暮らし  
TOP > 暮らし
高知 事件 NA_テーマ2
どうすらあや? 「白バイ事件」裁判の行方
2008/02/01
関連記事:高知 「白バイ事件」の闇

 20年近く前のことですが、神戸市中心部の友人の家に車で立ち寄ったときのことです。たまたまですが、その日は友人のお母さんのお葬式でした。私が、路上に車を停めていたので、「駐車違反が気になるから、そろそろ失礼するわ」と言ったとき、友人の義兄がこう口をはさみました。「今日はこの辺り一帯、どこに車を停めても駐車違反にはなりませんよ」

 私の友人は、兵庫県警の警察官だったのです。その時以来、「警察が、自分たちの都合で法律を曲げる可能性がないとはいえない」と思うようになりました。警察権力の横暴から生じた「白バイ事件」は、氷山の一角に過ぎないと思われます。

証拠隠滅について
 昨年12月21日、高知県議会の総務委員会で、坂本茂雄議員が県警の黒岩安光交通部長に果敢に質問しました。「公道上で、サイレンを鳴らさずに、白バイが高速走行することがあるのかどうか、と聞いているのです」という質問です。交通部長は眉をしかめ、語勢を荒げて、「全く」のところで声を大にして次のように答弁しました。

 「公道で白バイが高速運転することは、全く、ありません。訓練は別のところでやっております」

 ホントでしょうか。私の取材では、係わり合いになりたくない迷惑顔の人ですら、「白バイ事故が起こるまで、恐ろしいスピードで白バイがこの辺りを走っていた。最近は、気にならなくなった」と証言しているのです。異口同音に時速100kmは出ていただろうと言います。事故現場付近の人々が皆ウソをついているのでしょうか。

 事故を起こした白バイの「時速60kmで走行していた」というのは、対向車線を走っていた他の白バイ隊員の目視による証言です。しかし、自らが逆方向を走行していながら、左前方の白バイと右前方のスクールバスの時速を60km、10kmと同時に正しく認識できるものでしょうか。しかも、そのとき、事故を起こした白バイは、180mも前方にあったのです。

 私は、「白バイ事件」では、「証拠ねつ造」とともに「証拠隠滅」も行われたのではないかと考えています。なぜなら、白バイのブレーキ痕(スリップ痕)とタコメーターの記録が裁判資料として提出されていないからです。交通事故鑑定人の石川和夫氏にその点を質問しました。

 「通常は、あり得ないです。それらは、裁判資料として提出されるべきものです。私は、裁判に提出されたものだけを検証するのが仕事ですので、その点は、あなたが追及してみてください」

 白バイのブレーキ痕とタコメーターには、「時速60km」とは別の証拠が残っていたのだろうと想像されます。もし、それらにより「時速60km」が立証できるなら、県警は提出したはずです。この事件の良心的な取材者であるKSB瀬戸内海放送の映像には、事故直後に、急いで事故車両に青いシートをかける警官たちの姿が映っています。

左端の車のやや前方で白バイ事故は起こりました。道路は、かなりカーブしています(1月17日筆者撮影)。
事故現場のカーブについて
 担当の梶原守光弁護士が、この1月7日に上告趣意書を最高裁に提出し、審理の差し戻しを求めています。しかし、それがかなうのは、千分の一の確率なのです。1月18日には、片岡晴彦さん自身が、2万5,000人の署名を最高裁に提出しましたが、片岡さんは、いつ収監されても不思議のない状況なのです。

 白バイ事故は、2年前の3月3日に起こりました。最近、私も遅ればせながら、現場で何度か車を走らせてみました。「なだらかなカーブ」ということでしたが、実際に車で走ってみると、このカーブが曲者なのではないかと思えてきました。

 国土交通省・土佐国道事務所の小林幸雄副所長の話によると、「時速60kmであれば、70mくらい前方が見えるように設計しています」とのことです。しかし、時速100kmでは、42mくらいしか見えないことになります。時速100kmという速さは、秒速28mです。発見してすぐブレーキを踏んだとしても、間に合わなかったでしょう。

 道路には、段差のある中央分離帯があり、1mくらいの木が植わっています。しかし、事故現場には、中央分離帯が途切れていて、ないのです。だからこそ、片岡さんは右折するために、バスを停めて、車の流れが途切れるのを待っていたのです。カーブの先の中央分離帯が途切れており、そこから車の出入りができるということが、道路設計上のミスなのではないか、という気がしました(裁判の行方とは関係ないのですが、事故後改善されていないので)。

