袴田事件と刑事訴訟法281条の改定

裁判検証ができない-密かに進められる「言論規制」

ヒロ(2008-02-15 13:30)
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 袴田事件とは、1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で発生した強盗殺人放火事件、およびその裁判で死刑が確定した袴田巖(はかまだいわお)が冤罪を訴え再審を請求している事件である。

 袴田死刑囚は、現在死刑判決が確定してから、死刑が執行されていない最も古い死刑囚である。長期間死刑囚という身でいる為、拘禁反応を起こし精神的に障害をきたしている。異常な言動と裁判に関する言葉のやり取りが出来ないほど、深刻な状況下に置かれている。

 袴田事件が冤罪だとする根拠は、長期間かつ長時間(長い日だと16時間)にわたる密室での警察の取り調べの中、自白の強要が行われ、逮捕後20日目にしてウソの自白をさせられている。また、犯人だと裏付けられる物的証拠が、警察と検察によりねつ造され、デッチ上げられた事が明らかとなっている。

 具体的には、

 1. 「凶器とされている栗小刀で犯行は可能か」

 2. 「逃走ルートとされた裏木戸からの逃走は可能か」

 3. 「犯行着衣とされた『5点の衣類』は、警察の捏造か(「服サイズから見て、被告人の着用は不可能)」

 などの3点である。

 これらの証拠を最初に疑問を抱き、事件の冤罪性を指摘したのはジャーナリストの高杉晋吾氏である。当時の月刊誌『現代の眼』に「袴田事件」を連載したのが契機となり、「無実のプロボクサー袴田巌を救う会」が発足している。報道番組『NNNドキュメント』(日本テレビ)では、逃走ルートとされている裏木戸実験を行い、到底人がくぐれない事を証明した。

 また血痕の着衣は、血液型が着衣ごとにバラバラで、同一人物が着衣していなかった事と、袴田さんの体型から、履く事ができないというものである。様々な人たちが、警察と検察側の証拠を、弁護側から取り寄せ検証する事により、冤罪の極めて高い事件として、支援活動が広範に行われている。
 
 1981年から日本弁護士連合会が、人権擁護委員会内に「袴田事件委員会」を設置し弁護団を支援し始める。
 
 一方、袴田さんが元プロボクサーであった事から、1991年3月11日、日本プロボクシング協会会長の原田政彦(ファイティング原田)が、後楽園ホールのリング上から再審開始を訴え、正式に袴田の支援を表明(当時はリング上で、このような表明をする事は異例であった)した。
 
 2006年5月には東日本ボクシング協会が、会長輪島功一を委員長、理事新田渉世を実行委員長とする「袴田巌再審支援委員会」を設立する。同委員会はボクシングの試合会場(後楽園ホールなど)で、袴田の親族、弁護団所属の弁護士や救援会関係者らとともに、リング上から早期再審開始を訴えているほか、東京拘置所への面会やボクシング雑誌の差入れなどを行っている。
 
 2007年2月、一審静岡地裁で死刑判決に関わった元裁判官熊本典道(判決言渡しの7カ月後に辞職)が、

 「彼は無罪だと確信したが、裁判長ともう1人の陪席判事が有罪と判断、合議の結果1対2で死刑判決が決まった。しかも判決文執筆の当番は、慣例により自分だった」

と告白し、袴田の姉に謝罪し、再審請求支援を表明する。この発言を契機に、袴田事件の冤罪が極めて濃厚となった。一連の支援の動きの端緒は証拠が、警察と検察によりねつ造され、デッチ上げられたのではないかという疑惑から出発している。
 
 しかし、約3年前に、第三者が事件の証拠を、眼にする事を不可能にする法改正が行われていた。「刑事訴訟法281条」の改正であり、この改正は、裁判の証拠が流出する事を防ぐ事を目的とし行われた改正である。裁判に提出された証拠を、裁判以外に使用する事を禁じたものでもある。

  当時から、今でもこの法改正の危険性が、認識されていない現状がある。

 つまり事件の証拠を、テレビ番組やジャーナリスト、支援者などが検証する事が不可能となってしまったのである。もし当時に、この法改正が行われていたならば、袴田事件で言えば、ジャーナリトの高杉氏が証拠を検証したような事ができなくなり、とっくの昔に袴田死刑囚は死刑執行が行われていたにちがいない。
 
 今後、袴田事件のような冤罪性の高い事件を発見し、検証する事ができなくなる可能性が高くなる。この事は冤罪を助長するものであり、無実の罪人が数多く生み出されてしまうといった恐ろしい法改正なのである。
 
 この法改正は、刑事罰が科せられており、1年以下の懲役刑が設けられており、処罰対象は入手した側ではなく、入手させた側(弁護側)となっているため、弁護側が委縮してしまい、自分の手がけている事件を第三者に検証してもらう行為すらできなくなっている。

 さらに、驚いたことに、被告人が自らの無実を訴える為に、証拠を掲載したチラシを配布する事すら禁じている点である。この法改正は、証拠の裁判目的外の使用を禁止しているからだ。

 日本の司法制度は、極めて人権とは無縁の制度であり、諸外国からはかなり遅れた人権後進国である。国連人権規約委員会からは1998年以来、司法制度の改善(取り調べの可視化)を勧告されているが、一貫して日本政府と法務省は、この勧告を無視し続けている。日本政府・法務省は、最近、死刑執行を続けているが、遅れた司法制度を持つこの国に死刑制度を持つ資格は無い。



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