飯豊連峰梶川尾根より門内沢(事故報告と反省) 1998年5月17日
L橋本寅信 旗本綾子 佐藤栄一 遠藤有香 山川典子 吉村恵子 斎藤郁子 伝雅明 佐藤美加子(以上徒歩)
佐藤孝栄 橋本聡子 安達修 杉田千佳子(以上山スキー)

 

 そのアクシデントは起こるべくして起き、むしろ軽い方の結果で終わった。
13人のメンバーが、5月にしては雪の少ない梶川尾根を登っている。
背中にスキーを担いで下りに門内沢で山スキーを楽しもうとしている者が4人。
歩いて雪渓を下る者が9人いずれも、リーダーのきわめて高度な判断(と本人は思っていた)とグズグズに甘い計算の上に集められた、山に対する思いはバラバラの集団であった。
門内沢のそのコースを滑ったもしくは歩いたことのある者は、リーダーと橋本(聡)、杉田の3人のみ、後の10人は地図で門内沢を想像する他はなかった。
さらにそのうち、少なくとも去年入会した3人は、その経験不足からどんな雪渓を下山するのか想像すら出来なかっただろう。
 13人は朝5時50分に昨夜テントを張った飯豊山荘の駐車場を出て、12時30分に門内小屋に着いた。
夜半にかなり降った雨は尾根を登り出す前にやみ、途中日差しすらさす天気となったのであるが、稜線に出る頃にはまたガスがかかり始めていた。
 門内小屋は貸し切り状態だった。
2階の広い板場に車座になり、取り立ての山菜を料理して、ビールを飲んだ。
リーダーはその時間にアイゼン、ピッケルの歩行訓練も考えていたのであるが、登りで足に疲労を訴える者もいたので、休ませる意味もあって宴会の楽しみを追ってしまった。(今までそんな訓練など、行った事はない)
 
 2時間の食事の後門内沢の下山にかかる。
吉村、山川、旗本の新人3人と斎藤は小屋を出る時にアイゼンをはいた。
ガスは小屋に着いた時よりさらに濃くなり、視界は50M程になっていた。
門内沢の雪渓は5月にしてはかなり少なく、小屋直下から一直線に下り出すわけに行かず、少し扇の地神方向へ戻るように下りながら雪堤を下った。
雪堤を過ぎると、徐々に傾斜がきつくなり、そこで佐藤(栄)、遠藤、佐藤(美)がアイゼンをはくことになり、そこからかなり遅れた。
橋本(寅)、伝は斎藤、吉村、山川、旗本を見守るような形で、橋本(寅)を先頭に先行した。
そのうちスキー隊も追いつき、ガスの中の雪渓を見極めると、もっとも傾斜の強い両側の尾根が迫った「ノド」の手前で、島のように尾根が雪渓に浮き出た所に5人が集まっている間に「歩き隊」を追い抜いて、ガスの中へ滑り下って見えなくなった。
「ノド」の部分で霧が少し薄くなり門内沢の下部が見渡せた。
ガスの切れ間からかいま見た雪渓は新しい人にはかなり威圧感があったのだろう、下る動きが鈍くなった。
山川が遅れ始め橋本がその下に付いた。
斎藤が先行し、吉村、伝、旗本が続いた。
それほど距離は離れてないのだろうが4人はガスに隠されて、橋本(寅)の視界から消えた。
 
 そして、斎藤の声で「旗本さんが落ちた。」と伝えられた。
橋本(寅)からは何も見えなかった。
しばらくして「止まった、無事だそうです。」と声が聞こえた。
前後して、橋本は山川と50Mザイルを結び、スタッカットで山川を下ろした。
時にガスが薄くなり確保している橋本に、広くなりだした雪渓を右へ右へトラバース気味に下っている斎藤と吉村が見えて、それを追うように山川が右へ右へ降りているのが見えた。
山川に「ザイルが振られるからトラーバスしないで真っ直ぐ下れ。」と叫んだが、理解出来なかったのか伝わらなかった。
手元のザイルが残り少なくなったところで山川が転んで滑り出したようだったが、橋本にはまたガスで見えなかった。
ショックが来て、体勢を崩しかけたが、ザイルを送り出して制動確保をして止まった。
そこでピッチを切り山川と合流して聞くと、やはり彼女は滑落して、自分で止めようとしてピッケルで少し頬を打ったが止まらず、ザイルで止まったと言う。
2ピッチ目を下っていると、かなり下の方で吉村が滑落していくのが見えたが、滑落は彼女が自力でピッケルで止めた。
 
