免疫抑制薬

東京外国語大学 助教授・保健管理センター 井上 哲文

 

血管炎症候群を含むリウマチ病に用いられる免疫抑制性薬剤

 リウマチ病のうち「いわゆる膠原病」(表1)に用いられる免疫抑制性薬剤は,ステロイド薬と狭義の免疫抑制薬に分類される。そして後者には代表的なものとして,アザチオプリン(azathioprine:AZA),シクロホスファミド(cycIophosphamide:CTX),メトトレキサート(methotrexate:MTX),シクロスポリン(ciclosporin:CSA),タクロリムス(tacrolimus hydrate:FK506)が含まれる。

表1 今日的意味での主な「いわゆる膠原病」一覧

1.

慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)

Felty症候群(Felty's syndrome)

悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis : MRA)

若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis : JRA)

成人発症still病(adult onset Still's disease)

2.

全身性エリテマトーデス(systematic lupas erythematosus :SLE)

3.

全身性強皮症(progressive systemic sclerosis : PSS)

CREST症候群(CREST syndrome)

4.

多発症筋炎・皮膚筋炎(polymyositis/dermatomypsitis : PM/DM)

5.

血管炎症候群(vasculitis syndrome)

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa : PN)

Wegener肉芽腫症(Wegener's granulomatosus)

Churg-Strauss症候群(Churg-Stauss syndrome)

過敏性血管炎(hypersensitivity vasculitis)

Shonlein-Henoch紫斑病(Schonlein-Henoch purpura)

巨細胞動脈炎(giant cell arteritis)(側頭動脈炎(temporal arteritis))

高安動脈炎(Takayasu arteritis)

6.

混合性結合組織病(mixed connective tissue disease : MCTD)

重複症候群(overlap syndrome)

7.

Sjogren症候群(Sjogren's syndrome: SjS)

8.

その他 : Behcet病(Behcet's disease)

リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica : PMR)など


ステロイド薬の歴史

 ステロイド薬は膠原病治療の中で最も主要な薬剤として位置づけられる。コルチコステロイドの歴史は1930年代,Masonらが副腎皮質組織からコーチゾン(cortisone)を抽出した[12]ことに始まる。そして1949年から1950年にかけて,Henchらがその慢性関節リウマチ(RA)に対する劇的な効果を報告した[34]ことによって,大きな注目を集めることになった。これはノーベル賞受賞という形で一度は結実したかにみえた。

 しかし,炎症性疾患治療におけるコーチゾンに対する評価は,大量投与に伴う副作用報告が相次いだことから,その後急速に下落することになる。この時期,例えばコルチコステロイドは生体内での炎症制御には重要な役割を担っていないとか,その抗炎症作用は生理的なものというよりはむしろ薬理的なものであるという種々の誤った理解があり,また,炎症と密接に関連するストレス反応としてのコルチコステロイド産生という概念も十分に理解されてはいなかった。

 このような紆余曲折ののち,大量の知識の集積を経て,コルチコステロイドの生理作用と免疫抑制作用を含む薬理作用が正しく理解され,また,新規薬剤の開発も継続的に続けられた結果,副作用を最小限にとどめながら十分な臨床効果を得るためのそれらの投与法がほぼ確立されて,その位置づけは今日のものにまで高まった。

 薬剤開発の歴史の中で特に注目すべきものの1つは,副作用の軽減にもつながるものとして,ミネラルコルチコイド作用の少ないプレドニゾロン(prednisolone:PSL),さらにその作用の少ないメチルプレドニゾロン(methylprednisolone)の開発であろう。前者はこれまで30年以上にわたってステロイド薬の中での主役,標準薬の地位を占めており,後者の出現はステロイドパルス療法の開発につながった。もう1つの注目点は,多岐にわたる剤型の開発である。経口薬にとどまらず,注射薬,坐薬,外用薬(皮膚外用薬,噴霧吸入薬,点眼薬,口腔用薬)が開発され,ステロイド薬の臨床的適応範囲を大きく広げてきた。


ステロイド薬の免疫抑制作用

 コルチコステロイドの作用点は免疫反応に関与するすべての細胞に及ぶ。ステロイドは好中球およびマクロファージの炎症部位への集中を阻害し,マクロファージのリンパ球への抗原提示,リンパ球の増殖および活性化,その抗体産生細胞への分化,これらのサイトカイン産生を抑制する。特に,ヘルパー不細胞,細胞傷害性T細胞,NK細胞,未成熟B細胞に対する作用は強力である。一方,成熟型の抗体産生細胞に対する作用は弱い。そして,マクロファージによるIL-1およびTNF-αの産生やT細胞によるγ-インターフェロンおよびIL-2の産生を強力に抑制する。これらは統合的に,炎症細胞,免疫担当細胞の炎症局所への集中と局所での免疫反応,特に細胞性免疫反応を制御することにつながる。

