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2008年03月01日(土曜日)付

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ギョーザ事件―冷静に対立を解きほぐせ

 日本中に衝撃を与えたギョーザ中毒事件の捜査が、難しい局面を迎えている。

 中毒の原因となった農薬が、どこで混入したのか。この重要な点をめぐり、ギョーザをつくった中国と被害が起きた日本の捜査当局の見方が、真っ向からぶつかってしまったからだ。

 違いを鮮明にしたのが、中国公安省の開いた記者会見である。

 ギョーザの製造工場で働く従業員らの聴取結果を踏まえて、「中国で混入した可能性はきわめて低い」とし、捜査に必要な物証や鑑定結果の提供をめぐって、日本側は非協力的だと批判した。

 日本はこれまでの捜査で、逆に「国内で混入した可能性は低い」としていた。密封された袋の内側から農薬が見つかっている。日本の別々の港で荷揚げされたギョーザに農薬が入っていた。そうしたことが判断の理由である。

 それだけに、中国の発表内容は日本には寝耳に水だった。つい先ごろ、日中の捜査当局者が行き来し、「連携して調べる」と確認し合ったばかりでもある。

 農薬の分析結果などは可能な限り中国に伝えているとの思いも、日本側にはあった。警察庁の吉村博人長官が中国の発表について「看過できない部分がある」と語ったのも、無理からぬことだ。

 だが、「向こうで混入した」と互いに疑いをぶつけるだけでは、解決は遠ざかるばかりだ。ここは冷静にボタンをかけ直し、あらためて両国で捜査を尽くす必要がある。

 なによりも中国に求めたいのは、さらなる捜査だ。今回の発表内容では、とても納得できない。

 日本の警察には、両国がうまく連携するための努力を粘り強く続けてもらいたい。そのためにも、日本で農薬が混入した可能性があることも捨てないで捜査した方がいい。この事件は一国だけでは解決できないからだ。

 連携するにあたっては、対立を一つひとつ解きほぐしていくことも大切だ。

 たとえば、ギョーザの袋の外側から農薬が中にしみこむかどうかという実験結果が、日中で食い違っている。実験した時の室温などの条件が異なっていたようだが、確認のための再実験を両国で一緒にやればいい。それが難しいのであれば、どんな実験方法が適切かを話し合い、それぞれが納得できるかたちで確かめ合うことが欠かせない。

 このまま原因がわからなければ、日本の消費者は安心できないし、中国産の食品は敬遠され続ける。一方で、中国産の食品なしには日本人の食生活が成り立たない現実もある。うやむやなままでは、双方にとってマイナスだ。

 4月には胡錦濤国家主席の訪日が控えている。事件の真相解明への真剣な姿勢が中国からうかがえなければ、再び日中関係を覆ってきた暗雲を追い払うことはできない。そうしたことも中国はよく考えてもらいたい。

ガソリン税―このまま突っ走る気か

 与野党の思惑がぶつかるなかで、与党が予算案や法案の採決を強行するのはままあることだ。しかし、今回の無理押しは目に余る。

 とりわけ納得できないのは、焦点のガソリン暫定税率の維持などを含む租税特別措置法案の採決である。

 この国会の審議を通じて、道路特定財源のずさん極まる使い方が日を追って明らかになってきた。

 国土交通省職員のためのカラオケセットや野球用具への流用。国交省所管の公益法人に対する随意契約での割高発注。さらにこうした団体が国交省OBの天下りの受け皿になっている実態……。

 どれも野党が独自の資料に基づいて発掘し、追及したものだ。これでは、道路財源を国交省ぐるみで食い物にしてきたと言われても仕方がない。

 冬柴国交相をはじめ、政府側の答弁は説得力を欠いたままだ。

 「10年で59兆円」の道路整備計画をつくる際、なぜ最新のデータを使わずに9年も前の交通量調査を使ったのか。

 余った道路整備費は一般財源化する、と政府はいう。ならばなぜ、その同額を翌年度以降の道路予算に繰り入れるという条文を新たに設けるのか。

 暫定税率はあくまで道路を造るためというのが名分のはずだという、族議員らの主張に配慮した窮余の一策のようだが、国民には極めて分かりにくい。「一般財源化は名ばかりか」という野党の主張の方がもっともに聞こえる。

 高速道路の建設基準について、冬柴国交相は投資額に対する経済効果など便益の割合が「1.2」を切れば着工しないと言っていたのに、途中から「1.0」を超えれば着工すると変節した。いったい、どちらが正しいのか。

 これだけの疑問や矛盾が明らかになったのに、何ごともなかったかのように原案を押し通す。こうした政府・与党の姿勢はごり押しそのものではないか。

 租税特措法案といえば、これまでの国会ではほとんど議論もないまま、原案通りに可決されるのが通例だった。それがこんな本格的な審議になったのは、参院で野党が多数を握った結果である。「新しい国会」の効用なのに、政府・与党の頭は全然切り替わっていない。

 与党が野党に協力を求める手だてはあったはずだ。野党との修正協議を優先する方法だ。修正に合意できればその後の審議は短時間で済む。与党が「参院での修正」を確約したうえで、衆院は原案のまま通過させることに野党の理解を得るやり方もありえただろう。

 今回の無理押しで、与野党の対立が深まるのは必至だ。期限が迫っている日銀総裁人事でも、野党としてはにわかに協力しにくいのではないか。

 衆参両院議長のあっせんは「年度内の結論」とともに「立法府での修正」も含まれていた。与党はこの線に立ち戻って国会を正常化させる責任がある。

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