現在位置:asahi.com>社説 社説2008年02月13日(水曜日)付 米兵少女暴行―沖縄の我慢も限界だ沖縄本島中部で、米海兵隊の2等軍曹による女子中学生暴行事件が起きた。許しがたい性犯罪がなぜ、こうも繰り返されるのか。強い憤りを覚える。 容疑者は、沖縄市内の路上で友人と一緒にいた中学3年の女子生徒に「家まで送ってあげる」と声をかけ、オートバイで沖縄本島中部にある容疑者の自宅へ連れていった。少女は途中で逃げ出したが車で後を追い、裏通りに止めた車の中で少女に乱暴したとされる。 容疑者は乱暴したことは否認しているというが、県警はワゴン車などを押収し裏付け捜査を進めている。 在沖縄米海兵隊は04年6月以降、犯罪防止のため、若い隊員に対しては夜間外出を制限している。しかし、今回の容疑者は38歳であり、基地外に住んでいたため防止に役立たなかった。 思い出されるのは、95年に起きた米海兵隊員3人による少女暴行事件である。この事件をきっかけに米兵による犯罪や事故に対する県民の怒りが大きなうねりとなり、抗議の県民集会には8万5千人が結集した。 その結果、不平等だと批判の多い日米地位協定に対して見直しを求める声が盛り上がり、凶悪犯の身柄引き渡しなど運用面がいくぶん改善された。米軍も犯罪防止に努力するようになった。また、その後に基地の再編案が日米間でつくられたのも、この事件が原点だった。 とはいえ、事態が改善したとは言い難い。今回と同じ沖縄市で昨年10月、米軍人の息子が強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕された。先月も、米海兵隊員2人によるタクシー強盗致傷事件が起きたばかりだ。 事件や事故が発生するたびに、地元の自治体や政府は米軍に綱紀粛正や再発防止を強く求めてきた。 米軍当局は毎回、「綱紀粛正」や「二度と事件を起こさぬ」と約束するが、事件は後を絶たない。効果のあがらない米軍の対応に、県民の怒りと不信感は頂点といっても過言ではない。 日本にある米軍専用施設の75%が沖縄に集中する。なかでも負担になっているのは海兵隊である。海兵隊員による事件が際立っており、海兵隊の駐留に対する県民の反発は強まるばかりだ。 今回の事件で、海兵隊・普天間飛行場の県内移設問題について、沖縄県が態度を硬化させ、米軍再編の進展に影響が生じる可能性も否定できない。 福田首相は「許されることではない」との表現で、米軍へ改善策を強く求めた。米軍はことの重大性を認識し、再発防止に今度こそ総力をあげて取り組まなければならない。 沖縄県民は、沖縄戦で旧日本軍によって集団自決に追い込まれた住民も出るなど筆舌に尽くしがたい体験をした。戦後は米軍基地に苦しめられている。 日米両政府は、今度の不幸な事件を、そうした「軍」の重荷を和らげていくための出発点にすべきだ。 岩国市長選―「アメとムチ」は効いたが米軍の空母艦載機を受け入れるというのが、山口県岩国市民の選択だった。 出直し市長選で、移転容認派から推された福田良彦氏が接戦の末に当選した。政府はこれで米軍厚木基地からの艦載機の移転計画に弾みがつくとほっとしているだろう。 しかし、福田氏は当選後、「まず、市民の不安な騒音問題や治安問題を解消し、その後に再編問題に協力するかどうかという判断をしなくちゃいけない」と語った。 そうした慎重な言い回しをしたのは、米軍機が増えることに対し、市民の間に不安が根強いことをよく知っているからだろう。敗れた井原勝介前市長との票差がわずか約1800票だったことも影響しているにちがいない。 政府は移転計画を円滑に進めようとするなら、これまでの強引な方法をやめて、騒音問題や米兵による犯罪への対策を丁寧に説明し、市民の理解を得なければなるまい。 岩国市民が艦載機の受け入れについて判断をするのは今回で3度目だ。周辺町村との合併前の一昨年3月の住民投票では、「移転反対」が多数を占めた。合併に伴う市長選でも、「移転撤回」を公約に掲げる井原氏が勝った。 市民の選択がなぜ変わったのか。 朝日新聞が投票日におこなった出口調査では、移転反対が47%で、賛成の18%の3倍近くを占めた。福田氏に投票した人でも、移転に「賛成」と答えたのは30%にすぎない。 それにもかかわらず福田氏への投票が多かったのは、「移転には反対だが、政府からの支援を得るためにはやむをえない」と苦渋の選択をした人が多かったということだろう。 政府は井原前市長時代に、新市庁舎建設への補助金や米軍再編交付金を凍結した。艦載機を受け入れれば、凍結を解除するという「アメとムチ」の政策である。それが功を奏したといえる。 福田氏も選挙戦で、基地問題よりも、市の財政問題や疲弊した地域経済の活性化策を重点的に取り上げた。 艦載機が計画通りに移ってくれば、岩国基地の米軍機はいまの2倍の120機に増える。沖縄県の嘉手納と並ぶ極東最大級の航空基地となる。岩国基地は大きく変わる。 たしかに安全保障や基地の配置は国の政策だ。いまの日米安保体制の下では、どこかの自治体に米軍基地を引き受けてもらわなければならない現実がある。 だが、地域の声を無視していいはずがない。「基地と共存する街」といわれてきた岩国市が、なぜ艦載機の受け入れを拒んだのか。交渉の前面に立った防衛省はここで改めて考えた方がいい。 地元の頭越しに政策を決め、「アメとムチ」で解決する。そんなことをいつまでも続ければ、受け入れ容認派の市長をも窮地に追い込むかもしれない。 PR情報 |
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