2.奇妙な符号 夏休み、部活の前後 
(掲載日:2002/12/15)

 「垂水駅どこですか」「分かりません」「名谷駅は?」

 指導力と熱心さで高い評価を得ていた伊丹市の中学教諭(39)は八月八日、マイカーで野球大会の準備に向かう途中、神戸市須磨区で、歩いていた女子高校生に道を尋ねた。さらに「学校まで送るから」と案内を頼んで助手席に乗せ、その車中で、嫌がる女生徒の体を繰り返し触った。さらに同二十四日にも、同市東灘区で、別の女子高校生に同じ手口でわいせつな行為を重ねた。

 十一月十三日、神戸地裁での初公判。検察は冒頭陳述で、教諭の犯罪をそう語った。法廷は罪状認否へと移り、教諭は事実経過をほぼ認めた上で、罪を否認した。理解しかねた裁判長が「胸を数回触ったけれど、わいせつな行為ではなかったということか」と問いただすと、教諭は「はい」と答えた。消え入りそうな声だった。「相手側に消極的同意があった」との主張を、その後、弁護人がする。

 傍聴していた教育関係者が顔をしかめた。「女子高校生をナンパし、相手も応じた。だから罪はない」。平たく言えば、教諭はそう主張したのである。

◇       ◇       ◇

 伊丹市では教諭が逮捕される約十日前にも、別の市立中学教諭が逮捕されていた。吹奏楽部の顧問を務める音楽科教諭(30)。学級担任に加えて学年行事を担当し、文化系の部活動のまとめ役でもあった。「若手のナンバーワンだった」と学校関係者は言う。

 教諭は朝七時には登校し、吹奏楽部の早朝練習を指導。放課後も六時ごろまで指導を続け、その後に教科や校内の仕事をした。下校は平均午後九時前後。土、日曜を返上することも多かった。吹奏楽部はめきめき頭角を現し、地区大会で金賞を手にした。

 「子どもたちに吹奏楽の楽しさを教え、無名だった学校を県大会銀賞にまで導いたのは彼の指導力のたまもの」と市教委。だが、事件は、その部活動中に起きた。

 伊丹署によると八月二十一日、部活には、後輩を励まし、教諭の個人指導を受けるため、卒業した元女子部員たちが参加していた。夕刻、卒業生一人を残し、他の部員たちは帰宅。その後、教諭が卒業生の胸に触るなどのわいせつ行為に出たという。先生を信頼していただけに、卒業生の精神的な傷は大きかった。

 逮捕後に卒業生が告訴を取り下げたため、教諭は起訴を免れた。しかし十一月十五日、「倫理性を著しく欠く信用失墜行為」として、県教委から懲戒免職の処分を受けている。

◇       ◇       ◇

 昨年七月、神戸市北区の中国自動車道で、中学教諭(35)による「女子中生放置死事件」が起きた。これもわいせつ目的だった。病気療養で休職中だったその教諭には、休職前から欠勤や不審な言動が数々見られた。県教委は再発防止を至上課題とし、今年五月、メンタルヘルスを柱とした教職員資質向上プランを打ち出す。意識したのは、ふだんから問題を抱えた教師の処遇と立ち直りである。

 しかし、今年逮捕されたのは、熱心で優秀な教師たちだった。そして奇妙な符合がある。伊丹市の二人は部活動の実績を誇り、ともに部活動にからむ行動の中で軌道を踏み外している。その背景に迫る前に、もう一人、姫路市の教師のケースをたどっておこう。

 HOME 嘘だと言ってINDEX  2 

Copyright(C) 2002 The Kobe Shimbun All Rights Reserved