混迷イラク 開戦5年

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混迷イラク:開戦5年に聞く/1 ジョン・ボルトン、前米国連大使

 米英軍によるイラク戦争の開戦から20日で5年を迎える。旧フセイン政権は崩壊したが、開戦理由とされた大量破壊兵器は見つからず、戦後統治の失敗による混乱が尾を引いている。イラクと国際社会は安定への道を見いだすことができるのか、米国、英国、イラクなどの関係者に聞いた。

 ◇「人工国家」が混乱の根本 テロと戦うチャンス得た--ジョン・ボルトン、前米国連大使(59)

 --フセイン政権転覆は正しかったと思いますか。

 ◆正しかったし、現在でも、その判断は間違っていない。フセイン(元大統領)はペルシャ湾岸や世界の平和と安定にとって脅威だった。だが、政権崩壊後の事態が私たちが望んでいたよりも良くなかったのは明らかだ。それは政権崩壊のせいではなく、アルカイダなどのテロ組織がイラクで無秩序状態を作った結果だ。

 --現在の混乱を予想しましたか。

 ◆予想していなかった。イラク人自身でさえ、国民の間にどの程度の対立があるのか、憎しみの深さはどれほどか分かっていなかった。混乱はあるが、イラクでは発展している部分もある。クルド地域はほぼ全域で平和が保たれ、イスラム教シーア派居住地域の多くも平和だ。問題はバグダッドとスンニ派地域に限定されており、全域が無秩序なわけではない。

 --問題はどこに?

 ◆スンニ派、シーア派、クルド人が一緒に暮らしたいと思っているのかどうかが問題だ。イラクは第一次世界大戦後、オスマン・トルコ帝国が分割される中で生まれた「人工国家」だ。混乱の根本問題はそこにある。

 --それは当初から分かっていたのでは?

 ◆もちろんリスクは理解していた。しかし、多様なグループが一緒に暮らすかどうかは彼ら自身が決める問題で、私たちが押しつけられるものではない。あるグループが憎しみの中で武力を使った場合、我々が制御するのは不可能だ。イラクが一つであるべきか、三つに分かれるべきか、連邦制にするかは米国の戦略的関心事ではない。私たちにとっては、独裁者に保護される形でテロリストがイラクを基地にしなければいいのだ。

 --結果的にイラクはテロリストの拠点になったのでは?

 ◆フセイン政権崩壊でアルカイダのようなテロ組織がイラクに集中することになった。しかし、世界のどこかでテロリストと戦わねばならないのなら、米国や西欧で戦うよりイラクで戦う方がいいことは明らかだ。今、イラクでテロリストと戦うチャンスを得ているということだ。

 --しかし、イラク戦争は多大な犠牲を伴いました。

 ◆テロが中東全域や世界各地に拡大することによる犠牲と、イラク戦争の犠牲を比較する必要がある。もし、テロリストが核・生物・化学兵器を持ったら、もっと多くの犠牲が出るだろう。【聞き手・ニューヨークで小倉孝保】 =つづく

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 ■人物略歴

 ◇ジョン・ボルトン(John Bolton)

 米ボルティモア生まれ。エール大大学院で法学博士号取得。01~05年国務次官、05~06年国連大使。現在、保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」上級研究員。ウルフォウィッツ前世界銀行総裁(開戦時は国防副長官)らとともに、新保守主義(ネオコン)の代表格として知られる。

毎日新聞 2008年3月11日 東京朝刊

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