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【正論】日本大学教授・百地章 自由社会を否定する危険性

2008.2.19 02:42
このニュースのトピックス正論

 ■人権擁護法案の国会提出を許すな

 ≪目を疑う「憲法違反」≫

 福田内閣の誕生以来恐れていた事態が、現実のものとなろうとしている。いうまでもなく、人権擁護法案の国会提出がそれである。推進論者の古賀誠選挙対策委員長らは、力ずくでも法律を制定しようとしており、昨年暮れに開かれた自民党の第1回人権問題等調査会で二階俊博総務会長は、最終的には多数決で押し切る旨発言している。

 しかしながら、この法案は(1)憲法違反、(2)人権擁護推進審議会答申からの逸脱、それに(3)人権侵害の実態無視、といった重大な問題をはらんでおり、到底これを認めるわけにはいかない。

 まず、この法案が憲法違反であることは、以前(平成17・4・8)本欄でも指摘したとおりである。法案では「人権」や「人権侵害」の定義を明確にしないまま、いわば「一切の人権侵害」を禁止しており、規制の対象は「侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」で「相手方を畏怖(いふ)させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」から、その「おそれのある者」にまで及ぶ。

 そして人権侵害の告発があれば直ちに、なくても職権で必要な調査が開始される。これでは言論の自由は保障されない。

 それ故、このように曖昧(あいまい)不明確な基準のもと行政権力が言論活動を規制し事前抑制まで行うのは、表現の自由を保障した憲法21条に違反する。

 しかもこれを取り締まる「人権委員会」は、裁判所の令状なしに出頭要請、質問、文書の提出などを強制し、立ち入り検査まで強行できるのだから、令状主義を保障した憲法35条にも違反する。

 ≪「答申」からの逸脱≫

 次に、本法案は「簡易・迅速・柔軟な救済」を行うにふさわしい「行政による人権救済制度」の整備を求めた平成13年の人権擁護推進審議会の答申「人権救済制度の在り方について」を踏まえて立案されたことになっているが、これから大きく逸脱している。

 というのは、答申では「あらゆる人権侵害」を対象とする救済手段としては「相談、あっせん、指導等」の「強制的要素を伴わない専ら任意的な手法」にとどめ、調査を伴う「積極的救済」はあくまで「自主的解決が困難な状況にある被害者」を救済する場合に限定しているからである。

 しかも「積極的救済」の対象とされる人権侵害については、「差別や虐待の範囲をできるだけ明確に定める必要がある」とし、「裁判所の令状を要するような直接的な強制を含む強い調査権限まで認めるべきでない」と明記している。

 にもかかわらず、法案ではあらゆる人権侵害を「調査」の対象とした上、侮辱などの「不当な差別的言動」で単に「相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせる」場合まで「令状」なしの強制的な出頭要請、質問、文書提出、立ち入り検査権を認めている。

 これは答申の趣旨を歪曲(わいきょく)するものといえよう。

 ≪「人権侵害」の実態は?≫

 さらに、救済の前提とされる「人権侵害」の実態だが、わが国にこれほど強力な行政権力を行使しなければ救済できない人権侵害や差別が、実際に存在するのか。この点の検証なしに法律を制定するのは、本末転倒であろう。

 ところが推進派の古賀氏らは「差別に泣いている人たちがいる」というだけで、実態を明らかにしようとしない。また、法務省の統計をみても、例えば平成17年度の場合、「人権侵犯事件」として処理した件数は約2万4000件もあるが、「侵犯事実の不存在・不明確」を含め、そのほとんど(99%)は現在の法務局や人権擁護委員による「援助」「調整」「説示」等で解決しており、特に重大・悪質な事案に関し文書をもって是正を求める「勧告」はわずか2件、刑事訴訟法に基づく「告発」はたった1件にすぎなかった。それ故、このような法律が本当に必要なのか、そのこと自体に疑義がある。

 この点、「虐待」についていえば、配偶者暴力、高齢者・児童虐待などの救済のため、すでに「ストーカー規制法」(平成12年)「児童虐待防止法」(同)「配偶者暴力防止法」(同13年)「高齢者虐待防止法」(同17年)などの法律が制定されており、その適切な運用によって問題の解決は可能であろう。残る主要課題は、刑務所等の公務員による人権侵害の救済であるが、これも個別法の制定で足りると思われる。

 したがって、自由社会を否定しかねないこの危険極まりない人権擁護法案の国会提出は、何としてでも阻止しなければならない。(ももち あきら)

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