 雪渓のカールの底でスキー隊が輪になっているのが見えたが、単に休んで我々を待っているように見えた。
4ピッチほど下って、山川のザイルを解いた。
ザイルをかたずけ、スキー隊の輪の中へ降りて行くと、輪の中心の土の付いた大きなデブリの上に伝さんが青い顔をして座っていた。
そこで始めて、旗本さんと伝さんが一緒に落ちたことが分かった。
斎藤さんの話によると、旗本さんが滑落して、下にいた伝さんがそれを止めようとして一緒に200M程滑り落ちて、雪渓の傾斜の落ちたところで別々に止まったそうである。
これは少し後になって聞いたのであるが、旗本さんの20m程上部に止まった伝さんをスキー隊の佐藤(孝)、安達、橋本(聡)が介護しようと集まったところ、4人の上部で杉田がターンに失敗して、下にいた伝さんにぶつかって、旗本さんの所まで一緒に滑って止まったそうである。
杉田は右のふくらはぎを自分のスキーのエッジで切り軽い裂傷を負っていた。
伝さんの精神的ショックも2度の女難の相の結果らしい。無理からぬことであった。
旗本さんは幸いすり傷程度であったが、伝さんは右の二の腕を大きくすりむき、左の手の甲を強打(我々は左手首の捻挫と思った)し、左足のひざを強く捻挫したようである。
唇には震えが来て、かなり寒がっていた。
 安達さんから小さいツエルトを出してもらい、ガスコンロを焚いて暖を取り、ついでに温かい紅茶をつくった。
そのころまだ、雪渓のかなり上部を佐藤(栄)に見守られながら佐藤(美)、遠藤が実にゆっくりゆっくり慎重に下っていた。
紅茶を作る時間はたっぷりあった。
紅茶が湧き、体が温まると、やっと伝さんに顔色が戻ってきた。
その間に、スキー隊が伝さんのザックをバラして各自のリックに詰めた。
吉村さんが三角巾で膝を固定し、左手を冷やした。
 
 栄ちゃん達が降りてきて、伝さんも歩けるというので下山を始めた。
伝さんは歩きだしてすぐ、6本爪のアイゼンを付けて、後ろ向きで下るのが楽だといって、後ろ向き歩行を始めた。
時間は4時過ぎ、このままでは暗くなることも心配されたので、とりあえず重荷でスピードの速いスキー隊に先に下ってもらっい、後は無線で連絡を取り合うことにして下山を促すが、なかなか心配して先へ行かない。
そにうち歩き隊でヘッデンの携帯確認を取ると斎藤、山川がヘッデンを持っていなかった。
結局、斎藤、吉村、橋本(寅)の3人が伝さんの付き添い役として残ることになり、残りは栄チャンの引率で先に下山することにした。
しかし、伝さんが雪渓を以外に早く後面歩行で下り。
雪渓末端が乱れているのを心配したスキー隊が登山道への移り際で待っていたこともあって、雪渓の終わりまでは、皆一緒に下山した。
 雪渓は5月にしては、例年ならば6月末で消えるほどの上部で無くなり。
登山道もまだかなり乱れて歩きにくかった。
 伝さんはひざを曲げる大きな段差は下りにくそうで、斎藤さんの肩や、吉村さんの手を借りながらも一所懸命、しかしわりと早く下った。
登山道に出てからは5時も過ぎ、4人以外はとにかく先に下ってもらうことにした。
皆も、以外と順調に下る伝さんに安心して先に下っていった。
7時、暗くなる一歩手前に堰堤の階段を下って車道に出ることが出来た。
7時40分、皆の待つ駐車場に完全に暗くなって着くことが出来た。
 
