- 車種別速照機能
SN化改良により高減速車信号(車上より67kHz送信)を加えたため、Sx/Psでは速照値を2段に切り替えることが可能になり、またATS-Pの速照を車種別にする機能拡張を高速化追求のJR西日本が行っていて、報道される限り3種類の車種別速度設定が行われている(このJR西型P拡張は末尾の線区駅名コード10ビットを廃してここに許容不足カント別に3bit,3bit,2bit,2bitを割当て+0km/h〜+35km/hを定義,JR東もコードとしては採用)。報道の速照設定ミス(11/02)は、どうやらこの設定拡張部の値を集中的に間違えて設定した(曲線速照129箇所でミス94値)、すなわち制限速度を算出した支社輸送課が適用規則を間違えたものと思われ、これは高速化の特例規則制定以来のものがATS-P速照の車種別設定で顕在化したものと疑われます。JR東日本では車種別のP速度制限機能は採用していませんが、JR西方式でROMを焼き直し,車上のソフトを換装する改造を看板列車には施すでしょう.たとえPNでも車上信号の受信部を設置してROM選択論理部に噛ませれば車種別制限の実施は可能(=不採用,JR西方式採用決定06/05/07加筆)です。従前、曲線制限はほとんど設置していませんし、分岐制限は一律で車種別ではないため車種別の機能は求められなかった様です。
なおJR西日本の「ATS-P2」というのは、車輌床下のATS-Pケースに明記されていることをみても一部に伝えられる「拠点P」(=地上装置の設置方法の1)ではなく、JR西日本が再設計したATS-P受信装置でしょう。3ビット程度の車種コードを地上に送る程度の変更は最悪ROMデータの更新などで出来ますから別機能のP受信装置ではないと思います。現状でも車輌の減速度により低00、中01、高10、(未11)というコードを送り現示アップなどの制御に使っています.
- ATS-Pは非常に信頼性が高く乗務員に頼られる装置ですが、そのことが逆に、動作保証外の特別な運転条件での危険性を高めます。
一つは無閉塞運転で、Pは赤信号区間進入50mを過ぎると15km/h制限が解除され、先行列車への進行信号を受信しますので鹿児島線宗像海老津事故('02/02/22)や沼津片浜事故('97/08/13)と同様の錯誤(前列車への信号を自車のものと勘違い)を起こしやすく、先ずJR東日本では片浜事故後の'99年2月以降、輸送指令の在線確認と許可のない無閉塞運転を禁止した「閉塞指示運転」に改め、同年と翌年JR北海道と四国が追随し、更に片浜事故対策を放置した九州での宗像海老津追突事故(2002/02)以降残る全JRが同様に指令の許可のない無閉塞運転を禁止しています。(P98L2)。進入50m先から速度制限が青天井になる現状のATS-Pでは無閉塞運転を絶対に認めてはいけません。京成・京急などの1号型ATSの様な信号電流検出車上子を持っていて信号無電流を一律15km/hに制限していれば別ですが、ATS-Pにはその機能はありません(付加しても大した費用にはなりませんが)。この点についてJR東日本は宗像事故前に進んで「閉塞指示運転」採用という大変妥当な措置を採りました。
もっと積極的防御としては、無閉塞運転を開始した場合(不感ボタン+直下地上子or冒進)、次の区間の直下地上子を過ぎるまで15km/h制限を保持する車上ソフト改修を行えば解決します。JR西日本で拡張した許容不足カント情報を採り入れる際に同時に改修すれば改修費用は要りません。
もう1点は降雪、結氷などで制動力が落ちてATS-Pが予定する制動パターンをクリアできない場合は過走・冒進事故に至ります。この場合も、人の判断で最高速度を抑えて、早めの制動で運転する必要がありますが、分割民営前後の国鉄JRや、現在のJR西日本の様に遅延で問答無用の処分が行われる様では安全が担保できません。今年冬(05/02/02)の関空特急はるか過走冒進事故は降雪中に120km/h運転をしていて場内(=拠点P)の赤信号で止まりきれず260m冒進してホームに掛かって停止した事故で、先行の出発列車があり、逆方向出発など条件次第では衝突の危険も考えられる状況でした。同日、湖西線でも同様の降雪下の冒進事故を起こしていますから、JR西日本がATS-P下での衝突事故の先鞭を付けかねない状況です。両事故とも氷結を防ぐ「耐雪ブレーキ」は扱っていて起こりました。
- ATS-P換装時は貨物などP未搭載車のためにATS-Sxはそのまま残されます。それは拠点Pか全面Pかに依りません。JR西日本が尼崎事故直後、6月からのATS-P切替予定を強調して風当たりを弱めようとしましたが、SWの速照のない現場に新たにPの速照だけが設置されることはありません。「P化で転覆は防げた」と併せ2重のシロート騙しです。JR東日本でもATS-Pだけなのは京葉線の西船橋以西だけで他はATS-Sn併設だと思います。総武中央緩行車輌にはPしか搭載していませんが、線路には所々Sロング地上子を見掛けます。あれは動作してないのでしょうか?
