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【国際】

厄介者 どこへ行く  スペイン独立派 世論離れ弱体化

2008年3月12日 朝刊

10日午後、マドリード市役所前でETAに暗殺された元市議を追悼するガイヤルドン・マドリード市長(左から5人目)ら

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 政治統合で国境が消えつつある欧州で、今もなお残る民族独立派テロ組織「バスク祖国と自由」(ETA)。スペイン政府との停戦を破棄した昨年六月以降、バスク地方の分離独立を求め、再びテロを活発化させている。九日のスペイン総選挙で勝利したサパテロ左派政権は、和平路線に失敗した一期目を教訓に、ETA問題に立ち向かう。 (マドリード、バスク自治州で、牧真一郎、写真も)

 総選挙から一夜明けた十日、マドリード市役所前に大勢の市民が無言で立った。七日にバスク地方でETAの銃弾に倒れた元市議(42)の追悼集会。参列した女性(40)は「テロは続く。新政権にも期待しない。できるのは冥福を祈ることだけ」。凶行への怒りというより、止まらない暴力に対する無力感が充満していた。

 かつて地元バスクで英雄視されたETAも、今では厄介者のよう。独立支持派にさえ、世論の支持を否定して「将来はなくなる」と言い切る男性(76)も。一方、ETAの“機関紙”ともいわれるバスク地方の独立派新聞「GARA」のファリティス編集長(43)は「暴力否定の世論は上っ面にすぎず、陰に支持する人たちがいる」と反論する。

 ETAの内情に詳しいバスク大のズベロ教授(46)によると、現在のメンバーは三百人ほどで、ピーク時の五百人からかなり減った。「かつて戦闘部隊の活動期間は十−十五年だったが、かくまうことも難しくなり、今では一、二年」。弱体化の傾向は確かだ。

 ETAはなぜ停戦宣言と破棄を繰り返すのか−。ファリティス氏は「ETAは現状を変えようとしていた。政府がETA受刑者の刑期見直しなど、当初の約束を守らなかったのが失敗の一番の原因」と指摘する。

 これに対しズベロ氏は「住民の支持を失い、過激な行動に走るグループも出ている」と分析。交渉に対する組織の意思統一がなかったとみる。

 欧州にはこのほか、北アイルランド紛争で多数の犠牲者を出したアイルランド共和軍(IRA)などのテロ組織がある。IRA問題では、対話路線を掲げた英国のブレア前首相が一九九八年に包括和平合意に結びつけ、武装解除に成功した。

 さらに残る民族派テロ組織は、フランスからの独立を求めるコルシカ島などわずか。サパテロ首相は北アイルランドの例にならい、テロリスト周辺との対話で解決を図ったが、失敗した。

 「かつてバスク語や文化を奪われたことへの反動が残っているのが過激路線を捨てきれない理由の一つ。もう一つは未来に対する不安。グローバル化で自分たちのアイデンティティーを見失うことを恐れている」

 ズベロ氏は地域に深く根差した感情をこう説明した上で「メンバーからすれば、多数の人を殺して後戻りできない。だからこそ対話の可能性を捨ててはならない。取り締まり強化だけでは解決できない」と、新政権に慎重な対応を訴えている。

 

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