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(岐阜)薬物依存からの自立と防止

専門家有志 支援の手 多角的な視点長期的な対策 行政の後押しも必要


 薬物に絡む犯罪が後を絶たず、中高生ら未成年者までシンナーや覚せい剤中毒に陥るケースが増える中で、薬物依存症からの脱却の手助けをしようと、県内の有志が集まって、支援組織「たんぽぽの会」(代表=大野正博・朝日大助教授)を結成した。保健師や弁護士など、様々な分野の専門家が一緒になって、個々の薬物依存症者に合った支援策を模索している。ただ、「薬を断つ」ための“特効薬”はなく、薬物依存症者の自立や未然防止に向けて、行政を交えての長期的な対策が求められている。(青山丈彦)

■動き始めた専門家

 「依存症は回復はしても、完治しないとは知らなかった」

 2月24日夜。JR岐阜駅に隣接する生涯学習施設「ハートフルスクエアーG」の一室で、率直な意見を述べ合う声が響いていた。昨年10月に設立した「たんぽぽの会」の会合だ。

 この日、出席していたのは、薬物依存症者の回復支援施設「岐阜ダルク」代表の遠山香さん(42)をはじめ、保健師、弁護士らメンバー7人。専門家同士がどう連携を組み、何をするべきか、約2時間にわたり議論を交わした。

 薬物依存症者に重要なのは「断薬」。体からいかに薬物を抜き、常習となった薬物使用の習慣からいかに脱却するかだ。これまでは、相談窓口があまりなく、その存在を知る人も少なかった。

■多角的な視点で支援


通所者と薬物依存症の体験を話し合う岐阜ダルクの遠山代表(左)

 薬を断つための支援施設の一つが「ダルク」だ。ダルクとは「薬物依存症リハビリセンター」の英語の略。岐阜市長住町に拠点を置く「岐阜ダルク」の相談件数は、2004年10月の発足以来、250件を超えた。

 現在、男性4人が通所し、遠山さんとともにソファに座りながら、お互いに薬物を始めた動機や、薬物による妄想や奇行などの体験を告白するミーティングで、自分を見つめ直し、薬物の恐ろしさを知る。

 15歳から始めたシンナーの薬物依存症と向き合い、名古屋市から週1回、岐阜ダルクに通っている無職男性(32)は、「薬物の経験を持つ仲間だと、話しやすく、自分のつらさがわかってもらえる。一人だけだと自分をコントロールできないが、仲間がいるとやめられる」と話す。

 だが、遠山さんは「ダルクの支援だけでは限界がある。ダルクよりも病院で治療を受けた方がいい人もいる。いろんな分野の専門家が集まって、多角的な視点から、その人にあったアドバイスをする必要がある」といい、「たんぽぽの会」の重要性を訴える。

■薬物犯罪の半数以上が再犯

 警察庁によると、昨年1年間で、覚せい剤や大麻など薬物事件で摘発されたのは約1万4400人に上る。覚せい剤事件で摘発された約1万1600人のうち、再犯者は半数以上にのぼり、「断薬」の難しさを物語っている。県内の摘発人数は減少傾向にあり、昨年は165人だった。  菊田幸一・明治大学名誉教授(犯罪学)は「薬物依存症者だからと言って、すべてが犯罪者ではない。薬物依存症者がお互いに体験談を話し合いながら、『断薬への自覚』を促すためにも周囲の助けが必要だ」と語り、たんぽぽの会の活動に注目している。

■今後の課題

 遠山さんは岐阜ダルク代表として、中学や高校に出向いて講演活動し、自らの薬物依存症の体験を通じて薬物の怖さを教えているが、「今後は、未成年者が薬物に手を染めないように、防止策を社会に向けて発信していくことも重要だ」と語る。

 「たんぽぽの会」では現在、薬物依存症の現状を多くの人に知ってもらうためのシンポジウムの開催も検討しているが、行政関係者にも会に入ってもらい、助成金を受けられるようにするなど、行政のバックアップを得られるかどうかも、課題の一つだ。

 薬物依存症
 覚せい剤やシンナー、合成麻薬などの違法薬物のほかに、睡眠薬や一般的な風邪薬なども依存症になる。薬物を使用し続けるうち、次第に使用量が増える。一時的にやめても、別の薬物の依存症になったり、再び使用したりするケースも多い。


2007年3月7日  読売新聞)
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