佐藤 義典

橋下・大阪府知事のメッセージのエネルギー~佐藤義典コラム35

佐藤 義典(2008-01-30 05:00)
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 このコラムでは、タイトル通り、身近なニュースを使ってマーケティングを考えていく。既によく知られたニュースについて(それについて擁護も非難もする気はない)、マーケティング的な解説・切り口を説明することを目的としている。


大阪府知事に橋下徹氏が当選

 2008年1月27日に投票・開票された大阪府知事選で、タレントの橋下徹氏が当選した。得票率54%、2位候補に2倍近い差をつけて圧勝した。橋下氏の当選の是非は今後の大阪府民の審判に任せ、ここでは橋下氏のマーケティング戦略、特にコミュニケーション戦略について考えてみよう。


橋本氏のコミュニケーション戦略

政策より「自分」を売る

 今回、橋下氏は「細かい政策を訴えるべき」との自公の要望を拒否し、エピソードなどを使って「自分」を売り込んだという。今回の選挙戦の特徴を見ると、後付けではあるがこの戦略は正しかった。今回の選挙戦の特徴を考えてみよう。まず、全員が新人で現職はいない。それから、立候補者の肩書きを確認してみると、

橋下徹氏(38歳) 弁護士
熊谷貞俊氏(62歳) 大阪大大学院教授
梅田章二氏(57歳) 弁護士
高橋正明氏(65歳) 元教諭
杉浦清一氏(59歳) 保護司

となっており、政治経験者はゼロ。

 となると、政治経験や政策については、勝負のポイントにはなりにくい。結局は全員未経験者、と見られてしまうだろう。そうであれば、「細かい政策」を訴えるのは得策ではない。何より、それでは橋下氏の最大の強みである知名度と、あの個性的なキャラクターが活きない。その意味で「自分を売る」という戦略は功を奏した。

「子供」を強調した政策

 とはいえもちろん政策も訴える必要があるのだが、橋下氏の基本政策で最初に出てくるのが「子供が笑う、大人も笑う大阪に」だ。氏の掲げる「17の基本事業」のうち、「子どものいる若い夫婦への家賃補助制度の創設」など、過半(私が数えたところ9つ)が子供や子供を持つ家族に関するものだ。

 氏は7人の子供を持つ子だくさんで有名で、かつ38歳という年齢は、子供をもつ、あるいは持ちたい若い世代を惹きつけたのだろう

メッセージのエネルギー:「エネルギーと爆発力で大阪を変える」

 そして、秀逸なのが「エネルギーと爆発力で大阪を変える」と連呼・絶叫した、彼のキャッチコピーだ。

 このメッセージには、まさに「エネルギー」がある。論理的かと言えば、論理的ではない。エネルギーと爆発力という言葉が意味することは基本的には同じだから、似たような言葉を2つ並べているだけだ。しかし、そこにわかりやすさがある。似ているが、そう感じさせない言葉を並べた、エネルギー感のあるメッセージだ。

 今回の現職知事はいわゆる「政治とカネ」の問題で退陣となった。大阪府民が「変化」を求めているのならば(そして選挙結果はまさにそうなった)、その「顧客ニーズ」を見事にとらえた言葉だ。

 それは「若さ」という橋下氏のもう一つの特徴と見事に一貫する。橋下氏以外の4候補の平均年齢は60歳を超えるのに対し、橋下氏は38歳と圧倒的に若い。若いことは強みにも弱みにもなるが、若い候補者が1人しかいない以上、それを強みとして生かし切れれば、強力な差別化ポイントになる。

 「良くなるか悪くなるかわからんけど、あの人なら変えてくれそう。そんな期待感が強かった」と橋下氏に同行した自民党府議団幹部は話したそうだ。これは、この「若さ」という強みを使った「エネルギーと爆発力」というメッセージがうまく伝わったのだと言える。その結果、府民の興味をひきつけ、48.95%という過去最低だった前回を8.46ポイント上回る投票率となったのだろう。

 こうしてみると、橋下氏のコミュニケーション戦略は、

・自らの強みである「子育て」「若さ」を活かす
・知名度を活かして、政策より「自分」を売る
・その強みを、顧客の求める形で、わかりやすく提示する

となる。つまり、「強みを活かし、顧客ニーズをとらえてわかりやすく伝える」というマーケティングコミュニケーションの基本を忠実に守っているのだ。

 売れるメッセージの作り方は、マーケティングにおいてその理論がかなり体系化されている。そのような理論はマーケティングに限らず使えるものだが、今回もそれが証明された形となった。

 今後どうなるかは、無論、橋下氏の政治手腕次第だ。「メッセージ倒れ」にならないよう、その活躍を期待したい。


■参考資料
毎日新聞 http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20080128ddm003010145000c.html
橋下徹氏ホームページ http://www.hashimoto-toru.com/osaka/index.html


【さとう・よしのり】早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTで営業・マーケティングを経験後、MBAを取得。外資系メーカーのブランド責任者、外資系マーケティングエージェンシー日本法人の営業チームヘッド、コンサルティングチームのヘッドなどを歴任後、2006年、マーケティング戦略を中核とするコンサルティング会社、ストラテジー&タクティクス株式会社を設立、代表取締役に就任。コンサルティングとわかりやすい実戦的な研修に定評がある。著書は「マーケティング戦略実行チェック」(2007年日本能率協会マネジメントセンター)、「ドリルを売るには穴を売れ」(2006年青春出版社)、「図解実戦マーケティング戦略」(2005年日本能率協会マネジメントセンター)など。読者数1万6000人の人気無料マーケティングメルマガ、売れたま!の発行者としても知られる。


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東国原宮崎県知事のイラスト乱用問題、どうするのが良いと思う?
大谷 憲史
これまで通り、誰でも自由に使える方が良い
悪質な業者に注意し、今後の使用を禁止する
今後の新規使用は全面禁止にする
管理会社を立ち上げて、きちっと管理する
県外の話なのでどうでも良い