左:片岡晴彦さんは、使命感を持って、「冤罪」とたたかっています。右:交通事故鑑定人が、白バイ事故を解析しました(いずれも1月24日筆者撮影)。
片岡晴彦さんを支援する集い
 1月24日、高知市で「晴さんを支援する集い(事実と解析)」が開かれました。集会では交通事故鑑定人・石川和夫氏によるブレーキ痕の解析と、担当弁護士の梶原守光氏による裁判の経過報告が行われました。

 講演会には、200人くらいの人が集まりました。片岡さんに聞くと、「仁淀川町から人は来ていませんよ」とのことでした。片岡さんの地元の仁淀川町に支援する会がありますが、そこが動員をかけた結果ではないようです。「いったいどこからこれだけの人が来たろうね?」と梶原弁護士も驚いていました。高知県では、200人の人が集まるというのは、それだけでニュースなのです。まして、警察権力の横暴に抗議する高知市民の集まりです。自由民権運動発祥の地では、堂々たるニュースのはずです。しかし、地元の高知新聞は、1行の記事も載せませんでした。私の友人の1人がつぶやきました。「権力にしっぽを振り続ける新聞は、もういらんな。存在意義がないもん」

交通事故鑑定人・石川和夫氏の話
 話の最初でまず示された結論は、警察の提出した「ブレーキ痕」はブレーキ痕ではない、というものでした。交通事故鑑定人の石川氏のブレーキ痕の解析は、スクリーンに拡大した写真や絵図を駆使して詳細を極めていました。以下に石川氏の鑑定結果の要点を箇条書きにします。 

1.バスのタイヤゴムが路面の凹凸によって削られてできるブレーキ痕が、路面の凹部にまでついている(ブレーキ痕が液体でできていたということ)。

2.スリップ痕にタイヤゴム固有の溝がない。

3.ブレーキ痕は、前方より後方が濃くなるが、写真のブレーキ痕はその逆である。

4.前輪の左右2つのタイヤによるブレーキ痕が、同心円を描いていない。

5.前輪の左右2つのタイヤによるブレーキ痕先端の色の濃い部分と、色の薄い部分とは、ずれ込んでおり、幅がちがう(後から書き足したからと思われる)。

6.前輪より鮮明なブレーキ痕を残すはずの、後輪ブレーキ痕がまったくない(130枚の写真の中に1枚もない)。

担当弁護士・梶原守光氏の話
 1審で証言したベテラン警官は「こんなブレーキ痕はあまり見たことがありません」と言っています。さらには、色の濃い部分を「濡れている」、色の薄い部分を「乾いている」、とも言っています。皆さん、タイヤのブレーキ痕というのは、濡れていたり、乾いていたりするものなのでしょうか。ブレーキ痕というのは、それらしいものは、刷毛と清涼飲料水で、1本20秒で描けるのです。まさか警察がそんなことはしないだろうと言う人が多いですが、彼らは、プロ中のプロなんですよ。私は、1、2審ともブレーキ痕の検証を要求しましたが、両方とも全然検証しようとしないのです。

 事故現場に駆けつけた白バイ隊員は、本部と無線で連絡を取り合っています。ですから、事故処理は本部の指示でなされたと考えられます。事故処理には、大勢の警官が動員されました(30名という目撃証言がある)。

 片岡さんの罪は、業務上過失致死ということです。では、片岡さんにどのような過失があったのでしょうか。裁判官は「安全確認を怠って道路に進入した」と言うのですが、片岡さんは右側を2度確認しています。何人も証人がいます。その点をつくと、裁判官は「走行中も右を確認すべきである」と言うのです。皆さん、安全確認の後は、前方を見なければならないのではないですか。このように、検事が提出していないことまで、裁判官が根拠としてあげているのです。

 この裁判は、あまりにも矛盾が多い。今の日本の裁判では、判決はどうにでもなる。私は、今回そういうことを思い知らされました。私は最高裁に言いたい。「この日本の司法をどうすらあや?」

推定有罪
 刑事事件の裁判の原則として、「推定無罪」という言葉があります。「疑わしきは罰せず」の精神です。しかし、私は、この事件と少しかかわって、刑事裁判は流れ作業で事務的に処理されており、出発点の警察の方向付けで、裁判がそのまま進行していく傾向が強い、と感じました。出発点が間違っていれば、刑事裁判も間違い続けることになるのです。裁判は、警察段階でほぼ終わっているのです。こんなことでは、3審制は時間とエネルギーのムダ以外の何ものでもありません。1回ちゃんと審理してもらう方がよほどましです。「推定無罪」どころか「推定有罪」というのが、今の日本の刑事裁判の現実なのです。片岡さんの場合は、「冤罪」です。