膠原病の治療戦略とステロイド薬の臨床

 膠原病に共通する主要病態は自己免疫異常である。治療戦略のうち最も重要なものはその改善であり,これを目的としてステロイド薬,免疫抑制薬を用いる。また,ほぼすべての疾患には慢性炎症が存在することから,そのコントロールも治療戦略に含まれる。ステロイド薬は強力な抗炎症作用をも有するが,必要に応じて非ステロイド性抗炎症薬を併用する場合もある。膠原病に伴う臓器病変の多くは疾患活動性のコントロールが得られるにつれて改善する。しかし疾患によっては,治療戦略に臓器病変の治療を加えることになる。

 膠原病の治療に用いられる主な経口ステロイド薬を表2に示す。広く用いられているのはPSLであり,メチルプレドニゾロンとトリアムシノロンアセトニドもほぼ同様に処方される。ベタメタゾンやリン酸デキサメタゾンナトリウムを用いる場合には表2の力価比に従って投与量を決めることになるが,これらの半減期は長く,副腎萎縮の強さや離脱の困難性を考えると比較的使いにくいといえる。

 ステロイド薬の抗炎症作用は,PSL換算量10mg/日以下の投与量で十分に期待できるのに対し,その免疫抑制作用の発現には30mg/日以上の投与量が必要である。多くの膠原病治療に際しては,初期量として40〜60mg/日を投与する。通常,初期量は4〜6週間継続し,疾患活動性をモニターしながら漸減する。良好なコントロールが得られている場合,2週間間隔で10%程度の減量を行うならば,再燃の可能性は低い。維持量としては5〜10mg/日で十分な効果を期待できることが多い。

 経口投与によって十分な効果が得られない場合,メチルプレドニゾロンの点滴静注によるステロイドパルス療法を行う。通常,1,000mg/日を3日間連続投与し,必要に応じて1〜2週間隔で反復する。

 一方,抗炎症効果を期待してステロイド薬の投与を行う疾患の代表例はRAである。適応を厳密に決める必要があるが,PSL換算量5mg/日程度で十分な効果が期待できる。

表2 膠原病治療に用いられる主な経口ステロイド薬

薬品名

商品名

剤型・用量

ヒドロコチルチゾンを
1とした力価

プレドニゾロン

プレドニン

錠(5mg)

4

プレドニゾロン

散(1%)

錠(5mg)

メチルプレドニゾロン

メドロール

錠(2mg,4mg)

5

トリアムシノロンアセトニド

ケナコルト

錠(4mg)

5

ベタメタゾン

リンデロン

散(0.1%)

25〜30

錠(0.1mg,0.5mg)

リン酸デキサメタゾンナトリウム

オルガドロン

錠(0.5mg)

25〜30

デカドロン

錠(0.5mg)


アザチオプリンの歴史

 6−メルカプトプリン(6-MP)はプリン類似体であり,悪性腫瘍治療薬剤として開発され,1960年代の初めには,膠原病にも有効であることが明らかにされた[56]。しかし,6-MPには急速に代謝されて有効血中濃度が持続しないという欠点があり,これを改善するにとどまらず,経口的服用を可能とする薬剤のさらなる開発が続けられた。その結果生まれたのがAZAである[78]。

 AZAは細胞障害性薬剤に分類されるが,その免疫修飾作用は強力で,移植後の拒絶反応抑制と膠原病の治療を目的として用いられるに至った。


アザチオプリンの臨床

 膠原病・自己免疫疾患の中で,特にRAに対する有効性が確立されている。さらに,全身性エリテマトーデス(SLE),多発性筋炎・皮膚筋炎,乾癬性関節炎に対する有効性が示されており。Reiter症候群,若年性関節リウマチ,血管炎症候群,Weber-Christian病にも有効な場合があるとされる(表3)。

表3 免疫抑制薬の有効性比較

AZA

CTX

CSA

MTX

慢性関節リウマチ

+++

+++

+++

+++

悪性関節リウマチ

++

若年性関節リウマチ

++

成人発症Still病

全身性エリテマトーデス

++

+++

++

全身性強皮症

++

多発性筋炎・皮膚筋炎

++

++

血管炎症候群

結節性多発動脈炎

++

 Wegener肉芽腫症

+++

 Churg-Strauss症候群

++

 Schonlein-Henoch紫斑病

 巨細胞動脈炎

 高安動脈炎

++

Behcet病

++

リウマチ性多発筋痛症

乾癬・乾癬性関節炎

++

++

Reiter症候群

Weber-Christian病

Goodpasture症候群

抗リン脂質抗体症候群

 膠原病の治療においては,1日量50mgから投与を開始する。モニタリングの結果,特に白血球数をチェックしながら問題がなければ増量し,1日量を100mgとする。長期投与を可能にするための配慮として,効果が現れたら減量し,1日量75mg程度で維持することを目標とする。

