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政治記事読みくらべ
2007年6月7日
三角合併」解禁の裏にあるもの=堤堯(ジャーナリスト)
三角合併」解禁は日本に施す「外科手術」の総仕上げだ。
大手外資にとっては、待ちに待った時がやって来た
 この五月から三角合併が解禁された。株式交換で会社の合併・買収を可能にする。現金は要らない。株式時価総額の差がモノをいう。
 過日、NHKスペシャル「敵対的買収を防げ!」を見た。番組は三角合併の恐怖に慄く新日本製鉄社長・三村明夫の動きを追った。日本を代表する企業のトップが、哀れアタフタと走り回っている。
 三村がひたすら恐れるのは、インド人ラクシュミ・ミタルが率いるアルセロール・ミタル社(本社・ルクセンブルク)だ。もとはといえばミタル社(本社・オランダ)は、インドネシアの製鉄会社だった。これが株式交換によるM&A(企業買収)を繰り返して業界世界一位となった。
 そして昨年七月、世界第二位のアルセロール社(本社・フランス)を株式交換の手法で合併し、アルセロール・ミタル社となった。いまやその株式時価総額は約八兆五千億円。くらべて新日鉄のそれは五兆四千億円。二倍に近い。昨年七月、ひそかにミタルが来日した。知人の新日鉄OBに訊いてみた。
「お次は新日鉄かと大騒ぎですよ。ウチが買収を仕掛けられれば、ひとたまりもない。大変なことになりました」
 事実、NHKの番組によれば、新日鉄社内に設けた対策チームのレポートは結論する。
「これを防ぐ手段はない」
新日鉄は自動車鋼板の技術をアルセロール社に提供していた。これが何よりミタルの狙いだ。合併成ったいま、この技術の使用を世界規模で認めよ、いやそれはできない――ミタルと三村の交渉は、目下、この一点に絞られる。
 あくまでこれを拒めば、三角合併に出て来るのではないか、それが三村の心配だ。コトは日本の自動車産業の下請け・孫請け・曾孫請け、さらに余波は金融機関にすらおよぶ。
 来日したミタルは日本の自動車会社をひそかに歴訪したらしい。外堀を埋めていく作戦だろう。新日鉄が自動車鋼板の技術の使用を世界規模で認めれば、わが社はもっと安く鋼板を提供できる……。
 新日鉄は種々の技術特許を持つ。その数、一千三十八。くらべてミタルは、たったの三十八だ。汗水垂らして開発した独自の技術ごと、ミタルに奪われる。
 ミタルは業界二位のアルセロール社を買収したあと、オランダやメキシコの製鉄会社も手中に収めた。現在業界二位の新日鉄を併呑すれば、世界の製鉄業界はミタルの寡占体制となる。国際間に独占禁止法はない。ミタルのやりたい放題となる。ミタルの株式時価総額が上がるわけだ。
 ミタルの背後に世界的な巨大ファンドが存在する。ミタルに資金を提供し、ミタルの株価が上がれば、ヘッジファンドは巨利を得る。要はマネーゲームだ。ミタルは世界規模のホリエモンと思えばよい。
 番組は触れていないが、最大のスポンサーは、ビルダーバーグ会議に集う大手外資と見られている。オランダで始められたこの会議は、通常年に一度、開催地を変えて欧米のセレブを集める。ロスチャイルドロックフェラーはもとより、アメリカ最大手の投資会社ゴールドマン・サックスや同じく最大手の証券会社モルガン・スタンレーのボスたち、パパ・ブッシュ(米元大統領)を始め各国首脳……欧米の政財界の「奥の院」だ。オランダベアトリックス女王が主宰する。彼女はイギリスのエリザベス女王を凌ぐ資産家だ。
 かの日本長期信用銀行を買い占めたリップルウッドのティモシー・コリンズは、この会議の理事だ。コリンズを理事に引き立てたのは、常務理事のバーノン・ジョーダンで、彼はアメリカ政財界のフィクサーと目される。黒人弁護士で、三十を超える企業の顧問をつとめる。クリントンのセックス・スキャンダルをモミ消したことで名高い。
元総理がなぜ?