 私は、片岡さんには3度会いました。高知県の山間地で、53年間真面目に生きてきた人のように思いました。思い起こしてみれば、彼は私の前で、1度も「私は無罪です」とは言っていないのです。彼は、「ちゃんとした裁判を受けさせてください」と言っているだけなのです。「白バイ事件」に関しては、1、2審とも裁判の名に値しません。審理が尽くされていない、というより、審理はされていない、と言った方が正しいのです。片岡さんを無罪にするはずの証拠・証人は故意に無視されました。「推定有罪」の線からはずれる証拠・証言は、故意になかったことにされました。警察の起訴も強引でしたが、裁判の進め方もまた強引でした。3審制も機能麻痺を起こしています。

 はたして、日本は、法治国家と言えるのでしょうか。
(小倉文三)
◇ ◇ ◇
関連リンク:
片岡晴彦さんを支援する会HP

関連記事:
高知 「白バイ事件」の闇




ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

 [新規書込み]  [一覧表示] [ツリー表示]


[32655] 近藤さんへ
名前:小倉文三
日時:2008/02/07 10:14

 返事が遅れて申しわけありません。 


 起訴状の確認後の罪状認否についてですが、片岡さんは、一審の段階から否認しています。どうしてこのような質問が出てくるのか、理解に苦しみます。


 片岡さんによると、警察の取り調べ段階では、片岡さんが「そうではありません」と言うと、「死んだ白バイ隊員のことを考えろ」と言われ、つい譲歩してしまった面があった、ということです。(事故の検証に白バイ隊員の死は関係しないはず)


 愛媛県にも「白バイ事件」があります。高校生の停まっていたバイクに白バイが衝突したらしいのです。高校生のバイクが停まっていたことを証言した人は、「高校生は右足をついていたのか、左足をついていたのか」と聞かれ、断言できなかったので、バイクは停まっていなかったことにされたそうです。人間心理の弱点を突く、警察の頭のよさには、感心させられます。その頭は、正義の実現のためにこそ使って欲しいものです。


 警察は、「犯人」を作ることに一生懸命に思えます。その人が、本当の犯人かどうかは、全く問題にしていない、そんな印象を受けます。片岡さんの場合は、警察の都合で、意図的に「犯人」にされてしまったわけです。そして、検察も裁判所もそれをチェックするどころか、いっしょになって不正を働いているように思えます。今回の記事のテーマは、そこにあります。


 筋金入りの「推定有罪」事件です。

[返信する]


[32636] 回答ありがとうございます
名前:近藤真一
日時:2008/02/05 21:14

小倉様

 回答ありがとうございます。
…が、あいかわらずよく分からないのですが。


 裁判では証人云々以前に、一番最初に、検察による起訴状の確認の後、罪状認否があると思うのですが、そこで起訴事実を否認したのでしょうか?
 ここで否認してないと、後で無罪を主張するのは結構きついと思うのですが。


 動体視力云々の話は、言いたかったのはそういうことではないのですが、細かいことなのでいいです。


 石川和夫氏は法廷の採用した交通事故鑑定人ないしは証人ではないということですね、それはよく分かりました。
 ありがとうございます。

[返信する]


[32635] 近藤さんへ、
名前:小倉文三
日時:2008/02/05 19:43

 コメントをありがとうございました。 


 石川和夫氏は、日本自動車事故解析研究所の所長で、交通事故調査・現象解析を仕事にしている一民間人です。弁護側が証人として事故調査を依頼したのですが、裁判所は、警察、検察から引き継いだ「推定有罪」の線からはずれてしまうので、彼を証人として採用しませんでした。


 裁判所が、弁護側の証拠・証人をまともに扱っていれば、片岡さんは確実に無罪になっていたのです。私は、支援する人たちの口からも「無罪」と言う言葉を聴いた記憶がほとんどないのです。「まともな裁判をしてくれ」と言うのが、片岡さんたちの主張なのです。


 今、近藤さんの目に弾丸が迫ってきたとします。近藤さんは、目の前の弾丸を見ることができますか。速すぎて確認不可能でしょう。「動体視力」ということばがありますが、動体を見分ける能力のことです。自分が動いていても、相手が動いていても、速さは確認に影響します。

[返信する]


[32626] 中田さんへ
名前:小倉文三
日時:2008/02/05 01:12

 コメントをありがとうございました。

 その作家の言う「公平な税制と公平な司法」が何を意味しているかというと、たぶん、「真面目に生きていれば何とかなる」と保障されている社会のことですよね。あまりにささやかな理想郷ですが、今の日本からは、かなり遠いですね。


