●ファイルコピーが遅かったWindows Vista 2月4日に完成が発表されたWindows VistaのService Pack 1(SP1)だが、ここにきてSP1適用済みのパッケージ版の値下げが表明される(日本国内価格は未発表、DSP版には大きな変化はない模様)など、あわただしい動きを見せている。バージョン間において、価格が変動したことは過去にもあったと思うが、同一バージョン(メジャーバージョン)のOSが、途中で値下げされるというのは、極めて異例のことだ。 発売以来、Windows Vistaの売れ行きについて、メディアやアナリストから疑問が投げかけられてきた。が、これまでMicrosoftは公式の場における発言、公式の見解としては、Windows Vistaの売れ行きについて好調であると繰り返してきた。今回の値下げは、少なくともリテール市場におけるパッケージ販売については苦戦を認めた格好だ。 ただ、パッケージ版の売れ行き不振については、価格だけでなく、アップグレード版の変更(旧版のHDDへのインストールが必要)やVistaそのもの魅力といった製品そのものの問題に加え、市場やPC自体の成熟化という外部要素もある。今回の値下げがどれだけの効果を発揮できるのかは分からない。 いずれにしても、価格政策が明らかになるなど、SP1のローンチは着々と近づいている。すでにMSDNやTechNetのサブスクライバ向けにSP1のダウンロードが始まっているほか、SP1を適用したWindows Vistaの提供も開始された。SP1適用済みのVistaについては、3月15日からDSP版が発売されると発表されているが、パッケージ版もそう遠からず発売になるだろう。そろそろSP1への準備を行なう時期のようだ。 そもそも「Service Pack」は、その名称が示すように、累積された修正(Service)を1つにまとめたもの。1つのパッケージにすることで、1回で主要な修正を行なうことができるようにする利便性の向上が目的だ。また、修正によっては、その重要度にかんがみ、十分な検証作業よりも、修正をリリースするスピードを優先せざるをえないこともある(Hot Fix)。こうした修正もSPに収録される時点までに、幅広いユーザーが利用可能なよう、十分な検証を行なっておくという意味合いもある。
したがって、本来SPは機能向上や性能向上を図るものではないのだが、最近はこの図式が崩れている。Windows XPではSP2でセキュリティ機能の大幅な向上が図られたし、Windows VistaではSP1でファイルコピー時の性能改善(特にネットワーク経由での)が約束された。Vistaでネットワーク(越しのファイルコピー)が遅い、というのは良く聞くことであり、筆者にとっても「残り時間を計算」するばかりでさっぱりアテにならない進捗状況表示、使いにくいエクスプローラと並んで、大きな不満の1つだった。 ●Vista SP1をインストール
正式版となったWindows Vista SP1だが、「ファイル」としてダウンロード可能なパッケージはx86版(32bit)が434MB、x64版(64bit)が726MB、いずれも英、仏、西、独、日の5カ国語対応版だ。一般ユーザーの多くが利用するWindows Updateによるダウンロードサイズは65MBで、後は利用環境に応じて必要な分だけダウンロードされることになる。筆者は既存の仕事環境のマシン(Ultimate x86)に、パッケージ版のSP1をあてることにした。 MicrosoftはSP1の適用に、数時間かかることもある、と警告しているが、筆者の仕事マシンでSP1の適用に要した時間は40分程度。半年ほど使い、セキュリティソフトを含むさまざまなソフトウェアがインストールされていることを考えれば、まぁこれくらいはかかるよね、という感じだ。 インストール完了後、まず気づいたのは、英語キーボードを繋いでいるにもかかわらず、キーボードのレイアウトドライバが英語から日本語になっていたこと。システムファイルが更新されたことに伴いハードウェアのスキャンが行なわれた結果、またもや変えられてしまったようだ。この問題はWindows 95以来、ずっと続いているのに、なぜ改善されないのだろうと、いつも思う。 ●劇的に改善されたファイルコピー性能
それはともかく、早速試してみると、確かにファイルコピーの性能が向上している。筆者の記憶と感覚では、SP1適用前はネットワーク上の他のマシン(Windows XPベース)に対するファイルコピーは、VistaからXPが2〜4MB/sec程度、XPからVistaが4〜6MB/sec程度だった。それがSP1を適用すると、VistaからXPへのコピー、XPからVistaへのコピー、ともに性能が跳ね上がった。SP1適用後はどちらも12MB/sec程度は出ているようだ(転送速度はいずれもコピーダイアログの「詳細情報」に示されるピーク値の概算)。もちろん、コピーの進捗状況もちゃんと更新される。 Microsoftはファイルコピー速度の改善について、同一マシンの同一HDD内のコピーが25%、非Windows VistaシステムからVistaへのコピーが45%、VistaシステムからVistaシステムへのコピーが50%向上するとしている。だが、筆者が体験したのは、4割、5割といったレベルの性能改善ではない。2倍、3倍というレベルの改善である。 ひょっとして筆者の仕事マシンに問題があって、ネットワーク越しのファイルコピーが遅かったのか。そう思い、セキュリティソフトをインストールしていないテストマシンを用意して、テストしてみた。 Windows Vistaをインストールしたテストマシンは表1の通り。少しいいグラフィックスカードが入った、メインストリームのPCというイメージである。ファイルコピーの対象にしたのは、TVチューナーカードを入れた録画マシンとして利用しているPCだ(表2)。GbE対応のLANがオンボードでなくPCIカードになっているなど仕様の古さが目立つが、筆者がしょっちゅうファイルのコピーや移動を行なうターゲットにしているということでお許しいただきたい。