- PN設置箇所は「首都圏(P94L3)」ではなく、首都圏「周辺部」です。千葉以南、高尾以西、大宮以北、…………。首都圏の地上設備は1型京葉のほか、東中野事故を承けた2型〜4型が多数。本の地図(P103)では蘇我以南をPNとしていますが千葉以南から地上子形状が明らかに大きめで電力受信機能のある無電源地上子=PNと思われます。
- 閉塞区間入口という地上子設定基準(P95後L3)はありません。最外方約600m手前が基準で、下り急勾配で伸びることもあるでしょう.閉塞区間長が設置距離より短いと手前閉塞区間の地上子で代行されて省略されます。
- ×
宝塚までは完全Pでは?
○拠点P:訂正追記06/05/10
尼崎−新三田間を「拠点P」にしたとありますが、報道では事故現場にSW速照とP速照が設置された様ですし、尼崎から宝塚までは完全Pの地上子配置だったが車上操作の煩雑さを避けて東西線のみ尼崎で併用モードから自動切換モードに切替=東海道本線入線車はSW/P併用のまま操作せずという報告も寄せられて居り、拠点PのS区間はSW速照だけで、P速照は設置しないはず。確認が必要ですが宝塚−尼崎間の地上設備は×完全P拠点Pで、非搭載車向けにSW併設でしょう。
事故後の経緯を思い起こせば、国交相がP換装を福知山線の再開条件にしたため、事故前に予定した拠点Pでは閉塞信号区間としてP休止になる(信号Pのみ休止か)事故現場にはSW時素速照しか設置しないので、事故地点にP速照を設置するためそこを含む区間だけ全面Pにしたのかもしれませんが、車輌側がP/SW併用(=拠点P)モードで運転していてはP速照設置の意味が薄れます。どうも大臣の顔立て全面P区間の臭いがします。東西線乗入車は宝塚でのモード切替にする方が良いと思うのですが、東海道線乗入車が宝塚と尼崎2箇所での切替となるのを嫌っての措置の様です。
訂正:ATS-Pの休止とは,待機状態を指す様で,一般コマンドを受け付けて照査動作を開始,動作終了で自動待機となり,動作終了のない信号ATSのみ休止コマンドで待機になる模様。それならATS-Sx区間に突然ATS-P速度照査地上子があっても並列的に動作します。「休止コマンド」がATS-P全機能(信号と4種の速度制限)に係るものと誤解していました。06/05/10
- トランスポンダ=応答装置
元々の意味は「応答装置」で、問い合わせ信号を送ると呼応して回答を送るものです。航空自衛隊の主力戦闘機をF86FからF104Jに換えるときにトランスポンダ≡「敵味方識別装置」として、味方の識別信号を送って所定の応答がない標的を敵として撃墜する識別装置として一般社会に伝わった言葉です。当時の火器管制装置の動作範囲が約80kmに対して、双方が2.4マッハで接近すると、わずか50秒弱ですれ違ってしまい、肉眼で10km先の航空機を発見しても15秒ですれ違ってしまい空中戦どころか敵味方の識別すらできないための問い合わせ−応答型識別装置です。このトラポンは今は旅客機に搭載され管制塔のレーダー画面に便名などを送り返して安全運行に寄与しています。
しかしATS-Pの動作を子細にみても、ATS-Pの現示アップ動作はエンコーダ間通信により手前区間のエンコーダを通じて車種別情報を得て動作して居り、「即時応答動作」は使っていませんので、現実にはデータ量の多さを除けばATS-Sx系での双方向通信と変わりはありません。せいぜいエンコーダ(EC)が各地上子の中継器(レピータ:RP)に問い合わせるポーリング動作の順序を列車通過後に後に変える程度です。これは地上子に「トランスポンダ」と呼ばれる製品を使ったということで、ATS-Pシステムにその即応答機能を使っているという意味ではないのでしょう。ATS-Pの通信規格でも80ビットの5フレームをやり取り出来て、そのうち連続する4フレーム中の2フレームが正しく受信できるとなっており、この仕様で地上子を160km/hで通過されては演算処理して応答を返すのはタイミング的に無理があり「即応答」動作は考慮外です。
- 冒進速度無防備がATS-Sxの致命的欠陥!
