上民主)、山東昭子(無所属)、元職=小野清子
 【副会長兼常任幹事】衆院=保岡興治、鳩山邦夫、大島理森、船田元、金子一義(以上自民)、参院=鴻池祥肇、*小泉信也(以上自民)
 【幹事長】愛知和男(自民・衆院)
 【副幹事長兼事務局長】柳本卓治(自民・衆院)
 【副幹事長】中曽根弘文(自民・参院)
 【常任幹事兼事務局次長】衆院=*平沢勝栄(自民)、参院=林芳正、岡田直樹(以上自民)
 【常任幹事】衆院=*松原仁(民主)、*下地幹郎(無所属)、参院=*谷川秀善、*中川義雄(以上自民)、*亀井郁夫(国民新)、元職=飯田忠雄、永野茂門
 【監事】萩山教嚴、木村太郎(以上自民・衆院)
<*は新任>

☆この同盟は、現・憲法改正ではなく、「新憲法制定」としている点に注意が必要。

●憲法審査会
☆国民投票法案に盛られ、衆参両院議員で構成される。
☆まだ開催されたことはない。

●憲法審議会(自民党)
☆08/2/6 憲法審査会開催を促進する意味で、投票権年齢の引き下げなどをめぐって活発な議論を開始。
☆【会長】中山太郎

| | コメント (2) | トラックバック (4)

原理主義

 「入門編・戦争とは」と題し、「人間はなぜ戦争をするのでしょう」を6回にわけて書いてきた。構想を練った上でのことではなく、ブログを続けながら脳裏に浮かんだこと羅列してみただけである。そして、発想の助けとするため、戦争の原因を「差別」「経済」「拡張」「ナショナリズム」「宗教」に分けてみた。あたまの一字をとるとサ・ケ・カ・ナ・シである。

 言葉としてこなれていないし、学際的でもない。しかしまちがっているとも思えない。以上のうち一番自信がなかったのが、最後の「宗教」である。コメントをいただいた「逝きし世の面影」氏も同じ感想をもらしておられた。

 結論からいうと、現在多くの宗教による紛争があり、それが武力闘争の直接原因のように言われているが、実は違うのではないか、と思い始めたことである。もちろん、個々のケースによって異なり、一概に論じることはできないが、他のもろもろの原因を「宗教」で味付けし、戦意高揚に「宗教的情熱」を利用しているように見えてくるのだ。

 そこで、常套語化している「原理主義」について考えたい。大手マスコミなどで「犯行はイスラム原理主義組織によるものと見られる」などと表現していたがこれは誤用である。最近は「イスラム過激派」に変えているところもあるが、当然であろう。

 「原理主義(Fundamentalism)」とは、キリスト教で、聖書、福音書などの原典に書かれていることを厳格・忠実に信じ、守っていこうという考え方につけられた言葉である。したがってイスラム教にはあてはまらない。イスラム教徒にとって、アラビア語で書かれたコーランが日常を律する唯一の聖典である。

 イスラム圏で最も厳格な解釈を保っているのは、世俗化したイラクやシリアなどでなく、穏健派とされているサウジアラビア王国である。ウサマビンラディンは、サウジの出身だが、コーランに忠実で愚像を拒否するイスラム教徒なら、だれでも原理主義者といえるだろう。

 アメリカのイラク攻撃についていろいろな動機の分析がある。当初の名目、大量破壊兵器の存在は、ブッシュ政権が本当にそう信じていたのかどうか、未だに疑問が残る。また、フセイン独裁政権を倒して民主主義の国へ、というのも、あとでつけたした理不尽なものだし、ビンラディンとのつながりなどは誰も信じていない。

 そうかといって、当初よくいわれていた石油利権ねらいや、ブッシュ・パパが湾岸戦争で果たせなかった敵討ち、という俗説には簡単に乗りかねる。そこで行きつくのが、アフガン攻撃も含め、イスラム国に取り囲まれているイスラエルへの援護射撃である。

 アメリカがとり続けてきた世界戦略は、終始、悪の枢軸・北朝鮮やイランなどの核技術が反イスラエル国に流出することを阻止することだった。旧宗主国で、イスラエル建国のきっかけを作ったイギリスではなく、なぜアメリカがここまでイスラエルの肩を持たなければならないのだろうか。

 アメリカの石油メジャーズは、昔からサウジ、イラン、イラクをはじめとする産油地帯の国情、民族、宗教などについての深い研究成果を持っていた。したがって、イラク進攻がこのような結果をもたらす可能性は、アメリカ内部で十分予測がついたはずだ。

 にもかかわらず、ブッシュが突っ走ったのはなぜか。アメリカの支配層に隠然たる勢力を保つユダヤ人の存在、ロビイストの活躍がささやかれる。一方、キリスト教原理主義、なかんずくプロテスタント福音派で、ユダヤ復興・千年王国到来の預言を信ずる一派がブッシュの支持層であり、ブレーンになっているという説もある。

 前者のユダヤ人の支持や票を失いたくない、というのはわかるような気がするが、原理主義の方はどうであろうか。ブッシュのとりまきにそういった信者がいたにしても、ブッシュ自身が盲信者でないかぎり、予言の解釈で外交をし、戦争を始めることなどあるだろうか。中には、そうとでも考えないととても説明がつかない、という人もいる。

 ブッシュは、中東和平を任期中(来年1月)に実現させると言明した。ライス国務長官も「ここと思えばまたあちら」の東奔西走の活躍ぶりである。しかし、彼女の言動を見ていると、イスラエルの右派・リクードに耳を貸してもパレスチナの選挙で勝利したハマスを非難する態度に変化はない。ブッシュの成功は祈るが、これまでの例にもれず大ぼらの続編にすぎない、と見た方がよさそうだ。

 「逝きし世の面影」氏がおもしろいことを言った。<イスラム教は、キリスト教をバージョンアップしたもので、教義の内容は殆ど同じものです。ウインドウズ95とXPかビスタの違い程度>。なるほど、これは至言だ。95のフローチャートでビスタを書き換えるなど、同じウインドウズの神を信じていても承伏できるわけがない。

 「サラムアレーコン」。イスラム教徒ならどこの国にいっても通用する「こんにちは」で、平和を意味する共通ソフトがそのまま利用できる。それを、進歩をはばむ遅れた古くさい宗教とさげすまされ、服属を強制されれるようなことがあれば、身をなげうっても抵抗する、いわゆる「聖戦」ということになるのだろう。

| | コメント (1) | トラックバック (2)

«ギョーザと胡主席来日