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当直医ルポ(2)救急車続々、小児科医は一睡もできず


 午後5時3分。大阪赤十字病院(大阪市天王寺区)に併設された救命救急センターの夜間救急は、路上で転倒した90歳男性の搬送で始まった。

表  

 この日、救急外来の当直は、医師4人と小児救急にあたるベテラン小児科医の計5人。本来は命にかかわる患者に対応する救命センターだが、地域住民のため、可能な限り軽症も受け入れる。

 救急車の到着を知らせる着信音が鳴り、医師や看護師が一斉に玄関に飛び出した。転倒といっても、その原因が脳や心臓の疾患であれば、治療は一刻を争う。

 「楽にして」「お名前は」。医師らが声をかけながら患者の意識を見極め、血圧などを確認。心電図の検査で急性心筋梗塞(こうそく)と判断し、緊急カテーテル手術のため、専用の部屋に運んだ。

 この夜は、子どもの急患が次々と押し寄せた。自転車に足をはさんで骨折した6歳児、自宅で転倒し、頭を打った1歳児、空手の練習後に腹痛を訴えた10歳の男児……。「痛い。もうやめて」。センターに治療を受ける子どもたちの泣き声が響きわたる。

 小児救急の担当医(43)は食事も取らず、午後5時から患者の治療を続けていたが、本当のピークは、日付が変わってからだった。

 午前0時48分、「入院が必要かもしれない」と、軽症者の診療にあたる大阪市の中央急病診療所から4歳児が転院してきた。同1時3分、インフルエンザで39度7分の発熱があり、気管支炎を起こした1歳女児が担ぎ込まれる。同47分には同診療所から「アレルギー性疾患が疑われる」と、5歳児が運ばれてきた。

 全員症状が重く、小児科医は三つの診察室を慌ただしく行き来し、検査や診察、点滴などにあたる。子どもたちは注射の痛みに泣き叫び、治療ははかどらない。

 同2時2分、限界が訪れた。救急隊から腹痛の乳児の要請が来たが、「これ以上は無理。医療事故を起こしかねない」。断るしかなかった。3人の治療を終え、入院手続きをしながら、「もう4時か」とため息をつく。

 それでも、患者が途絶えることはない。同5時42分、高熱でけいれんを起こした生後10カ月の女児が運び込まれた。搬送した救急隊員は「この時間帯は受け入れ先が決まらないかも、と不安になる。最初の要請で受け入れてもらえて良かった」と胸をなで下ろした。

 午前8時半までの救急患者は31人。ごく平均的な人数だ。この夜、救急病院に来る必要のない患者はいなかった。

 小児科医は救急車などで運ばれてきた子ども7人を治療し、一睡もしなかった。当直が明けてからも入院患者を診て回った。山本英彦救急部長(56)は「一般の救急患者も増えているが、最近、目立つのは重症の小児救急の増加だ。周辺で受け入れ病院が減っているのだろうか」と憂える。

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