◇温暖化や原油高対策、新資源に集まる期待
地球温暖化対策や原油高騰の対策として、バイオマスエネルギーに注目が集まる。トウモロコシなどを原料とするバイオ燃料は「食料生産と競合する」と批判される中、「油を作り出す藻」を新たな資源として活用しようという試みが進んでいる。【山本建】
渡邉信(まこと)筑波大教授(生命環境科学)らは、自動車部品メーカー大手の「デンソー」などと協力して、淡水に生息する藻「ボトリオコッカス」を使った燃料生産プラントの実用化に向けた研究を今年4月から開始する。ボトリオコッカスは太陽光が多い水面に浮くための浮力を得たり、敵から身を守ったりするために光合成から重油の一種を作り出すことが知られている。その量は、多いものだと乾燥重量の7割以上とされ、増殖力も高い。研究では、人工プールで栽培したものを集めて油成分を抽出することにしている。
渡邉教授の試算では、耕作放棄地でボトリオコッカスを栽培すると1年間に1ヘクタール当たり118トンのバイオディーゼル燃料が生産できるという。国内に約30万ヘクタールある耕作放棄地全体では3540万トンで、原価は1リットル150円程度になる。
エネルギーの生産効率を示す指標EPT(エネルギー・ペイバック・タイム)は、石油代替燃料の生産などに必要な総エネルギーがどの程度の期間で回収できるかを示すもので、低いほど効率がよい。この藻から作る燃料は0・19年で、住宅用太陽光発電(2・0年)、風車6基を設置したデンマークの風力発電(0・27年)と比較しても効率が高い。
「生産工程を改善したり、太陽光の強い地方で栽培したりすることで生産性を上げて価格を下げることは可能。原油高を考えると実用化も夢ではなくなった」と渡邉教授は話す。藻の増殖には、家庭や工場の排水に含まれる窒素やリンが栄養となるため、その排水を引いて藻の増殖と水の浄化を兼ねた施設とすることを考えている。
今年春から室内実験を始め、14年以降に実際の規模を備えたデモ用のプラントを稼働する予定。より藻の生産力が高い東南アジアでの開発プロジェクトも進めている。
ボトリオコッカスが油成分を作り出すことは、1800年代半ばに報告されていた。これまで原油高になるとその開発が検討されてきたが、コストが見合わず現実的でないと実用化には至らなかった。
状況が変わったのは、中国など途上国の経済発展で資源獲得競争が激化したことと、地球温暖化に対する意識の高まりから。昨年12月、石油メジャーの一つ「ロイヤル・ダッチ・シェル」がハワイで藻を使ったバイオ燃料開発計画を公表している。
カギを握るのが、ボトリオコッカスが生み出す油の量。油を多く作る個体は増殖が遅く、増殖が速い個体は油の生産量が少ない。研究に参加するバイオベンチャー「ネオ・モルガン研究所」が、通常の生物のDNA複製過程でしばしば起こるエラー(突然変異)を人為的に起こす独自の手法で生産性の高い個体を育てる。また、塩分への耐性を高めることができれば、海での栽培も可能になるという。同研究所の藤田朋宏COOは「そうした個体を育てるのに5年はかかるのではないか」とみている。
毎日新聞 2008年2月4日 東京朝刊