 強力な薬効の反面,骨髄抑制出現頻度が高く,継続的投与が困難になることも少なくない。また,本剤に対する過敏症としての皮疹や胃腸障害にも注意が必要である(表4)[9]。

表4 免疫抑制薬の副作用比較

AZA

CTX

CSA

MTX

共通の副作用

 白血球減少症

4〜27

6〜32

2〜6

1〜4

 血小板減少症

0〜5

0〜4

<2

1〜2

 感染症

0〜9

0〜22

0〜6

-

 吐気・嘔吐

9〜23

19〜45

4〜40

10〜18

 下痢

<1

3〜18

2〜18

5〜12

 皮疹

1〜6

0〜2

0〜2

1〜2

個別の副作用

 脱毛

-

7〜80

-

<6

 胃炎

0〜5

-

-

6〜10

 歯肉増殖

-

-

4〜12

-

 肝機能異常

0〜5

-

0〜8

8〜38

 肝線維症・肝硬変症

-

-

-

4〜20

 精子異常

-

60〜100

-

±

 無月経

-

0〜53

-

-

 膀胱炎

-

4〜45

-

-

 催奇形性 

±

±

30〜83

 悪性腫瘍

-

 GFR低下

-

-

50〜87

-

 高血圧症

-

-

33

-

 神経障害

-

-

10〜40

-

 肺臓炎

-

-

-

0〜5

(文献9より引用,一部変更)


シクロホスファミドの歴史

 代表的な細胞障害性薬剤であるアルキル化薬剤の薬理作用は1800年代にすでに認識され,やがて悪性腫瘍の治療に用いられるようになった。そして,膠原病治療に関しては1951年,ナイトロジェン・マスタード(nitrogen mustard)が治療抵抗性のRA治療に初めて用いられた[10]。やがて,CTXとクロラムブシル(chlorambucil)が膠原病治療における主役となり,前者は主にアメリカ,イギリス,日本で,後者は主にフランスで用いられるようになった。臨床経験が蓄積される中で,RAを含む各種膠原病に対する有効性が示されてきたが,一方,長期投与に由来する悪性腫瘍誘発などの副作用も明らかになってきた。


シクロホスファミドの臨床

 RA,SLE,血管炎症候群に対する有効性が確立されている。特に,ループス腎炎にとどまらず,SLEに合併する血小板減少症,再生不良性貧血,血管炎,横断性脊髄炎,中枢神経ループス,肺出血,間質性肺炎などはCTXパルス療法の適応となる。血管炎症候群のうち,Wegener肉芽腫症に対する有用性は顕著で,さらに結節性多発動脈炎,リウマチ性血管炎,高安動脈炎,Churg-Strauss症候群にも有効である。その他,全身性強皮症,若年性関節リウマチ,多発性節炎・皮膚節炎(合併する間質性肺炎を含む),クリオグロブリン血症,Behcet病,Goodpasture症候群,Schonlein-Henoch紫斑病,成人発症スティル病,抗リン脂質抗体症候群にも有効な場合があるとされる(表3)。

 AZAと同様に骨髄抑制出現頻度が高く,継続的投与が困難になることも少なくない。また,胃腸障害,脱毛,生殖器異常,膀胱炎の頻度も高い(表4)。投与量および投与方法はAZAのものに準ずる。


メトトレキサートの歴史

 葉酸代謝阻害薬剤であり,悪性腫瘍治療薬として用いられていたが,膠原病に関しては,1951年Gubnerがその前駆物質であるアミノプテリン(aminopterin)をRAおよび乾癬性関節炎に対して投与したものが最初の報告[11]である。顕著な有効性が報告されたが,折悪しく,コーチゾンのRAに対する有効性がセンセーションを巻き起こしていた時期であり,この時点に大きな注目を集めることはなかった。そして,1980年代に至ってようやくアメリカとカナダでRAに対する臨床試験が行われ[12],現在の評価を得ることになった。


メトトレキサートの臨床

 アメリカにおいては,高い活動性を有するRAに対する第一選択薬剤である。本邦においては保険適用薬剤としての認可が遅れているため,現時点での処方頻度は必ずしも高くないが,厚生省調査研究班による1990年時点の調査においてさえ,専門医療施設においては8.1%の頻度でMTXが処方されていた。数年前から行われていたRAに関する臨床試験は終了しており,間もなく認可されるものと思われる。有効率はほぼ70%とされる。少量間歌投与(low dose pulse therapy)を行う。週に1日を服薬日とし,当該日に1回2.5mgを8時間間隔で3回服薬するのが基本である。1日5mgで十分な効果が得られる症例も多い。状況に応じて1日15mgまでの増量が試みられるが,副作用頻度は高まるので慎重を期する必要がある。

