橋下徹がODAと庇った「大阪の建設会社」の正体(上)-続・史上最大の買春作戦(1)-
【西安/中国 6日 AFP】中国北部の陝西省(Shaanxi)西安(Xian)で5日、売春宿が強制捜査を受けた。中国では1949年の共産革命以降、売春はほとんど根絶されたが、25年間の資本主義経済改革によって再び見られるようになった。写真はソファーの上で身を寄せ合う若い売春婦たち。(c)AFP
大阪府知事選に出馬した橋下徹弁護士が「集団買春は中国へのODAのようなもの」(2003年10月5日放送分)と発言して、TBS番組『サンデー・ジャポン』を降板させられたことは、広く知られている。
その集団買春をした「大阪の建設会社」が、訪販リフォーム詐欺大手「幸輝」であったことは本ブログ「史上最大の買春作戦(上・中・下)」と「かたや死刑、かたや無罪」でくわしく述べてきた。2005年11月7日、京都府警と埼玉県警は「幸輝」大阪本社(吹田市広芝町)と東京支店(大田区糀谷)を一斉搜索。これまでに逮捕者17人。うち13人と、法人「幸輝」が起訴され、現在までに9人が有罪。最高幹部4人と、法人「幸輝」を起訴した裁判が大詰めを迎えている。その「幸輝」の米盛昌敏社長には、闇社会との結びつきも指摘されていた。
◆埼玉の認知症老姉妹事件に関与
2005年5月、埼玉県富士見市の富士見市の78歳と80歳(年齢は当時)の認知症老姉妹に対して訪販リフォーム業者19社が群がり、5000万円近い全資産を奪い、家を競売にかける事件が発覚した。これを機に、訪販リフォーム詐欺問題は一躍社会問題として脚光を浴び、「アクアジャパンズ」や「サムニン」など、大小さまざまな訪販業者が摘発された。
そのきっかけとなった認知症老姉妹事件で、被害金額が高いほうから4番目、信販会社O社に与信させたローン金額で641万円あまりの被害を与えたのが株式会社幸輝(以下「幸輝」)である。老姉妹の家にひっきりなしに見知らぬ人が現れ、家を競売する貼り紙を不審に思った近所の人が、老姉妹の妹を伴って同市の消費生活センターに相談して事件が発覚した。最初に被害者の口から出た業者の名前は「幸輝」。「幸輝」が信販会社に与信させた月額15万円のローン契約が焦げつき、家が競売にかけられていた。ちなみに、老姉妹二人の年金月額はおよそ15万円。毎月の収入がまるごと消えてしまう。
「幸輝」が信販会社に与信させたローン申込書のお仕事欄には、「年金」の二文字が書かれていた。
6月28日には、京都市に住む軽い統合障害を持つ60代男性が、不要な浴室工事を強要されたとして、「幸輝」を相手取り契約の無効と原状回復を求める民事訴訟を京都地裁に提訴した。この提訴を機に、「幸輝」は、訪販リフォームからの撤退を決定。埼玉、千葉、堺、名古屋支店を閉鎖し、大阪本社と東京支店に全社員を集め、合宿のようなことを始めた。リストラの嵐が吹き荒れ、全盛期に560人いた社員の大部分は解雇された。
同年11月7日、京都府警と埼玉県警の一斉搜索が、大阪府吹田市の「幸輝」本店と、大田区の同社東京支店に入った。龍眼はこのとき東京支店の「ガサ出し」に立ち会ったが、県警が期待していた「ジェット・プレート」などの金具類はほとんど押収されず、疲労の色濃い捜査員の表情だけが、強く焼きついている。
実際、その後の「幸輝」は複雑な動きを見せた。リフォーム事業から撤退し、大部分の支店を閉鎖したはずなのに、11月24日に川崎市川崎区砂子のシャンポール互恵ビル内に大量の荷物を運び込んで新たに川崎支店を開設した。あまりの荷物の多さに管理人がいぶかると、「建設関係で、各地に支店があったのを、一カ所にした」と説明したという。ところが、「幸輝」はこの川崎支店も数カ月で閉鎖。大量の荷物は裏口の路地からこっそり運び出したという。
11月7日の一斉搜索のおり、埼玉県警は上尾市の71歳男性(当時)にリフォーム詐欺をはたらいたとして、元社員2人を逮捕していた。しかし、勾留期限の11月27日に処分保留で2人を釈放。2006年3月17日、県警は証拠不充分を理由に、2人の不起訴処分を決めた。被害者が高齢で、被害を立証するには充分な証拠が得られなかったと、県警はくやしがったという。
埼玉県警の捜査が頓挫するなか、京都府警は「幸輝」大阪本社のサーバー・コンピューターから得た『顧客名簿』をもとに、慎重に捜査を進めていた。2006年4月12日、大阪市内の「幸輝」本社に搜索がはいり、大阪支店長ら元社員4人を逮捕。5月1日にも元社員3人を逮捕し、6月14日には、南亘元取締役施工管理部長、森本稔営業部次長を含む3人を逮捕。追及はついに経営幹部に及んだ。
同年11月17日には、谷尻浩元取締役前社長、濱田宏一郎元取締役営業本部長ら取締役4人を逮捕。「事件への関与度が薄い」として2人を処分保留釈放としたが、南・森本・谷尻・濱田の4人を起訴。12月28日には4人を再起訴すると共に、法人「幸輝」も起訴した。
昨年1月22日に始まった「幸輝」最高幹部に対する裁判は、順調に審理が進み、双方の証人訊問、被告人訊問を終え、現在は証拠の整理段階に入っている。まもなく論告求刑が行われ、判決が言い渡される見込みだ。
立件されたのは4件の高齢者家庭に対する小屋根(屋根裏)工事をめぐる特定商取引法違反と詐欺容疑。「幸輝」の手口は、本ブログ「史上最大の買春作戦」で説明したものと基本的に同じ。悪徳訪販リフォーム業者は年金暮らしの老人家庭を訪問し、屋根、小屋根、床下など、家人の目が行き届かない部分に「欠陥」を指摘し、暗に地震の不安を煽るなどして、高価なリフォーム契約を成約させる。なかでも「幸輝」は、小屋根に金具を打ちつける「屋根裏補強工事」(?)を得意としており、原価数千円にすぎない金具でも、「幸輝」の手にかかれば、数十万円にも数百万円にもなる。