JR発足前夜'87/03/31付けで廃止された私鉄ATS通達(S42年鉄運第11号通達)のキーは、1.自動投入、2.2〜3段の速度照査、3.最終照査速度20km/h以下など6項目で、このため赤信号冒進速度を約20km/hに抑えることができ、大事故に至りませんでしたが、ATS-Sxでは、確認扱いの操作次第で最高速度で冒進可能で、土佐くろしお鉄道宿毛駅突入事故('05/03/02)ではフルスピードで突入してその欠陥を事実で証明しました。冒進エネルギー比≒停止距離比でいえば、ATS-Sx:私鉄通達:ATS-P=36:1:0 という決定的な差になっています。ATS-Sxの速度照査は信号ではなく過速度に対して設定した箇所についてのみ行われ、唯一停止信号手前に設置する「過走防止装置」のみで、それも45km/h(+5km/h)以上は全く無防備で「想定外の事故」と開発者のJR東海が繰り返し強調している処です(本来は「想定外」ではなく、安全装置が最高値に対応しない「仕様欠陥」です)。
信号ATS-Sxには何処にも速度照査はありません。一般の閉塞信号には警報のロング地上子だけで、非常停止直下地上子すらありません。これがATS-Pと同等の安全性を確保することはありません。過速度ATS-Sxと混同した川島氏の全くの誤解ですし、国交省の民主党に対する2度の国会答弁(05/05/16〜国鉄方式も私鉄方式も赤信号の手前で停止を命じるから安全性に変わりはない)は新聞ネタ(毎日、読売、赤旗)を拾っただけの民主党質問を舐めた虚偽答弁です。この質問は役人の読み通り答弁の本質を暴露することなく引き下がりました。(P82後L4)
【その他】
- 緩和曲線長不足の影響
緩和曲線長が不足すると、カントを逓増する距離が減るのだから、カントが少なくなりその分制限速度が下がる。カント最大105mmに対して事故現場が97mmなのは、高速化の観点では確かに緩和曲線長不足を示唆しているが、その結果300Rの制限速度としてはカント105mm時の75km/hではなく、70km/hになっている。すなわちカーブ入り口での緩和曲線長不足は脱線・転覆原因(P12後L5)ではなく、カントが限界値より少なくなって制限速度が低下するだけです。
<TBL-2>
現示 | | 制限速度km/h
|
---|
基本 | 改良
|
---|
| | |
| G緑 | | 最高速度
|
---|
YG橙緑 | 65 | 75
|
---|
Y橙 | 45 | 55
|
---|
YY橙橙 | 25
|
---|
R赤 | 0
|
---|
- 信号現示と制限速度
川島本に繰り返し記されるYG=70km/h、Y=50km/hはJRの規則ではありません.右の表の通り2種類の規定があります.福知山線は改良線でしょうか?
著書はベクトル図を描いて説明を加えながら(P136)、何を省略しているのか、あるいは、そのベクトルが何を意味しているのかを充分理解しないで「転倒」の「限界値計算」をしてしまい、誤差として省略した走行振動項や車体傾斜重心移動項と重心高限界などの仕様を無視して「考えられない低速での転覆」、「ボルスターレス台車が原因に違いない」と書いていることがわかります
- 曲線出口の緩和曲線はカント逓減部で捻れがあり脱線しやすいので、中目黒事故直後に運輸省事故調査検討会が緊急措置として全国の鉄道事業者に200R以下の曲線出口緩和曲線部にガードレール設置を指示しています。中目黒事故もそこで脱線したものですが曲線出口の危険性はボルスターレス台車に限ったことではありません。(P172L9)
- 貨物列車のATSによる制動が非常制動なのは、機関車列車が自動ブレーキを採用していて、自動の常用制動では制動用圧搾空気が不足する「込め不足」現象を起こすことがあり、これを避けるための選択で、旅客用機関車でも同じです。同書解説の様な牽引重量が列車毎に違うため(P92L2)ではありません。例外としてEF79に搭載の青函ATC(=ATS)では自動ブレーキで常用制動ですが、ここにはATC予告表示があり、それでブレーキハンドルを指定位置に置いて事前にブレーキエアーを供給することを求めます。(See ATC-L)
貨物列車と旅客列車では制動減速度と動作遅れ時間が大きく違うからその設定はPFとPで違うはずです。ATS-Sxの設定では旅客列車の減速定数20、動作時間遅れ計3秒、貨物列車の減速定数15、動作時間遅れ6秒+応答時間5秒、計11秒とあります。
遅れ時間はほぼそのままに、制動パターンを常用制動で作成する分小さな減速定数を設定しているでしょう。
(問題は、電磁弁付きの高速貨物の空走時間3秒とどう切り替えているのか?誤設定対策として11秒のままなのか?)
