新見市は人口約3万6000人の市でありながら、救急告示病院が昨年、ゼロになりました。交通事故に遭った知人が市内で診てもらえず、真庭市の病院に搬送されたと聞きます。少子高齢化が進む中、しわ寄せが来るのは市民。なぜ救急告示病院が消えたのか。復活の手立てはないのでしょうか。<新見市、会社員男性(41)>
医師の確保困難に 市が再開に向け調整中
ご指摘の通り、新見市内では昨年1月から救急告示病院がない。唯一の渡辺病院(同市新見)が医師の確保が困難になったとして、認定を辞退したためだ。
「岡山大の非常勤医派遣が見送られ、常勤医も高齢化などで当直医の手当てが付かず、24時間体制の医療に応えられなくなった。現状では再開は厳しい」と遠藤彰院長は説明する。
救急告示病院・診療所は1964年の厚生(現厚生労働)省令に基づき、都道府県が認定。救急医療に関する知識や経験を持つ医師が常時診療に従事し、設備、専用病床などが整っていることなどを条件にしている。県内に96カ所あるが、15市では新見だけない。
県内の救急医療体制は、風邪など軽症患者が対象の「初期」、重症患者の「二次」、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中など重篤患者を受け入れる「三次」に分けられる。
新見市内で市民が受診できる医療機関30施設のうち病院は4。初期救急では、診療所の医師が交代で内科、小児科患者を診る休日・準夜間診療所を新見医師会立の介護老人保健施設「くろかみ」(同市高尾)で開いている。休日は4病院が輪番で重症患者までを受け入れている。
救急告示病院がなくなる前から、渡辺病院以外の3病院に急患が運び込まれる例はあり、現在も可能な限り4病院が対応している。実態は大きく変わっていないが「24時間対応の救急告示病院が消え、市民の不安感がある」(市健康づくり課)という。
実際、市消防本部が昨年、救急搬送した1368人(前年1471人)のうち、市外の医療機関に運んだのは436人(同460人)で3割以上も占める。倉敷市の病院まで約80キロもある。地理的に不利な条件は否めず、搬送に1時間以上かかるケースは多い。
このため、重篤患者は川崎医科大付属病院(倉敷市)のドクターヘリに出動要請。新見市からの搬送は年々増え、昨年は66人に上ったが、経費や技術面から日中の運用に限られるのが実情だ。
同市は救急告示病院の再開に向け、関係機関と調整を進めているという。石垣正夫市長は「市民が安心できるよう、県や医療関係者に要望し医師の確保に努力する。ドクターヘリの夜間出動も国などに働き掛けたい」と話している。
ドクターヘリ夜間運航を
医療は、暮らしの安心を支える根幹だ。中でも救急医療は一刻を争うが、大阪や東京などで患者が満床などを理由に病院に治療を拒否され死亡する事案が続発。救急告示病院がないことに、市民が不安を抱くのは無理もない。
とりわけ新見市の現状は厳しい。市内に総合病院はなく、06年末の医師数は38人(県内5163人)。人口10万人当たりでは、106・9人と県水準(264・1人)の4割にとどまり、頼みの大病院は県南都市部に偏在している。
04年度に新人医師の新臨床研修制度が始まり、研修医が都市部の病院に流れる傾向が強い。大学医局は人材が不足し、地方への医師派遣が困難になっている。現状では、へき地の重篤救急患者をいかに早く拠点病院に運ぶかが重要で、ドクターヘリの夜間運航は有効策と言える。さらに、医師不足を解消する抜本策が急務だ。