 橋本(寅)が伝さんの車を運転して新発田で吉村、山川を下ろした後、途中豊栄インターで木戸病院へ急患の手当の電話をしたが体よく断られ、市民病院で何とか見てもらえる予約を取ってから伝家へ超スピードで帰った。
9時30分、丁度出先から帰ってきた美奈子夫人へ傷ついた伝さんを渡すこととなった。
なぜか、新発田で下ろしたはずの吉村さんが旗本さんを乗せて忘れ物を届けにきた。
リーダーの失敗責任を一人で負った何の罪もない旗本さんが、目に涙を浮かべて奥さんへ陳謝しにきたのだ。
「止める自信もないのに、何で飛びついたん。泳げないのに溺れた人を見て、あわてて飛び込んで、自分で溺れたのと一緒やん!」と減らず口をたたいているリーダーは何も言えなくなってしまった。
旗本さんごめんなさい。 皆私が悪いのです。
 
1  雪の少ない時の門内沢を軽く見ていた。
  雪渓の少ない門内沢はカールの底も低く、高低差があり急に感じる。
  周りの尾根の側壁の岩が露出していて雪渓も細くなり威圧感があった。
  特にガスの切れ間から見た風景は新人をすくませるに十分な景色だった。
アイゼン、ピッケルの訓練を受けていない2人に対してザイルが1本だった。
休憩2時間の間に何らかの訓練をさせることが出来たのにしなかったこと。
  訓練で状況が分かれば、1本のザイルを2人に使うこともできた。
旗本さんが冬山へ行った経験(朝日連峰)があるという理由で、リーダーが雪山経験のない山川さんへ意識を集中しすぎたこと。
会員のレベルアップを急ぎすぎ、パーティのメンバー構成を無視して、山スキーと長大な美しい尾根と楽しい宴会という山の楽しみを過大に追い過ぎたこと。
最大の理由、自らの身の不調で5月の連休の山行を失敗して悲観的となり、その焦りから自らの管理能力以上の山行とメンバーを組んで。
  それを天候、山の状態を無視して強行したこと。

 

  最後に一言減らず口
良くあの人は「山のベテラン」と言う、登山の経験豊富な人のことである。
しかし、同じこと(同じパターン)を繰り返している人を経験豊富な人とは言わない。
たとえば単に車で同じ町内を1万回走った人をあの人はベテランドライバーだとは言わない経験豊富という意味には、そのことについてあらゆる状態に対応できる能力を身につけているという含みがあるからこそ、経験豊富なベテランと言うのだと思う。
山のベテランとは、山についてあらゆる状況「尾根、沢、夏山、雪山等々」に対応できる人のことを言うのである。
夏の登山道を1万回歩いたとしても、私はその人を山のベテランと呼ばない、しいて言えば、夏の登山道を歩くだけの山のベテランと但し書きを付けなければならない。
 山は決して一つの顔しか持っているのではない。
山での異種異彩の経験を乗り越えなければ、真に山登りを楽しんでいますとは言えないと思う。
ちなみに言えば、私はこの山行で私の過去の経験で知っている門内沢にかたくなに門内沢を封じ込めてしまって、それを基礎にメンバーを集め、現状(かってない少雪で沢の形状がどうなるか)を確かめもせず下山を強行してしまった。
あらゆる状況を受け入れる柔軟な態度を失っていたのである。
自分は「山のベテラン」と過信(5月の連休で自信を失った反動で)していたと思う。
経験も、経験する前の初心の慎重さと謙虚さを失うと何の役にも立たないことを改めて学んだ気がする。
しからば何の経験もない初心者はどうすればよいのだろう。
経験がないのだから経験することによって判断力を養うしかないのだと思う。
「卵が先か鶏が先か」ではないが、経験することによって判断でき、壁のない勇気ある判断によってさらなる新しい経験をすることが出来るのである。
新しい自己体験を自分に加すことほど勇気のいることはないのである。
又自分を客観的に判断することほど難しいものはないと思った。
少なくともあの状況で逃げなかった伝さんの勇気はほめられるべきだと思う。
今少しの冷静さと判断力(卑怯者の汚名を覚悟で助けに飛びつくのを思いとどまるか、次の次のことを考える)の上にその勇気があればと卑怯者のリーダーは思ったりして。 
 
