橋下徹がODAと庇った「大阪の建設会社」の正体(下)-続・史上最大の買春作戦(2)-

売春宿に警察の強制捜査が入る - 中国

【西安/中国 6日 AFP】中国北部の陝西省(Shaanxi)西安(Xian)で5日、売春宿が強制捜査を受けた。中国では1949年の共産革命以降、売春はほとんど根絶されたが、25年間の資本主義経済改革によって再び見られるようになった。写真はソファーの上で身を寄せ合う若い売春婦たち。(c)AFP

AFPBB News


 2003年9月に「幸輝」が中国広東省珠海市でギネスものの集団買春事件をひきおこしたことは、本ブログ「史上最大の買春作戦」()「かたや死刑、かたや無罪」で詳しく述べた。2003年12月には中国の珠海中級法院(地裁に相当)では売春を組織した珠海国際会議中心大ホテルの幹部や、「売春婦」(中国語では「漂妓」または「妓女」、米盛社長は「コンパニオン」と称した)をかき集めたナイトクラブ(夜総会)のママさんらが裁判にかけられた。中国刑法の組織売淫罪、組織売淫幇助罪が適用され、無期・財産没収をも含む重い量刑が言い渡された。被告14名のうち、判決を受け入れたのは懲役2年と罰金刑で済んだひとりだけ。他の13人は日本人不在の不公平裁判を訴えてただちに控訴した。法廷には女たちの嗚咽がこだましたという。

◆「幸輝」を庇った人々、追及した人々

 中国の珠海警察は、裁判に先だつ11月26日に「幸輝」社員のT常務と、総務職員のF通訳のHの3人を中国刑法の組織買淫罪で国際刑事警察機構(ICPO)に国際手配した。もっとも、中国側から主犯と名指しされた3人だが、実際には彼らが独自に買春を組織したとは考えにくい。上司である米盛社長の指示なくして、会社の費用で下見旅行までして、売春婦を大量手配することなど、到底考えられないからだ。

 集団買春事件が報道され日中間の外交問題になり、川口頼子外相(当時、現自民党参議院議員)は、閣議後の記者会見で、

「事実なら、法律に違反することはやってはいけないし、根本的な問題として外国に行って女性の尊厳を傷つけることは残念で、やってはならないことだ」(2003年9月30日)

と述べている。

 まったく逆の反応を示したのが橋下徹弁護士。
「(集団買春は)中国へのODAのようなもの」(東京放送『サンデー・ジャポン』2003年10月5日放送)

橋下弁護士は「幸輝」社員らの行為を正当化して開き直った。これにはさすがに共演していた北村晴雄弁護士もあきれ、「こいつ、頭がおかしいんんじゃないかと思った」という。

 日本政府は、福田官房長官(現首相)が中国側の捜査協力要請に協力する姿勢を示した。同年10月17日に外務省は「幸輝」の一取締役から事情聴取を行い、この報告をもとに逢沢一郎副大臣が外務省で記者会見した。

当該企業から、「集団買春はしていない。会社ぐるみではなかった。一部社員にそのような行動があったかもしれないが、ホテルにチェックインしてからの行動は社員の自由」との報告があったとして、これをもって調査を打ち切り、中国側に内容を伝える(2003年10月18日、副大臣会見要旨)

結局、外務省は「幸輝」の一取締役だけから聞いた内容の言い分を鵜呑みにして、他の「幸輝」社員からはまったく事情聴取しなかった。それどころか、東京・大阪から4人の添乗員をつけていたJTBからも、まったく事情聴取しなかったことは、龍眼が外務省に手配業者に対する聴取内容の開示を求めたところ、「当該文書なし」と回答してきたことからも明らかだ。

 その後、中国側が「幸輝」社員3人をICPOに国際手配したことの対応を問われた福田官房長官(現首相)は、
「一般的な協力要請だから、捜査当局においてわが国の国内法に則って対応する。ICPOの手配だけで身柄拘束とか、そういうことはできない」(2003年12月18日)

