第8回 負けてるときは
さんま やっぱりぼくらはね、
期待されたかと思えば、そっぽを向かれる。
そういう人のイヤなところが
もうのすごくよく見える商売なんですよ。
だから、その、ダメになったときの、
人の手のひらの返し方とかを
目の当たりにするんですよ。
糸井 あぁー。
やっぱり長く続けていくと、
そういう経験は多くなるんですか。
さんま 多くなる。どんどん返されます、ええ。
で、いいのが続くわけないですから。
ダメなときもあるんです。
糸井 ギャンブルの負けと同じですよね。
さんま まったくそうです。
糸井 そうですよねぇ。
さんま それで、ぼくは若手に
「ギャンブルしろ!」って言ってるんですよ。
糸井 ああ。
さんま もう本当にギャンブルの「流れ」はね、
お笑い芸人の人生にはかなり役に立つ。
もう、それはね、いってみれば、
「ダメなときにどう止めるか」
これだけなんですよ。
糸井 あー、なるほど。
さんま 負け分をどうおさえるか。
そこはもう、テクニックもあるし、
計算もあるんですけども。
ぼくがいちばん、
胸に刻んでいる名言があって、
まぁ、なんでもないといえば
なんでもないことばなんですけどね。
糸井 はい。
さんま ジョージ・フォアマンと
モハメッド・アリが試合したときに
アリが言ったんですけど、
「わざとボディを打たせるんだ」と。
どういうことかというと、
「わざと打たせたボディは効かないんだ」
というんですね。
糸井 あぁー、いいですね。
さんま これはかなり、役に立つんです。
とくに、お笑い芸人とかタレントには
たぶん、必要なことばだと。
糸井 うん、うん。
さんま やっぱり、「あかん」というときは
なにをやってもダメなんです。
そういうときには、打たせなきゃいけない。
わざと打たせたら、耐えられるんですよ。
糸井 はぁ、はぁ、はぁ。
さんま ところが、「オレは大丈夫だ」と思って、
行って打たれると、効くんですね。
さすがモハメッド・アリっていう。
糸井 すごいですねぇ。
さんま そういう名言があるんですけどね。
これは、ぼくの、
世間には言ってない座右の銘ですよね。
糸井 はぁー。
さんま 簡単に教えたらあかんと思ってるから。
糸井 なるほどねぇ‥‥。
博打を専門にやってた、
阿佐田哲也さんとかも、
そういうことをおっしゃってるんです。
さんま あ、そうですか。
糸井 もちろん意味は違うんですけども、
たとえば、人と博打をやるときに、
「勝たせないと
 お客さんになってくれない」とかね。
さんま ああ、はい、はい。
おんなじですよね。
糸井 素人の人ほど、
相手を完膚なきまでに叩きのめしちゃうけど、
もう一回来てくれないと仕事にならないわけで。
つまり、アリのことばも同じで、
勝ち負けの流れに乗ったりつくったりして、
いかに続けていくかっていうことなんですよね。
さんま そうですね。
もう、流れが決まってるときは、
どうしようもないですから。
とくに、負けてるときはね、
もう、どうおさえるか、なんです。
糸井 うん、うん。
さんま だから、そこですよね、
勝負強い人と、
ただのギャンブル好きが大きく違うのは。
ダメな人は、負けてるときにも
同じ金額をかけていくわけです。
あかんときには、
ここを下げたらいいだけなんですよね。
それだけのことなんですよ。
ところが、ダメなときにカーっとくる人は、
負けるとどんどん増やしていくんですよ。
取り返そうとして。
裏行ってるときは、ぜんぶ裏ついてしまうのに。
糸井 一気に取り返さないと不安だからですよね。
さんま そうなんです。
それがね、ギャンブルやって、
ダメになっていく人のほとんどだと思いますよ。
麻雀でも競馬でもなんでもそうですけど、
流れっていうのは、もう見事に、
どうあがいても、どんだけテクニックあっても、
どんな学者がやっても、無理なんですよ。
そういうことをずっと考えてたりするとね‥‥。
糸井 寝られない。
さんま 寝れないですよね(笑)。
糸井 いや、さんまさんって、
ほんとうにそういうことを
いつも本気で考えてますもんね。
さんま いや、これは大事なんです(笑)。
とくにお笑い芸人には大事なことなんです。
糸井 だから、なんていうか、
それはぼくもそうなんだけど、
みんなが質問したがるようなことって
じつはぜんぜん考えてなくて、
そういうことばっかり考えてるんですよね。
さんま そうです。そうなんですよ。
  (続きます)

2008-01-29-TUE

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN