2008年02月15日
昨日、「制御不能のスパイ衛星:米軍が撃破を検討」と聞いて与太話と思っていました。何トンもある人工衛星を粉砕するには、SM-3の運動エネルギー弾頭では力不足だろうと・・・しかし、その認識は間違っていました。ペンタゴンはNASAと協議し、制御を失い地表に落下してくる偵察衛星NROL-21を、スタンダードSM-3によって迎撃する事を決定しました。


米国、迎撃ミサイルでスパイ衛星撃破を決定 - WIRED VISION
Carwright将官は、今回の撃破をモデル化するのに十分な技術情報を提供した。David Wright氏が現在、撃破のモデル化に取り組んでいるが、完了まで待てない読者のために重要なデータを紹介しておく。

1.撃破は130海里(240キロメートル)水域で行なわれる。
2.衛星の質量は2300キログラム
3.迎撃ミサイルの質量は20キログラム(米議会予算局のデータより)
4.衝突速度(closing velocity)は秒速9.8キロメートルで、実質的に正面から衝突する模様。

他にも関連情報がある。240キロメートル上空での衛星の移動速度は秒速7.8キロメートル、SM-3の到達速度[全ての推進薬を使いきったときの最高速度]は秒速3キロメートルだ。


(注:「撃破は130海里(240キロメートル)水域で行なわれる」とあるのはWIRED日本語版の誤訳。元の英文をあたると「撃破は130海里(240キロメートル)で行なわれる」が正解です。そしてこれは高度の話です。あと「Carwright」じゃなくて「Cartwright」将軍です。カートライトさん)

以前に制御を失った偵察衛星NROL-21は12トンだと聞いていたのですが、実際には2.3トンの衛星だったようです。この衛星には有害物質のヒドラジン燃料が500kg近く積み込まれたままで、衛星を迎撃して破壊、バラバラに分割し、大気圏突入時に燃やし尽くしてしまおうという作戦です。今回の作戦は高度が低く軌道から外れ始めた所を狙うので、破壊した結果発生するスペースデブリはすぐに地表に落ちてきます。

スタンダードSM-3で高度240km(130海里または150マイル)で偵察衛星NROL-21を迎撃する予定―これは、一つの重要な事実を指し示しています。

スタンダードSM-3は高度240kmまで駆け上がれる。

これまでのSM-3の迎撃実験では標的ミサイルの性能上の制約からか、高度160km近辺での迎撃テストが殆どでした。ですが、SM-3は高度240kmでNROL-21を迎撃できる・・・SM-3の隠された性能が、今、明らかにされようとしています。

高度240kmまで上がれるなら、ノドンに対する迎撃は弾道頂点付近も含めて殆どの領域をカバーできます。SM-3の性能は、これまで想定されてきた以上のものなのかもしれません。
posted by JSF at 21:55 | Comment(83) | TrackBack(1) | 軍事
2008年02月13日
「ゲリラに対処」新型戦車を公開=通信機能高め、軽量化も−防衛省:時事通信

(時事通信Yahoo掲載写真)

1両7億、陸自が新型戦車:産経新聞 

↑現在、掲載写真が総計84枚に増殖中

新型戦車:20年ぶりモデルチェンジ…試作車公開 防衛省-毎日jp



レオパルト2A5のショト装甲風味なものを採用しているので、パっと見、似ています。一瞬、メルカバMk.4にも見えましたが、気のせいでした。これまで発表されていたTK-Xの完成予想図とはかなり違った印象です。

完成予想図前期イラスト:Missiles & Armsより
完成予想図後期イラスト:2005年防衛白書より

砲塔のシルエットは側面の空間装甲がある分、90式戦車より大きいです。RPGなどで側面攻撃を受けることを想定した対処なのでしょう。それに産経新聞掲載写真2の側面写真を見ると、TK-Xは車体サイドスカートの下に更にゴムスカートを付けています。(新開発の足回りを隠す為か、消音対策なのか)そして価格の7億円は、90式戦車よりも安く、ほぼ同時期に開発された韓国の新型戦車K-2が83億ウォン(約9億円)であるのと比べてもかなり安いです。産経新聞は7億円を高いかのように書いていますが、間違いです。

細かいスペック、主砲や車体長の詳細、即応弾の数、エンジンの詳細など、これから少しずつ出てくると思います。重量44トンだというのは公式公開の前から情報が出ていました。すると主砲は50口径というのも本当なんでしょうか。50口径にしては全長が短い感じもしますが、エンジンが小さく纏まっている為に短くなっているのかもしれません。

産経新掲載写真:9枚目

側面写真を見る限り短めの砲身です。50口径砲ではなく44口径?


TK-X - Wikipedia

90式戦車 - Wikipedia

74式戦車 - Wikipedia
posted by JSF at 12:56 | Comment(275) | TrackBack(4) | 軍事
2008年02月06日
またしても産経新聞が軍事記事で誤報してしまったらしい・・・意外なように思われるかもしれませんが、日本のマスコミで軍事記事の正確性に最も欠けているのは産経新聞であり、まだ朝日新聞や東京新聞の方が正確です。あくまで比較の問題ですが。


露太平洋艦隊増強「恐れるのは中国」 英国際戦略研:産経新聞
【ロンドン=木村正人】英国の国際戦略研究所(IISS)は5日、世界の軍事力を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス2008」を発表。ロシア海軍で太平洋上の作戦を担当する太平洋艦隊に、この1年間に戦術潜水艦8隻が増強されたことが分かった。IISSの軍事専門家は「太平洋でロシアが恐れるのは米国ではない。中国だ」と極東の海軍力が急に強化された理由を分析した。


記事の内容は、IISSによると「ロシア太平洋艦隊は一年間でSSN(原子力攻撃型潜水艦)は1隻減ったがSSK(通常動力潜水艦)が9隻も増強!」とあり、クリストファー・ラントン上級研究員から「ロシアはアメリカではなく中国を恐れている」とのコメントを得ていますが・・・まず数がおかしいです。


ロシア太平洋艦隊、潜水艦8隻増強?(爆笑) :Infinite Justice
むろん突っ込みどころはココ(笑)

>この1年間に戦術潜水艦8隻が増強されたことが分かった。
>SSN/SSGNは1隻減ったものの、SSKは新たに9隻が配置されていた。

・・・・・1998年以降、太平洋艦隊に新たな潜水艦は配備されていませんが(失笑)


どうも産経新聞は数の計算を間違えているとしか・・・

それにロシアが中国を恐れるなら陸空を増強する筈で、海軍、それもSSKのみを重点的に増強するという方向性は有り得ない筈です。現代戦でSSKの主な使い道は防御的な哨戒任務であり、中国海軍がロシア沿海州の沿岸まで攻め込んでくる状況でなければ増やす意味がありません。遠隔地で中国艦船を襲撃したければSSNを増強する筈です。そして、中国がロシア沿岸を攻撃する状況が見えてきません。攻撃したければ陸路から侵攻すればよいことで、海から攻め込もうとしたら日本海の制海権を握らねばならず、対馬海峡の通航を安全に確保する必要があり、日本や韓国が中国に協力しなければ実現不可能です。

つまり、仮にロシア太平洋艦隊がSSKを増強していたとしても、対中国用とは考えられません。戦術的な用途として考え難いですし、戦略的、政治的、地形状の問題から見てもおかしな話です。ましてや、それ以前の問題としてSSKの数の認識自体がおかしいと言うなら・・・

それに中国海軍の新型SSBN、SSNはロシアからの技術協力で建造されています。

094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型) - 日本周辺国の軍事兵器
093型原子力潜水艦(シャン型/商型) - 日本周辺国の軍事兵器

ロシアが真に中国海軍を恐れているなら、原潜の技術移転など行わないし、キロ級を売ったりもしないでしょう。最近、ロシアと中国の軍事協力関係はギクシャクしていますが、それは中国を脅威と認識しているというよりは商取引上の問題であり、対中を意識して戦力を増強する理由には成り得ません。それにもしそのようなことになれば海軍の増強よりも中露国境線と、お互いに影響を強めつつある中央アジア方面の陸上戦力と航空戦力を重視する筈です。
posted by JSF at 21:16 | Comment(83) | TrackBack(0) | 軍事
2008年01月30日
ロシアの独立新聞(Независимая газета:ニェザヴィーシマヤ・ガゼータ)が以下のように報じています。

Военно-экспортный тупик
(兵器輸出が袋小路に陥った)
Москва теряет крупнейших импортеров оружия
(モスクワは最も重要な兵器輸入業者を失います)