文責 (橋本 寅信)   

  

    ヒロタンの減らず口
 初めて山へ連れて行ってもらったのは、会社の登山部の人達からです。
いつも笑いの絶えない、楽しいベテランの先輩達でした。
年間に2〜3回しか登らないグループなので、寅さんふうの但し書きを付ければ ≪夏山初級のベテラン≫ と言う事になる。
 山を歩いていると、実にいろんなパーティに出会います。
いろんなレベルのパーティが有り、その中にはベテランの人が居てみんなを案内したり、初心者の面倒を見ている。
もちろんベテランと言っても、そのレベルは本当にマチマチである。
寅さんの言うような、沢登りや冬山もやるようなベテランはごく少数だと思う。
 しかし私は、その人のレベルで、その人のジャンル(無雪期の尾根歩きだけでも)でベテランと自称すれば良いと思う。
自分の実力の範囲で、みんなを連れて山へ行けば良いわけですから…
みんなを山へ連れて行き、面倒を見ている人に向かい 『あなたは沢へ行かないから山のベテランではない』 などと言ってもしょうがない。
沢登りをしない人に向かい、沢うんぬんを言っても意味が無い。
 巻頭言 稜友 NO 51 は ≪ソロ≫ を読み、山野井泰史の装備を見て、その時の山行に合わせた装備について書きました。
私達との実力差を思うと、彼からレペル見れば 『寅さんも会社の先輩達も大差ない』 と思う。
いくら寅さんが 『自分はベテラン』 と言っても、山野井泰史のレベルから見れば問題外だと思う。
山行にもいろんなレベルが有り、自分に合った山行を続ければ良い事です。
何も他人から 『あんたはベテランではない』 などと言われる筋合いでもないと思う。
同じ稜友会の会員でも、一生懸命 初心者を連れて行ってる人に 『沢をやらないからベテランではない』 などと言う必要もない。
 
 寅さんはただ 『他の人がベテランでは無いと言う事で、自分がいかにもベテラン』 と言いたいだけなんじゃないのですか?
稜友会レベルでは行けないような山行 で、自分よりレベルの下の人には 『努力しろ』 と言いながら、上の人に対しては 『自分では満足して入る』 と言っている事と同じです。
寅さんはいつも自分中心で、低い人を批判して ≪自分が最高だ !! ≫ 的な言い方をする。
 
 門内沢の報告を読み、こんな状況で ≪ベテランリーダー≫ と言えるのだろうか?
何人もが滑落し、何人もが軽傷を負った山行を ≪まともな山行≫ と言えるのだろうか?
ちゃんとしたパーティー行動をとっていたら防げた事故だと思う。
それは、取りも直さず ≪寅さんがリーダーとして未熟≫ と言う事に他ならない。
 寅さんの減らず口で≪ベテランとは言わない≫人達でも、そう思う人も多いと思います。

 

 
新潟山岳会の世代交替
人の育て方
リーダーの育て方
置いてきぼり山行
不信山行
自分勝手な行動
滑落事故
門内沢の滑落事故
  門内沢の事故報告 橋本   門内沢の事故報告 伝  
山での迷子
訓練
  五頭山での沢登り訓練   千佳ちゃんの沢登り訓練  
山岳会でのエチケット
  同じ山行   不適切なアドバイス  
巻頭言
  巻頭言 稜友 NO 27   須藤さんの巻頭言   登山の四季
レベルアップ
稜友会レベルでは行けないような山行
  『燧ケ岳へ登れ』   砂袋を持って行け    
コッヘル事件
不思議な夏合宿
報告書のない講習会
  訓練妨害        
他人事
  リーダーに背いて        
リハビリ山行
職場での人の育て方