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技能五輪は最先端?

2008年03月01日

 昨年、静岡県で開かれた「ユニバーサル技能五輪国際大会」の様子をテレビで見た。画面から流れる競技の様子は数十年前の金型工場の現場そのものだった。

 番組で紹介されたのは汎用フライス盤を使っての抜き型製作作業。10ミクロン(1ミクロン=100万分の1メートル)の精度を保証する工作機械で、1ミクロンの精度で加工を行ったと紹介された。

 現在では、こういった汎用機で精密な金型を製作している工場は、ほとんどない。高速マシニングセンターと、3次元CAD/CAMの組み合わせで、切削精度も0.1〜0.05ミクロンを実現している。

 高校卒の新人が半年程度の訓練を受け、最初に取り組む加工精度が0.5ミクロン。これが現代の日本の町工場の姿であり、情報技術(IT)を伴った最先端の切削加工技術だ。

 10ミクロン保証の汎用機で1ミクロンの精度を実現するのは確かに「職人技」ではあるが、やはり「過去」のものではないだろうか。ITを駆使して最新設備を使えば、半年程度の訓練を受けた新人が簡単に到達できるレベルの世界なのだ。

 いま、最高レベルとされる職人による超精密切削加工の切削表面粗度は2〜3ナノメートル(1ナノ=1000分の1ミクロン)。こういう職人技が求められる中、現在のような内容の競技を続けることにどこまで意味があるのだろうか。

 最高のマシンとIT関連の技術を用い、ナノレベルで競われる超精密加工にこそ近代工業の高度な職人技の存在がある。「近代工業」の高度な技術と、「伝統工芸」的な手技とを混同してはいけない。

 韓国でも台湾でも中国でも、位置決め精度50ナノ保証と言われるレベルの高速マシニングセンターは、最先端のCAD/CAMと共に、中小の金型製作工場でも普通に使われている。技能オリンピックの競技内容に、時代錯誤を感じるのは私だけだろうか。(樹)

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