 つまり長銀買収の背後にジョーダン、さらには欧米の政財界がいた。
 長銀および背後のコリンズと戦った男にイ・アイ・イ社の高橋治則がいる。高橋はリゾート王の名を欲しいままにした。ところが突如、長銀から債務返済を迫られ、事業のほとんどを失った。高橋はいった。
「欧米の金融資本が、官民合同の連合艦隊を組んで、日本に押し寄せている。これから日本はいいようにやられますよ」
 その後、高橋は長銀あらため新生銀行と裁判闘争に転じ、コリンズは二百数十億円を高橋に支払った。
リップルウッドからカネをふんだくったのは、世界広しといえどもオレ一人だろうなあ」
 笑った高橋は五十九歳で死んだ。不審な死と見られた。
ベトナムの石油に手を出したのが拙かったかな」
 と洩らしてもいた。つまりはミタルの背後に欧米の連合艦隊がいる。これが、三村が相手にする真の敵だ。
 コトは製鉄に限らない。三角合併は日本を強姦して下さいといわんばかりの新法だ。会社法改正どころか改悪だ。規制緩和の名のもと、これを推進したのは前首相・小泉純一郎竹中平蔵(元経財相)、宮内義彦(元規制緩和推進委員会座長)のトリオだ。アメリカ大手資本の要求に応じた。
『文藝春秋』(二〇〇七年六月号)に、面白い記事が出ている。上杉隆「小泉純一郎『住所不定・元総理』追跡記」だ。某夜、小泉は四谷の料理屋で三時間を過ごした。
 ――小泉の後から店を出て来たのは、テレビで見覚えがある細身の外国人と、「局長さん」と呼ばれる男性である。この夜の会合の相手は、モルガン・スタンレー証券のチーフ・エコノミスト、ロバート・フェルドマン。もう一人は官僚か。フェルドマンといえば、竹中平蔵と関係が深く、小泉改革を支持してきた外資系エコノミストである……。
 日本の前首相がアメリカ最大手の証券会社モルガン・スタンレーのチーフと、三時間もかけて何を話し合ったのか。何事かを暗示する一場面ではある。
 アメリカにカーライル社というのがある。パパ・ブッシュが最高顧問をつとめた。投資会社だが、傘下にハリバートン社やハイテク兵器会社を抱える。かつて前者は副大統領チェイニーがCEO(最高経営責任者)をつとめ、後者は前国防長官ラムズフェルドが役員をつとめた。
 ハリバートン社はイラクの石油採掘に関わり、一万人を超える社員を派遣している。兵士の食糧や戦争に絡む備品の輸送等も請け負い、要は戦争ビジネスを多角的に展開している。すなわちカーライル社はブッシュ・ファミリーの事業の中核だ。知人の某大手銀行の幹部から聞いたことがある。
小泉純一郎の弟って、カーライル社の日本支社長なんですってね」
 真偽のほどは知らない。本当だとすれば、これまた実に何事かを暗示する。イラク派兵も合点がいく。筆者が現役編集長なら、練達のライターを動かすところだ。嘘なら嘘で気が晴れる。
日本の「外科手術
 小泉カイカクはアメリカのいうがまま、マネーゲームの闘技場に、日本企業を素っ裸で投げ出した。何のフェイルセーフ(安全対策)もない。結果、日本はひたすらビクビク、ソワソワする国となった。三村明夫が好例だ。
 なのに先のトリオは「改革の旗手」として持て囃された。同じく「改革利権」に踊ったのがホリエモン(堀江貴文被告)であり村上世彰(被告)だ。二人は臭いメシを食う羽目となった。検察の「良識」というべきか。しかしその検察も、「改革利権」を漁った梟雄・宮内義彦に手がおよばない。これを突つけば、竹中平蔵、引いては小泉に累がおよぶ? 
 一九九四年の日米構造協議は、クリントン宮澤(喜一)の密談で決まった。アメリカはこれを、日本に施す「外科手術」と称した。以来、グローバリズムの名のもと、アメリカの意向をそのままに、日本の諸カイカクは展開された。郵政カイカクもその表れ。アメリカは郵貯・簡保三百四十兆円を狙う。法案が参院で否決されたおり、ウォール・ストリート・ジャーナルは書いた。
「これで三兆ドルはお預けとなった。しかし小泉は頑張るだろう」
 小泉は衆院の解散に打って出て、ホリエモンを旗頭に刺客選挙を展開した。生き残った反対議員を除名までした。メディアはこれを「非情・果断の措置」と褒め上げた。
 自由化された三角合併は、「外科手術」の総仕上げだ。欧米の大手資本にすれば、待ちに待った時が来た。日本買い叩きが横行するだろう。
 三角合併を危惧した議員が二人いる。小林興起小泉龍司だ。三角合併が一年延期されたのは、二人の必死の画策による。折角の一年の猶予を無駄にした。二人は共に先の選挙で追放された。木の葉が沈んで石が浮く、無理が通れば道理が引っ込むとは、このことだ。(文中敬称略)
リベラルタイム七月号「永田町仄聞録」
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