社説

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社説:整備新幹線 まず着工ありきはおかしい

 整備新幹線の未着工区間の建設開始に向けて与党内で検討が続いている。財源が最大の課題だ。

 今回の検討の対象は、北海道新幹線の新函館-札幌、北陸新幹線の金沢-敦賀、長崎新幹線の諫早-長崎の3区間で、政府・与党は3月末までに結論を出すという。

 この未着工区間の問題は、昨年の参院選で与党が敗北した後に急浮上してきた。地元の国会議員を中心に、着工を働きかける動きが勢いを増した。解散・総選挙対策の色彩が濃い。

 整備新幹線については、並行在来線のJRからの分離について地元自治体の了解を得ることや投資効果など、着工にはいくつものタガがはめられている。

 旧国鉄時代に、政治の圧力からローカル線の建設が続き、旧国鉄は膨大な赤字を抱え破綻(はたん)した。旧国鉄は分割民営化されJR各社が生まれた。整備新幹線の建設にいくつもの条件がつけられているのは、この反省からだった。

 財源のめどが立たないかぎり、建設はできないのだが、与党側からはいくつかの考えが出ている。未着工区間が開通すれば既存区間も乗客が増え、その収益を先取りして建設費に充当するといったことや、開通後にJR各社が支払う線路のリース料を前借りして財源にするといったプランだ。

 しかし、既存区間の収益が増えるといっても、それは法人税などの形で納税するのが筋だし、線路リース料についても、どの程度の収益が見込めるのかを現時点で算定するのは困難というのがJR側の主張だ。

 新幹線の設備をJRに売却した際、売却代金に1兆1000億円加算し、年利6・55%で60年間にわたって支払う仕組みがある。JRの返済額は年間700億円にのぼり、これに国の公共事業費と地方の分担分を加え、2000億円超の資金が整備新幹線の建設に充てられている。

 しかし、これも、既着工区間の建設費にかなりの部分が前倒しで充当されている。旧国鉄の累積赤字のうち国が引き継いだ分を処理する必要があり、なし崩し的に前倒しして建設費に充当するのは無責任だ。

 一方、東西と東海のJRの本州3社は、国が保有株を完全に放出した民間会社だ。政治が新たな負担を求めても、JR本州3社は、株主に対する責任からも受け入れは困難だろう。

 鉄道は地球温暖化対策の点からも見直されている。しかし、交通体系のグランドデザインを欠いたまま、道路も、空港も、新幹線もという形で、建設がばらばらに続けられている状態を放置していいわけはない。

 道路特定財源問題にみられるように、特別会計を通じた交通基盤整備の不合理を是正すべきだ。整備新幹線の財源問題も、その中で解決していくべきで、まず着工ありきはおかしい。

毎日新聞 2008年3月2日 東京朝刊

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