とりあえずテストシステムでSP1をインストールする前に、PCMark VantageとFDBench 1.01を実施してみた。PCMark Vantageで計測の対象となるストレージはテストシステムのローカルドライブだが、FDBenchの計測対象はWindows XPによるターゲットマシン上のフォルダ(Remote)だ。さらに、テストマシンとターゲットマシン間で831MBのMPEG-2ファイルをコピーして所要時間を計測した。これらが完了した後、テストマシンにSP1をインストールし、同じことを繰り返した。 その結果(表3)だが、PCMark VantageとFDBench 1.01のテスト結果に劇的な違いは見られない。唯一、PCMark VantageのCommunicationsシナリオだけ誤差とは言い難い性能向上が見られる。このCommunicationsシナリオは、データの暗号化やテキストの圧縮といったテストが中心で、ネットワークを介した通信を実際に行なっているわけではない。FDBench 1.01の違いは、ほぼ誤差レベルといえる。ちなみにWindowsエクスペリエンスインデックスのスコアにも変化は見られない。
ところが、ファイルコピーのテスト、ネットワーク越しのテストだけは劇的な向上を示した(ローカルドライブ内でのコピーはあまり変化が見られなかった)。時間を計らなくても、ハッキリと性能向上が体感できるほどの違いだ。仕事マシンでの筆者の体感と異なり、テストマシンでは入る方が出るより速いが、いずれの場合も性能向上は著しい。VistaからXPへのコピー(出)が4倍弱、XPからVistaへのコピーは6倍近い。これだけの性能が出れば、Service Packによる性能改善としては満足だ。
●SP1導入の大きな動機に このSP1の適用だが、余分なソフトウェアがインストールされていないテストマシンでは、20分とかからずに完了した。また、これも英語キーボードを接続したシステムだが、仕事マシンのようにキーレイアウトが変わってしまう、ということもなかった。どうやら環境に依存するものらしい。 もう1つSP1にして気づくのは、起動後に表示されるウェルカムセンターで示されるメモリが増えることだ。以前に書いたように、32bit版のWindowsでは、どんなにメモリを搭載しても3〜3.2GB程度のメモリしか利用できない。SP1をインストールする前のWindows Vistaでウェルカムセンターが示していたのは、この実際にOSが利用可能な物理メモリ量だった。しかしSP1をインストールすると、ウェルカムセンターでの表示は搭載してある物理メモリ量となる。4GBのメモリを搭載したテストマシンの場合、表示は3.25GBから4GBへと上昇した。
ただし、この数字はあくまでもシステムにインストールされている物理メモリ量を示したもので、OSが利用できるメモリ量が増えるわけではない。たとえばWinVerでOSが利用可能なメモリ量を表示させると、SP1をインストールする前と後で、ほとんど変わらない。「4GBのメモリをインストールしたのに、3GBしか認識されない」といったクレームが、MicrosoftあるいはPCベンダに相当寄せられたのだろう。今回の変更は、これを回避するためのものだと思われる。
2月4日に発表された時点から、Windows VistaのSP1には、マイナーなドライバパッケージの問題が公表されたり、SP1の適用に必須なアップデートが無限ループを生じさせる場合があるなど、あまり明るくない話題が続いてきた。が、実際にあててみると、悪いことはほとんど起こらず、ただネットワーク経由のファイルコピーが劇的に速くなるというメリットが得られた。 もちろん今回に限らず、Service Packの適用で不調に陥るシステムが全く生じないとは言い切れない。ただ、そうは言っても、Microsoftによるサポート対象となるのは、常に最新のService Packをインストールした環境だ。基本的にはSP1がリリースされた日から1年でSP1を適用していないWindows Vistaのサポートは終了する。つまり、SP1はインストールするかしないかではなく、いつインストールするかの問題に過ぎない。言えるのは、データのバックアップ等を行ない、最後は自分でリスクを負ってインストールするしかない、ということなのだが、今回はそれに性能向上の「オマケ」が加わった。SP1を適用するインセンティブは大きくなったといえるだろう。 □関連記事 (2008年3月3日) [Reported by 元麻布春男]
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