脅迫罪に問われた川崎市中原区の無職男性(67)に対し、横浜地裁川崎支部は25日、無罪(求刑・罰金20万円)を言い渡した。被害者とされる女性は公判で「脅迫を受けたと思っていない」と証言しており、加登屋健治裁判長は判決文朗読後、「苦言を呈させてもらう」と前置きし、明確な被害者調書を作らずに起訴したとして検察側の姿勢を批判した。
起訴状によると男性は06年11月3日未明、中原区の居酒屋で、入店を断られた腹いせに火のついた段ボールをシャッター前に置き、女性店主に危害を加えようとしたとされた。
男性は通行人の通報で駆けつけた警察官に、現住建造物等放火未遂容疑で現行犯逮捕された。男性の弁護士によると、かなり酒に酔って常連の店に行っており、段ボールに火は付けたがすぐに消え、脅迫の意図はなかったと主張していた。公判での証言で、女性店主は脅迫されたと思わず「早く釈放してほしい」と話したという。
判決で加登屋裁判長は、脅迫罪を認定できる証拠はないと指摘。判決後の「苦言」として「検察官は明確な被害者調書を作成せず、公判で被害者を尋問することで立証できると考えたようだが、そんな証拠構造で男性を起訴し、公判維持をしたこと自体問題があったと言わざるを得ない」と指摘した。
弁護士は「男性は10カ月も拘置された。公判前に被害者の証言をとるのは当然」と捜査を批判した。横浜地検川崎支部は「コメントできない」と話している。【吉住遊】
毎日新聞 2008年1月26日 2時30分