とのべ、特段の対応をしない考えを明らかにした。もっとも、福田長官には、早稲田大学のイベントサークル。スーパーフリー女子大生集団暴行事件に際して、
「男は黒豹だからね、ムフフ…」(記者懇談会での発言)
と擁護した前歴もある。

 いっぽう、検事出身の江田五月民主党参議院議員会長(現参議院議長)は、対照的な対応を示した。
「警察庁の担当者から、中国珠海市で起きた日本人観光客による集団買春事件の捜査共助状況について、ヒアリング。中国のICPO手配は管理売春によるものですが、日本の売春防止法には、国外犯処罰規定がなく、日中間には犯罪人相互引渡条約がないため、現状では日本の捜査当局としてはなす術なしということのようです。児童買春等処罰法には国外犯規定がありますが、中国側から該当する情報が得られていません。ICPO手配につき、国内法の整備が必要です」(2004年3月26日、江田五月議員HP『活動日誌』)


江田議員は龍眼の取材に、
「犯人を中国側に引き渡すのが筋だが、中国では量刑がたいへん重く、(容疑者が)お気の毒なのも事実。わが国で国外犯を処罰できるような法整備が必要です」
と話している。

 リフォーム詐欺事件発覚後、さらに舌鋒鋭く政府の対応を批判したのが共産党の吉井英勝衆議院議員だ。
 「『幸輝』の役員の代表取締役の米盛昌敏ら幹部は中国で買春事件を引き起こして……役員らはICPOを通じて国際手配されているんですが、日本政府のほうが……きちっとまだそこは対応しきれていないために、その後も日本国内で次々と訪問リフォーム犯罪を犯しているわけですね。この米盛という社長らは、社員には成績優秀だとご褒美として中国への買春旅行に連れて行っていたが、自分たちが中国へ行けなくなって、こんどは福岡市内の売春街へ旅行に行かせているということもいわれておりますが、もともとこの『幸輝』の幹部らが中国で刑に服しておれば、この認知症の姉妹ら多数の被害というのは生れてこないということにもなるわけですね。……悪徳会社名の公表とか取り締まり、罰則強化というものについては、本当に徹底してやっていただきたい」((2005年6月8日、衆議院経済産業委員会議事録、一部省略)


吉井議員の指摘する「幸輝」の福岡旅行の記事は『FRIDAY』の2004年1月9~16日号にある。それによると、当初は札幌ススキノ方面を予定してきたという。

 じつは逢沢副大臣の幕引き会見の時にも、食いさがった記者がいた。
 「(社員)個々人の行動といえども、これだけ大きな話になっているわけですから、もしまったくこういう事実がないということであれば、実態だけでもはっきりさせるべきだし、日本政府もはっきり中国に言っていくべき問題だと思いますが、個々人の問題だから把握していないと言うけれども、これは聞けばわかる話であるし、いろいろな人がそこにいるわけだから調査すればその実態というのはわかると思うのですが、そういう意味ではこれは調査したと言えるだけのものなのか? ……もうちょっと深くやっていかなければいけないという気がするのですが、どのようにお考えですか?」(2003年10月17日、外務省会見記録)


同様に納得できなかった龍眼は、その後、3回にわたって外務省に「幸輝」取締役への『事情聴取報告書』の情報開示請求をおこなった。最初は当該企業の個人情報であることを理由に門前払いだったが、2度目は部分開示に成功した。もっとも、開示された文書は「墨塗り教科書」状態。記者会見の記録よりもひどかった。これでは使い物にならない。

それでもめげずに、「幸輝」最高幹部らが逮捕・起訴された後の2007年3月8日に3度目の情報開示請求を行った。結果は相変わらずの「墨塗り」状態だったが、記者会見で頑なに秘匿していた「幸輝」の取締役の名前が、じつは米盛社長自身だったことが明らかにされた。

 つまり外務省は、「幸輝」の米盛社長の一方的な釈明をそのまま信用し、早々に事件の幕引きを図ったことになる。はたしてこれで、「事情聴取」なのか? 「子供の使い」にもならないのではないか?

