今年も各国から集まった多彩な作品が接戦を極めた第58回ベルリン国際映画祭。世界三大映画祭の中でも社会派の作品が多く集まる傾向にある同映画祭だが、そのフォーラム部門にて、2月11日、12日、14日(現地時間)の3日間にわたり、日中合作ドキュメンタリー『靖国 YASUKUNI』が上映され、地元ドイツを始め、各国メディアの間で大きな反響を呼んでいる。
本作は、日本で活躍する中国人監督、李纓(り・いん)が10年以上の歳月をかけて、靖国神社にまつわる人々を撮ったドキュメンタリー。合祀や参拝の問題をめぐり、アジアのみならず世界の波紋を呼んでいるテーマだけに、上映会場には各国から多くの記者が押し寄せた。10日に行われたプレス試写では超満員、11日のプレミア上映でも立ち見が出て、上映開始が20分も遅れるほどの大盛況ぶりを見せた。
劇中、旧日本軍の軍服を着て参拝する人々や、「勝手に合祀された魂を返せ」と迫る台湾や韓国の遺族たちなど、靖国神社をめぐる、知られざる人々の姿が映し出される本作。その中でも地元ドイツのメディア紙の関心を呼んだのは、靖国神社の軍刀を作る刀匠、刈谷直治氏の存在。その言及内容は以下の通り。
「李纓は、打ってつけの人物を中心に置いている。刈谷直治は、世俗的騒々しさを越えたところで生きている。しかし、この世界では『記憶に刻むことと忘れ去ること』『罪と赦し』に関わる争いは絶えることがない」(ベルリン日刊紙「ターゲスシュピーゲル」批評)
「映画で最後の刀を作っている神社の刀匠、刈谷直治は、質問にめったに答えない。その彼が『靖国刀は機関銃をまっ二つに切ることができる』と言う場面がある。神社が際立っているように、寡黙な88歳の彼も伝統的な技に長けている」(ベルリン日刊紙「タッツ」批評)
ほかにも「戦死した日本の軍人たちを追悼することは、彼らが引き起こした苦しみを忘れなくても可能である。にもかかわらず、日本は未だに戦争責任を認めることをしていない」のように、靖国問題を通して日本に対する批判的な意見もあるが、同じ敗戦国という歴史的背景をもつドイツならではの関心の高さがうかがえる批評が占めた。また、映画の内容から、上映会場では日本での公開を心配する声も出たが、李監督が「今年4月に、東京4館を皮切りに全国で公開されます!」と答えると、地響きのような拍手が巻き起こる一場面も。
“靖国神社”の現実と歴史に深く踏み込んだ、李監督の渾身の一作『靖国 YASUKUNI』。日本に凱旋後、4月、新宿バルト9、渋谷Q-AXシネマほか全国にて公開。
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