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飛び込み出産、訴訟リスク・・・疲弊に拍車妊婦の受け入れ先が見つからないことを“たらい回し”と表現されることに怒りを持つ産婦人科医は多い。「医師の都合でたらい回ししているのではない。今のお産施設は、受け入れたくても受け入れられない状態に陥っている」と都内の産科医は訴える。 総務省が昨年秋にまとめた調査では、救急搬送されながら病院への受け入れを1回以上断られた妊婦は、2006年1年間で2668人。10回以上断られた例があったのは北海道、宮城、埼玉、千葉、東京、大阪、福岡の7都道府県と、一定地域に集中していた。ただ、これは救急搬送開始後の数字で、救急搬送する前に医師が受け入れ先を探して断られた回数はカウントされていない。 “たらい回し”の原因は、一つではない。 早産などリスクの高い妊婦を受け入れるために必要なNICUは、満床状態がほとんどだ。救急搬送の問題がクローズアップされる中、医師の間では「搬送先探しは産科が一番大変だ」と言われる。 医療現場の産婦人科医は年々、減り続けている=グラフ=。中堅、ベテラン医師が過酷な労働を強いられる分娩(ぶんべん)から撤退し、自らの出産・育児で現場を離れる女性医師も増えているからだ。 不測の出産があり得る産科医は24時間態勢。月数回の当直があり、命を直接預かるという重圧もある。 心身共に疲弊している産科医に追い打ちをかけるように、訴訟リスクも高まっている。重大な事故が起きれば、産婦人科は他の科に比べて民事訴訟に訴えられる割合は高い。一昨年には、福島県の県立病院の産科医が帝王切開の手術を巡って刑事訴追された。 責任の重さと過重労働からうつ状態に陥った、ある産科医は「忙しいうえに、訴えられる可能性もあるのなら、産科医が現場から離れていくのも理解できる」という。 医療現場の混乱に拍車を掛ける妊婦もいる。妊婦健診をほとんど受けないまま、出産間際になって病院にやって来る未受診妊婦だ。こうした「飛び込み妊婦」は、健康状態や出産予定日が把握できないため、早産や死産などのリスクが高まる。 そもそも「飛び込み」で来られても、ベッドは空いていない。都市部などでは、受け入れたとしても、次に救急搬送されてくる妊婦の行き場がなくなり、そして妊婦搬送の迷走が始まるという構図がある。 「我が国の産科医療体制は、地方、都市部を問わず崩壊の危機にある」。日本産科婦人科学会が先月末までに、都道府県知事への文書でそう現実を訴えた。お産の現場の窮状に、福田首相は1月の施政方針演説で「勤務医の過重な労働環境や産婦人科の医師不足の問題に対応する」と明言するなど、国も重い腰を上げ始めている。 (2008年2月6日 読売新聞)
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