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  ▼ 記者の視点
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岐路に立つ後発品企業
難しい需要予測の中で求められる安定供給対策
2008.2.1

 国内大手の後発医薬品企業が、需要増を見込んで製造工場の新設など設備投資を相次いで行っている。4月に迫った処方せん様式の変更など、政府を挙げた後発品の使用促進策の強まりが背景にある。

 専業メーカーで売上高トップの沢井製薬は、2009年に現在の2倍以上となる年48億錠の生産設備を整える方針だ。日医工も業務提携を強化して増産体制を整備する。

 だが一方で各社は、4月からの後発品使用促進策がどの程度の波及効果を呼ぶか、その実効性には不安を抱いているようだ。

◎ 処方せん様式の再変更にかける期待

 「使用促進策は、後発品企業にとって確かに追い風。しかし、来年度以降、後発品市場が数量ベースでどれだけ伸びるか全く予測できない」―。

 後発品の専業、兼業メーカーの関係者はこう口をそろえる。後発品の使用促進へ、前回の06年度診療報酬改定では処方せん様式を変更。使用促進へ期待が高まったが、医薬工業協議会のまとめによると、06年度のシェアは16.9%と前年度からむしろ0.2ポイント減少した。

 医薬協は、後発品の伸びが医薬品市場全体の伸びに相殺された結果と分析するが、複数の後発品企業関係者は、「06年度の処方せん様式変更では、思った以上に市場が伸びなかった」と話す。

 厚生労働省が昨年7月に保険薬局を対象に行った調査結果でも、処方せん全体に占める後発品処方率は1.4%と期待した効果は表れていない。

 厚労省は昨年10月に、12年度までに後発品の数量シェアを30%以上にするための施策として、「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」(AP)を発表した。中医協も処方せん様式を再度見直して、変更不可の場合にチェックする仕組みにすることや、後発品の調剤割合が30%以上の薬局を重点評価するなどの方針を決めた。

 厚労省医政局の武田俊彦経済課長は、「APを策定したことで、官民を挙げて後発品使用促進に総合的かつ効果的に取り組めるようになる」と語る。

 これに対し医薬協の澤井弘行会長は、後発品全体の信頼性を底上げするためにも、「全会員が一丸となってAPに取り組まなければならない」と、大手だけではない全メーカーの取り組みを訴える。

◎ 過度な設備投資は経営を圧迫する

 一般に企業が医薬品の製造工場を新設するには、おおむね50億円程度の費用が必要とされる。企業が経済活動を継続するためには、月に月商の2倍以上の運転資金が必要であることを考慮すると、建設費用のすべてを自己資金でまかなうことは、大企業でも難しい。そのため金融機関からの借入金を利用する場合がほとんどだ。

 企業が工場を建設する際に利用する借り入れは、「長期借入金」と呼ばれる。長期借入金は、企業が1年間の経済活動で計上した「当期純利益」の範囲内で返済を行い、通常15年間、長くても25年間で完済することが金融機関から求められる。

 ある金融機関の融資課長によると、建設費用の半分を年利率約1.5%の長期借入金で調達した場合、年間の返済金額は借入期間15年で2億円弱、最長に近い25年でも1億円以上に上るという。民間信用調査機関のデータによると、国内の後発品専業メーカーの当期純利益は大手でこそ30億〜40億円前後計上しているものの、中小に至ると数億円から数千万円規模にまで大きく低下する。過度の設備投資に踏み出せば、利益はおろか、通常の運転資金にまで手をつけることになりかねない。そのため、今後の市場予測は必要不可欠だ。

◎ 調剤薬局の報酬がカギ

 ここ数年の後発品市場は、軟調に推移している。今後も「使用促進策の効果で、市場が急角度で伸びることは難しいだろう」と冷ややかに見通す業界関係者もいる。だが、一方で3月中旬までに調剤報酬点数が具体的に決まる薬局への誘因策が、今後の市場動向を大きく左右するとの見方も少なくない。

 日医工の田村友一社長は、「3〜5月の市場動向によっては、通期業績予想を修正する必要がある」と誘因策の実効性に期待を込める。

 生産設備は建設開始から操業まで2年程度かかる。使用促進策は5年計画のため、中小でもこれから建設を開始すれば需要増に対応することは可能だ。しかし、市場が軟調に推移した場合、中小後発品企業にとって設備投資の負債は死活問題になる。使用促進策は、後発品企業にとって「もろ刃の剣」になりかねない。(渡邊 陽司)



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