法廷で明らかになったところによると、「幸輝」は小屋根だけでも6300世帯30億円以上の被害を与えてきた。これに、下請けに回していた浴室やキッチン工事などの再販部門合わせると、被害額はさらに倍増する。「幸輝」の米盛社長は、日頃から「売上目標100億円」を豪語していたというから、放置しておけば、被害はさらに膨らむところだった。
◆「幸輝」の闇の部分
「幸輝」は長崎駅前にあった株式会社ジェネラスに起源する。
1997年に大阪進出を果たし、社名を「幸輝」とした。当初は電話機や浄水器(活水器)の訪問販売をしていたが、2001年に谷尻浩取締役が分社「ビーブル」で屋根、屋根裏リフォーム工事を扱うようになった。これがうまくいったため、「幸輝」は2002年に「ビーブル」を合併。社をあげて訪販リフォームに進出した。これと前後して、大阪では具嶋久徳取締役が広告代理店「幸輝エージェンシー」を分社。また、青木浩二取締役も埼玉・東京で医療教材通販などを扱う「クレッシェンド幸輝」を展開。のちには、政財界トップや、有名スポーツ選手、芸能人などに高級舶来紳士服を訪販する「ウールバックス」を立ち上げるなど、狭義の「幸輝」グループが形成された。
2003年以後、「幸輝」はひたすら拡大路線を突っ走る。『毎日就職ナビ』、『中日ジョブマーケット』などに求人広告を出し、毎年100名前後の新卒大量採用を始めたほか、新聞折り込みの『ユメックス』に毎週のように求人広告を出し、営業社員の中途採用をすすめた。大阪、東京につづいて、堺、埼玉、千葉、名古屋に支店を設けるなど、営業エリアも拡大。比例して消費生活センターへの苦情も増え、市川市内にあった千葉支店は、千葉県内では営業できず、茨城県まで足を伸ばして営業していたという。
「幸輝」の米盛昌敏社長は、社内では「オーナー」と呼ばれ、ほとんど出社していなかったという。法廷での米盛社長は、大柄でがっちりした体躯に、浅黒くはっきりした面立ちで、もみあげが特徴的。米盛姓は鹿児島県や奄美、沖縄方面に多いというが、そういえば、どこか西郷隆盛の容貌に似ている。
その米盛氏と闇社会との関係を忠告してくれたのが全国紙の記者。「身の安全に気をつけたほうがいい」という。「どうしてそんなことがわかったのですか?」と根掘り葉掘り問い質したところ、「幸輝」を追跡していた大阪社会部から連絡があったという。
「関西の警察が持っている『特殊企業名簿』に名前があります。間違いありません」。
『特殊企業名簿』とは、都道府県ごとに作製される企業舎弟(フロント企業)名簿のこと。組織別に会社名、本社所在地、電話番号、闇社会との関係、登記の有無などが記載されている。個人情報だから部外秘のはずだが、一部マスコミ関係者などには写しが出回っているという。こうした会社は警察や行政の追及を逃れるために頻繁に登記を書き換えるから、『特殊企業名簿』も更新を重ねる。なにかしらの事情で、旧バージョンの『特殊企業名簿』が流出し、売買されているらしいのだ。
法廷で明らかになったところによると、2003年から05年までの3年間に「幸輝」に入社した社員はつごう4000人余り。もっとも、橘大志工事部支部長(有罪、執行猶予保護観察処分)の陳述によると、新卒の採用は2003年度で90名ぐらい、2004年以降は100名を超えたが、辞めていく社員も多く、入れ代わりは激しかったという。たとえば新卒で一年経っても社内に残っていたのは、わずか1~2名。中途採用の社員のなかには、あまりの恐ろしさに研修初日から逃げ出す者が続出した。
また、2007年7月9日、弁護側証人として法廷に立った松岡良和取締役(逮捕後、処分保留で釈放)は、「幸輝」で営業社員の新人研修を担当していたが、その主な仕事は、派遣社員を営業のアポインターに養成するする仕事だったという。現時点では未確認情報だが、「幸輝」が人材派遣大手のG社と契約していたというウェブ上の書き込みもある。
「幸輝」が名古屋支店を開設し、念願の中京圏進出を果たしたのが2005年春、同社の従業員数は過去最高の560人になった。辞めた社員もゴマンといるが、彼らが過去を語りたがらないのは、自身への跳ね返りが怖いからだ。だいいち、「幸輝」の社員だったことは、履歴書にも書けない。わかったら再就職もままならない。その反動からか、匿名性のある「2ちゃんねる」などの書き込みには、内部関係者でしか知りえない「幸輝」の内情が多く含まれている。なかには捜査や取材を陽動するようなものもあるが、これまで裁判所を傍聴したかぎり、その大部分は被告や証人の発言で裏付けられた。
「幸輝」で働いた多くの前途ある若者たちが、訪販詐欺に関わったことで、人生を歪められていった。いっぽう、虎の子の年金以外に拠るべきものを持たない6300所帯の老人家庭も、老後の人生設計を大きく狂わされてしまった。
この責任は、いったい誰がとるのか。(つづく)
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登録日:2008年 01月 25日 07:19:10
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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