 さらに,MTXは若年性関節リウマチに対しても有効であるだけでなく,強直性脊椎炎,反応性関節炎,乾癬・乾癬性関節炎,多発性節炎・皮膚節炎,全身性強度症,SLE,巨細胞動脈炎,リウマチ性多発筋痛症,高安動脈炎にも有効な場合があるとされる(表3)。

 副作用のうち肝障害は高頻度に出現する。多くは可逆性であるが,非可逆性肝障害として肝線維症の頻度も高い。また,同じく頻度の高いものとして胃腸障害があげられる。骨髄抑制に対する注意はもちろんであるが,特にモニターすべきものは薬剤性間質性肺炎(肺臓炎)であろう。特に,投与開始後の数ヵ月間は乾性咳嗽に対する注意を怠ってはならない。早期に対応すれば可逆性である。さらに,催奇形性が強い点にも留意する必要がある(表4)。


シクロスポリンおよびタクロリムスの歴史

 これらはいずれもT細胞機能を選択的に抑制する薬剤である。基本的に細胞傷害性はなく,T細胞のイムノフィリンと結合し,リンホカイン遺伝子の転写シグナル伝達を阻害することによってその活性化を抑制する。いずれも真菌から分離され,まずCSAが,続いてFK506が臓器移植後の拒絶反応抑制を目的として臨床的に用いられるようになった。

 膠原病治療に関しては,1979年のHermannらによるRAに対するCSA投与が最初の臨床応用である。十分な効果が得られたものの,高用量が投与されたために血清クレアチニン値の上昇と帯状疱疹が高頻度に出現した。このため,RAに対するCSAの本格的な臨床試験の開始は1980年代の中頃までずれ込むことになる[13]。そして現在は,乾癬および乾癬性関節炎など,各種の自己免疫疾患にまで適応が広がりつつある。

 一方,FK506はラットのコラーゲン関節炎に対し,CSAよりも格段に優れた効果を示すことが報告された[14]。現在,RAに対する臨床試験が進行中である。


シクロスポリンおよびタクロリムスの歴史

 CSAのRAに対する有効性は確立されている。さらに,CSAは乾癬・乾癬性関節炎,SLE,全身性強皮症,Behcet病,多発性筋炎・皮膚筋炎にも有効であるばかりでなく,免疫異常を有する各種疾患にも有効な場合があるとされている(表3)。

 疾患によりCSAの投与量はやや異なるが,RAの場合には初期量を2.5mg/kg/日,分2(12時間間隔)投与とする。以後,2〜4週間隔で25〜50%を増量し,維持量を5mg/kg/日とするが,腎障害や血圧上昇をみるならば,適宜減量あるいは中止する。

 FK506はRAに対する臨床試験の中で,その少量投与での有効性が確認されようとしている。

 CSAの副作用のうち特に留意すべきは腎障害である。かなり高い頻度でGFR低下に伴う血清BUN,クレアチニンの上昇をみる。計画的モニタリングにより早期にこれを見出し投薬を中止すれば,多くは可逆性の経過をたどる。このほか比較的頻度の高いものとして,胃腸障害,歯肉増殖,血圧上昇,神経障害があげられる。骨髄抑制の出現頻度は低いが,重篤なものとなりうる(表4)。


1)Mason HL et al:J Biol Chem 114:613-631,1936

2)Mason HL et al:J Biol Chem 116:267-276,1936

3)Hench PS et al:Proc Staff Meet Mayo Clin 24:181-197,1949

4)Hench PS et al:Arch Intern Med 85:545-666,1950

5)Dameshek W,Schwarz R:Trans Assoc Am Physicians 73:113-127,1960

6)Myles AB:Ann Rheum Dis 24:179-180,1965

7)Elion GB:Fed Proc 26:898-904,1967

8)Diasio RB,LoBuglio AF:Hardman JG,Limbird LE ed,Goodman and Gilman's the Pharmacological Basis of Therapeutics.9 th ed,Chap.52,McGraw-Hill,New York,1996

9)Furst DE,Clement PJ:Klippel JH,Dieppe PA ed,Rheumatology.p1-8,Mosby,London,1994

10)Daiz CJ et al:JAMA 147:1418-1419,1951

11)Gubner R et al:Am J Med Sci 221:176-182,1951

12)Williams HJ et al:Arthritis Rheum 28:721-730,1985

13)Dougados M,Amor B:Arthritis Rheum 30:83-87,1987

14)Arita C et al:Clin Exp Immunol 82:456-461,1990

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