- P点速度70km/hで150mでは停まれず(新幹線ATC:P195下段図)
東海道山陽新幹線のATC速度について述べていますが、駅間停止で70km/h走行で01信号(P点停止コマンド)を受けて次閉塞までが150mでは非常制動でも停まり切れません。これは従前通り30km/h以下に下がって確認扱いをして緩解し01信号で停止が正しいでしょう。
70km/hは駅の18#分岐制限速度です。もし説明通りP点150mに拠り停まると仮定するとその
減速度=速度2/距離/7.2=4.537km/h/s
で、非常制動減速度(3.5〜4.5km/h/s)より大きな常用制動になってしまいます。駅到着でのB点70km/hからの停止では減速距離が350m〜470mあり(右下図)、150mという値が極めて無理なものであることが判ります。これは鴨宮実験線での設定などとして見掛けたこともある数値で、ソースに問題があるのをそのまま掲載したのかも知れませんが、閉塞長が一定なら中間現示速度の2乗が均等になるのが基本で、その中間段階を作るには見合って閉塞長を短縮する必要があります。
駅手前に120km/h区間を入れて列車間隔を詰めるにはそれに見合って短い閉塞にしないと逆効果です。そうではない速度段階は速度制限用ですから、信号現示制限としては物理的に妥当でなく、これらを著書として社会的に影響の大きいものに引用するには特に眉にツバを付けての確認が必要です。(駅接近の究極の改良が位置基準速度制限方式(P方式)速度照査を導入したDS-ATC/D-ATCです)。
- 半径など条件次第で一定ではない速度制限差
曲線制限速度算出式には、平方根や三角比が絡んで、必ずしも条件で一定値が加算される訳ではなく、たまたま一部の範囲で一定値の差(PL)だったり静的転倒均衡速度の半分(P150L2)だったとしても、それらが他の条件でも適用できる一般的法則であるかの記述には解析物としては無理があり避けて貰いたいものです。(使用する制限速度表の丸覚えが求められる現場がどのような覚え方をしようとそれは構いません。5km/h単位で切捨てのため一定範囲で同値差は見られますから。)
- 大手私鉄のATS章(P173〜)はどう扱う?
私鉄ATS/ATCの資料はごく少なくて、少しでも情報が欲しいのですが、大手私鉄ATSは1967年の私鉄ATS通達(昭和42年鉄運第11号)をベースに設置されているものなのに、その肝心の基準にまったく触れず、国鉄JR-ATSの解説にも前述のような数々の重大な誤り、事実の創作があって、信頼に値する記事なのかどうか、、、機構、原理に関する川島氏の記述は真偽が疑わしくこの部分に拾える情報がどれほどありますか、あぶなかしくて到底採用できない様に思います。
「読書感想文」というものは通常少しはヨイショ項を忍ばせるのですが、この本ばかりはヨイショに大変苦労します。電車の仕様とタイムテーブルは流石ヲタ!しっかりしていた、とでも誉めておきます。事故本なのに肝心の原理的解析的説明は勘違いばかりでまるで駄目ということです.
[参考文献・リンク]:
ボルスターレス台車原因論批判:日記81
過速度転覆が主因:事故原因考察
ATS-Sx概説
ATS-P概説
ATS-Ps概説
ATS・ATC改訂版、鉄道技術者のための信号概論、電気概論信号シリーズ7
日本鉄道電気技術協会tel.03-3861-8678
'93/05/10初版'01/07/28改訂版刊(社員教育用)
|