米国の写真家ロバート・メイプルソープ氏の写真集を巡り、国内持ち込みを禁じた税関の処分の是非が争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)であった。小法廷は「写真集は全体として、持ち込み禁止のわいせつ書籍に当たらない」と、わいせつ性を認めた2審・東京高裁判決(03年3月)を破棄し処分を取り消した。写真集を持ち込もうとした出版社社長の逆転勝訴が確定した。
この写真集は、メ氏の主要作をまとめた「MAPPLETHORPE」を原告の社長が翻訳出版し900冊以上を販売した日本語版。商用のために米国に持ち出し、再び国内に持ち帰ろうとした際、税関から輸入禁止処分を受けた。
全384ページの写真集のうち19ページで、画面中央など目立つ位置に男性器が写っており、国側は「性器を露骨に描写しておりわいせつ。同じ写真が載った別の写真集を最高裁も『わいせつ書籍』と判断した」と主張した。
だが小法廷は(1)本の中で男性器写真の占める割合が相当低い(2)メ氏の写真芸術の全体像を概観する本で、男性器写真も芸術的観点から主要作として収録された(3)写真芸術に関心が深い人を読者に想定している――などを指摘。これらを総合して「読者の好色的興味に訴えるわいせつ書籍とは言えない」と結論付けた。
判決は5裁判官中4人の多数意見。堀篭(ほりごめ)幸男裁判官は「わいせつ物に当たることは否定できない。多数意見は写真集の芸術性を重視し過ぎだ」と反対意見を述べた。【高倉友彰】
◇解説…時代の変化を反映
メイプルソープ氏の作品を巡っては、別の写真集について最高裁が99年「わいせつ書籍」と判決している。今回は、インターネットの普及など時代の変化を積極的に反映したものと言えるだろう。
両判決とも「四畳半襖(ふすま)の下張」事件の最高裁判例(80年)に沿ってわいせつ性を判断した。性器写真の割合や編集方針など書籍の特徴を「その時代の健全な社会通念」に照らして総合考慮した。2冊とも性器写真は1割未満で、大差はなく、国側は「前回同様わいせつ書籍」と主張した。
しかし、判決は「持ち込み禁止処分を受けた時期が異なる」とした。処分時は前回が92年、今回は99年。この間に「ネットを通じて我が国にわいせつ画像が多数流入」(国側答弁書)するなど、性を巡る現実の激変を前に「社会通念」も変わった――。そんな発想がうかがえる。
今回の訴訟では、1審・東京地裁でも原告側が勝訴したが「既に国内で流通している」という特殊事情が根拠だった。これに比べ最高裁は多様な価値観がある「わいせつ」について正面から審理した点が際立つ。
ただ「性器写真の解禁」と受け取るのは早計だ。芸術家としての評価が定まったメ氏でも、構成の異なる写真集はわいせつと判断される可能性は残る。【高倉友彰】
この写真集は、メ氏の主要作をまとめた「MAPPLETHORPE」を原告の社長が翻訳出版し900冊以上を販売した日本語版。商用のために米国に持ち出し、再び国内に持ち帰ろうとした際、税関から輸入禁止処分を受けた。
全384ページの写真集のうち19ページで、画面中央など目立つ位置に男性器が写っており、国側は「性器を露骨に描写しておりわいせつ。同じ写真が載った別の写真集を最高裁も『わいせつ書籍』と判断した」と主張した。
だが小法廷は(1)本の中で男性器写真の占める割合が相当低い(2)メ氏の写真芸術の全体像を概観する本で、男性器写真も芸術的観点から主要作として収録された(3)写真芸術に関心が深い人を読者に想定している――などを指摘。これらを総合して「読者の好色的興味に訴えるわいせつ書籍とは言えない」と結論付けた。
判決は5裁判官中4人の多数意見。堀篭(ほりごめ)幸男裁判官は「わいせつ物に当たることは否定できない。多数意見は写真集の芸術性を重視し過ぎだ」と反対意見を述べた。【高倉友彰】
◇解説…時代の変化を反映
メイプルソープ氏の作品を巡っては、別の写真集について最高裁が99年「わいせつ書籍」と判決している。今回は、インターネットの普及など時代の変化を積極的に反映したものと言えるだろう。
両判決とも「四畳半襖(ふすま)の下張」事件の最高裁判例(80年)に沿ってわいせつ性を判断した。性器写真の割合や編集方針など書籍の特徴を「その時代の健全な社会通念」に照らして総合考慮した。2冊とも性器写真は1割未満で、大差はなく、国側は「前回同様わいせつ書籍」と主張した。
しかし、判決は「持ち込み禁止処分を受けた時期が異なる」とした。処分時は前回が92年、今回は99年。この間に「ネットを通じて我が国にわいせつ画像が多数流入」(国側答弁書)するなど、性を巡る現実の激変を前に「社会通念」も変わった――。そんな発想がうかがえる。
今回の訴訟では、1審・東京地裁でも原告側が勝訴したが「既に国内で流通している」という特殊事情が根拠だった。これに比べ最高裁は多様な価値観がある「わいせつ」について正面から審理した点が際立つ。
ただ「性器写真の解禁」と受け取るのは早計だ。芸術家としての評価が定まったメ氏でも、構成の異なる写真集はわいせつと判断される可能性は残る。【高倉友彰】