 「白バイ事件」について、中田さんと同感です。「白バイ事件」は、私自身にとっての衝撃度も、警察の問題というよりは、裁判の問題として重苦しいのです。本当に人間としてくだらない人が裁判官をやっているのに心底驚きました。

[返信する]


[32618] 確認させていただきたいのですが
名前:近藤真一
日時:2008/02/04 18:08

 ちょっとよく分からないのですが、記事中にある交通事故鑑定人・石川和夫氏は、裁判の証人となっているのでしょうか?
 「私は、裁判に提出されたものだけを検証するのが仕事ですので」という言葉を読むに、正式に法廷が要請した交通事故鑑定人と思ったのですが、氏の話にある鑑定結果の要点を読んでなお、裁判はブレーキ痕を捏造とは認めなかったのですか。だとすれば、何のための交通事故鑑定人なのでしょうか。
 それとも相反する意見を述べる別の交通事故鑑定人もいて、そちらが採用されたというような経緯なのでしょうか。
 特にそういう経緯も無く、わざわざ置いている交通事故鑑定人の鑑定結果を反故にするような裁判だとすれば、どう客観的に見てもおかしいと思います。


 あと、基本的な確認ですが、「彼は私の前で、1度も「私は無罪です」とは言っていない」とのことですが、法廷では無罪を主張したんですよね?
 容疑を否認しない裁判で無罪になることはまず無いですし、否認しなければ裁判官としては、罪ありき、あとは量刑だけという考えで審理を進めるので、証拠の真贋精査などは眼中に無くなると思います。


 ついでに細かいことですが、「時速100kmでは、42mくらいしか見えないことになります」というのがよくわかりませんでした。時速60kmでも100kmでも、同じカーブなら視野の距離は同じ70mだと思いますが。秒速28m/sを引いたのかな。(有効な視野角度はスピードが上がるほど狭くなるそうですが)

[返信する]


[32592] 総務省のヤマト運輸への業務改善指導は時代遅れ
名前:山田洋一
日時:2008/02/02 07:02

今回、メール便の取扱でヤマト運輸へ「郵政法」上の業務改善指導が報道された。全く時代錯誤も甚だしい。民営化され公社へ変身している。
DM・通販関係など実態に則した拡大解釈が可能な民営化後の競争原理を導入した「郵政法」に改正すべきではないか。
旧態以前のままでは誠に不公平ではないか。
ヤマト運輸は、1企業で全国ネットワークを構築し、今や「宅急便」の愛称で広く全国で利用されている。社会性の高い物流実績を持っている。
そして、社会貢献活動として「障がい者の雇用促進」や「地球温暖化防止」へのハイブリット車、バイオディーゼル車など先進的取り組みなど高い評価をされている。
「同一土俵条件設定」にしなければ全く民営化の目的をなさない。
今後、銀行・証券・保険その他関連業界も同様である。
「自由競争の原理」を尊重し、対等な立場に早急に是正すべきである。
一方だけを保護することなどナンセンス。
本来の経済活動に支障をもたらすような現行法が許されるだろうか。
日本の発展阻害要因として、度々指摘される「現行法」の抜本見直しが急務である。もっと柔軟な対応が何故できないのか。
日本を駄目にしている高級「官僚制度」をこれ以上延命にする理由はない。天下り先となっている関係機関の改廃に全力投球して延々と続いている「慣習」を廃止すべきである。税金の無駄遣いを早く断ち切るべきではないか。従前の体制では日本が立ち行かないことを肌で実感すべきと考えます。
いよいよ原油高騰の影響が日本全土に及び深刻な不景気風が吹き荒れようとしている。
今日こそ、経済活動がし易い環境設定に政府は真剣に対処すべきである。郵政公社の過保護は庶民感覚からは理解できない。
このような実態が「自由経済」活動にはマイナスであってもプラスにはならない。大幅改定を強く望む次第です。

[返信する]


[32591] 法治国家の危機
名前:中田宏
日時:2008/02/02 06:25

仰るとおりですよね。

冤罪をでっち上げる警察も問題ですが、何よりの問題は現場労働者である警察がでっち上げた罪状を疑問があるにも関わらずそのまま「推定有罪」にする裁判官のレベルの低さです。

ある小説家は公平な税制と公平な司法が有れば民衆は根源的な不満を持たない・・・とその作品の中で喝破しましたが、今の日本には残念ながらどちらもかけているようです。

[返信する]