山本七平著、『「空気」の研究』 (文春文庫)の「あとがき」に、氏は「“空気支配”の歴史は、いつごろ始まったのであろうか? もちろんその根は臨在感的把握そのものにあったのだが、猛威を振い出したのはおそらく近代進行期で、徳川時代と明治初期には、少なくとも指導者には“空気”に支配されることを“恥”とする一面があったと思われる」と記しています。
『KY(空気を読めない)』と呼ばれることを気にしていると、正しい判断ができなくなり、新しいものが創造できなくなる、ということでしょうか。 たしかに歴史上、新しい時代をつくってきた人たちは、それまでの時代の空気を、新しい爽やかな風で吹き飛ばしてきました。 ところで、今、バイオ燃料に関しては大雑把にいって、2つの空気があります。いや、ここはもっと焦点を絞って、ジェトロファカーカス(Jatropha Curcas=南洋アブラギリ)に関し、2つの空気を取り上げたいと思います。 ジェトロファカーカス:南洋油桐の苗木(撮影:山元雅信) 1つは、ジェトロファカーカス万歳! という空気。私も少し前まで、ジェトロファのいいところしか見えませんでした。例えば、 (1)普通は作物が育たないと思われる、農地としての価値が低いやせた土地、農業用水の少ない土地でもよく育つので、砂漠緑化とバイオディーゼル原料の2段活用ができる。 (2)食用として適さないため、燃料として使用しても食料と競合しない。 などの点です。 もう1つの空気は、ジェトロファカーカス反対! というもの。私も最近知ったのですが、いかにジェトロファが、過酷な気候で生育可能といっても、採算ベースがとれる収量を得るには、それなりに肥沃な土地を選ばなければならない。したがって土地をめぐって食糧と競合する、ということです。 大規模な植林をし、プランテーション化で契約栽培するのは、結果として、地元農民の土地を奪う再植民地化運動であります。労働者としての農民には、商品になって私たちが払うお金の1パーセント程度しか払われない、などの事実が浮上しています。 明治学院大学国際平和研究所の佐久間智子さんによると、インドでは1400万ヘクタールのプランテーション計画がありますが、土地を追われた農民の暴動が発生したそうです。 またガーナ北部の農民は、気まぐれな市場に縛り付けられる恐怖、利用法を限定する毒性等の理由により、バイオ燃料としてのジェトロファを、拒絶したそうです。 ジェトロファ賛成! 反対! という、オールオアナッシングの考え方ではなく、あくまで持続可能な方法で、地元農民が伝統的な作物を栽培しながら、ジェトロファで副収入を得られればいいという発想で、私は新しい空気をつくろうとしています。 ジェトロファはその実を搾るだけで油がとれ、それでランプや料理に使えるので、必ずしも商品にする必要はありませんし、その実を動物が嫌うので、家畜を囲うフェンスにも適しています。 またNPO法人「ソーラークッカージャパン」理事長山元雅信さんは、ジェトロファの普及、油搾り機の購入にマイクロクレジットを使い、生活の困難な農民を自立させるシステムも検討しています。 1部はコミュニティーで循環させていこう、という考えなので、日本の「菜の花プロジェクト」に似ています。山元さんは、事業を軌道に乗せるために奮闘中で、今もタイへ出張に行っています。空気に流されることなく空気をつくり、空気を実体あるものに変えて帰国されると思います。 21世紀の新しい燃料、ジェトロファカーカス。これが21世紀の農村と社会を活性化する大きな希望となりつつあります。 |