日本の医療費は世界的にみれば低い水準だ。国内総生産(GDP)に占める総医療費の割合は8%でOECD30カ国のうち22位。米国の15%、仏の11・1%、独の10・7%に比べるとかなり低い。日本は世界一の長寿国であり、少ない医療費を効率的に使っていると評価は高い。とはいえ、世界一の速度で進む高齢化は確実に医療費の急増をもたらしている。医療費の急増は納税者である現役世代に重くのしかかる。
そこで政府は医療費の抑制策を実行したが、その結果病院から悲鳴が上がっている。財政赤字の病院が増え、開業医に比べて低報酬で激務の勤務医は開業医となって離れていく。患者は開業医より病院での診察を望むから病院勤務医の仕事はさらに過酷になる。まさに医療疲弊への悪循環だ。
では、崩壊寸前の医療を救えるのか。医療費の増加、医師の不足・偏在、病院の赤字、現役世代の負担増など、問題は枚挙にいとまがない。個別に対応すれば、全体が混乱する。逆に全体を優先すれば個別問題が中途半端になる。崩壊への悪循環を断つには英知と決断が必要だ。(中部本社代表室長=前社会保障担当論説委員・57歳)
毎日新聞 2008年3月16日