原文のロシア語記事は長いので、以下の時事通信の要約記事をご覧下さい。


ロシアの対中兵器輸出、ほぼゼロに=最新鋭技術の提供めぐり対立:時事通信
 【モスクワ29日時事】ロシア紙・独立新聞は29日、ロシアの中国向け兵器輸出がほぼゼロに激減していると伝えた。この問題を協議するため、セルジュコフ国防相が5月のプーチン大統領退任までに訪中する可能性があるという。
 
ロシアから中国への兵器輸出は最近まで、年間18億〜20億ドルに上り、兵器輸出全体の約4割を占めていた。しかし、同紙によると、ウズベキスタンにある軍需工場の技術者不足から、総額15億ドルに上る軍用機輸出契約が最近頓挫し、現時点で大型契約は残っていない。

また、対中警戒感が根強いロシア軍内で、中国に最新鋭兵器をどこまで提供するかをめぐり意見が統一されていないことから、中国が求める兵器の売却やライセンス生産の権利付与に応じていない。ロシアは一方で、インドには戦闘機を含む最新鋭兵器を売却しており、中国側の不満が高まっているとされる。


ロシアと中国の兵器取引関係悪化は、数ヶ月前からジェーン・ディフェンス・ウィークリー(JDW)でも語られており、購入して暫くしたら勝手にコピー品を大量生産する中国のやり方に嫌気が差したロシアが怒ったのではないか、とKojii.netの井上孝司氏の見解です。

しかし結局の所、この関係悪化は一時的なもので、中国はロシアからの兵器輸入に頼らざるを得ないという分析も為されています。以下は昨年11月の、アメリカのUPI通信の分析です。


Analysis: China eyes new Russian tech - UPI.com
Military observers based in Moscow and Beijing say they believe the recent nadir of military cooperation between China and Russia is only temporary. China will have to rely on Russia to develop its military technologies, as Beijing has no other alternative.

The first new project involves Su-33 shipborne fighters. Experts from the Russian aviation industry are convinced that China is about to start the construction of an aircraft carrier.


「モスクワと北京に拠点を置く軍関係者は、最近の露中軍事協力でドン底まで悪化した関係は、一時的なだけであると言います。北京は他のいかなる選択肢も持たず、中国はその軍事技術を開発するためにロシアに頼らなければなりません。

(空母戦力化の為の)最初の新しいプロジェクトは、Su-33艦上戦闘機を必要とします。ロシア航空業界の専門家は、中国が航空母艦の建造を始めようとしていることを確信しています」

冷戦時代にソ連との関係が悪化した中国は、敵の敵は味方の論理で西側と接近を図り、軍事技術協力を得ようとしましたが、天安門事件でその関係は崩れ、冷戦終結後にロシアと再接近を図り、大量のロシア兵器を購入してきました。しかしロシアは国境を接する中国への兵器輸出に制限を設け、T-90戦車は売らず、フランカー戦闘機も最新型レーダーを搭載したバージョンは売っていません。(一方、地理的にロシアと敵対し得ないインドには最新ロシア兵器が納入されている)

このような状況に不満を募らせる中国は、西側との兵器協力関係を再開したいと考えていますが、アメリカの反対に遭いヨーロッパは二の足を踏んでいる状態で、何時になったら再開できるかは目処が立っていません。そこで中国は仕方なく戦略的パートナーであるパキスタンと兵器共同開発を行っていますが、パキスタンは特筆するような独自技術を持っているわけではなく、金銭的にも裕福な国では無い為に開発資金出資額も限定され、中国が独自開発するのと似たり寄ったりの結果となっています。
posted by JSF at 21:21 | Comment(78) | TrackBack(0) | 軍事
2008年01月28日
なにやらコメントが反映されないな、と思っていたらSeesaaブログ全体で障害が発生中でした。


障害報告(2008.1.28):Seesaaからのお知らせ
現在、Seesaaブログのブログサイト(ドメイン名:seesaa.net)におきましてお客様が投稿された記事、コメント等が正常にブログに反映されない状態となっております。

ただいま、対応を行っておりますので、今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます。


復旧まで長く掛かりそうですので、暫くお待ちください。
posted by JSF at 21:57 | Comment(3) | TrackBack(0) | お知らせ