Yahoo!に対する買収のニュースの余震が収まらぬ2月4日(米国時間)、米MicrosoftはWindows VistaのService Pack1(SP1)が完成(RTM)したと発表した。第1弾としてリリースされるのは、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、日本語の5言語対応版。これ以外の言語については4月にRTM(Release to manufacture)する見込みだ。 SP1の完成により、第1弾の言語に対応したWindows Vistaについては、まずプリインストール版の更新とSP1を適用したリテールパッケージの製造、さらにボリュームライセンスを持つ大企業向けのDVD作成がスタートする。Windows Vista SP1を搭載したPC、SP1適用済みリテールパッケージは、3月に店頭に並ぶ予定になっている。 次に既存のWindows Vistaユーザーに対するアップデートだが、Windows UpdateとDownload Centerへの登録が3月中旬に行なわれる。ただしこの時点においてSP1のインストールは任意(ユーザーによる選択)となっており、自動ダウンロードによるインストールは行なわれない。更新プログラムの自動インストールを有効にしているユーザーに対する自動更新が行なわれるのは4月中旬を予定している。 ●リリースは待ち遠しいが、ドライバ周りに課題残念ながらこの発表に完成形となったSP1の容量は書かれていない(Download Centerで公開されていた5カ国語対応のRCは436.5MBだった)。また、(ボリュームライセンス対象ではなく)一般に対するCD-ROMやDVD-ROMといったメディアによる配布の有無についても触れられていない。おそらく当初はメディアによるSP1単体の配布は行なわれないのではないだろうか。 というのも、この発表にはこのSP1が、特定のデバイスドライバとの間で問題を引き起こすことが明らかにされているからだ。問題はドライバそのものではなく、ドライバのインストール手順にあり、問題が生じた場合もドライバの再インストールで解決するとしている。SP1が完成したにもかかわらず、3月中旬まで1カ月以上も公開されないのは、この期間を利用して、問題のあるドライバを提供しているベンダと協力して、問題を解消するためだという。 この影響で、3月中旬にWindows UpdateにSP1が登録された際も、問題を生じる可能性のあるドライバがインストールされたシステムに対しては、Windows UpdateによるSP1の提供は行なわれない(SP1は表示されない)。ただ、何が何でもSP1をインストールしたいユーザー向けに、この場合でもDownload Center経由でSP1を入手することは可能になる見込みだ。4月に自動更新が開始されても、システムに問題のあるドライバが残っている場合は、自動更新は行なわれないとしている。このようにSP1の適用可否を、ある程度コントロールする必要があることから、当初はメディアによる広範な配布は行なわれないのではないかと思う。 今回の発表には、問題を起こすドライバに関する具体的な記述(どのベンダのドライバか、どんなデバイスのドライバか、等)はない。自分のシステムに問題のドライバがインストールされているかどうかは、Windows Updateが始まった後、自分のマシンではSP1が表示されないことで知る、ということになりそうだ(それも気持ち悪い気がするが)。 また、単純な再インストールで済む問題なら、SP1のパッケージに該当のドライバを入れておけば済む話だ。そういかないのは、おそらくSP1を入れる前に1度ドライバをアンインストールする必要があり、それがWindowsの標準的な作法にしたがっていないためうまくいかない、といったことなのだろう。SP1を導入する前に、問題のドライバのインストールパッケージを、そのドライバを配布したベンダが作法にしたがったものに更新しておく、といった解決策を想定しているものと思われる。 このSP1で期待されるのは、やはり性能向上の面である。発表によると、SP1ではLAN環境でのファイルのコピーや移動が最大50%高速化される場合がある(社内テストの結果による)という。また、多くのハードウェアで、スリープからの復帰が高速化するとしている。筆者の環境でも、ネットワーク経由のファイルコピーの遅さ、コピーの進捗状況を示すインジケーターの当てにならなさ(残り時間を計算しています、が突然100%になるなど)は、使っていてイライラさせられるところであり、SP1のリリースが待たれる。 ●Microsoftでもエコシステムすべてを支配できないこの発表で興味深いのは、昨年(Windows Vistaを発表した1年)に学んだ重要なことは、OSに変更を加えた場合、エコシステムがそれに対応するのには長い時間を要する、ということなのだと述べていることだ。実際、1年たった今も、ドライバの問題でSP1の配布をコントロールせざるを得ない状況にある。これはソフトウェア(OS)とハードウェアを異なるベンダが提供するPCのエコシステムでは、おそらく解決できない問題だろう。 だが、これをMicrosoftやシステムベンダによる統制の元、コントロールできるようにしようというのは、解決策としておそらく間違っている。Appleは1社でハードウェアとソフトウェアをコントロールしようとしているが、そのやり方をMicrosoftが真似てもしょうがないし、現実的にムリがある。今から10年以上前、日本のパーソナルコンピュータといえばPC-9801だった時代、ハードウェアとソフトウェアは今よりコントロールされた状態にあった。が、それはより混沌として無秩序なPC/AT互換機に、価格と性能の伸びしろの面で遅れをとり、消えることになったという過去もある。 Microsoftは、ひょっとすると自身でさえ把握できないほどの数のOEMに対して、ソフトウェアを提供し続ける責任がある。今さらその責任から逃れることはできない。が、同時にこれは、MicrosoftはWindowsがインストールされているからといって、すべてのシステムに対して完全な責任を取ることはできない、ということでもある。自社のOSであろうと、自社製ではないドライバ、自社の推奨にしたがわないドライバが組み込まれたシステムには責任が取れない。ユーザーもこのことには理解を示すべきだ。 かつて新しいOSは、新しいキラーアプリケーションをもたらした。そうであったが故に、新しいOSへの移行は急速に進んだ。しかし現在では新しいOSに、そこまでの効果や恩恵は望むべくもない。古いOSを使い続けることにはリスクが伴うから、新しいOSへの移行は推奨されるところだが、多くのユーザーが古いOSへ留まることを選択すれば、そこには新しいビジネス、Microsoftがサポートを打ち切った古いOSに対するセキュリティの提供、が生まれるだろう。 ●2つのWindowsをサイクルさせるMicrosoftが新しいOSへの移行を強制できないとすれば、Microsoftが行なうべきことは、選択肢の提供ではないだろうか。Windows XPの提供を6月で停止するなどと言わず、常に1つ古いバージョンも含めてすべてのユーザーに提供する。今ならWindows XPとWindows Vistaを提供し、次期Windows(Windows 7)の提供に合わせてWindows XPを引退させて、Windows VistaとWindows 7の提供に切り替える。そして将来的には販売中の2バージョンについては、仮想環境上で共存可能にする。 過去のOSをサポートし続けるのはコストの点から難しいかもしれないが、2バージョン程度なら不可能ではないハズだ(実際、企業向けには長期のサポートを提供している)。2バージョン提供することで、新しいOSへの切り替えが遅れ、新しいOSに関する開発コストの回収が遅れることにもなるだろうが、その負担に耐えられない会社だとは思えない。それに、ユーザーが自ら乗り換えたくなるOSを開発すれば、新しいOSへの切り替え速度を上げることは可能なのだ。逆に古いバージョンとの競争が生じることで、よりよいWindowsを作ろうとする意欲も高まるのではないか。筆者はそう期待する。 □関連記事 (2008年2月6日) [Reported by 元麻布春男]
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