◆橋下弁護士と「幸輝」をつなぐ線

 今年1月18日発売の『FRIDAY』2月1日号は、大阪府知事選挙に立候補した橋下徹弁護士の年金未納の事実とともに、闇社会と親密な交際を続けていた事実をスクープした。

 パチンコ関連企業『梁山泊』グループの株価操作事件で、逮捕された榮義則氏(報道ではS氏)との親密な交際である。橋下氏は榮氏と共に「闇社会の帝王」で知られる許永中氏の愛人がママだという大阪北新地の高級クラブに遊んでいた。橋下弁護士は榮氏との関係について「知人を通して紹介を受けました」と事務所を通じて交遊を認めたという。

 この報道で、橋下弁護士と「幸輝」をつなぐ線がおぼろげに見えてくる。

 「幸輝」には、前回ふれた幸輝エージェンシーやウールバックスなどの舎弟企業の他に、訪販仲間20社でつくる「信念グループ」とよばれる20社のグループ企業があった。「信念グループ」こそ、広義の「幸輝」である。

彼らは社員を「幸輝」本社で研修させ、訪販詐欺の手法を共有。グループ企業で訪販詐欺の売上高を競い合う、「販売大会」と呼ばれるイベントを共同し、相互に訪販詐欺の能力を高め合ってきた。その成績優秀者に与えられる賞品が、金一封と買春旅行。中国広東省珠海市への集団買春旅行は、その最大規模のものであった。

 「幸輝」社員が毎日のように埼玉県富士見市の老姉妹宅に足しげく通いつめた2003年10月は、おりしも「第4回販売大会」の真っ最中だった(証拠は『FRIDAY』2003年10月31日号、17ページのポスター写真参照) 中国珠海への集団買春旅行の直後で、営業社員たちは会社から用立ててもらった買春費用の返済に追われていた。工事部支部長だった橘大志被告の法廷証言によると、「販売大会」ともなると、濱田宏一郎営業本部長(裁判中)から、「社員が無理するかもしれんから、よろしくたのむ」とハッパをかけられたという。実際、「販売大会」の時期ともなると、クレーム件数も跳ね上がるのだ。

 「信念グループ」には、別に「日本流通指導協会」という組織もあった(拙稿『週刊金曜日』2007年6月1日号、および11月30日号参照)。

米盛社長の肝入りでつくられたそれは、「信念グループ」20社共同のクレーム処理機関として、東京・大阪に事務所を置き、そごう百貨店のお客様係OBなど、苦情処理に長けたプロをスカウト。「幸輝」が営業を展開している地区の消費生活センターを巡回させ、「幸輝」やグループ企業への苦情をいち早くキャッチ。顧客からクレームがあった場合には、弁護士の指導のもと、減額やキャンセルで対応していた。訪販リフォーム詐欺が社会問題になり、同業各社が次々と摘発されるなか、ひとり「幸輝」だけがなかなか捕まらなかったのは、特定商法改正の動きや、警察や行政の手の内を研究しつくした、このような頭脳的で、巧妙なからくりにあった。

 「幸輝」の一連の逮捕劇の後、「信念グループ」の縮小再編の目として注目されるのが、大田竜馬氏が率いる「日豊グループ」だ。日豊工業、日経住宅設備などを傘下に持つ大田氏は、「幸輝」摘発後の「信念グループ」各社の解散にあたり、清算人として頻繁に登場していた。その日豊工業の司法代理人が「日本流通指導協会」を指導してきた花井哲也弁護士であり、顧問弁護士は「闇社会の守護人」こと、田中森一弁護士であった(同社ホームページ)。

 その田中弁護士と、許氏はイトマン事件でつながる。現在は石橋産業事件で起訴され上告中の身。その許永中の愛人がママだという北新地の高級クラブこそ、橋下弁護士と榮義則氏の遊興の舞台だった。

 今となっては、橋下弁護士が公の電波を使って主張した、「幸輝」の集団買春をODAと決めつけた発言が、たんなる思いつきだったのか、それもと、なんらかの背後関係があったのか、あらためて気になる。

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登録日:2008年 01月 25日 11:50:05

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プロフィール
龍眼
(男)
本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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